異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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90話 「収穫祭 4」

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振り返った集団の視線を受けながら屋台の方へと向かう4人。
一人だけ身なりの良い男が4人を指さしながらバクスに話しかける。

「こいつらがそうか?」

その問いに渋い顔をしながら答えるバクス。

「ええ、そうです……」

男はバクスの答えを聞き値踏みするような視線を3人に向ける。
尚、うーちゃんは初めから除外された模様。

視線はアイネ、咲耶と移っていき加賀に視線が行ったところで男は目を見張った。

(すっごい、嫌な予感がする)

自分で視線が止まったことに内心嫌な予感で一杯の加賀であるが、なんとか表情に出さないよう努める。

目を見張り動きを止めた男であったが取り巻きが声をかけるとはっとした様子で何でもないと答える。
そして視線を加賀に固定したまま改めて口を開く。

「この屋台で出してる料理を考えたのはどいつだ?」

予想通りの問いであったが、思わず加賀へと視線を向けてしまう咲耶とアイネ。
男はそれを見て何か言いかける、がその前に加賀が視線をうーちゃんへと移す。

「うーちゃんです」

うっ!?

うーっちゃんの後ろに回りそっと背中を押す加賀。
まさか自分がとは思っていなかったうーちゃん、思わず声が上がる。
日本語に変換されない辺り本当に驚いて単に声がでてしまったのだろう。

「んあわけあるか! どうやったら兎にあんなのが考えつくというのだ!」

顔を真っ赤にして怒鳴る男を見て、加賀はさすがにごまかせないかと渋々自分がそうであると答えるのであった。

「えー……ボクです」

「そうかお前か……」

加賀が自分がそうだと答えると男は満足げに頷き、にやついた顔で舐めるような視線を加賀に向ける。

「俺はバッティシル家のアランだ。喜べお前を家の料理人として……なんだお前は、そこをどけ」

居丈高な物言いで加賀を料理人として……と言いかけた何とか家のアランであるが、二人の間にアイネが割って入る。
急に現れたアイネに言葉を遮られたアランは苛立った様子をみせ詰め寄ろうとするが、その前にアイネが口を開く。

「レシピが御入り用でしたら……この子のレシピはこの街の領主様を通じて世界会議に参加された国々に公開される手筈となっていますので……そちらを使用願います」

これは別に嘘ではない、前の世界会議で決まったことである。
基本神の落とし子から得た技術は各国で今後共有されていくことになる。
領主様、世界会議と言う単語を聞いて固まるアランに対し、アイネは軽く会釈をすると加賀の手を引き屋台へと向かおうとする。

「分かった、料理人としては雇わない!」

だが思ったよりも早く復活したアランが手を広げ二人の行く手を遮る。

「だがお前は俺の」

料理人としては雇わないと言ったアランであるが。
加賀に対して別の要求をしようとした所で、いつの間に近寄ったのかフードを軽く捲り上げたアイネに顔を覗き込まれる。

「────す」

加賀にはよく聞こえなかったが、何事かをアランに呟くアイネ。
そっとフードを下すと再び加賀の手を取り屋台へと向かう。

「んー……?」

何があったのかと不思議そうにアランの方を振り返る加賀。
そこには立ったまま気絶し下の蛇口が全開になったアランがいた。

「うわー……」

ドン引きする加賀を他所に慌ててアランを抱え退散する取り巻き連中。
二人に難癖付けようとするものなど一人もいない、脇目も振らず一目散へと逃げ出していったのである。

「悪い、うまく追い払えなくてな……」

屋台へ戻った4人にすまなそうに謝罪するバクス。

「ん、だいじょぶだよ。アイネさん助けてくれたし……ありがとね、アイネさん」

「あれぐらい何てことはないよ、お礼はお菓子で良い……」

お礼はお菓子でと言うアイネに苦笑しつつ、了解する加賀。

「お菓子のレパートリー増やさないとねー……ところでさっきの人たちなんだったの?」

加賀の問いに辺りをちらりと見まわすバクス。
近くに人がいないのを確認すると声を潜め加賀の問いに答える。

「この街の貴族……バッティシル家の次男坊だ。くっそわがままな餓鬼だからもし次見かけたらすぐ離れるようにな」

「うわー……気を付けるね」

さきほどの舐めるような視線を思い出し、思わず身震いする加賀。

(本当にあんなのいるんだ……)

今まであまりトラブルに巻き込まれた事の無い加賀……これは周りがうまい具合に対処していたからであるが。初めて遭遇したテンプレ的な出来事に胸中がざわつく。

(自分の身に降りかかると笑えない……ロックオンされてそうだし、絶対一人で行動しないようにしよ)

今回はアイネを筆頭に他のメンバーも一緒だった為大事にはなっていない。
だが、これが自分一人の時だったら? そう考えると不安で一杯になる。

「うー……」

うっ(やめんかーっ)

不安を紛らわすようにうーちゃんのお腹に顔をぐりぐりと押し付ける加賀。
今日はもう屋台から離れないようにしよう、そう心に誓うのであった。
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