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Ⅰ
灰被り令嬢の日常(4)
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「お嬢様、縁談が決まったらしいですね。おめでとうございます」
翌日、早速縁談の話を聞いたハンナが私に話しかけてきます。どうせろくでもないことを言い出すのだろう、と思った私は無感情に答えました。
「ありがとうございます」
「それで今日は奥様からあなたを嫁に出す以上、家事を教えてあげてと言われたのです」
「いえ、間に合っています」
言っては悪いですが、私は今更ハンナに教わるようなことはありません。ハンナは貴族令嬢の私より多くのパーティーについていっていますし、逆に私はメイドのハンナよりもたくさんの家事をさせられています。
が、ハンナはにやにやしながら言います。
「でも奥様からそうしてあげろと言われた以上、拒否することは出来ません。無様な花嫁を送りだせば、我が家全体の恥になってしまうのですよ」
「……分かりました」
いつもの通り、私の意志は関係ないようです。どうせ何か新しい嫌がらせのネタにでもしようとしているのでしょう。
とはいえ私にはどうしようもなく、せめてさっさと終わらせてしまおうと私は頷きました。
「では今日は洗濯を教えてあげますわ」
そう言ってハンナは私を洗濯場に連れていきます。そこには直径一メートルぐらいの大きめの桶があり、その脇に様々な洗濯物が置かれています。他の家ではお湯で洗濯するところもあるらしいのですが、うちにはそんな設備はありません。目の前の桶には冷たい水が張られています。
私は言われるまでもなく、籠の中の洗濯物を取り出し、水に浸してから石鹸をつけて洗濯板を使ってこすります。ちなみにドレスなど注意して洗濯しなければいけないものはハンナでは洗濯出来ないので、専用の業者に預けているのでここにはありません。
ハンナは特に手伝ってくれる訳でもなく、私の後ろに立って「もっと強く」「手が遅くなってますよ」などと野次を飛ばしてくるだけです。「教える」とは言っていましたが役に立つことは何も言いません。
最近は少しずつ寒くなってきていることもあって、ただ自分でやりたくない仕事を適当な理由で押し付けているのではないか、と思ってしまいます。
ずっと洗濯を続けていると徐々に手がかじかんできますが、洗濯物の山はどんどん少なくなっていきます。あと少しで終わる、と次の洗濯物をとろうと手を伸ばした時でした。
「きゃあ、足が滑りました」
突然ハンナはわざとらしい悲鳴を上げてこちらに倒れ込んできます。
ハンナは近くに立っていたため私はそれに反応することも出来ません。
「きゃあ!」
気が付くとハンナに突き飛ばされるようにして私はバランスを崩し、そしてバシャーン、という盛大な水飛沫とともに桶の中に倒れ込みました。全身が冷水につかり、震えあがります。
それを見てハンナはくすくすと笑いながら「すみません」と言ってきますが、全身が冷水につかった私は震えが止まらなくなり、それどころではありません。
すると、そこへ水音を聞きつけたエイダとジェーンがやってきました。そして水に濡れている私を指さして大笑いします。
「あはは、洗濯中に桶の中に落ちるなんて聞いたことがないわ!」
「お姉様、自分が汚いからって何も桶の中に入らなくてもいいのに」
どうやら最初からこれが目的だったのでしょう。私は逃げるように彼女たちの前から立ち去り、急いでタオルで体を拭き、服を着替えましたが、着替え終えてもしばらくの間は震えが止まりませんでした。
せめて婚約者のブラッドだけはいい人であって欲しい。いや、いい人でなくても普通の人でさえあってくれれば。私はそう思って堪えるしかありませんでした。
翌日、早速縁談の話を聞いたハンナが私に話しかけてきます。どうせろくでもないことを言い出すのだろう、と思った私は無感情に答えました。
「ありがとうございます」
「それで今日は奥様からあなたを嫁に出す以上、家事を教えてあげてと言われたのです」
「いえ、間に合っています」
言っては悪いですが、私は今更ハンナに教わるようなことはありません。ハンナは貴族令嬢の私より多くのパーティーについていっていますし、逆に私はメイドのハンナよりもたくさんの家事をさせられています。
が、ハンナはにやにやしながら言います。
「でも奥様からそうしてあげろと言われた以上、拒否することは出来ません。無様な花嫁を送りだせば、我が家全体の恥になってしまうのですよ」
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とはいえ私にはどうしようもなく、せめてさっさと終わらせてしまおうと私は頷きました。
「では今日は洗濯を教えてあげますわ」
そう言ってハンナは私を洗濯場に連れていきます。そこには直径一メートルぐらいの大きめの桶があり、その脇に様々な洗濯物が置かれています。他の家ではお湯で洗濯するところもあるらしいのですが、うちにはそんな設備はありません。目の前の桶には冷たい水が張られています。
私は言われるまでもなく、籠の中の洗濯物を取り出し、水に浸してから石鹸をつけて洗濯板を使ってこすります。ちなみにドレスなど注意して洗濯しなければいけないものはハンナでは洗濯出来ないので、専用の業者に預けているのでここにはありません。
ハンナは特に手伝ってくれる訳でもなく、私の後ろに立って「もっと強く」「手が遅くなってますよ」などと野次を飛ばしてくるだけです。「教える」とは言っていましたが役に立つことは何も言いません。
最近は少しずつ寒くなってきていることもあって、ただ自分でやりたくない仕事を適当な理由で押し付けているのではないか、と思ってしまいます。
ずっと洗濯を続けていると徐々に手がかじかんできますが、洗濯物の山はどんどん少なくなっていきます。あと少しで終わる、と次の洗濯物をとろうと手を伸ばした時でした。
「きゃあ、足が滑りました」
突然ハンナはわざとらしい悲鳴を上げてこちらに倒れ込んできます。
ハンナは近くに立っていたため私はそれに反応することも出来ません。
「きゃあ!」
気が付くとハンナに突き飛ばされるようにして私はバランスを崩し、そしてバシャーン、という盛大な水飛沫とともに桶の中に倒れ込みました。全身が冷水につかり、震えあがります。
それを見てハンナはくすくすと笑いながら「すみません」と言ってきますが、全身が冷水につかった私は震えが止まらなくなり、それどころではありません。
すると、そこへ水音を聞きつけたエイダとジェーンがやってきました。そして水に濡れている私を指さして大笑いします。
「あはは、洗濯中に桶の中に落ちるなんて聞いたことがないわ!」
「お姉様、自分が汚いからって何も桶の中に入らなくてもいいのに」
どうやら最初からこれが目的だったのでしょう。私は逃げるように彼女たちの前から立ち去り、急いでタオルで体を拭き、服を着替えましたが、着替え終えてもしばらくの間は震えが止まりませんでした。
せめて婚約者のブラッドだけはいい人であって欲しい。いや、いい人でなくても普通の人でさえあってくれれば。私はそう思って堪えるしかありませんでした。
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