異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
54 / 332

53話 「夜の訪問者」

しおりを挟む
「その力ですが、連続して何度も使えるものなので?」

「ええ、すごく燃費いいみたいで。四六時中つかっても平気!と神様はおっしゃってましたよ、実際ほとんど疲れてないみたいですし」

先ほどのショックから立ち直ったバクスであるが、さっそく先ほどの力について咲耶に質問している。
質問に答えつつ先ほど回収した洗濯物を宿の外に運ぶ咲耶、次は先ほどの加護で洗濯をするらしい。

「ほい、母ちゃん。石鹸ねー」

「ん、ありがと命」

街の外からは見えない中庭の一角にて石鹸を受け取った咲耶はいったん籠を下におろす。

「命、悪いけどお水だしてもらえないかしら。量は洗濯機一杯ぐらいで」

「ほいほい。精霊さんお水ちょっとだしてくださいなー」

咲耶の願いをきいて加賀が精霊魔法を使用する。
詠唱とよぶにはあまりにも気の抜ける言葉ではあるが、それでも精霊はしっかりと答えてくれたようだ。
空中に水球が現れじわじわとその大きさを拡大していく。

「そのへんですとっぷー」

「ありがとう。それだけあれば十分よ」

空中に浮かぶ水球に向け、籠にはいった洗濯物と石鹸を放り込む。
すると水球はぐるぐると中に入った洗濯物と一緒に回転しだす。そして逆回転。
透明な洗濯機があればこんな光景が見れるのだろうか、水の回転する勢いなど地球で使用していた洗濯機と遜色ないレベルである。


「なるほど洗濯もこうやってできると……あのサービス出来るようになるかも知れんか……ちなみにどれぐらいの量まで一度に洗えますか?」

「それはやってみないと……命、悪いけどお水もっと出して貰えないかしら?」

咲耶に言われほいほいと水を出していく加賀。そしてどんどn増えて行くぐるぐると回転する水球。

「加賀、咲耶さんその辺で止めてくれ」

その数が30を超えるといったあたりでバクスがストップを掛ける。

「これ以上増やすと外から見えちまう……それで疲労とかありますか?咲耶さん」

「無いと思います……あっても気になるほどじゃないですね」

その言葉に満足げに頷くバクス。

その後食堂に戻ってもバクスは終始ご機嫌な様子だ。
人手が足りないのと人件費がかかりすぎる為半ば諦めていたあるサービス。それを実現できる目処がたったの為である。

「良かったすね、バクスさん」

「ん、ああ。本当助かるよ……これなら来週あたりから宿開いても良さそうだな。……ああ、もちろん最初は受け入れる客の数は絞っていくぞ?」

「最初はそれがいいでしょねー……それじゃそろそろ良い時間だし、夕飯仕上げちゃいますよー」

気がつくと日が暮れ出す時間となっていた。
気合い入れるように帽子を被り直し厨房へと向かう加賀。ゆるい口調とは裏腹に、何時になく気合いのはいった表情をしているのは久しぶりに会えた母のに美味い料理を食べさせたいが為だろう。


「おまたっせー」

「おーすっげー具だくさん。うまそー」

湯気を立てる器がテーブルに並ぶ。
加賀が数週間掛けて作ったビーフシチュー、具はオーソドックスにもも肉と芋、人参、玉ねぎの3種のようだ。
実際にはもっと大量の材料が使われているのだろうが、作る過程でそれらの材料はスープと一体化してしまっている。

「んっ、ビーフシチューはやっぱうめーなあ」

辛抱たまらんとばかりに早速シチューにとりかかる八木。
まずはスープを一口続いて大きめに切られた肉に取りかかる。
一応ナイフも置かれているが必要ないようだ、スプーンで問題なく切れている。

「恐ろしいぐらいのこくと旨みだな……肉に味がしみこんでてやばい」

一口食べてその味の虜となるバクス。
一度感想を述べた後はただひたすらに手を動かし続けている。
たまに喋ってもやばいとしか言っていない。

「うん、前より力強い味になってるね……お肉の違いかしら。あ、命。すじ肉もあるの?」

「うん、あるよー。皆お代わりするだろうし、次はすじ肉ねー」

すじ肉と聞いて顔をほころばせる咲耶。どうやらもも肉よりも好みらしい。


「……ん?」

「どうしましたバクスさん? 口に合わなかったですか……?」

ふいに手を止めてあたりを軽く見渡すバクス。
加賀の問いに対しすまんと軽く謝ると再びシチューにとりかかろうとする。

「何か聞こえた気がしたんだがな、たぶん気のせい……」

「……バ…スさん」

「……じゃないな」

先ほど聞こえた声は恐らくバクスを呼んだものだろう。
まったく、と言って立ち上がりバクスは玄関へと向かった。

「ったく何だって飯時にくるかね……誰だ?」

ガチャリと音を立てやや乱暴に開かれるドア。
扉の外にいた人物はその勢いに驚いたように慌てて後ろへと下がる。

「あっバクスさん!」

「……お前、ガイか?」

「そうです! ガイです、ご無沙汰してますバクスさん!」

扉の外にいたのはバクスの知り合いだったようだ。
短めのくすんだ灰色の髪、灰色の目。堀はやや深めでイケメン……
とまでいかないが、なかなかに愛嬌のある顔をしている。
格好はやや軽装に見えるが全身に防具を着込み、腰には短剣を背中には弓を背負っているようだ。恐らくは探索者であろう。

「……まあ、なんだとりあえず入れ」

「ありがとうございます!」

最初は訝しむ顔をしていたバクスだが、何かを思いついたのかガイと名乗る男性宿へと招いたようだ。
食堂の扉を開け、中へと二人入って行く。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...