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封印の儀
魔力測定Ⅱ
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「次は魔法の制御力の測定ですわ。どれだけ威力が大きい魔法を使うことが出来ても、それを思い通りにコントロールすることが出来なければ意味がありません。さて測定方法ですが今回はこちらを使いますわ」
そう言ってアマーリエが用意したのは小さく光り輝く球と、紙で折った鳥である。アマーリエが球に魔力をこめると、周囲に球形に光が広がっていく。
「どのようにすれば良いのですか?」
「こちらの鳥は魔力を込めると特別な飛行魔法などを行使しなくても飛び上がりますの。私がこちらの球を空中で動かすのであなたはこの鳥を空中で飛ばしてどれだけ球に近づけるかで制御力が決まりますわ」
球は光っている部分こそ大きいが、本体はあまり大きくない。鳥も手の平に載るサイズである以上、球にぶつけるのには並外れた制御力が必要になる気がする。アマーリエも球に当てられるか、ではなく近づけるか、と言っているし。
試しに鳥に魔力を注ぎ込んでみると、わずかに魔力を注ぎ込んだだけでふわりと浮き上がる。試しに動きを念じてみると、私の思考に反応して上下左右に跳び回るが、その動きはぎこちない。
まるで足の指でナイフとフォークを握っているかのような意思の伝わらなさである。当然そんな行儀の悪いことはしたことないけど、とにかくそのぐらい思い通りに動かないということだ。
「お願いシルフ」
私の呼びかけに応えてシルフが左手を握りしめてくれる。シルフから魔力が流れ込んでくるが、今回はワイバーンを倒した時とは少し違った。
あの時は純粋に体が魔力で満たされていくような感覚だったが、今回は感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。これまでぼんやりとしか見えなかった遠くの方に生えている木の葉も一枚一枚見えるようになったし、周囲をそよぐわずかな風の動きも肌で感じることが出来る。
「では行きますわ!」
そう言ってアマーリエは球を空中に飛ばせる。そしてしばらく動きを試すかのようにびゅんびゅんと空中を恐ろしい速さで移動させる。だが、今の私にはその動きもゆっくりに見えた。
「では行きます!」
私も紙鳥を舞い上がらせる。先ほどとは違って、今度はしっかりと両手で握って動かしているようなしっかりした操作感がある。
私が鳥を球の方へと飛ばしていくと、アマーリエは必死に球を操作して回避しようとする。鳥が球に近づいていくと、球の周囲に発されている光に触れて赤色に光る。あの光は鳥がどのくらい近づいたかを測るためのもののようだ。
最初は操作に慣れなかったが、飛ばしているうちにだんだんとコツを掴んでくる。慣れてくると鳥が思い通りに飛ぶのが楽しいとすら思えてくる。
が、それと反比例するように球を操る徐々にアマーリエの表情は強張っていく。やがて額に汗がにじみ、集中しているからか空中を見上げたまま恐ろしい形相となっていく。
そしてより複雑な動きで球を飛ばすのだったが、私の鳥はみるみる球に迫っていき、やがて追いついた。
それを見たアマーリエは疲労がどっと噴き出したかのようにその場に膝をついた。その表情は蒼白である。
「何ということでしょう、威力だけでなく制御力でも負けるとは……」
これはあくまで測定であって勝負ではなかったはずなのに、いつの間にか彼女の中で趣旨が変わってしまっている。
私が落ち込んでいるアマーリエに何と言葉をかけていいか悩んでいると、アマーリエはよろよろと立ち上がった。
「……悔しいですが、この私を上回ったということはSSと認めざるを得ないですわ」
「ありがとうございます」
「では最後、持続力の測定に進みますわ」
「あの、もしお疲れでしたら少し休んでも……」
「気遣い無用ですわ。私、敵の情けは受けない主義ですの!」
私の気遣いは言い終わる前に遠慮されてしまった。
そもそもこれは勝負じゃないし、敵とか味方とかではないと思うけど……。とはいえ、アマーリエは完全に私をライバル視しているようなので言い返すことも出来ない。
「さて、最後は簡単ですわ。こちらの水晶にお互い魔力を込めて先に力尽きた方が負け。それだけですわ」
「分かりました」
そしてアマーリエは台座の上に水晶を置く。私は今度はノームを呼ぶ。ノームの手を握ると、私に底なしと思えるほどの魔力が注ぎ込まれてくる。
「では始め!」
お互い水晶に手をかざすと、途端にすごい勢いで水晶に魔力を吸い取られていく。おそらく、両者同じだけ魔力を吸い取られていくのだろう、アマーリエも無言で驚愕の表情に変わっている。
「なかなかやりますわね。これは相手の魔力が高いほど、短時間に大量の魔力を奪う水晶ですの」
それでここまで大量の魔力を吸われていくのか。正直ワイバーンと戦ったときに使った魔法よりも魔力の消費が大きい。
「ここまで魔力量の多い相手は初めてですわ。でも私はこんなものじゃありませんの」
