40 / 332
39話 「トラブル」
しおりを挟む
その後宿へ戻った一行は特に何事もなく朝を迎える。
朝食をすまし、アンジェを迎えに行った一行は門をくぐりトゥラウニの街を後にする。
「なんかあっという間だったなあ」
「実質まともに動けたの一日だけだからな、それにずっと動き回ってたから尚更だ」
「まーなんにせよほしいの手に入ってよかったなあ、羊の腸も売れ残ってるのあって助かったよ、ほんと」
香辛料と宿屋をめぐるだけで一日が終わったように見えたが、ちゃっかり羊の腸も確保していたようだ。
バクスはウィンナーの味を思い出しているのか、今から頬がゆるんでしまっている。
うー(ウィンナーてのはそんないけるんかの)
羊の腸をつつきながら誰に言うとでもなくつぶやくうーちゃん。
「ん、おいしいよー。あれはたいていの人が好きなんじゃないかなあ……あ、もちろん苦手な人は苦手だと思うけど」
「ウィンナーの話か?」
「あ、はい」
ウィンナーの話題に反応したバクスが後ろを向くと会話に参加してくる。
なお、手綱は手放したままであるが、アンジェは特に指示なくても進んでくれるので問題はない。
バクスにうーちゃんの話を翻訳して伝えると、バクスを顎に手をあてそうか、と独り言つ。
「そうだな…まず単に茹でたり焼いたりしただけでもうまい。パンにはさむのも良いな、煮込んだりしてもスープに良い味がでてうまい。刻んで野菜と炒めたりしてもうまいが……ぱきっとした食感がなくなるんでな、できればそのまま食ったほうが良い……ああそれと、大事なのは酒に合うということだ」
「どんだけ好きなんすかバクスさん……」
いつにもまして饒舌なバクスにちょっと引き気味の二人。
だがバクスの語りはとまらない、二人はうーちゃんを置いてそっと避難するのであった。
うー(ぬしらぜったいゆるさない)
「ごめんてば」
街をでてしばらく、語り終えて満足したバクスは御者台へと戻り手綱を握っている。
ぷりぷり怒った様子のうーちゃんの頭をなでる加賀。
実際にはそんな怒ってはいないのだろう、うーちゃんの手には器用にもトランプが、うーちゃんをなでる加賀もトランプをもっている。
話す内容も減り手持無沙汰になった二人と一匹はトランプで遊び始めていた。
道のりは順調で天気も良い、実に平和である。
が、トラブルというのは急に起こるものだ。
「二人とも、ちょっとトラブルだ。飛ばすから何かに捕まっててくれ」
「は、はいっ」
いつになくまじめな様子のバクスに八木と加賀は慌てて椅子に座り、手近なものに捕まる。
だが、うーちゃんは御者台との敷居を飛び越え、バクスのもとへと行ってしまう。
それを見た加賀が慌てて静止の声をあげる。
「ちょっ、うーちゃんそっち行っちゃだめだよ! ほら、戻っといで」
うーちゃんは加賀の言葉にちらりと後ろを見るが、戻る様子はない。
うろたえる加賀をよそにバクスがうーちゃんへと話しかける。
「……たぶん振り切れるとは思うが、無理そうなときはお願いしても良いだろうか?」
うっ(おー、まかせとけい)
予想外のバクスの提案と、それをあっさり承諾したうーちゃんに加賀は元より八木も驚きを隠せない。
「いやいや、そいつはいくらなんでも無理なんじゃ?」
「お前らは幸運兎のことよく知らんだろうが、うーちゃん……は俺なんかじゃ比べものにならんほど強い、八木が一回転したの見てただろう? あれものすごい手加減してるからな」
うー(そういうこったい、まー食わせてもらったぶんは働いたるで、そこでまっとれーい)
二人?に言われ引き下がる加賀。
だがその表情はかなり不安げである、戦いに関してバクスが言うのだからおそらくそれは正しいのだろう。
そう理屈で納得するが、感情的には納得できるものではない。
「さて、数は……10は居るな。アンジェこの先に見える木を通り過ぎたら一気に加速してくれ」
バクス達の乗る馬車からは見えないが、街道と並走するように草むらの中を何かが走っている。
それは、馬車が目標の木を超え一気に加速した直後、姿を現した。
粗末な武具を身に着け馬にまたがり奇声をあげつつ迫る集団。
攻撃を仕掛けてきたのは魔物などではなく、人間であった。
(……武具は粗末だが、あいつら相当鍛えあげられてる。ただの野党じゃねえ……ちっ、めんどくせえなあ!)
