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Ⅰ
灰被り令嬢の日常(1)
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「お嬢様。悪いですが今日はわたくしは所用があるので、屋敷の掃除は全てお願いします」
「え?」
手習いから戻ってきた私キャロル・ローウェルに、我が家の使用人であるハンナが言います。あまりに当然のように言うので一瞬頷いてしまいそうになりますが、なぜここローウェル家の娘である私にメイドのハンナが掃除を頼むのでしょうか。
「所用というのは何でしょうか?」
「実は奥様とジェーン様はパーティーに呼ばれ、私はそれについていくよう命じられたのです」
そう言ってハンナはふふん、と意地悪く笑います。
それを聞いて私は初めて皆がパーティーに誘われていたことを知りました。というか、家事を押し付けられることよりもなぜ私だけのけ者にされているのかの方が重要です。
「あの、なぜ母上とジェーンだけがパーティーに呼ばれて、ハンナもついていくのに私は呼ばれないのですか?」
「それは私には分かりかねますねえ」
「そんな……」
私はハンナの言葉に愕然とします。とはいえいつものことと言えばいつものことです。
ここローウェル男爵家は華やかな貴族社会の中でも一番下の方に位置するいわゆる貧乏貴族です。私の母上は若くして病で倒れ、父上は新たな妻としてエイダという人物を迎えました。そしてその時に連れてきたのが連れ子のジェーンとメイドのハンナです。彼女たちは先妻の子である私のことを勝手に敵視しているらしく、ことあるごとにこうして嫌がらせをしてくるのです。
とはいえ、うちは貧乏貴族であり、ハンナ以外の使用人を雇うことも出来ないと言われています。もはやなれっこになっていた私は諦めて尋ねました。
「それで、掃除はどのくらい終わっているのですか?」
「え、全く終わっていませんが?」
「嘘……」
貧乏貴族とはいえ、昔はもう少しお金があったので屋敷自体は広いです。それをこれから私一人でやらなければならないというのは無茶です。そもそも百歩譲ってこれからパーティーについていくのは仕方ないとしても、なぜここまで全く掃除をしていなかったのでしょうか。
「何でハンナはやらなかったのですか?」
「そんな、私は奥様とジェーン様のお出かけの準備を手伝わなければならなかったのに。それなのに私がなぜ掃除をしなかったのかと責めるのですか?」
そう言ってハンナはわざとらしく目に涙を浮かべます。
そこに着飾ったエイダとジェーンがやってきます。そしてハンナの表情を見て私に怒りの表情を見せました。
「こら、キャロル! またハンナを虐めているの?!」
「ち、違います! 今から屋敷の掃除を全部終わらせろと言われたので……」
「我が家の懐事情が厳しいのは知っているでしょ? それなら文句を言わずに掃除ぐらいやりなさい! それとも自分はお嬢様だからそんなことは出来ないって言うの!?」
エイダは私に理不尽な怒りをぶつけました。
「そう言う訳ではないですが」
そんなことは出来ないと言っているのはいつだってエイダとジェーンです。今だって二人は家にお金がないと言いながら派手なドレスにアクセサリーを身に着けてパーティーに出かけようとしています。
「そうそう、それにお姉様にはパーティーよりも掃除の方が似合っていますわ」
あからさまな悪口を言ってきたのは一歳下の義妹にあたるジェーンです。
彼女はエイダに気に入られているからと調子に乗っています。
「大体、なぜ私はパーティーに呼ばれていないのですか?」
「あら、あなたは体調が悪そうだったから私の方から断っておいてあげたわ」
そんな私にエイダはこともなげに言います。本当に体調が悪そうと思っていたら屋敷の掃除を丸投げすることもありませんし、もっと労わりの言葉をかけてくれるはずです。
要するにただの嫌がらせでしょう。
「ではそういう訳で私たちは行ってまいりますので掃除はお願いします」
最後にハンナがそう言って三人は屋敷を出ていくのでした。
「え?」
手習いから戻ってきた私キャロル・ローウェルに、我が家の使用人であるハンナが言います。あまりに当然のように言うので一瞬頷いてしまいそうになりますが、なぜここローウェル家の娘である私にメイドのハンナが掃除を頼むのでしょうか。
「所用というのは何でしょうか?」
「実は奥様とジェーン様はパーティーに呼ばれ、私はそれについていくよう命じられたのです」
そう言ってハンナはふふん、と意地悪く笑います。
それを聞いて私は初めて皆がパーティーに誘われていたことを知りました。というか、家事を押し付けられることよりもなぜ私だけのけ者にされているのかの方が重要です。
「あの、なぜ母上とジェーンだけがパーティーに呼ばれて、ハンナもついていくのに私は呼ばれないのですか?」
「それは私には分かりかねますねえ」
「そんな……」
私はハンナの言葉に愕然とします。とはいえいつものことと言えばいつものことです。
ここローウェル男爵家は華やかな貴族社会の中でも一番下の方に位置するいわゆる貧乏貴族です。私の母上は若くして病で倒れ、父上は新たな妻としてエイダという人物を迎えました。そしてその時に連れてきたのが連れ子のジェーンとメイドのハンナです。彼女たちは先妻の子である私のことを勝手に敵視しているらしく、ことあるごとにこうして嫌がらせをしてくるのです。
とはいえ、うちは貧乏貴族であり、ハンナ以外の使用人を雇うことも出来ないと言われています。もはやなれっこになっていた私は諦めて尋ねました。
「それで、掃除はどのくらい終わっているのですか?」
「え、全く終わっていませんが?」
「嘘……」
貧乏貴族とはいえ、昔はもう少しお金があったので屋敷自体は広いです。それをこれから私一人でやらなければならないというのは無茶です。そもそも百歩譲ってこれからパーティーについていくのは仕方ないとしても、なぜここまで全く掃除をしていなかったのでしょうか。
「何でハンナはやらなかったのですか?」
「そんな、私は奥様とジェーン様のお出かけの準備を手伝わなければならなかったのに。それなのに私がなぜ掃除をしなかったのかと責めるのですか?」
そう言ってハンナはわざとらしく目に涙を浮かべます。
そこに着飾ったエイダとジェーンがやってきます。そしてハンナの表情を見て私に怒りの表情を見せました。
「こら、キャロル! またハンナを虐めているの?!」
「ち、違います! 今から屋敷の掃除を全部終わらせろと言われたので……」
「我が家の懐事情が厳しいのは知っているでしょ? それなら文句を言わずに掃除ぐらいやりなさい! それとも自分はお嬢様だからそんなことは出来ないって言うの!?」
エイダは私に理不尽な怒りをぶつけました。
「そう言う訳ではないですが」
そんなことは出来ないと言っているのはいつだってエイダとジェーンです。今だって二人は家にお金がないと言いながら派手なドレスにアクセサリーを身に着けてパーティーに出かけようとしています。
「そうそう、それにお姉様にはパーティーよりも掃除の方が似合っていますわ」
あからさまな悪口を言ってきたのは一歳下の義妹にあたるジェーンです。
彼女はエイダに気に入られているからと調子に乗っています。
「大体、なぜ私はパーティーに呼ばれていないのですか?」
「あら、あなたは体調が悪そうだったから私の方から断っておいてあげたわ」
そんな私にエイダはこともなげに言います。本当に体調が悪そうと思っていたら屋敷の掃除を丸投げすることもありませんし、もっと労わりの言葉をかけてくれるはずです。
要するにただの嫌がらせでしょう。
「ではそういう訳で私たちは行ってまいりますので掃除はお願いします」
最後にハンナがそう言って三人は屋敷を出ていくのでした。
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