「私もまだまだいけますよ」
膨大な魔力を持っていかれ続けているが、ノームから流れ込んでくる魔力も底無しであった。大量の魔力が私の体内を移動していくとそれだけで疲労がたまり、魔力よりも先に体力が尽きそうにすらなる。
目の前のアマーリエも思わぬ激戦になったから、額に汗を浮かべながら魔力を込めている。対する私もこれまでと同じようにあっさり勝利とはいかず、徐々に疲労がたまっていく。
「く、このまま三連敗なんて許されませんわ……私には貴族として成し遂げなくてはならないことがありますの」
アマーリエの口からぽつりとそんな言葉が漏れる。
それを聞いて私はふと疑問に思う。
「あの、これはただの魔力測定で、別にヴァーグナー伯の爵位を賭けた勝負ではないのでは?」
「そうですわ。しかし爵位というものは無限に増やせるものではありませんわ。特に伯爵位ともなればなおさら。もしあなたが伯爵位を叙勲されれば、私は……」
アマーリエはそう言って歯を食いしばる。彼女は持続力だけSSと言っていただけあって、彼女に張り合って魔力を流し続けていると、私の左手を握るノームも疲弊した様子になってくる。精霊と張り合うとは恐ろしい人だ。その執念は一体どこから来るのだろうか。
もちろん伯爵位はそうでない者から見ればそれほどの価値があるとは思うが、アマーリエは名誉や富だけにそこまで固執する人間にも見えなかった。
「何か貴族として成し遂げなければならないことがあるのでしょうか?」
私が口にした時だった。
不意に遠くから声がする。
「両者そこまで」
そこに立っていたのはアルツリヒト殿下だった。殿下の声を聞いた私たちは同時に力を抜く。その瞬間、全身にどっと疲労が押し寄せて私は思わずその場に座り込んでしまった。
見ると、向かい側のアマーリエも同じように全身の力が抜けてその場に立ち尽くしている。座り込まなかったのは殿下の目があったからだろうか。
「ワイバーンを倒したと聞いて期待はしていたが、まさかこれほどだったとはな。ヴァーグナー伯もご苦労であった」
アマーリエは唇を噛んだまま無言で頭を下げる。その表情には無念の色がありありと浮かんでいたが、彼女は何も言わなかった。
殿下の表情も驚愕に染まっており、しばらくの間私を感嘆の目で見つめながら何事かを考えているようだった。
が、やがて真剣な表情に変わると私の方を見て言った。
「そなたの実力を見込んで話したいことがある」
「は、はい」
おそらく、殿下がこの国の貴族制度に手を付けてまで優秀な魔法使いを集めようとしていたのには何か理由があるはずだ。
そして私ははからずも、この国で最強の魔力を持っていることを証明してしまった。ということは私はこの王国が抱える問題に直面することになるのではないか。私は緊張に包まれて殿下の後に続くのだった。
そう言ってアマーリエが用意したのは小さく光り輝く球と、紙で折った鳥である。アマーリエが球に魔力をこめると、周囲に球形に光が広がっていく。
「どのようにすれば良いのですか?」
「こちらの鳥は魔力を込めると特別な飛行魔法などを行使しなくても飛び上がりますの。私がこちらの球を空中で動かすのであなたはこの鳥を空中で飛ばしてどれだけ球に近づけるかで制御力が決まりますわ」
球は光っている部分こそ大きいが、本体はあまり大きくない。鳥も手の平に載るサイズである以上、球にぶつけるのには並外れた制御力が必要になる気がする。アマーリエも球に当てられるか、ではなく近づけるか、と言っているし。
試しに鳥に魔力を注ぎ込んでみると、わずかに魔力を注ぎ込んだだけでふわりと浮き上がる。試しに動きを念じてみると、私の思考に反応して上下左右に跳び回るが、その動きはぎこちない。
まるで足の指でナイフとフォークを握っているかのような意思の伝わらなさである。当然そんな行儀の悪いことはしたことないけど、とにかくそのぐらい思い通りに動かないということだ。
「お願いシルフ」
私の呼びかけに応えてシルフが左手を握りしめてくれる。シルフから魔力が流れ込んでくるが、今回はワイバーンを倒した時とは少し違った。
あの時は純粋に体が魔力で満たされていくような感覚だったが、今回は感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。これまでぼんやりとしか見えなかった遠くの方に生えている木の葉も一枚一枚見えるようになったし、周囲をそよぐわずかな風の動きも肌で感じることが出来る。
「では行きますわ!」
そう言ってアマーリエは球を空中に飛ばせる。そしてしばらく動きを試すかのようにびゅんびゅんと空中を恐ろしい速さで移動させる。だが、今の私にはその動きもゆっくりに見えた。
「では行きます!」
私も紙鳥を舞い上がらせる。先ほどとは違って、今度はしっかりと両手で握って動かしているようなしっかりした操作感がある。
私が鳥を球の方へと飛ばしていくと、アマーリエは必死に球を操作して回避しようとする。鳥が球に近づいていくと、球の周囲に発されている光に触れて赤色に光る。あの光は鳥がどのくらい近づいたかを測るためのもののようだ。
