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テッドの違和感
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それから数日後、私は婚約者であるテッドの屋敷に向かっていた。
テッドはシアラー子爵家の跡継ぎで、年齢は十六。政略結婚のセオリーに則り、年齢と家格が近かったため選ばれた。すごく格好いいとかとびぬけて学問や武術に秀でているということもないが、代わりに気さくで話しやすかったため婚約者というよりは同じ立場の良き相談相手のような感じであった。
私たちは婚約者であるため、週に一回ほど親交を深めるという名目でどちらかの屋敷で会っては他愛のない話をしている。
そんな訳で今日も軽い気持ちで私はシアラー家に向かった。
やってきた私をテッドは気さくに出迎える。
「やあシェリー」
「こんにちは、テッド。今日は屋敷に珍しいお菓子が届いたからお土産に持ってきたの」
「ありがとう。僕の方もいつもと違う茶葉を仕入れたんだ」
そんなことを話しながら私たちは応接間に行き、私は持ってきた珍しいナッツが入った焼き菓子を差し出す。袋を開けるとふんわりとした甘い香りが部屋に広がった。
「これはおいしそうだ。持ってきてくれてありがとう」
そこへシアラー家のメイドが紅茶とお菓子を持ってきてくれる。
そして私たちに紅茶を注いでくれた。紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。
「おいしいわ」
「シェリーが持ってきてくれたお菓子もおいしいよ」
それから私たちはお茶を楽しみながら他愛のない話をした。
が、話しているうちに私はなぜかテッドと会話がかみ合わないような不思議な気持ちになる。
「そう言えばシェリーはロダン山には行ったことがないって言ってたよね、今度一緒に行こう」
「うん」
ロダン山というのは王都の近くにある小高い山で、山頂からは王都が一望できるということで有名な観光地であった。あまり遠くないし登るのも大変ではないため手軽なアウトドアが楽しめると人気であり、山頂にはおいしいレストランもいくつかあるらしい。
実際私は行ったことがないし、テッドと一緒に登るのもやぶさかではないが、そんな話をしただろうか。
これまでテッドと話していてロダン山が話題に上がったことはないような気がする。
とはいえそれは小さな違和感に過ぎないし、話したことがあるのにただ忘れているだけかもしれない。もしくはテッドが別の何かの話題と勘違いしている可能性もあり、あえて指摘する必要もないだろう。
そのため私はスルーして会話を続けた。
が他にもそれと同じぐらいの小さな違和感がぽつぽつとある。
一体この違和感は何なんだろうか。一つなら何てことないが、何回か続くと少し気持ち悪くなってくる。
そんなことを考えていると、テッドも怪訝そうな表情になった。
「……何というか、今日のシェリーは元気がないけど……大丈夫?」
「そ、そうかな?」
今日の体調はいたって普通だし、昨日早く寝たからむしろいつもよりはいいぐらいだ。
それとも会話に違和感を抱きながら話しているせいで変に思われたということだろうか?
そう思えば理解出来ないことはない。
「そんなことは全くないと思うけど」
「そうか、何かこの前会ったときと雰囲気が違う気がして」
「え?」
私はさらに違和感を抱く。この前テッドと話したときも別にいつも通りの私だったと思う。
となるとやはり私がテッドに違和感を覚えているせいで微妙に挙動が普段と違ってしまっているのが悪いのだろうか。
「すまない、変なことを言ってしまって」
「ううん、私こそちょっとぼーっとしちゃっていて。ごめんね」
「あ、悪い。もう遅くになっているのに引き留めてしまっていて」
「た、確かにそうだね。テッドと話していると時間があっという間だから」
この時はすでに夕暮れになっていたこともあり、私たちが抱いていた違和感は特に突き詰めることなく流してしまった。
が、冷静に考えてみればお互いがお互いに違和感を抱いている以上それが偶然な訳がないということを考えてみるべきだったのだ。
テッドはシアラー子爵家の跡継ぎで、年齢は十六。政略結婚のセオリーに則り、年齢と家格が近かったため選ばれた。すごく格好いいとかとびぬけて学問や武術に秀でているということもないが、代わりに気さくで話しやすかったため婚約者というよりは同じ立場の良き相談相手のような感じであった。
私たちは婚約者であるため、週に一回ほど親交を深めるという名目でどちらかの屋敷で会っては他愛のない話をしている。
そんな訳で今日も軽い気持ちで私はシアラー家に向かった。
やってきた私をテッドは気さくに出迎える。
「やあシェリー」
「こんにちは、テッド。今日は屋敷に珍しいお菓子が届いたからお土産に持ってきたの」
「ありがとう。僕の方もいつもと違う茶葉を仕入れたんだ」
そんなことを話しながら私たちは応接間に行き、私は持ってきた珍しいナッツが入った焼き菓子を差し出す。袋を開けるとふんわりとした甘い香りが部屋に広がった。
「これはおいしそうだ。持ってきてくれてありがとう」
そこへシアラー家のメイドが紅茶とお菓子を持ってきてくれる。
そして私たちに紅茶を注いでくれた。紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。
「おいしいわ」
「シェリーが持ってきてくれたお菓子もおいしいよ」
それから私たちはお茶を楽しみながら他愛のない話をした。
が、話しているうちに私はなぜかテッドと会話がかみ合わないような不思議な気持ちになる。
「そう言えばシェリーはロダン山には行ったことがないって言ってたよね、今度一緒に行こう」
「うん」
ロダン山というのは王都の近くにある小高い山で、山頂からは王都が一望できるということで有名な観光地であった。あまり遠くないし登るのも大変ではないため手軽なアウトドアが楽しめると人気であり、山頂にはおいしいレストランもいくつかあるらしい。
実際私は行ったことがないし、テッドと一緒に登るのもやぶさかではないが、そんな話をしただろうか。
これまでテッドと話していてロダン山が話題に上がったことはないような気がする。
とはいえそれは小さな違和感に過ぎないし、話したことがあるのにただ忘れているだけかもしれない。もしくはテッドが別の何かの話題と勘違いしている可能性もあり、あえて指摘する必要もないだろう。
そのため私はスルーして会話を続けた。
が他にもそれと同じぐらいの小さな違和感がぽつぽつとある。
一体この違和感は何なんだろうか。一つなら何てことないが、何回か続くと少し気持ち悪くなってくる。
そんなことを考えていると、テッドも怪訝そうな表情になった。
「……何というか、今日のシェリーは元気がないけど……大丈夫?」
「そ、そうかな?」
今日の体調はいたって普通だし、昨日早く寝たからむしろいつもよりはいいぐらいだ。
それとも会話に違和感を抱きながら話しているせいで変に思われたということだろうか?
そう思えば理解出来ないことはない。
「そんなことは全くないと思うけど」
「そうか、何かこの前会ったときと雰囲気が違う気がして」
「え?」
私はさらに違和感を抱く。この前テッドと話したときも別にいつも通りの私だったと思う。
となるとやはり私がテッドに違和感を覚えているせいで微妙に挙動が普段と違ってしまっているのが悪いのだろうか。
「すまない、変なことを言ってしまって」
「ううん、私こそちょっとぼーっとしちゃっていて。ごめんね」
「あ、悪い。もう遅くになっているのに引き留めてしまっていて」
「た、確かにそうだね。テッドと話していると時間があっという間だから」
この時はすでに夕暮れになっていたこともあり、私たちが抱いていた違和感は特に突き詰めることなく流してしまった。
が、冷静に考えてみればお互いがお互いに違和感を抱いている以上それが偶然な訳がないということを考えてみるべきだったのだ。
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