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46話 「寒い時期おいしいもの」
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酷く静かな大通り。
人通りが少ないからか、降り積もった雪が音を吸収するのかあるいはその両方だろう。
パン屋の隣でもこもこした服を着こみうーちゃんを膝に抱く加賀。
雪が降り積もる以前であれば、すでに売り切れとなっていたであろう特製のスープと日替わりの軽食。
まだ半分近くが売れ残っている。
はじめ仕込む量を減らそうかと考えた加賀であったが、ある理由から見送っている。
理由の一つとしては
「あ、おばあちゃんいらっしゃいー」
「こんにちは、加賀ちゃん。今日も寒いねぇ」
このように雪で来るのが遅くなったり、温かくなってからくるなどなんだかんだで常連さんは来てくれるのだ。
「じゃあ、いつものスープと……はい、軽食ですねー。今日は鶏肉にワイン煮込みです」
スープと軽食……んしいては重いが、鶏肉のワイン煮込みを八百屋のおばあちゃんから受け取った容器に入れて渡す。
最初のころは使い捨て容器を使っていた加賀だが、常連さんは自分の容器をもってきてもらい、その分割引するようにしている。
「それじゃ、またねおばあちゃん。転ばないように気を付けてねー」
「ほいほい、ありがとねぇ。最近足のぐあいが良くてねえ、これぐらいなら平気だよお」
そういって雪道を老人とは思えない足取りで歩いていくおばあちゃん、足の具合はだいぶ良いのだろう。
(そういえばいつからか杖もつかってなかったなー……ん?)
おばあちゃんが去る方向を見ていた為気が付くのが遅れたが、屋台のそばに数名の男性が立っていた。
「あ、警備隊のみなさんいらっしゃいませ。いつもので良いですか?」
「ああ」
仕込む量を減らさない理由のもう一つ、それが彼ら警備隊だ。
彼らは日々交代で街中を見回っているが、今まではこの場所を見回るときにはすでに屋台を撤収した後だった。
だが、人通りが減り売れ行きが鈍ったことで撤収が遅くなり、彼らの目に留まることなる。
元々昼飯としてオージアスの店でパンを買うのが日課だった彼ら、加賀の屋台を見かけてからはついでにスープや軽食を買っていくようになり、今ではお得意様となっている。
「よいしょっと。はいお待たせしましたー」
「ああ……おい」
隊長が合図をだすと隊員が容器を抱え運んでいく。
このまま詰め所まで行き、そこで昼食をとるのだろう。手元にパン屋の袋もあることからパンはすでに購入済みのようだ。
「またよろしくお願いしますー」
その言葉に無言で軽く手を挙げる隊長と笑顔でこちらを見ながら手をふる隊員たち。
あまり話すことはないし、隊長は不愛想だが基本悪い人達ではない。職業柄必要以上に町民と慣れあわないようにしているのかも知れない。
「んし、今日の分おわりっと」
うっ(今日はパン屋よるんだったかの)
屋台を片付けつつそうだよーと答える加賀。今日はこのあとオージアスの店で新作のスープを作る予定なのだ。
「おじゃましまっす」
「お、お疲れさん。準備できてるぜ」
そういって店の奥へと案内するオージアス。
扉を潜ったその先、店の奥にはパンを焼くためのオーブンがどんと置かれていた。
それも一つではない、大量に焼くためだろうか大き目のが一つ、小さめのが二つ置かれている。
「んで加賀ちゃんよ、スープに新作って聞いたけどパンとオーブン使うってどんなスープなのよ? それにこれ、昨日のだしもう固くなっちまってるけど」
そういって売れ残りのパンを渡すオージアス。
一日立って固くなったパンはまるで石のようである。
「オニオングラタンスープっての作るんですけど…まずパンを輪切りに……かたい」
