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帝国の陰謀
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「イレーネ、面倒な事態になったかもしれない」
辺境伯の館にお世話になって数日。私は特に何をして欲しいとも言われなかったのでもてなされるままにのんびりと暮らしていました。敢えてやっていたことと言えば毎日のお祈りぐらいでしょうか。
オーウェン様もお忙しいのか、会うのは数日ぶりになってしまいましたが、険しい表情をしています。
「どうしたのでしょうか?」
「あれから賊についての調査を進めた。結構きつめに尋問したのか彼らは訓練されていたのか全く口を割らなかった。そこで詳しい者を呼んで彼らの持ち物や衣服がどこ産のものか調査させた。すると興味深いことが分かった。衣服や消耗品は王国の様々なところで買ったものだが、持っていた短剣だけはどうも帝国産のようだったのだ」
「そ、そうなのですか!?」
隣国オーランド帝国とは今のところ平和が続いていますが、それはあくまでウィラード辺境伯家が睨みを利かせているからであり、薄氷のものだと言われています。
とはいえ、その帝国の賊がなぜ我が国にはいってきたのでしょうか。
「つまり、帝国の賊が我が国に侵入しているということですね?」
「そうだ。そして彼らはあなたが王都を出た瞬間に殺そうとした。馬車にはあなたしか載っていなかった以上、あなたを狙っている以外に考えられない」
「嘘……なぜ帝国に!?」
私は帝国には行ったこともありませんし、帝国出身の人ともほぼ会ったことがありません。
帝国に恨みを買った覚えはありません。
「分からない。だが、この国は聖女の力で持っているとも言える。それがなくなれば倒せると思ったのかもしれない」
「ですが、辺境伯様も帝国をしっかり防いでくださっているはずです」
私一人を殺すことがそこまで戦況に影響するのでしょうか。いまいちぴんと来ません。
「それはそうだ。とはいえ我らも聖女の加護で豊かになっているからこそ帝国に対抗出来ているだけだ」
「ですが、新しい聖女のレイシャもいます」
「イレーネから見てレイシャの魔力はどのくらいだ?」
「せいぜい私の半分ほどかと……あ」
殿下にかなり雑な追放のされ方をしたせいで私も自分自身のことを過小評価してしまっていましたが、思った以上に私の存在は重要だったようです。
「つまりそういうことだ」
「でも私はもう追放されていますし、わざわざ殺さなくても……」
「そうは言っても心ある者が殿下の命令を反故にして急に呼び戻すかもしれない」
確かに、追放自体に無理があった以上それをなしにしようとする者がいてもおかしくはありません。それが帝国にとって都合が悪い、というのは分かりますがだからといって刺客まで向けてくるとは。
「では一体私はどうすれば……」
「分からない。だがあなたが王宮を出た瞬間襲い掛かって来た以上、これは恐らく計画的な陰謀だ。だから窮屈かもしれないが、しばらくの間この館からは一歩も出ない方がいい」
「分かりました」
元々王宮から一歩も出ない生活をしていたのでそのことには何の不満もありません。オーウェン様もレナも私にかなり良くしてくれているので、居心地も大変いいです。
ただ、話を聞いて私の中に色々と嫌な予感が湧いてきます。これだけで済めばよいのですが。
さて、そんな話をしているところにどたどたという足音がして一人の兵士が部屋に駆け込んできます。
「大変ですオーウェン様! 帝国領から賊が国境を越えて我が領地に棲みついて人々から金品を奪っているという報告が入っています!」
「おのれ、帝国め……早速ちょっかいをかけてきやがったか」
報告を聞いてオーウェン様は悔しそうに唇を噛みます。
「どういうことですか?」
「正式に軍勢を送り込めば戦争になってしまう。だから賊に金でも渡して我が領地に送り込んで嫌がらせをしているのだろう」
「でもそれも戦争を仕掛けるのと同じではないのですか?」
正直なところ私にはその違いがよく分かりません。が、オーウェン様は首を横に振ります。
「うちの王家がしっかりしていればな。無論、我が家としてもそうしてもらえるよう要請は出す。だが、ボルグ殿下の乱心で王宮はそれへの対応どころではないかもしれない。もしかしたらうちの国がどこまでまともに機能しているのか確かめるためにやっているのかもしれないな」
「なるほど」
軍勢を送り込めば殿下たちもさすがに真面目に対処せざるを得ないですが、賊なら見過ごされるかもしれないということのようです。うちの殿下が無能を晒している間に帝国は着々と陰謀の手を巡らせているということです。
とはいえ、王都には殿下以外にも陛下や大司教など様々な人がいるはずです。なぜ皆殿下の横暴を止めないのでしょうか。そんな疑問が私の頭をよぎります。
そこへ続いて兵士が駆けてきました。
「オーウェン様! 伯爵閣下自ら賊の討伐に向かうため、館の守備は任せるとのことです」
「分かった! すぐに行く!」
そう言ってオーウェン様は立ち上がります。
こうして平和に思われた辺境伯領も一気に緊張に包まれるのでした。
辺境伯の館にお世話になって数日。私は特に何をして欲しいとも言われなかったのでもてなされるままにのんびりと暮らしていました。敢えてやっていたことと言えば毎日のお祈りぐらいでしょうか。
オーウェン様もお忙しいのか、会うのは数日ぶりになってしまいましたが、険しい表情をしています。
「どうしたのでしょうか?」
「あれから賊についての調査を進めた。結構きつめに尋問したのか彼らは訓練されていたのか全く口を割らなかった。そこで詳しい者を呼んで彼らの持ち物や衣服がどこ産のものか調査させた。すると興味深いことが分かった。衣服や消耗品は王国の様々なところで買ったものだが、持っていた短剣だけはどうも帝国産のようだったのだ」
「そ、そうなのですか!?」
隣国オーランド帝国とは今のところ平和が続いていますが、それはあくまでウィラード辺境伯家が睨みを利かせているからであり、薄氷のものだと言われています。
とはいえ、その帝国の賊がなぜ我が国にはいってきたのでしょうか。
「つまり、帝国の賊が我が国に侵入しているということですね?」
「そうだ。そして彼らはあなたが王都を出た瞬間に殺そうとした。馬車にはあなたしか載っていなかった以上、あなたを狙っている以外に考えられない」
「嘘……なぜ帝国に!?」
私は帝国には行ったこともありませんし、帝国出身の人ともほぼ会ったことがありません。
帝国に恨みを買った覚えはありません。
「分からない。だが、この国は聖女の力で持っているとも言える。それがなくなれば倒せると思ったのかもしれない」
「ですが、辺境伯様も帝国をしっかり防いでくださっているはずです」
私一人を殺すことがそこまで戦況に影響するのでしょうか。いまいちぴんと来ません。
「それはそうだ。とはいえ我らも聖女の加護で豊かになっているからこそ帝国に対抗出来ているだけだ」
「ですが、新しい聖女のレイシャもいます」
「イレーネから見てレイシャの魔力はどのくらいだ?」
「せいぜい私の半分ほどかと……あ」
殿下にかなり雑な追放のされ方をしたせいで私も自分自身のことを過小評価してしまっていましたが、思った以上に私の存在は重要だったようです。
「つまりそういうことだ」
「でも私はもう追放されていますし、わざわざ殺さなくても……」
「そうは言っても心ある者が殿下の命令を反故にして急に呼び戻すかもしれない」
確かに、追放自体に無理があった以上それをなしにしようとする者がいてもおかしくはありません。それが帝国にとって都合が悪い、というのは分かりますがだからといって刺客まで向けてくるとは。
「では一体私はどうすれば……」
「分からない。だがあなたが王宮を出た瞬間襲い掛かって来た以上、これは恐らく計画的な陰謀だ。だから窮屈かもしれないが、しばらくの間この館からは一歩も出ない方がいい」
「分かりました」
元々王宮から一歩も出ない生活をしていたのでそのことには何の不満もありません。オーウェン様もレナも私にかなり良くしてくれているので、居心地も大変いいです。
ただ、話を聞いて私の中に色々と嫌な予感が湧いてきます。これだけで済めばよいのですが。
さて、そんな話をしているところにどたどたという足音がして一人の兵士が部屋に駆け込んできます。
「大変ですオーウェン様! 帝国領から賊が国境を越えて我が領地に棲みついて人々から金品を奪っているという報告が入っています!」
「おのれ、帝国め……早速ちょっかいをかけてきやがったか」
報告を聞いてオーウェン様は悔しそうに唇を噛みます。
「どういうことですか?」
「正式に軍勢を送り込めば戦争になってしまう。だから賊に金でも渡して我が領地に送り込んで嫌がらせをしているのだろう」
「でもそれも戦争を仕掛けるのと同じではないのですか?」
正直なところ私にはその違いがよく分かりません。が、オーウェン様は首を横に振ります。
「うちの王家がしっかりしていればな。無論、我が家としてもそうしてもらえるよう要請は出す。だが、ボルグ殿下の乱心で王宮はそれへの対応どころではないかもしれない。もしかしたらうちの国がどこまでまともに機能しているのか確かめるためにやっているのかもしれないな」
「なるほど」
軍勢を送り込めば殿下たちもさすがに真面目に対処せざるを得ないですが、賊なら見過ごされるかもしれないということのようです。うちの殿下が無能を晒している間に帝国は着々と陰謀の手を巡らせているということです。
とはいえ、王都には殿下以外にも陛下や大司教など様々な人がいるはずです。なぜ皆殿下の横暴を止めないのでしょうか。そんな疑問が私の頭をよぎります。
そこへ続いて兵士が駆けてきました。
「オーウェン様! 伯爵閣下自ら賊の討伐に向かうため、館の守備は任せるとのことです」
「分かった! すぐに行く!」
そう言ってオーウェン様は立ち上がります。
こうして平和に思われた辺境伯領も一気に緊張に包まれるのでした。
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