双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃

文字の大きさ
2 / 18

テッドの違和感

しおりを挟む
 それから数日後、私は婚約者であるテッドの屋敷に向かっていた。
 テッドはシアラー子爵家の跡継ぎで、年齢は十六。政略結婚のセオリーに則り、年齢と家格が近かったため選ばれた。すごく格好いいとかとびぬけて学問や武術に秀でているということもないが、代わりに気さくで話しやすかったため婚約者というよりは同じ立場の良き相談相手のような感じであった。
 私たちは婚約者であるため、週に一回ほど親交を深めるという名目でどちらかの屋敷で会っては他愛のない話をしている。

 そんな訳で今日も軽い気持ちで私はシアラー家に向かった。
 やってきた私をテッドは気さくに出迎える。

「やあシェリー」
「こんにちは、テッド。今日は屋敷に珍しいお菓子が届いたからお土産に持ってきたの」
「ありがとう。僕の方もいつもと違う茶葉を仕入れたんだ」

 そんなことを話しながら私たちは応接間に行き、私は持ってきた珍しいナッツが入った焼き菓子を差し出す。袋を開けるとふんわりとした甘い香りが部屋に広がった。

「これはおいしそうだ。持ってきてくれてありがとう」

 そこへシアラー家のメイドが紅茶とお菓子を持ってきてくれる。
 そして私たちに紅茶を注いでくれた。紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。

「おいしいわ」
「シェリーが持ってきてくれたお菓子もおいしいよ」

 それから私たちはお茶を楽しみながら他愛のない話をした。
 が、話しているうちに私はなぜかテッドと会話がかみ合わないような不思議な気持ちになる。

「そう言えばシェリーはロダン山には行ったことがないって言ってたよね、今度一緒に行こう」
「うん」

 ロダン山というのは王都の近くにある小高い山で、山頂からは王都が一望できるということで有名な観光地であった。あまり遠くないし登るのも大変ではないため手軽なアウトドアが楽しめると人気であり、山頂にはおいしいレストランもいくつかあるらしい。
 実際私は行ったことがないし、テッドと一緒に登るのもやぶさかではないが、そんな話をしただろうか。
 これまでテッドと話していてロダン山が話題に上がったことはないような気がする。

 とはいえそれは小さな違和感に過ぎないし、話したことがあるのにただ忘れているだけかもしれない。もしくはテッドが別の何かの話題と勘違いしている可能性もあり、あえて指摘する必要もないだろう。

 そのため私はスルーして会話を続けた。
 が他にもそれと同じぐらいの小さな違和感がぽつぽつとある。

 一体この違和感は何なんだろうか。一つなら何てことないが、何回か続くと少し気持ち悪くなってくる。
 そんなことを考えていると、テッドも怪訝そうな表情になった。

「……何というか、今日のシェリーは元気がないけど……大丈夫?」
「そ、そうかな?」

 今日の体調はいたって普通だし、昨日早く寝たからむしろいつもよりはいいぐらいだ。
 それとも会話に違和感を抱きながら話しているせいで変に思われたということだろうか?
 そう思えば理解出来ないことはない。

「そんなことは全くないと思うけど」
「そうか、何かこの前会ったときと雰囲気が違う気がして」
「え?」

 私はさらに違和感を抱く。この前テッドと話したときも別にいつも通りの私だったと思う。
 となるとやはり私がテッドに違和感を覚えているせいで微妙に挙動が普段と違ってしまっているのが悪いのだろうか。

「すまない、変なことを言ってしまって」
「ううん、私こそちょっとぼーっとしちゃっていて。ごめんね」
「あ、悪い。もう遅くになっているのに引き留めてしまっていて」
「た、確かにそうだね。テッドと話していると時間があっという間だから」

 この時はすでに夕暮れになっていたこともあり、私たちが抱いていた違和感は特に突き詰めることなく流してしまった。

 が、冷静に考えてみればお互いがお互いに違和感を抱いている以上それが偶然な訳がないということを考えてみるべきだったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は『選んだ』

ルーシャオ
恋愛
フィオレ侯爵家次女セラフィーヌは、いつも姉マルグレーテに『選ばさせられていた』。好きなお菓子も、ペットの犬も、ドレスもアクセサリも先に選ぶよう仕向けられ、そして当然のように姉に取られる。姉はそれを「先にいいものを選んで私に持ってきてくれている」と理解し、フィオレ侯爵も咎めることはない。 『選ばされて』姉に譲るセラフィーヌは、結婚相手までも同じように取られてしまう。姉はバルフォリア公爵家へ嫁ぐのに、セラフィーヌは貴族ですらない資産家のクレイトン卿の元へ嫁がされることに。 セラフィーヌはすっかり諦め、クレイトン卿が継承するという子爵領へ先に向かうよう家を追い出されるが、辿り着いた子爵領はすっかり自由で豊かな土地で——?

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

厄介者扱いされ隣国に人質に出されたけど、冷血王子に溺愛された

今川幸乃
恋愛
オールディス王国の王女ヘレンは幼いころから家族に疎まれて育った。 オールディス王国が隣国スタンレット王国に戦争で敗北すると、国王や王妃ら家族はこれ幸いとばかりにヘレンを隣国の人質に送ることに決める。 しかも隣国の王子マイルズは”冷血王子”と呼ばれ、数々の恐ろしい噂が流れる人物であった。 恐怖と不安にさいなまれながら隣国に赴いたヘレンだが、 「ようやく君を手に入れることが出来たよ、ヘレン」 「え?」 マイルズの反応はヘレンの予想とは全く違うものであった。

犠牲になるのは、妹である私

木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。 ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。 好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。 婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。 ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。 結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。 さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。

私の婚約者と駆け落ちした妹の代わりに死神卿へ嫁ぎます

あねもね
恋愛
本日、パストゥール辺境伯に嫁ぐはずの双子の妹が、結婚式を放り出して私の婚約者と駆け落ちした。だから私が代わりに冷酷無慈悲な死神卿と噂されるアレクシス・パストゥール様に嫁ぎましょう。――妹が連れ戻されるその時まで! ※一日複数話、投稿することがあります。 ※2022年2月13日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

裏庭係の私、いつの間にか偉い人に気に入られていたようです

ルーシャオ
恋愛
宮廷メイドのエイダは、先輩メイドに頼まれ王城裏庭を掃除した——のだが、それが悪かった。「一体全体何をしているのだ! お前はクビだ!」「すみません、すみません!」なんと貴重な薬草や香木があることを知らず、草むしりや剪定をしてしまったのだ。そこへ、薬師のデ・ヴァレスの取りなしのおかげで何とか「裏庭の管理人」として首が繋がった。そこからエイダは学び始め、薬草の知識を増やしていく。その真面目さを買われて、薬師のデ・ヴァレスを通じてリュドミラ王太后に面会することに。そして、お見合いを勧められるのである。一方で、エイダを嵌めた先輩メイドたちは——?

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

処理中です...