異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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89話 「収穫祭 3」

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 屋台で出すメニューが決まり皆準備をしつつ日々の仕事をこなしていく。
 祭り当日の昼過ぎ、彼らは街の中心にある広場、そこから少しずれた大通りに屋台を構えていた。
 年の一度の祭りと言うだけあって道はかなりの人で混みあっていた。
 中央広場ではいくつか出し物を開催しているようで、設置されたテーブルに集まり昼間から酒を飲んでいる観客から歓声や笑い声が上がり、なかなかに賑わっている。

 加賀達の露店でもそれは同じ事だ、
 屋台の横でひたすら飲み食いするうーちゃんを見て親にあれが食べたいとねだる子供。
 加賀がや咲耶を見て鼻の下を伸ばして寄ってくる男連中……時々バクス目当てのもいるが、料理の物珍しさに加え加賀や咲耶、うーちゃんの集客効果もあり客は次々にやってくる。

 それにトラブルらしいトラブルも今のところ起きてはいない、時折しつこく言い寄る酔っ払いもいるがそこはバクスやオージアス、時にはアイネさんが出てきて排除している。

「はい、カリーブルスト一つとホットドック一つお待たせしましたー」

「お、できたか……いけるじゃん、酒買わないと……」

 真っ赤にそまったウィンナーをひょいとつまみ、お酒を求めてふらつきはじめる客。
 特に躊躇いもなく料理を口にしたところや、足元がおぼつかない辺り既に出来上がっていそうである。

「少しお客さん減ってきたかなー?」

「そうだな、昼飯を食うにも夕飯を食うにも中途半端な時間だ。夕方になればまた人が増えるだろうが……今のうち屋台でも見てきたらどうだ? 咲耶さんとうーちゃんとアイネさんも連れて一回りしてくるといい。こっちは3人もいれば十分回せるからな」

 そう言われてハンズとオージアスの顔をちらりと伺う加賀。
 それに気づいた二人は笑顔で行って来いと軽く手を振る。
 実際先ほどまでひっきりなしに来ていたお客さんも、今はまばらになってきている。加賀はこれなら離れても大丈夫かなと判断し、3人を誘って屋台巡りに向かうのであった。

 うっ(あれたべたい!)

「ほいほい。おねーさんそれ4つくださいなー」

 代金を支払い料理を受け取る加賀。
 皆に手渡すと自分も料理をほおばる。

「うん、シンプルだけどいけるね。塩加減がちょうどいい……」

「そうですね、たまにはこういうのも……うん、悪くない、悪くないね」

 受け取った串焼きにかぶりつくアイネさん。
 明るいうちから……いや暗くてもだが、骸骨が大通りをうろついていればちょっとした騒ぎになりそうなものだが、そうはなっていない。
 道行く人は時折ちらりと加賀達のほうへ視線を向けるが、それは加賀と咲耶にうーちゃんと目立つのがそろっているためであり、決してアイネさんに向けられた視線ではない。

 羽織ったローブから時折除くアイネさんの顔であるが、ぼんやりしていてどうもはっきり見えない、どうやら認識を阻害し幻を見せる魔法が掛かっているようだ。
 発動にかなり時間を要するとの事だがこの日のために事前に用意してたらしい。

「次は甘いものがほしいかな……」

「甘いものですかー、あそこの屋台果物使った飲み物だしてるみたいですね、あれにしてみましょか」

 加賀の指さした方向には果物をずらりと並べ、それをジュースにして販売している屋台があった。
 割と人気のようで、短いながらも行列が出来ている。4人は列の後ろに並ぶと自分たちの番が来るのを待ち始める。

「ボクは、これとこれでお願いしますー」

「はいはい、ちょっとまってねえ」

 加賀の注文を受け、果物をほいほいと容器の中に入れていくおばちゃん。
 蓋をしてハンドルを回すと果物が絞られジュースとなっていく、手動式ではあるがミキサー……というよりはジューサーを使用しているようだ。

「ん、冷たくておいしい。すこししゃりしゃりしてるのは凍ってたからかな」

 もらったジュースにストローを刺し皆に配り、自分のジュースを口にする加賀。
 果物はよく冷やされ半分凍った状態だったようでしゃりしゃりした食感も楽しめ、中々良い感じだったようである。


「それが、ケヴィン? 見た感じ茹でたというか焼いたようにみえるんだけど……」

「んー、じゃあ試しに一切れだけ……あ」

 一通り屋台も見て終わり、バクス達の元へ帰ろうとした4人であるが、例のケヴィンを扱っている屋台を見つけてしまう。
 手間がかかると言うだけあった、まわりの屋台よりも多少高めの値段設定となっていたが結構な人数が買っている様を見てバクス達へのお土産も兼ねてケヴィンを購入する。

 試しに一口食べた加賀の感想としては、予想してたのと違うであった。塩ゆでに酢漬けの野菜と聞いてもっとあっさりしたものを想像していたが、食べたものはたしかにホロホロと肉が崩れる感じからして長時間茹でたであろうことがわかる、ただ味が思ったより濃厚だったのである。

「なんか濃厚だね……塩ゆでしただけなのになんでだろ。脂身とかカリッとしてるのは茹でたあと焼いてるのかな、香ばしくておいしい……ただ、これお腹すいているときじゃないと厳しい」

「じゃあ、私も一切れ……あー」

 加賀の感想を聞いてそれならば自分も……と結局皆して一切れ食べてしまう。
 結論としてはお腹いっぱいだし、バクス達のお土産としようと言う事全員一致したのであった。


「なにかしら、屋台の前に人だかりあるね……」

 アイネの言葉に視線を前方に向ける3人。
 自分たちの屋台の前には普通のお客さんとは違いそうな、どうも高級そうな服を身にまとった人物にその護衛といった体の人らが集まっていた。

「ん……言い争いって訳じゃなさそうだけど……料理気に入ったから考えた奴を紹介しろって話みたいね」

「うわあ、てかアイネさんよく聞こえますね……」

 屋台までは50m以上離れている、話している様子をみるにそこまで大きな声で話している訳でもなさそうであるが、アイネの耳は会話をきっちり捉えていたようだ。

「今、休憩中で居ないって断ってるみたいだけど……あ、こっち見たね」

「……うそん」

 護衛の一人が加賀達に気が付いたようで高級そうな服をまとった人物に何事か耳打ちしている。
 そして一斉に振り返るその人物とその取り巻き。回れ右して逃げようとしていた加賀であったが、加賀達をしっかりロックオンした様子を見て諦めたようにため息をついた。
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