101 / 332
99話 「リッカルドの王」
しおりを挟む
トゥラウニを出てそろそろ一週間が立とうとしていた頃、八木達の乗る馬車はリッカルドまで後少しと言うところまで進んでいた。
うー(これがさいご……)
ベーコンと目玉焼きを挟んだパンを大事そうに食べるうーちゃん。宿から持ち込んだ食料はこれで最後だ。
後は日持ちする調味料で何とか凌ぐしかない。
「ケーキこれで終わりかー……もっと大事に食べればよかった」
他のメンバーも似たような状態だ、悲しげに空になった皿を見つめる者。少しずつ削るようにケーキを食べる者。それを羨ましそうに見つめる者等々。
「やっぱさ、あの宿の食事が良すぎるんだよ……」
「昨日の宿も決して悪くないはずなんですけどねぇ……加賀ちゃんの食事に慣れた身としてはどうも」
決して他の宿の料理が不味いと言う訳ではない、大抵メインの肉か魚料理が一品、それに副菜とパンやスープが付き、宿によっては果物がついたりもする。
味付けはシンプルだが素材が悪くないので味も悪くない。
たまに食べるのであれば問題ないのだが、それが続くとなると話は変わってくる。
「まあ、リッカルドにつけば城で美味いもん出てくるんでねーの? 交代で何人か八木の護衛に行くんだしよ」
リッカルドと調整した結果、最終的には数名の護衛であれば場内への同行が許可されている。探索者達とも相談した結果数名が日替わりで八木の護衛として着くことになっていたりする。
八木が寝泊まりするのは城内であり、食事もそこで取ることになる、城主の計らいで護衛も一緒にと言うはなしであるので探索者達も城でご馳走にありつけると言うわけだ。
「甘いですねヒューゴ」
「ああん?」
そしてそんなヒューゴの思惑をばっさりと切って捨てるアルヴィン。ぎろりと目を向けるヒューゴを意に介さず言葉を続ける。
「確かに城での歓迎も兼ねた食事となれば贅を尽くしたものが出てきます……ですが贅を尽くしたものが美味しいとは限りません。貴方も覚えがあるでしょう?」
「まあな……」
アルヴィンの言葉に苦り切った顔で答えるヒューゴ。
色々とろくでもない思い出でもあるのだろうか。
「やっぱあれよねー。加賀ちゃんのご飯が一番ってわけよ」
「まったくじゃわい……」
その言葉に同感といった様子であちこちから上がるため息を吐く音。
これからリッカルドに着いたとしても各自のやることを済ませなければフォルセイリアに戻ることは出来ない、その事を思い先ほどよりもより深くため息をつくのであった。
「あれがリッカルドかあんま大きくは……んー?」
ちょっとした山を越えた先、馬の休憩もかねて小休止になった所で馬車を降りる八木。
彼の視界の先には山から見下ろす形で目的地であるリッカルドの首都が映し出されていた。
聞いていた通り城壁の周りを多くの緑で囲まれており、自然豊かだと言うのが伺える。
そんなリッカルドであるが、八木は山から見下ろすその光景にふと違和感を覚える。それがなんであるかは分からない、ただ漠然とした違和感を感じたのだ。
「八木殿、どうしましたかな?」
「ああ、ロレンさん。どうもあの街に違和感がありまして……」
ふむ、と顎に手をあて街を見下ろすロレン。
軽く首を傾げると、八木へと振り返り口を開く。
「はて、私には良くわかりませぬな。ここからでは遠いですし……近づけば何かわかるかも知れませぬぞ」
「そう、ですね……とりあえず行きましょか、この感じだと昼過ぎにはつきそうですし」
そう言って馬車へと戻る八木。
ほどなくして馬の休憩も終わり一行はリッカルドを目指し山を下りていく。
「違和感の正体これか……」
リッカルドへと到着し、門へと向かう二台の馬車。その窓から外を覗き込んだ八木がぼそりと呟く。
八木の視線の先にあるのは例の黒鉄の森である、一見すると黒っぽい森にしか見えないがよくよく見るとその異常さがわかる。
具体的に言うと異常なまでにでかいのである。城壁などよりもはるかに高く、恐らく100mは超えているであろう立派な木々をみて八木は一人納得し大きく頷いていた。
「妙に街が小さく見えたのこれのせいか……てかまじで大きすぎだろこれ」
未だかつて見たことのないその光景に八木はしばし時間を忘れたように夢中になるのである。
「依頼受けてきた八木といいます……あ、これ招待状です」
「失礼……たしかに、八木様ですね。話は伺っています。今から城までご案内いたしますので……ええ、護衛の方も皆さん一緒にです」
門番に八木が招待状を見せたところきっちり事前に連絡が来ていたようで城まで案内してくれる運びとなる。
聞けば護衛も全員城に泊まっても良いと言う話でこれには探索者達も驚きを隠せない。
「おいおい、全員とはえらい歓迎されてんなー」
「護衛に残るものだけかと思ってましたが……かなり期待されてるようですね、八木」
期待されていると聞いてそっと胃のあたりをさする八木。
「なんか胃が痛くなってきた……」
「何、気楽にやる事です。きっちり相手の言った事をそのまま伝えれば良いだけです、交渉が失敗したとしても貴方に責はありませんよ」
責は無いと言うがそれでもプレッシャーは残る。
八木も含め周りの人たちは交渉がうまく行くことを望んでいる……出来るだけ明るい調子で話そうと心がける八木であった。
「こちらです……あまり緊張なさらずに、多少の粗相は気にする方ではありませんよ」
城まで案内してくれた門番……かと思ったが、王の間の前まで案内してくれたあたりそうではないようだ。
八木の緊張をほぐすように笑いかけると、中に一言声をかけ静かに扉を開いていく。
(…………熊?)
王の間、その玉座に腰かけていた男。
髪と区別がつかないほどに伸びた髭、外套代わりにまとった毛皮、八木にも負けぬ体躯、獣を彷彿とさせる鋭い眼差し……八木が一瞬熊と見間違えたのも仕方のない事だろう。
王とはかけ離れたイメージを持つその男は、脚を組んだ姿勢のまま八木へと視線を向ける。
「よく来た神の落とし子よ。私の名はウィルヘルム……リッカルドの王を務めている」
歓迎するぞ、そう言ってリッカルドの王は八木へと凄惨な笑みを浮かべるのであった。
うー(これがさいご……)
ベーコンと目玉焼きを挟んだパンを大事そうに食べるうーちゃん。宿から持ち込んだ食料はこれで最後だ。
後は日持ちする調味料で何とか凌ぐしかない。
「ケーキこれで終わりかー……もっと大事に食べればよかった」
他のメンバーも似たような状態だ、悲しげに空になった皿を見つめる者。少しずつ削るようにケーキを食べる者。それを羨ましそうに見つめる者等々。
「やっぱさ、あの宿の食事が良すぎるんだよ……」
「昨日の宿も決して悪くないはずなんですけどねぇ……加賀ちゃんの食事に慣れた身としてはどうも」
決して他の宿の料理が不味いと言う訳ではない、大抵メインの肉か魚料理が一品、それに副菜とパンやスープが付き、宿によっては果物がついたりもする。
味付けはシンプルだが素材が悪くないので味も悪くない。
たまに食べるのであれば問題ないのだが、それが続くとなると話は変わってくる。
「まあ、リッカルドにつけば城で美味いもん出てくるんでねーの? 交代で何人か八木の護衛に行くんだしよ」
リッカルドと調整した結果、最終的には数名の護衛であれば場内への同行が許可されている。探索者達とも相談した結果数名が日替わりで八木の護衛として着くことになっていたりする。
八木が寝泊まりするのは城内であり、食事もそこで取ることになる、城主の計らいで護衛も一緒にと言うはなしであるので探索者達も城でご馳走にありつけると言うわけだ。
「甘いですねヒューゴ」
「ああん?」
そしてそんなヒューゴの思惑をばっさりと切って捨てるアルヴィン。ぎろりと目を向けるヒューゴを意に介さず言葉を続ける。
「確かに城での歓迎も兼ねた食事となれば贅を尽くしたものが出てきます……ですが贅を尽くしたものが美味しいとは限りません。貴方も覚えがあるでしょう?」
「まあな……」
アルヴィンの言葉に苦り切った顔で答えるヒューゴ。
色々とろくでもない思い出でもあるのだろうか。
「やっぱあれよねー。加賀ちゃんのご飯が一番ってわけよ」
「まったくじゃわい……」
その言葉に同感といった様子であちこちから上がるため息を吐く音。
これからリッカルドに着いたとしても各自のやることを済ませなければフォルセイリアに戻ることは出来ない、その事を思い先ほどよりもより深くため息をつくのであった。
「あれがリッカルドかあんま大きくは……んー?」
ちょっとした山を越えた先、馬の休憩もかねて小休止になった所で馬車を降りる八木。
彼の視界の先には山から見下ろす形で目的地であるリッカルドの首都が映し出されていた。
聞いていた通り城壁の周りを多くの緑で囲まれており、自然豊かだと言うのが伺える。
そんなリッカルドであるが、八木は山から見下ろすその光景にふと違和感を覚える。それがなんであるかは分からない、ただ漠然とした違和感を感じたのだ。
「八木殿、どうしましたかな?」
「ああ、ロレンさん。どうもあの街に違和感がありまして……」
ふむ、と顎に手をあて街を見下ろすロレン。
軽く首を傾げると、八木へと振り返り口を開く。
「はて、私には良くわかりませぬな。ここからでは遠いですし……近づけば何かわかるかも知れませぬぞ」
「そう、ですね……とりあえず行きましょか、この感じだと昼過ぎにはつきそうですし」
そう言って馬車へと戻る八木。
ほどなくして馬の休憩も終わり一行はリッカルドを目指し山を下りていく。
「違和感の正体これか……」
リッカルドへと到着し、門へと向かう二台の馬車。その窓から外を覗き込んだ八木がぼそりと呟く。
八木の視線の先にあるのは例の黒鉄の森である、一見すると黒っぽい森にしか見えないがよくよく見るとその異常さがわかる。
具体的に言うと異常なまでにでかいのである。城壁などよりもはるかに高く、恐らく100mは超えているであろう立派な木々をみて八木は一人納得し大きく頷いていた。
「妙に街が小さく見えたのこれのせいか……てかまじで大きすぎだろこれ」
未だかつて見たことのないその光景に八木はしばし時間を忘れたように夢中になるのである。
「依頼受けてきた八木といいます……あ、これ招待状です」
「失礼……たしかに、八木様ですね。話は伺っています。今から城までご案内いたしますので……ええ、護衛の方も皆さん一緒にです」
門番に八木が招待状を見せたところきっちり事前に連絡が来ていたようで城まで案内してくれる運びとなる。
聞けば護衛も全員城に泊まっても良いと言う話でこれには探索者達も驚きを隠せない。
「おいおい、全員とはえらい歓迎されてんなー」
「護衛に残るものだけかと思ってましたが……かなり期待されてるようですね、八木」
期待されていると聞いてそっと胃のあたりをさする八木。
「なんか胃が痛くなってきた……」
「何、気楽にやる事です。きっちり相手の言った事をそのまま伝えれば良いだけです、交渉が失敗したとしても貴方に責はありませんよ」
責は無いと言うがそれでもプレッシャーは残る。
八木も含め周りの人たちは交渉がうまく行くことを望んでいる……出来るだけ明るい調子で話そうと心がける八木であった。
「こちらです……あまり緊張なさらずに、多少の粗相は気にする方ではありませんよ」
城まで案内してくれた門番……かと思ったが、王の間の前まで案内してくれたあたりそうではないようだ。
八木の緊張をほぐすように笑いかけると、中に一言声をかけ静かに扉を開いていく。
(…………熊?)
王の間、その玉座に腰かけていた男。
髪と区別がつかないほどに伸びた髭、外套代わりにまとった毛皮、八木にも負けぬ体躯、獣を彷彿とさせる鋭い眼差し……八木が一瞬熊と見間違えたのも仕方のない事だろう。
王とはかけ離れたイメージを持つその男は、脚を組んだ姿勢のまま八木へと視線を向ける。
「よく来た神の落とし子よ。私の名はウィルヘルム……リッカルドの王を務めている」
歓迎するぞ、そう言ってリッカルドの王は八木へと凄惨な笑みを浮かべるのであった。
11
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生小説家の華麗なる円満離婚計画
鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。
両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。
ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。
その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。
逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる