異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
94 / 332

92話 「新たな従業員?」

しおりを挟む
最初はほんの数名だった。

「あれー、みんな今日はおやすみー?」

もう朝食の時間はとうに過ぎ、買い物から帰った加賀を出迎えたのは食堂で椅子に座りくつろぐ数名の探索者達であった。
普段なら誰もいないはずの食堂、そこでくつろぐ姿を見て珍しい事もあるのだなと思う加賀。

「ああ、この前のドラゴン戦で使った装備のメンテ終わってなくてなあ。メンテ終わるまではお休みだよ」

「予備の武器もメンテしないとだからねえ、当分お休みだよお」

探索者達がダンジョンに行かず休んでいた理由は装備のメンテが終わっていない為であった。
包丁だってまめに研がなければ切れ味は落ちる、加賀は納得した表情をみせ探索者達へ声をかける。

「なるほどなるほど。そいじゃあ皆さんの昼食も用意しないとですねー」

「お願いするよー」

数名程度の追加であればまだ対応は可能だ。
加賀はいつもより多めに昼食を用意すべく厨房へと向かうのであった。

そしてそんな生活が数日間続いたある日。

「あれ、アルヴィンさん達もお休みですか」

買い物から戻った加賀を出迎える人数が増えていたのだ。
加賀に気づいたアルヴィンは本を置くと口を開く。

「装備のメンテが終わらないのです、そんな状態でダンジョン潜るのはさすがに自殺行為ですので」

「まあ、そういうこった。加賀ちゃん悪いけど昼お願いしてもいいかー?」

また用意しなければいけない昼食が増えてしまった。
加賀はバクスやうーちゃんに協力を頼み厨房へと向かうのであった。

そして1週間が過ぎた日の事。

「……なんかほぼ全員、いや全員いますよねこれ?」

そこには食堂で思い思いの方法で暇をつぶす探索者達の姿が。
こめかみを抑えうずくまる加賀をみてチェスで遊ぶ手を止め、ガイが近寄ってくる。

「加賀さんお帰りなさいっす! 鍛冶屋がもうお手上げみたいで皆しばらくダンジョン潜れそうにないんっすよー!」

ガイの話を詳しく聞くと、どうやら一気に増えた探索者に対し鍛冶屋の数が絶対的に足らないとのこと。
人を増やせばある程度は賄える為、地方から鍛冶師を呼び寄せてはいるようだが、今度は設備が足らなくなる。急ピッチで鍛冶屋の建物を建ててはいるが作り始めてすぐにはい出来ましたとはいかないのである。
その結果がこの宿の食堂の光景である。

「とは言え鍛冶師は増えて来てますし、建物の作ってるみたいだしそのうち解消されるとは思いますよ。ただ問題は……」

「……問題は?」

ガイのチェスの相手をしていたチェスターが会話に入ってくる。
言いにくそうに言葉に詰まるのを見てまだ問題があるのかと、加賀はこめかみをぐりぐりと押しながら問いかける。

「普通の鉄を使った装備なら問題ないんですよ、ただ私たちが使う魔道具は鉄じゃないのが多くてですね……それが扱える鍛冶師となると中々居ないのです」

なので私たちは当面このままですとチェスターの言葉を聞いた加賀は魂の抜けた様子でふらふらと厨房へと向かうのであった。




チェスターに話を聞いてからさらに1週間がたった。
加賀はバスクとうーちゃんと協力し、日々の仕事を何とかこなしていた。
だが、さすがに無理が祟ったのかかなり疲労が溜まっている様子である。
今も椅子に座ってはこくり、こくりと舟をこいでいる。

「だめだー……眠い」

一応きっちり睡眠はとっているが疲労が抜けきっていないのだろう。
目の下には隈が出来ている。

「うーちゃん……ごめんちょっとだけいいかな、ちょっとだけだから」

うっ(な、なに……)

にじりにじりとうーちゃんに近寄っていく加賀。
おびえるうーちゃんを捕まえるとソファーに押し倒すようにお腹に顔をうずめる。

うー(ぎょえー)