最初は操作に慣れなかったが、飛ばしているうちにだんだんとコツを掴んでくる。慣れてくると鳥が思い通りに飛ぶのが楽しいとすら思えてくる。
が、それと反比例するように球を操る徐々にアマーリエの表情は強張っていく。やがて額に汗がにじみ、集中しているからか空中を見上げたまま恐ろしい形相となっていく。
そしてより複雑な動きで球を飛ばすのだったが、私の鳥はみるみる球に迫っていき、やがて追いついた。
それを見たアマーリエは疲労がどっと噴き出したかのようにその場に膝をついた。その表情は蒼白である。
「何ということでしょう、威力だけでなく制御力でも負けるとは……」
これはあくまで測定であって勝負ではなかったはずなのに、いつの間にか彼女の中で趣旨が変わってしまっている。
私が落ち込んでいるアマーリエに何と言葉をかけていいか悩んでいると、アマーリエはよろよろと立ち上がった。
「……悔しいですが、この私を上回ったということはSSと認めざるを得ないですわ」
「ありがとうございます」
「では最後、持続力の測定に進みますわ」
「あの、もしお疲れでしたら少し休んでも……」
「気遣い無用ですわ。私、敵の情けは受けない主義ですの!」
私の気遣いは言い終わる前に遠慮されてしまった。
そもそもこれは勝負じゃないし、敵とか味方とかではないと思うけど……。とはいえ、アマーリエは完全に私をライバル視しているようなので言い返すことも出来ない。
「さて、最後は簡単ですわ。こちらの水晶にお互い魔力を込めて先に力尽きた方が負け。それだけですわ」
「分かりました」
そしてアマーリエは台座の上に水晶を置く。私は今度はノームを呼ぶ。ノームの手を握ると、私に底なしと思えるほどの魔力が注ぎ込まれてくる。
「では始め!」
お互い水晶に手をかざすと、途端にすごい勢いで水晶に魔力を吸い取られていく。おそらく、両者同じだけ魔力を吸い取られていくのだろう、アマーリエも無言で驚愕の表情に変わっている。
「なかなかやりますわね。これは相手の魔力が高いほど、短時間に大量の魔力を奪う水晶ですの」
それでここまで大量の魔力を吸われていくのか。正直ワイバーンと戦ったときに使った魔法よりも魔力の消費が大きい。
「ここまで魔力量の多い相手は初めてですわ。でも私はこんなものじゃありませんの」
「私もまだまだいけますよ」
膨大な魔力を持っていかれ続けているが、ノームから流れ込んでくる魔力も底無しであった。大量の魔力が私の体内を移動していくとそれだけで疲労がたまり、魔力よりも先に体力が尽きそうにすらなる。
目の前のアマーリエも思わぬ激戦になったから、額に汗を浮かべながら魔力を込めている。対する私もこれまでと同じようにあっさり勝利とはいかず、徐々に疲労がたまっていく。
「く、このまま三連敗なんて許されませんわ……私には貴族として成し遂げなくてはならないことがありますの」
アマーリエの口からぽつりとそんな言葉が漏れる。
それを聞いて私はふと疑問に思う。
「あの、これはただの魔力測定で、別にヴァーグナー伯の爵位を賭けた勝負ではないのでは?」
「そうですわ。しかし爵位というものは無限に増やせるものではありませんわ。特に伯爵位ともなればなおさら。もしあなたが伯爵位を叙勲されれば、私は……」
アマーリエはそう言って歯を食いしばる。彼女は持続力だけSSと言っていただけあって、彼女に張り合って魔力を流し続けていると、私の左手を握るノームも疲弊した様子になってくる。精霊と張り合うとは恐ろしい人だ。その執念は一体どこから来るのだろうか。
もちろん伯爵位はそうでない者から見ればそれほどの価値があるとは思うが、アマーリエは名誉や富だけにそこまで固執する人間にも見えなかった。
「何か貴族として成し遂げなければならないことがあるのでしょうか?」
私が口にした時だった。
不意に遠くから声がする。
「両者そこまで」
そこに立っていたのはアルツリヒト殿下だった。殿下の声を聞いた私たちは同時に力を抜く。その瞬間、全身にどっと疲労が押し寄せて私は思わずその場に座り込んでしまった。
見ると、向かい側のアマーリエも同じように全身の力が抜けてその場に立ち尽くしている。座り込まなかったのは殿下の目があったからだろうか。
「ワイバーンを倒したと聞いて期待はしていたが、まさかこれほどだったとはな。ヴァーグナー伯もご苦労であった」
アマーリエは唇を噛んだまま無言で頭を下げる。その表情には無念の色がありありと浮かんでいたが、彼女は何も言わなかった。
殿下の表情も驚愕に染まっており、しばらくの間私を感嘆の目で見つめながら何事かを考えているようだった。
が、やがて真剣な表情に変わると私の方を見て言った。
「そなたの実力を見込んで話したいことがある」
「は、はい」
おそらく、殿下がこの国の貴族制度に手を付けてまで優秀な魔法使いを集めようとしていたのには何か理由があるはずだ。
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