「がっ!?」
後ろを確認することなく降りぬかれたバクスの腕、そこから放たれた複数のナイフが大きく弧を描き先頭の男へと向かう。
男はとっさに剣をふり、自らに向かうナイフを叩き落す。バクスの見立て通りただの野盗ではないのだろう。
だが、偽装のためだろう、馬に鐙ぐらいしか付けてなかったのが男にとって災いした。
自らに飛んできたナイフは叩き落せても馬に向かうのまでは叩き落せなかったようだ。
倒れこむ馬に引きずられる様に男も地面に叩きつけられる。
(やっぱ一人やったぐらいじゃ諦めないか……使ってる馬も良い、振り切るのに時間かかるな)
一人が脱落しそこで諦めてくれればよかった、だが残った連中は脱落した男を気にした様子もなく馬車へと迫ってくる。
馬車を曳きながら走るアンジェ。その速度は馬車を曳いて居ることを考えれば驚異的な速度である。
だが襲撃者が乗る馬と速度差はほぼないようだ、じわじわと距離をつめ包囲しようと動いている。
馬車本体は連中の持つ装備程度ではびくともしない。だがアンジェと自分は別である。
このままではどちらかが攻撃を受ける、そう考えた後のバクスの決断は早かった。
うーちゃんへと視線を向け一言。
「すまん、たのむ」
その言葉を受け、御者台から飛びだすうーちゃん。
馬車を追う襲撃者は一瞬何がおきたか分からなかっただろう。
何か白い物体が馬車から出てきた、それが兎であると認識する前にうーちゃんに変化が起こる。
もふりと柔らかそうな口は横に大きく裂け、ぞろりと生えそろった牙が剥き出しになる。
つぶらだった瞳も今は大きく見開き、赤く燃え盛るように燐光を放つ。
「て、てった……」
馬車に一番近かった襲撃者は、その姿を確認すると撤退の合図をだそうとする、だが彼は最後まで言いきることはできなかった。
瞬きする間もなく赤い光の尾をひき、兎が目前に迫っていた。
次いで聞こえたのは湿ったなにかが破裂する音。
男の姿は消え、かつて男だったものの残滓が赤黒い霧となり風に流される。
残りの襲撃者の行動は迅速であった、うーちゃんのその姿を確認した直後四方八方へと逃げ去っていく。
朝食をすまし、アンジェを迎えに行った一行は門をくぐりトゥラウニの街を後にする。
「なんかあっという間だったなあ」
「実質まともに動けたの一日だけだからな、それにずっと動き回ってたから尚更だ」
「まーなんにせよほしいの手に入ってよかったなあ、羊の腸も売れ残ってるのあって助かったよ、ほんと」
香辛料と宿屋をめぐるだけで一日が終わったように見えたが、ちゃっかり羊の腸も確保していたようだ。
バクスはウィンナーの味を思い出しているのか、今から頬がゆるんでしまっている。
うー(ウィンナーてのはそんないけるんかの)
羊の腸をつつきながら誰に言うとでもなくつぶやくうーちゃん。
「ん、おいしいよー。あれはたいていの人が好きなんじゃないかなあ……あ、もちろん苦手な人は苦手だと思うけど」
「ウィンナーの話か?」
「あ、はい」
ウィンナーの話題に反応したバクスが後ろを向くと会話に参加してくる。
なお、手綱は手放したままであるが、アンジェは特に指示なくても進んでくれるので問題はない。
バクスにうーちゃんの話を翻訳して伝えると、バクスを顎に手をあてそうか、と独り言つ。
「そうだな…まず単に茹でたり焼いたりしただけでもうまい。パンにはさむのも良いな、煮込んだりしてもスープに良い味がでてうまい。刻んで野菜と炒めたりしてもうまいが……ぱきっとした食感がなくなるんでな、できればそのまま食ったほうが良い……ああそれと、大事なのは酒に合うということだ」
「どんだけ好きなんすかバクスさん……」
いつにもまして饒舌なバクスにちょっと引き気味の二人。
だがバクスの語りはとまらない、二人はうーちゃんを置いてそっと避難するのであった。
うー(ぬしらぜったいゆるさない)
「ごめんてば」
街をでてしばらく、語り終えて満足したバクスは御者台へと戻り手綱を握っている。
ぷりぷり怒った様子のうーちゃんの頭をなでる加賀。
実際にはそんな怒ってはいないのだろう、うーちゃんの手には器用にもトランプが、うーちゃんをなでる加賀もトランプをもっている。
話す内容も減り手持無沙汰になった二人と一匹はトランプで遊び始めていた。
