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王都へ
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その後娘さんの治療に感激したオルスト公爵は何と一千の兵士を用意して私たちとともに王都へ向かうことになりました。後でオーウェン様に聞いたところによると、王宮に対して兵を向ける以上絶対に負けてはいけないのですぐに用意出来る兵力を最大限かき集めたとか、兵力が大きい方が発言権も増えるとかそういう大人の事情もあったようですが。
最初は数人だったのに急にここまでの兵力が増えるとは思わなかったので驚きましたが、それはまだ始まりにすぎなかったのです。
次に向かったのはオルスト公爵領の隣にあるコルグ子爵領でした。当初はオーウェン様が出した手紙を無視するなど私たちとは関わらないようにしていた子爵ですが、公爵から手紙が行くと、私と会ってもいいという返事がきました。やはり何事にも勢いというのはあるものです。
さらに数日の旅の末、私たちは子爵の館に辿り着きました。こちらは公爵の館と違って小ぶりな館でしたが、私たちが到着すると盛大に歓待してくれました。
「ところでイレーネ様は聖女のお力をお持ちと聞きますが、お味方させていただくには一度お力を見せていただきたいのです」
要するにこの前と同じ流れでしょうか。
「はい、何か問題があれば微力ですが力を尽くさせていただきます」
「実は最近、我が領地の川が氾濫し、岸に住んでいる住民の畑が水没してしまったのです。その後も少し雨が降るたびに氾濫が起こるのです」
「そのようなことはこれまでなかったのですか?」
「はい。これまでは多少の増量で川が溢れることはなかったのです」
「分かりました」
川の氾濫は本来私の力でどうにかなるものではありませんが、元々治まっていたというのであれば、氾濫しているのは聖女交代のせいでしょう。それであれば私が祈りを捧げれば大丈夫なはずです。
こうして翌日、私たちは王都近郊の川に赴きました。確かに特に大雨が降った訳でもないのに茶色い濁流がしぶきを上げて流れています。そして川岸には堤防の残骸のようなものが転がっており、その奥にあった畑や民家が押し流されています。まさに痛ましい光景と言えるでしょう。
「これはまた酷いですね」
「そうです。もし聖女交代が原因でこうなったのであれば、鎮められるはず」
「分かりました」
私たちは付近の高台に登り、川の流れを見つつそこで両手を合わせて祈ります。このような水害がなくなり、川の両岸で人々が平和に暮らせますように。
病気を治した時と違ってすぐに効果が出ることはありませんでした。それでも私は諦めずにずっと祈りを続けます。
すると。
「おお、濁流が見事に落ち着いていく」
「水位も下がっているのように見える!」
周りから驚愕の声が聞こえてきたので、私はおそるおそる目を開きます。
すると先ほどまで茶色い濁流が流れていた川は、今では透き通るような穏やかな流れになっているのです。それを見て私はほっとしました。
「無事戻ったようで良かったです」
「確かにあなたこそが本物の聖女にふさわしい。我らも協力させていただきます」
そう言って子爵も私に頭を下げました。
こうして私たちの一行に子爵軍も加わることになったのでした。
それからは似たようなことの繰り返しでした。私たちが進んでいくと、行く先にいる貴族の方々に聖女の力を披露し、彼らは私たちに加わってくれました。
というのも、やはり聖女交代の影響なのでしょう、王国のあちこちで災害が発生した跡があったり、謎の奇病に苦しむ人がいたりと悪いことが起こっていたのです。彼らは皆最初はオーウェン様の言い分に懐疑的でしたが、目の前で奇跡を見せられると皆納得してくれました。
中には私たちの進路にいないのに遠方から噂を聞きつけて駆けつけてくれる者もいました。そんな訳で王都に辿り着くころには数十の貴族と一万ほどの軍勢になっていたのです。
王都に入る前日のことでした。私は泊まっていた宿で夕食を食べ終えた後、オーウェン様に声をかけられます。
「これまでお疲れだった。本当は俺がもっと貴族を説得する予定だったのに結局色々やってもらうことになって済まなかったな」
「いえ、私も様々な方を助けられて良かったです」
「本当にイレーネは優しいんだな」
「そういう訳ではないですが……。王都にいたときは王宮にこもりきりだったので、自分の力で様々な人を助けられることが嬉しいのです。それにこれまでは殿下にあまり力を使うなと言われていましたが、今では自由に使えるので」
これまでは神殿の奥で祈りを捧げるだけなので自分の仕事でどのような効果が出ているのか実感が湧きませんが、こうして王国を旅しながら祈りを捧げることで自分のしていることの結果が目の前で分かるというのは素晴らしいことです。
「なるほどな。明日はいよいよ王都に入ることになると思う。しかし今のところこれだけの貴族が集まっても、向こうは素直に引くつもりはなさそうだ。もう一波乱起こるだろうが、よろしく頼む」
「はい。最初はただの殿下の気まぐれかと思っていましたが、そのようなことの影響でここまで色々なところに被害が出ていて、しかもそれを認めないというのは許せません」
「そうだな。だが、俺は王国の被害が出ていることと同じくらい、イレーネに酷いことをしたのが許せない」
オーウェン様の口から出てきたのは少し意外な言葉でした。
「オーウェン様……」
私は自分のことに対する怒りはあまりありませんが、そんな私の代わりにオーウェン様が怒ってくださっている。そう思うと胸が熱くなってくるのでした。
最初は数人だったのに急にここまでの兵力が増えるとは思わなかったので驚きましたが、それはまだ始まりにすぎなかったのです。
次に向かったのはオルスト公爵領の隣にあるコルグ子爵領でした。当初はオーウェン様が出した手紙を無視するなど私たちとは関わらないようにしていた子爵ですが、公爵から手紙が行くと、私と会ってもいいという返事がきました。やはり何事にも勢いというのはあるものです。
さらに数日の旅の末、私たちは子爵の館に辿り着きました。こちらは公爵の館と違って小ぶりな館でしたが、私たちが到着すると盛大に歓待してくれました。
「ところでイレーネ様は聖女のお力をお持ちと聞きますが、お味方させていただくには一度お力を見せていただきたいのです」
要するにこの前と同じ流れでしょうか。
「はい、何か問題があれば微力ですが力を尽くさせていただきます」
「実は最近、我が領地の川が氾濫し、岸に住んでいる住民の畑が水没してしまったのです。その後も少し雨が降るたびに氾濫が起こるのです」
「そのようなことはこれまでなかったのですか?」
「はい。これまでは多少の増量で川が溢れることはなかったのです」
「分かりました」
川の氾濫は本来私の力でどうにかなるものではありませんが、元々治まっていたというのであれば、氾濫しているのは聖女交代のせいでしょう。それであれば私が祈りを捧げれば大丈夫なはずです。
こうして翌日、私たちは王都近郊の川に赴きました。確かに特に大雨が降った訳でもないのに茶色い濁流がしぶきを上げて流れています。そして川岸には堤防の残骸のようなものが転がっており、その奥にあった畑や民家が押し流されています。まさに痛ましい光景と言えるでしょう。
「これはまた酷いですね」
「そうです。もし聖女交代が原因でこうなったのであれば、鎮められるはず」
「分かりました」
私たちは付近の高台に登り、川の流れを見つつそこで両手を合わせて祈ります。このような水害がなくなり、川の両岸で人々が平和に暮らせますように。
病気を治した時と違ってすぐに効果が出ることはありませんでした。それでも私は諦めずにずっと祈りを続けます。
すると。
「おお、濁流が見事に落ち着いていく」
「水位も下がっているのように見える!」
周りから驚愕の声が聞こえてきたので、私はおそるおそる目を開きます。
すると先ほどまで茶色い濁流が流れていた川は、今では透き通るような穏やかな流れになっているのです。それを見て私はほっとしました。
「無事戻ったようで良かったです」
「確かにあなたこそが本物の聖女にふさわしい。我らも協力させていただきます」
そう言って子爵も私に頭を下げました。
こうして私たちの一行に子爵軍も加わることになったのでした。
それからは似たようなことの繰り返しでした。私たちが進んでいくと、行く先にいる貴族の方々に聖女の力を披露し、彼らは私たちに加わってくれました。
というのも、やはり聖女交代の影響なのでしょう、王国のあちこちで災害が発生した跡があったり、謎の奇病に苦しむ人がいたりと悪いことが起こっていたのです。彼らは皆最初はオーウェン様の言い分に懐疑的でしたが、目の前で奇跡を見せられると皆納得してくれました。
中には私たちの進路にいないのに遠方から噂を聞きつけて駆けつけてくれる者もいました。そんな訳で王都に辿り着くころには数十の貴族と一万ほどの軍勢になっていたのです。
王都に入る前日のことでした。私は泊まっていた宿で夕食を食べ終えた後、オーウェン様に声をかけられます。
「これまでお疲れだった。本当は俺がもっと貴族を説得する予定だったのに結局色々やってもらうことになって済まなかったな」
「いえ、私も様々な方を助けられて良かったです」
「本当にイレーネは優しいんだな」
「そういう訳ではないですが……。王都にいたときは王宮にこもりきりだったので、自分の力で様々な人を助けられることが嬉しいのです。それにこれまでは殿下にあまり力を使うなと言われていましたが、今では自由に使えるので」
これまでは神殿の奥で祈りを捧げるだけなので自分の仕事でどのような効果が出ているのか実感が湧きませんが、こうして王国を旅しながら祈りを捧げることで自分のしていることの結果が目の前で分かるというのは素晴らしいことです。
「なるほどな。明日はいよいよ王都に入ることになると思う。しかし今のところこれだけの貴族が集まっても、向こうは素直に引くつもりはなさそうだ。もう一波乱起こるだろうが、よろしく頼む」
「はい。最初はただの殿下の気まぐれかと思っていましたが、そのようなことの影響でここまで色々なところに被害が出ていて、しかもそれを認めないというのは許せません」
「そうだな。だが、俺は王国の被害が出ていることと同じくらい、イレーネに酷いことをしたのが許せない」
オーウェン様の口から出てきたのは少し意外な言葉でした。
「オーウェン様……」
私は自分のことに対する怒りはあまりありませんが、そんな私の代わりにオーウェン様が怒ってくださっている。そう思うと胸が熱くなってくるのでした。
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