異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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95話 「新たな依頼が来たようで2」

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そっと差し出された一枚の手紙を受け取る八木。
豪華な装飾が施された手紙をじっと上から下まで眺めるとそっとエルザへと戻す。

「ごめん、なんかややこしい書き方でよく分からないんだけど……」

貴族特有の言い回しなのだろうか、八木からするとだからどうした? と言いたくなる表現が所々にあり手紙の内容をいまいち把握仕切れない。
手紙を八木から受け取ったエルザは眼鏡をくいと上げ、手紙の内容を八木にわかるように要約していく。

「つまり通訳を頼みたいってことですか? え、でもそれ別に俺じゃなくても良いんじゃ」

話を途中まで聞いたところで思わずと言った様子で浮かんだ疑問をエルザに問いかける。
エルザはちらりと八木に視線を向け、再び手紙を視線に戻すと話を再開する。

「はじめは向こうもそう考えていたようです、ただその相手が随分閉鎖的な種族だったようで通訳を頼もうにも出来る方が居ないそうですね」

その後もエルザの話は続く。
依頼元の国はリッカルド王国。八木達の住む町から北西に数百キロ先にある木々に囲まれた自然豊かな国である。
主要産業は林業。今回の依頼はその林業に関わるものである。
リッカルド王国の傍に鬱蒼と生い茂る黒い木々が存在する、それらは黒鉄と呼ばれ名前の通り黒く、鉄並みの強度を誇る木材である、それでいて重さはその他の木材よりも少し重い程度、それに燃えにくく腐食にも強いとかなりぶっ飛んだ性能の木材である。

「もともと生産量が限られていた所に、この街で木材の需要が一気に増加した為本格的に足らなくなったそうです」

その性能を考えれば、建物の建材や探索者達の装備など使い道はいくらでもあるのだろう。
ダンジョンが出来たのと探索者が一気に流入したこと、それに領主の街再開発計画もあり街の大通りを中心に新築ラッシュが始まっている。当然需要は増える。

「木材は……と言うか黒鉄自体は大量に生えているのですよ、それを伐採する量を増やせばいいのですが」

と言ったところで話を区切り眼鏡の位置を直すエルザ。
八木が黙って話を聞いているのを確認し言葉を続ける。

「問題となるのは過去に交わした黒鉄の森に住む種族との約定です。……リッカルド王国は一時期好き勝手に黒鉄を伐採していたのですが、それがそこに住む種族、黒鉄のエルフとの争いにつながり……最終的にお互いの領分を決め、伐採できる場所と本数を過去の神の落とし子立ち合いの元に定める事になったのです」

「場所が決まってる……? その範囲の分を伐採したらもう取れないんじゃ……あ、範囲がむっちゃ広いとかか」

八木の呟きにいえ、と返すエルザ。

「場所は本当に一部です、黒鉄の特性として自ら移動する事が可能だそうで、毎年きっちり決められた本数がその場所まで移動してくるそうですよ」

木が自ら動くと聞いて八木の頭に浮かぶのはドリアードなどの有名どころの魔物である。
普通の木材とは大分かけ離れた性質を持つ黒鉄だ、もしかすると魔物の一種なのかも知れない、と一人勝手に納得する八木であった。

「内容はまあ分かりました……ただ隣国までの旅となると……」

あまり乗り気な様子ではない八木。
やはりネックになるのは隣国と言う事だろう、その眉間には普段あまり見せない深い溝が浮かんでいる。

「そのあたりは出来るだけ護衛を多く雇ってほしいと、その費用はリッカルド王国で持つ。とも手紙に書かれています」

「護衛は……うん。あとはリッカルド王国にいった後なんだけど……城? にお呼ばれしたりするのかな」

えっと……と呟き手紙を見直すエルザ。
その視線が手紙のある部分でぴたりと止まる、そして視線は手紙を向けたまま言いにくそうに八木に向け言葉を続けた。

「……ぜひ、歓迎の酒宴を開きたいと書いてます、あと泊まるとこはこちらで用意するとも、多分城ですねこれ」

「城……貴族……お嬢様」

目がうつろになった八木を見て腕を掴みゆするエルザ。

「しっかりしてください。その辺りは事情を説明して何とかしてもらいますので……少しお時間いただけますか? 八木さんは護衛の手配準備を……まずはバクスさんあたりに相談してみると良いと思います」

「……分かりました」

この街で使う木材が不足していると言う話であり、恐らくこの街の領主も出来れば行ってほしいと思っているのだろう。
断る道は恐らくない、八木は肩を落としながら宿へと帰るのであった。


「行きたくないでござる」

「帰ってくるなり真顔で何いってんのさ」

帰ってくるなり真顔で何か言いだしたかと思えば今度は膝を抱えたままソファーでごろごろと転がり出す八木。
そんな八木の様子を見てため息を吐く加賀、とりあえずうーちゃんをけしかけ自分は椅子に座り込む。

「んで、どうしたのさー。何かまたトラブルでもあったの?」

「痛い……隣国から手紙きてさ」

目を抑えて動かない八木。胸のポケットに手紙を入ってるのをみてそっと抜き出す加賀。
読んでもいい? と一言断りをいれ手紙へ目を通していく。

「んー……えーっと、要は隣国にこいってこと? ……だめ、良くわかんない。アイネさんちょっといいですかー?」

声を上げアイネを呼ぶ加賀。
すぐに厨房からアイネが現れると視線を加賀に向け、そしてジト目で八木を見る。

「どうかしたのかしら。……また何かされたの?」

「うんにゃ、あれはうーちゃんけしかけただけだから。この手紙の内容分かります? ちょっと内容わかりずらくて……」

加賀の差し出した手紙を受け取りさっと目を通すアイネ。
特に悩む様子もなく、手紙の内容を要約し加賀へと伝えていく。

「へー……黒鉄ねー。この街でもいっぱい使うとなるとちょっと断るの難しそうね」

「まあ、無理だと思う。とりあえず護衛をやとって……行きたくないでござる」

再び膝を抱えソファーを転がり出す八木。
加賀がまたうーちゃんをけしかけようか悩んでいるとふいに玄関から騒がしい声が響いてくる。

「おっ加賀ちゃん、ただいまー。今戻ったぜー……八木は何してんの?」

玄関から響いた声はダンジョン帰りのヒューゴ達であった。
食堂に入るとまず目につくのはゴロゴロと転がる八木だ、自然と皆の視線が集まっていく。

「へー……隣国ってリッカルドだよなあ。ちょうどいいじゃん、護衛なら俺たちがやってやるよ」

「まじっすか!」

ヒューゴの言葉を聞いてがばっと身を起こす八木。
その勢いに若干引きつつも話をはじめるヒューゴ。

「……そんなわけで、オークションがそろそろ終わるんだよ。あまり大金抱えたまま動くのは危険だからさ、メンバー全員集めて動こうって話なんよ」

ダンジョンで得た財宝。そのオークションがようやく終わりを迎えるとの事。
そしてオークションが行われていた街、それこそまさに八木が向かう事になるリッカルドだ。
ダンジョン攻略できるレベルの探索者が15名、護衛としてはかなりのものだろう。
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