「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃

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オーウェンによる王国立て直し

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 イレーネが聖女復帰を周囲に認めさせているころ、オーウェンの元にも王国の主だった者たちが集まっていた。代表的な人物は大臣のモルディと将軍のゲイルである。他にもボルグのやり方に不満を抱きつつも何も言えなかった者や、たまたま王都を離れていた者などが続々と広間に集結する。
 逆に、ボルグに取り入って出世していた者たちはこそこそとオーウェンの目を避けていた。

「まずはこのたび、このような乱暴な方法をとってしまったにもかかわらずこの俺を支持してくださった皆には感謝したい」

 オーウェンの言葉に集まった者たちから拍手が起こる。
 続いて大臣のモルディが前に進み出る。こちらはもう六十にさしかかる白髪の老人だ。

「ボルグ殿下は陛下や大司教をまるめこみ、好き放題していた。彼を沈黙させるためには多少強引な方法もやむをえなかったと言えるでしょう。私はオーウェン殿のやり方を支持します」

 次に将軍ゲイルが進み出る。いかつい風貌をした彼は歴戦の戦士でもある。

「わしは軍は政変に対して口出しすべきではないと考えている。そのため、王国が新たな形でまとまるのであればそれに従おう」
「分かった。まず陛下は病中で、他の殿下はまだ幼く政務をとれる状態ではない。そのため王国の政治を誰が行うかを決めなければならない」
「オーウェン殿が摂政のような形で入るものかと思っていましたが」

 モルディは少し驚いたように言う。オーウェンが貴族たちの軍勢を率いてきた以上、彼でなければ国はまとまらないだろう。
 しかしオーウェンは険しい表情を見せる。

「問題は、オーランド帝国が我らの領地に攻め入ろうとしていることだ。自領を護るためにも国を護るためにも俺は軍勢を率いて領地へ戻らなければならない」
「なるほど」

 モルディは少し暗い表情になる。オーウェンがいなければ自分に貴族たちをまとめ上げることは出来るのだろうか。

「そこで俺はオルスト公爵閣下を推薦したい」

 オーウェンの言葉に部屋の隅にいたオルスト公爵が進み出る。
 彼はオーウェンが王都に向かう際、一応一番最初に味方した貴族である。当初はオーウェンやイレーネの力を見定めているような様子もあったが、娘をイレーネが治療してからは二人に恩義を感じていた。家柄や領地も王国の中ではトップクラスである。

「おお、公爵閣下でしたら私も存じております」

 モルディは安心したように言う。彼は密かに自分が責任者にされることを恐れていた。大臣とはいえ国王や軍の後ろ盾がなければ、広大な領地を持つ貴族に命令してもなかなか従ってもらうのは難しいだろう。
 そのため大貴族であるオルスト公爵がまとめ役になってくれることに安堵した。オーウェンに比べれば目立つ人物ではなかったが、逆に言えば安定した能力を持つということでもある。

「わしも異存はない」
「では公爵閣下に王都にて陛下の病が回復するまで摂政の任についていただくということで問題はないか」
「微力ながら精いっぱい務めさせていただきます」

 オルスト公爵としてもたまたまオーウェンの軍勢に乗っかったところで思わぬ大役が転がりこんできて儲けものであった。

「さて、王都のことは今後は閣下に任せるとして俺としては至急帝国に対する防衛軍を割いていただきたいと思う」
「帝国の動きは今どのような感じだ」

 ゲイルが尋ねる。

「我が領に山賊を送り込んでからも、俺が領地を離れてからは国境沿いに軍勢を集結させているという報告が続々と届いている。国境から王都までではどれだけ馬を飛ばしても数日かかるから、今頃戦いが始まっていてもおかしくはない」
「何と。それでは我らもすぐにでも軍勢を整えなければ。幸い我らは臨戦態勢だったからな」

 ゲイルは苦笑する。彼らはオーウェンらの軍勢に備えるために臨戦態勢であったが、それが役に立ちそうだった。今回は軍勢同士の衝突がなかったので、損害もほとんどない。

「分かった。では私は国中の貴族に今回の戦いに参加するよう命令を出せばいいということだな?」
「そうだ。とはいえ今王都にいる者を除けば集合は遅くなるだろう。そこでまずはゲイル殿の軍勢と王都にいる貴族のみの軍勢で先に国境に向かい、その後に集まった貴族の軍勢を送ってもらえると助かる」
「分かった」

 オルストからしても、オーウェンらが破られれば、帝国軍はそのまま自領に攻め込んでくるため、全力で協力せざるを得ない。摂政を任されたのは嬉しいが、逆に言えば自領に戻って帝国に降伏することが出来なくなったということであり、退路を断たれた形でもある。

 こうしてこれまで全く進まなかった対帝国軍の編成は急速に進んだのである。
 そして数日後、大司教も新たな者が任命され、王国の新体制は完成した。
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