「ほれ、貸してみ」
借りたパン切り包丁をぎこぎこと動かす加賀であるが、堅くなったパンはまったく切れそうにない。
見かねてオージアスが加賀からパンを受け取りさくさくよ切り分けていく。
「ありがとうございます。あとはカップにスープ入れて切ったパンも入れて、チーズふりかけてオーブンで焼けば完成でっす。こっちには卵もいれちゃおう」
「材料と設備さえあれば簡単だな……味はこの組み合わせで不味いわけないな」
オーブンに入れられぐつぐうと音を立てるオニオングラタンスープ。表面のチーズが焦げ、香ばしいにおいが漂ってくる。
「ん、もうよさそうかなー」
そう言ってミトンをはめスープを取り出す加賀。
オーブンから取り出しても器がまだ熱いためぐつぐつと音をたてたままだ。
「だいじょぶそうですね。熱いから気をつけて食べてねー」
「そりゃ見りゃ分かる……あっつぅい!」
言ったそばから火傷しそうになるオージアス。
加賀はどれだけ熱いかよく分かってるのでしっかり冷ましてから、うーちゃんは熱いのは得意なのだろうはふはふ言いつつもかなりの勢いでスプーンを口に運んでいる。
「あっちー……が、確かに美味い。卵いりとかたまらんなこれ」
「冬にはぴったりだよねー」
襟をぱたぱたと扇ぎながら空になったコップを名残遅そうに眺めるオージアス、ちらりと加賀とうーちゃんを見る。
視線に気がついたうーちゃん、さっとコップを隠すように加賀の後ろに隠れてしまう。
「わりーわりー、とらないから安心してくれ」
その様子を見て軽く苦笑するオージアス。
話を変えるようにそう言えばと加賀に話しかける。
「これ美味しいけど屋台で出すのはちょっと無理があるんでねーか?」
「ん、屋台で出すつもりはないよんー」
「ってことは宿でだすんか。オーブンあったっけ?」
オージアスの言葉にふふりと笑う加賀。
「バクスさんにお願いして買ってもらう! このスープ食べさせればきっと虜になるに違いないはずっ」
そう言ってオージアスに礼を言い、スープをバクスに持って行こうとする加賀。
「はしゃぎすぎてこぼすんじゃねーぞ?」
その後ろ姿を苦笑しながら見送るオージアス。
オーブンを使って作ったスープ、バクスの好みとするものかは分からない。
だがこの寒い中食べればきっと気に入るだろう。
春にはオープンする宿、店のメニューにきっとオーブンを使った料理が並ぶに違いない。
季節は真冬を少し過ぎたあたり、雪解けまではもう少しかかりそうだ。
人通りが少ないからか、降り積もった雪が音を吸収するのかあるいはその両方だろう。
パン屋の隣でもこもこした服を着こみうーちゃんを膝に抱く加賀。
雪が降り積もる以前であれば、すでに売り切れとなっていたであろう特製のスープと日替わりの軽食。
まだ半分近くが売れ残っている。
はじめ仕込む量を減らそうかと考えた加賀であったが、ある理由から見送っている。
理由の一つとしては
「あ、おばあちゃんいらっしゃいー」
「こんにちは、加賀ちゃん。今日も寒いねぇ」
このように雪で来るのが遅くなったり、温かくなってからくるなどなんだかんだで常連さんは来てくれるのだ。
「じゃあ、いつものスープと……はい、軽食ですねー。今日は鶏肉にワイン煮込みです」
スープと軽食……んしいては重いが、鶏肉のワイン煮込みを八百屋のおばあちゃんから受け取った容器に入れて渡す。
最初のころは使い捨て容器を使っていた加賀だが、常連さんは自分の容器をもってきてもらい、その分割引するようにしている。
「それじゃ、またねおばあちゃん。転ばないように気を付けてねー」
「ほいほい、ありがとねぇ。最近足のぐあいが良くてねえ、これぐらいなら平気だよお」
そういって雪道を老人とは思えない足取りで歩いていくおばあちゃん、足の具合はだいぶ良いのだろう。
(そういえばいつからか杖もつかってなかったなー……ん?)