「…………すぅ」

顔をうずめてほんの数秒で加賀は静かに寝息を立て始めた。
それを見てそっとタオルケットをかける咲耶、その顔には心配そうな表情が浮かぶ。

「たっだいまー」

加賀が寝入って間もなく玄関から聞こえてくる声。
八木である。どうやら今日は早上がりのようだ。

「あれ、加賀は?」

食堂に入ると加賀が居ないことに気づいた八木、辺りを見渡しつつ咲耶に尋ねる。
咲耶はそっと口に指をあて静かにするよう八木に伝え、そっとソファーに寝転がるうーちゃんを指さす。

「ん……? あのぴょこっとでた紅いあほ毛……加賀か」

うーちゃんのお腹からぴょこりとのぞく一房の紅い髪。それが加賀であると気づいた八木はそっとタオルケットをめくる。

「んー……」

うーちゃんに半ば埋もれた加賀の顔をじっと見つめ、次にちらりと腕に視線をやる八木。
ぽりぽりと顎をかくと、ひょいと加賀の上着のすそをめくりあげる。

「んがっ………っ」

その瞬間うーちゃんの耳が八木の目にどすりと突き刺さる。
痛みに悲鳴をあげそうになる八木であるが、咲耶に口を塞がれ声すらだせない。
そしてそんな痛みに悶える八木を燻製小屋から戻ったバクスが呆れた視線で見つめていた。

「何しとんのだお前らは……」


目を真っ赤にしながら椅子に座り、コップを傾ける八木。
その周りには同じく咲耶とバクスも座っている。

「あー、くっそ痛かった……」

「ほんと何しとんのだお前は……」

まだ呆れた視線を投げかけるバクスに八木は少しばつが悪そうに頭を掻きながら口を開く。

「いや、加賀さいきん痩せた……と言うかやつれたなって思って。頬もちょっとこけてるし、あばらも浮いてたし……まずそうだなと」

「……確かに俺もそう思う」

多少騒ぎがあったにも関わらずまったく目を覚ます様子の無い加賀。咲耶は心配そうな表情を浮かべたまま呟くように口を開く。

「さすがに昼も忙しいと……私が手伝えたらいいのだけど、料理はそこまでうまくないし……どうしたらいいかしら」

「人を増やせれば一番なんだが……もう、しのごの言ってられないなこの際誰でもいいから……いや、さすがにそれはまずいか。なら領主に頼んで……」

「それなら」

3人しか居ないはずのテーブルに突如としてもう一人の声が加わる。
急な出来事に3人はぎょっとした表情を浮かべ声の出所に顔を向けた。

「私で良ければお手伝いしますよ」

「えっと……どちら様で?」

そこには何時から居たのか、椅子に座るローブをまとったかなり痩せ気味の女性が居た、少なくとも宿にそのような女性はいない……いや正確には該当しそうな人物は一人いるが、その人は人と呼ぶにはちょっと疑問の残る人物だったはずである。

「アイネです、ようやくここまで戻りました」

加賀のおかげです、そう言って軽く微笑むのはノーライフキングのアイネであった。
アイネと聞いて頭に疑問が浮かぶバクス。確かに加賀の料理を食べていればいずれ元に戻るのでは? と言う話ではあったが、少なくとも昨日みた段階では思いっきり骸骨だったはずである。
かなり痩せ気味とは言え、人と遜色ない見た目の彼女とは程遠い状態だったはず。

「結構前から肉はついて来てたんだけどね……回復途中は見ててあまり気持ちのいいものでないから」

幻を見せる魔法を使い、ただの骸骨に見えるようにしてたの事。
それを聞いて納得した表情を見せ、アイネに頭を下げるバクス。

「ぜひともお願いしたい。この通りだ」

「ええ、喜んで」

快諾するアイネを見てほっと胸をなでおろすバクス。
アイネであれば少なくとも加賀の悪いようにはしない。それに料理の腕も悪くない、まさに渡りに船である。

「それじゃ、加賀はこのまま寝かせておいて……夕飯の準備しましょうか?」

そう言って厨房に向かうアイネの表情は明るい。
彼女なりに恩を返せる機会が来て嬉しく思っているのだろう。

宿を始めて半年過ぎ、ようやく従業員不足の解消に目途が立ってきたのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...