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【王都】ボルグの専横
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「さて、これで邪魔なイレーネもいなくなったし、誰も僕らの邪魔をする者はいないな」
「はい、殿下」
イレーネを追い出した直後、ボルグはそう言ってレイシャの体を抱き寄せた。レイシャも嬌声を上げながらそれに応じる。まだ日も高かったがお構いなしであった。
ボルグとイレーネの出会いは一か月ほど前までさかのぼる。イレーネという婚約者がいたものの、ボルグは彼女のことを女としては見ていなかった。ボルグにとってイレーネは気難しい聖女という認識でしかなかった。
そのため、密かに家臣に命じて見た目の良い女を探させていた。そこで連れて来られた女のうちの一人がレイシャだったという訳である。レイシャはボルグがイレーネに不満を持っているのを読み取り、彼をそそのかして今回の陰謀を企てたという訳だった。
邪魔者だったイレーネがいなくなり、昼間から行為に及んでいた二人だったが、事が終わってふとボルグは我に返る。
「そう言えばなぜ父上はこのようなことを許可してくれたのだろうか?」
イレーネを追い出した後、一応ボルグは父である国王にそのことを報告した。本来は事後報告で許されることではなかったが、国王は興味なさそうに頷いただけだった。
その時はボルグはほっとしただけだったが、冷静に考えてみると少し不自然な気もする。
「どうでしょう。イレーネは愛想がなくいつも気難しい顔をしているので陛下にも嫌われていたのでは?」
「それはそうかもな」
実際のところイレーネに愛想がないというよりは、レイシャを始めとするボルグ周辺の者たちはボルグが王子であるため過剰に機嫌をとっているというのが真相であった。しかしイレーネのことが嫌いだったボルグはレイシャの言葉にそのまま納得してしまう。
そこへこんこんとドアがノックされる。せっかく行為の余韻に浸っていたのに邪魔されたボルグは露骨に不快な表情をした。
「誰だ? 今僕は忙しいんだ」
「殿下、ロナルドでございます。聖女様の件でお話が」
「そう言えばあいつには話していなかったな」
ボルグはそのことに思い至って舌打ちする。
ロナルドというのはこの国の大司教だ。本来聖女は大司教の推薦で選ばれるものだが、今回はボルグが独断で解任してしまった。そして報告もしていなかったため話を聞いて文句を言いにきたのだろう。
「まあ、それは大変です。殿下、さすがに大司教様には私も挨拶しないといけません」
慌てて二人は乱れた服装を直してドアを開ける。大司教は五十過ぎの白髪の老人であったが、娼婦のような恰好をしたレイシャの姿を見てさすがに唖然とした。
「殿下、聖女様を勝手に追放なされた上に昼間からなんとふしだらな!」
「ロナルドよ、聞け。彼女はこう見えてもイレーネを上回る魔力の持ち主だ。だから彼女を聖女につけると決めた」
ボルグの言葉にロナルドはさらに愕然とする。
「殿下、お待ちください! そもそも聖女を選ぶのは教会の役目でございます。せめて事前にご相談ください。まずはイレーネ様を呼び戻しましょう!」
「おい! それはこれまで特に問題がなければ聖女の選任は教会の推薦を王家が認めていたというだけで、元々聖女を選ぶ権利は王家にある! でしゃばるな!」
「も、申し訳ございません」
元々他人が自分より偉そうにすることに我慢ならないボルグはロナルドの態度に怒りを露わにする。そもそもボルグは教会が聖女を選んでいるからといって偉そうにしているのが気に入らなかったので、ここぞとばかりに八つ当たりした。
「それとも何か? 僕が選んだ聖女に文句があると言うのか?」
「いえ、そういう訳ではありませんがどういう方なのかも分かりませんので……」
なおもロナルドは食い下がる。
「なら自己紹介をしてやれ、レイシャ」
「レイシャと申します。以後お見知りおきを」
そう言ってレイシャはロナルドに一礼する。相手によっては色仕掛けも考えるレイシャだが、五十過ぎの老人が相手だったのですぐにそれは諦めた。
「確かに魔力はありますが……まあいいでしょう、このことは陛下と相談の上、再びお話にまいります」
「ああ、それなら父上にはもう報告したから大丈夫だ」
「何と」
その言葉にロナルドは絶句した。しかし国王が了承済みとなればどうしようもなく、なすすべもなく引いていった。
「よし。今度こそ僕たちの間を邪魔する者は誰もいないはずだ」
「さすが殿下。大司教に臆せずずばっと言い放つお姿は恰好良かったです」
そう言ってレイシャは適当にボルグをおだてる。
「そうだろう、さすがレイシャはよく分かっているな」
ボルグも見え透いたお世辞に気を良くするのだった。
「もっとも、今更イレーネを呼び戻せと言われてももう無理な話ですが」
レイシャはぼそりと小声でつぶやく。
「ん、どういうことだ?」
「あ、いえ、イレーネも今頃己の未熟さを思い知って失意の旅路についているのでもう戻ってこないということが言いたかっただけです」