道のりは順調で天気も良い、実に平和である。
が、トラブルというのは急に起こるものだ。
「二人とも、ちょっとトラブルだ。飛ばすから何かに捕まっててくれ」
「は、はいっ」
いつになくまじめな様子のバクスに八木と加賀は慌てて椅子に座り、手近なものに捕まる。
だが、うーちゃんは御者台との敷居を飛び越え、バクスのもとへと行ってしまう。
それを見た加賀が慌てて静止の声をあげる。
「ちょっ、うーちゃんそっち行っちゃだめだよ! ほら、戻っといで」
うーちゃんは加賀の言葉にちらりと後ろを見るが、戻る様子はない。
うろたえる加賀をよそにバクスがうーちゃんへと話しかける。
「……たぶん振り切れるとは思うが、無理そうなときはお願いしても良いだろうか?」
うっ(おー、まかせとけい)
予想外のバクスの提案と、それをあっさり承諾したうーちゃんに加賀は元より八木も驚きを隠せない。
「いやいや、そいつはいくらなんでも無理なんじゃ?」
「お前らは幸運兎のことよく知らんだろうが、うーちゃん……は俺なんかじゃ比べものにならんほど強い、八木が一回転したの見てただろう? あれものすごい手加減してるからな」
うー(そういうこったい、まー食わせてもらったぶんは働いたるで、そこでまっとれーい)
二人?に言われ引き下がる加賀。
だがその表情はかなり不安げである、戦いに関してバクスが言うのだからおそらくそれは正しいのだろう。
そう理屈で納得するが、感情的には納得できるものではない。
「さて、数は……10は居るな。アンジェこの先に見える木を通り過ぎたら一気に加速してくれ」
バクス達の乗る馬車からは見えないが、街道と並走するように草むらの中を何かが走っている。
それは、馬車が目標の木を超え一気に加速した直後、姿を現した。
粗末な武具を身に着け馬にまたがり奇声をあげつつ迫る集団。
攻撃を仕掛けてきたのは魔物などではなく、人間であった。
(……武具は粗末だが、あいつら相当鍛えあげられてる。ただの野党じゃねえ……ちっ、めんどくせえなあ!)
「がっ!?」
後ろを確認することなく降りぬかれたバクスの腕、そこから放たれた複数のナイフが大きく弧を描き先頭の男へと向かう。
男はとっさに剣をふり、自らに向かうナイフを叩き落す。バクスの見立て通りただの野盗ではないのだろう。
だが、偽装のためだろう、馬に鐙ぐらいしか付けてなかったのが男にとって災いした。
自らに飛んできたナイフは叩き落せても馬に向かうのまでは叩き落せなかったようだ。
倒れこむ馬に引きずられる様に男も地面に叩きつけられる。
(やっぱ一人やったぐらいじゃ諦めないか……使ってる馬も良い、振り切るのに時間かかるな)
一人が脱落しそこで諦めてくれればよかった、だが残った連中は脱落した男を気にした様子もなく馬車へと迫ってくる。
馬車を曳きながら走るアンジェ。その速度は馬車を曳いて居ることを考えれば驚異的な速度である。
だが襲撃者が乗る馬と速度差はほぼないようだ、じわじわと距離をつめ包囲しようと動いている。
馬車本体は連中の持つ装備程度ではびくともしない。だがアンジェと自分は別である。
このままではどちらかが攻撃を受ける、そう考えた後のバクスの決断は早かった。
うーちゃんへと視線を向け一言。
「すまん、たのむ」
その言葉を受け、御者台から飛びだすうーちゃん。
馬車を追う襲撃者は一瞬何がおきたか分からなかっただろう。
何か白い物体が馬車から出てきた、それが兎であると認識する前にうーちゃんに変化が起こる。
もふりと柔らかそうな口は横に大きく裂け、ぞろりと生えそろった牙が剥き出しになる。
つぶらだった瞳も今は大きく見開き、赤く燃え盛るように燐光を放つ。
「て、てった……」
馬車に一番近かった襲撃者は、その姿を確認すると撤退の合図をだそうとする、だが彼は最後まで言いきることはできなかった。
瞬きする間もなく赤い光の尾をひき、兎が目前に迫っていた。
次いで聞こえたのは湿ったなにかが破裂する音。
男の姿は消え、かつて男だったものの残滓が赤黒い霧となり風に流される。
残りの襲撃者の行動は迅速であった、うーちゃんのその姿を確認した直後四方八方へと逃げ去っていく。
21
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる