聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃

文字の大きさ
16 / 21

続・埋め合わせデート

しおりを挟む
 私たちが大通りへと向かうと、いつの間にか私が感じていた謎の視線は消えていた。一体何だったのだろうか、と思ったが気のせいだったと思うことにする。

「カレンは気になる店はあるかい?」
「そうね……じゃあこことか」

 私は近くにあったお店を指さす。そこは一般の人からすると少し高級な私服を取り扱うお店で、私は制服を除けば部屋着と今着ているようなガチガチにおしゃれした服装しか持っていないので、その間ぐらいの服が欲しかったのだ。

 店に入っていくと、私たちの他にも何組のカップルが出入りしていて、自分たちもそう見えているのかと思うと少し恥ずかしくなる。

 中には色とりどりの服やアクセサリーなどが並んでいる。女物ばかりだったためクラインを連れてきたのは少し気の毒だったかもしれない、と思ってしまったが冷静に周りを見回してみると他のカップルの男性も皆気まずそうにしているのでご愛敬ということだろう。
 私はその中で少しでも気になった服を次々と腕に抱えていき、店内をざっと一週すると試着室に向かう。

「今から全部試着するからどれが一番似合っているのか教えて欲しい」
「分かった。とはいえカレンなら全部似合うだろうから選ぶのは大変そうだな」

 そう言ってクラインが苦笑するので私は少し照れてしまう。
 そんな表情を隠すように試着室のカーテンをしめた。
 一着目は若草色のワンピースに淡い色のストールを羽織った春らしいイメージの服装だった。

「どう?」
「可愛い。普段の制服のイメージと違って、すごく活発に見えてカレンに似合っているよ」
「ありがとう」

 他のカップルの男は「すごくいい」「似合っている」しか言えなかったが、クラインはきちんと褒めてくれて嬉しい。
 二着目は白いブラウスに濃い紺色のカーディガンにフレアスカートという一着目に比べると少しかっちりした服装だ。

「さっきは活発なイメージだったが、今度はカレンの知的な面が現れていてすごくいいと思う」

 クラインは若干照れているもののしっかりと私を褒めてくれる。
 一体どこで覚えたのだろうか。もしやレイラの服を褒めて身に着けたテクニックなのだろうか、と思ったが慌ててその考えを振り払う。せっかくクラインが自分の行いを反省して私のことを褒めてくれているのにそんなことを考えてはいけない。

 その後も私は色んな服を試着したが、クラインはそれぞれ別の言葉で褒めてくれた。
 そして十着近くの試着が終わったところで尋ねる。

「どう? これまででどれが一番良かった?」

 私が尋ねるとクラインは苦笑した。

「どれが一番かと訊かれてもな……どれにも違う良さがあったとしか言いようがない」

 これまでは多彩な褒め言葉を言ってくれたのにここだけは普通の答えだったのが少しおかしい。
 とはいえ十着も試着してしまったし、私もどれも良かったと思うのでなかなか一着に決められない。

「うーん、どうしよう」
「よし、それなら全部買おう。僕が出すよ」
「え、いいの!?」

 クラインの言葉に私は驚く。
 一着二着買ってくれることはあってもこんなにたくさんの服を全部買ってくれるなんて。

「本当は僕が特に似合うやつを何着か決められたらいいんだけどね。でも残念ながら僕には選べなかった」
「それは……ありがとう」
「とはいえこれ全部を着たカレンを見るには、あと何回も一緒に遊びに行く必要があるな」
「そうだね。でも私はクラインと遊びに行くならいつでもいい」

 そうだ、これからはきっとクラインと今までよりももっと一緒にいられることが増える。
 服を買ってもらえたことよりも私としてはその方が嬉しかった。

「もちろん僕もだ」

 そしてクラインがお会計を済ませ、店を出る。手には十着近い服が入った大きな包みを抱えていた。

「本当はもうちょっとたくさんのお店を回る予定だったけど、もうこんな時間か」
「さすがにこれ全部買ったら他の店はもういいかな」

 すでに日も傾き始めている。

「さて、この後はディナーを予約してあるんだ」
「ありがとう」

 やはり彼は気の利かせ方がすごい。今まではそれがレイラにばかり向いていたが、その気遣いが自分だけに向くと悪い気はしないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。

藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。 「……旦那様、何をしているのですか?」 その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。 そして妹は、 「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と… 旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。 信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全8話で完結になります。

処理中です...