おばあちゃんが去る方向を見ていた為気が付くのが遅れたが、屋台のそばに数名の男性が立っていた。
「あ、警備隊のみなさんいらっしゃいませ。いつもので良いですか?」
「ああ」
仕込む量を減らさない理由のもう一つ、それが彼ら警備隊だ。
彼らは日々交代で街中を見回っているが、今まではこの場所を見回るときにはすでに屋台を撤収した後だった。
だが、人通りが減り売れ行きが鈍ったことで撤収が遅くなり、彼らの目に留まることなる。
元々昼飯としてオージアスの店でパンを買うのが日課だった彼ら、加賀の屋台を見かけてからはついでにスープや軽食を買っていくようになり、今ではお得意様となっている。
「よいしょっと。はいお待たせしましたー」
「ああ……おい」
隊長が合図をだすと隊員が容器を抱え運んでいく。
このまま詰め所まで行き、そこで昼食をとるのだろう。手元にパン屋の袋もあることからパンはすでに購入済みのようだ。
「またよろしくお願いしますー」
その言葉に無言で軽く手を挙げる隊長と笑顔でこちらを見ながら手をふる隊員たち。
あまり話すことはないし、隊長は不愛想だが基本悪い人達ではない。職業柄必要以上に町民と慣れあわないようにしているのかも知れない。
「んし、今日の分おわりっと」
うっ(今日はパン屋よるんだったかの)
屋台を片付けつつそうだよーと答える加賀。今日はこのあとオージアスの店で新作のスープを作る予定なのだ。
「おじゃましまっす」
「お、お疲れさん。準備できてるぜ」
そういって店の奥へと案内するオージアス。
扉を潜ったその先、店の奥にはパンを焼くためのオーブンがどんと置かれていた。
それも一つではない、大量に焼くためだろうか大き目のが一つ、小さめのが二つ置かれている。
「んで加賀ちゃんよ、スープに新作って聞いたけどパンとオーブン使うってどんなスープなのよ? それにこれ、昨日のだしもう固くなっちまってるけど」
そういって売れ残りのパンを渡すオージアス。
一日立って固くなったパンはまるで石のようである。
「オニオングラタンスープっての作るんですけど…まずパンを輪切りに……かたい」
「ほれ、貸してみ」
借りたパン切り包丁をぎこぎこと動かす加賀であるが、堅くなったパンはまったく切れそうにない。
見かねてオージアスが加賀からパンを受け取りさくさくよ切り分けていく。
「ありがとうございます。あとはカップにスープ入れて切ったパンも入れて、チーズふりかけてオーブンで焼けば完成でっす。こっちには卵もいれちゃおう」
「材料と設備さえあれば簡単だな……味はこの組み合わせで不味いわけないな」
オーブンに入れられぐつぐうと音を立てるオニオングラタンスープ。表面のチーズが焦げ、香ばしいにおいが漂ってくる。
「ん、もうよさそうかなー」
そう言ってミトンをはめスープを取り出す加賀。
オーブンから取り出しても器がまだ熱いためぐつぐつと音をたてたままだ。
「だいじょぶそうですね。熱いから気をつけて食べてねー」
「そりゃ見りゃ分かる……あっつぅい!」
言ったそばから火傷しそうになるオージアス。
加賀はどれだけ熱いかよく分かってるのでしっかり冷ましてから、うーちゃんは熱いのは得意なのだろうはふはふ言いつつもかなりの勢いでスプーンを口に運んでいる。
「あっちー……が、確かに美味い。卵いりとかたまらんなこれ」
「冬にはぴったりだよねー」
襟をぱたぱたと扇ぎながら空になったコップを名残遅そうに眺めるオージアス、ちらりと加賀とうーちゃんを見る。
視線に気がついたうーちゃん、さっとコップを隠すように加賀の後ろに隠れてしまう。
「わりーわりー、とらないから安心してくれ」
その様子を見て軽く苦笑するオージアス。
話を変えるようにそう言えばと加賀に話しかける。
「これ美味しいけど屋台で出すのはちょっと無理があるんでねーか?」
「ん、屋台で出すつもりはないよんー」
「ってことは宿でだすんか。オーブンあったっけ?」
オージアスの言葉にふふりと笑う加賀。
「バクスさんにお願いして買ってもらう! このスープ食べさせればきっと虜になるに違いないはずっ」
そう言ってオージアスに礼を言い、スープをバクスに持って行こうとする加賀。
「はしゃぎすぎてこぼすんじゃねーぞ?」
その後ろ姿を苦笑しながら見送るオージアス。
オーブンを使って作ったスープ、バクスの好みとするものかは分からない。
だがこの寒い中食べればきっと気に入るだろう。
春にはオープンする宿、店のメニューにきっとオーブンを使った料理が並ぶに違いない。
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