とはいえ、ボルグがやりたい放題出来た時間は思いのほか短かった。
「はい、殿下」
イレーネを追い出した直後、ボルグはそう言ってレイシャの体を抱き寄せた。レイシャも嬌声を上げながらそれに応じる。まだ日も高かったがお構いなしであった。
ボルグとイレーネの出会いは一か月ほど前までさかのぼる。イレーネという婚約者がいたものの、ボルグは彼女のことを女としては見ていなかった。ボルグにとってイレーネは気難しい聖女という認識でしかなかった。
そのため、密かに家臣に命じて見た目の良い女を探させていた。そこで連れて来られた女のうちの一人がレイシャだったという訳である。レイシャはボルグがイレーネに不満を持っているのを読み取り、彼をそそのかして今回の陰謀を企てたという訳だった。
邪魔者だったイレーネがいなくなり、昼間から行為に及んでいた二人だったが、事が終わってふとボルグは我に返る。
「そう言えばなぜ父上はこのようなことを許可してくれたのだろうか?」
イレーネを追い出した後、一応ボルグは父である国王にそのことを報告した。本来は事後報告で許されることではなかったが、国王は興味なさそうに頷いただけだった。
その時はボルグはほっとしただけだったが、冷静に考えてみると少し不自然な気もする。
「どうでしょう。イレーネは愛想がなくいつも気難しい顔をしているので陛下にも嫌われていたのでは?」
「それはそうかもな」
実際のところイレーネに愛想がないというよりは、レイシャを始めとするボルグ周辺の者たちはボルグが王子であるため過剰に機嫌をとっているというのが真相であった。しかしイレーネのことが嫌いだったボルグはレイシャの言葉にそのまま納得してしまう。
そこへこんこんとドアがノックされる。せっかく行為の余韻に浸っていたのに邪魔されたボルグは露骨に不快な表情をした。
「誰だ? 今僕は忙しいんだ」
「殿下、ロナルドでございます。聖女様の件でお話が」
「そう言えばあいつには話していなかったな」
ボルグはそのことに思い至って舌打ちする。
ロナルドというのはこの国の大司教だ。本来聖女は大司教の推薦で選ばれるものだが、今回はボルグが独断で解任してしまった。そして報告もしていなかったため話を聞いて文句を言いにきたのだろう。
「まあ、それは大変です。殿下、さすがに大司教様には私も挨拶しないといけません」
慌てて二人は乱れた服装を直してドアを開ける。大司教は五十過ぎの白髪の老人であったが、娼婦のような恰好をしたレイシャの姿を見てさすがに唖然とした。
「殿下、聖女様を勝手に追放なされた上に昼間からなんとふしだらな!」
「ロナルドよ、聞け。彼女はこう見えてもイレーネを上回る魔力の持ち主だ。だから彼女を聖女につけると決めた」
ボルグの言葉にロナルドはさらに愕然とする。
「殿下、お待ちください! そもそも聖女を選ぶのは教会の役目でございます。せめて事前にご相談ください。まずはイレーネ様を呼び戻しましょう!」
「おい! それはこれまで特に問題がなければ聖女の選任は教会の推薦を王家が認めていたというだけで、元々聖女を選ぶ権利は王家にある! でしゃばるな!」
「も、申し訳ございません」
元々他人が自分より偉そうにすることに我慢ならないボルグはロナルドの態度に怒りを露わにする。そもそもボルグは教会が聖女を選んでいるからといって偉そうにしているのが気に入らなかったので、ここぞとばかりに八つ当たりした。
「それとも何か? 僕が選んだ聖女に文句があると言うのか?」
「いえ、そういう訳ではありませんがどういう方なのかも分かりませんので……」
なおもロナルドは食い下がる。
「なら自己紹介をしてやれ、レイシャ」
「レイシャと申します。以後お見知りおきを」
そう言ってレイシャはロナルドに一礼する。相手によっては色仕掛けも考えるレイシャだが、五十過ぎの老人が相手だったのですぐにそれは諦めた。
「確かに魔力はありますが……まあいいでしょう、このことは陛下と相談の上、再びお話にまいります」
「ああ、それなら父上にはもう報告したから大丈夫だ」
「何と」
その言葉にロナルドは絶句した。しかし国王が了承済みとなればどうしようもなく、なすすべもなく引いていった。
「よし。今度こそ僕たちの間を邪魔する者は誰もいないはずだ」
「さすが殿下。大司教に臆せずずばっと言い放つお姿は恰好良かったです」
そう言ってレイシャは適当にボルグをおだてる。
「そうだろう、さすがレイシャはよく分かっているな」
ボルグも見え透いたお世辞に気を良くするのだった。
「もっとも、今更イレーネを呼び戻せと言われてももう無理な話ですが」
レイシャはぼそりと小声でつぶやく。
「ん、どういうことだ?」
「あ、いえ、イレーネも今頃己の未熟さを思い知って失意の旅路についているのでもう戻ってこないということが言いたかっただけです」
とはいえ、ボルグがやりたい放題出来た時間は思いのほか短かった。
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