「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?

今川幸乃

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祝宴

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「オーウェン・ウィラード、ただいま帰還いたしました」

 オーウェン様は高らかに宣言しながら館に帰還しました。
 そんなオーウェン様を、留守を守っていた伯爵様を初めとする家臣たちが出迎えます。特に伯爵様はオーウェン様の無事な顔を見るとほっとして目を細めます。

「オーウェンよ、このたびはよくやった。一人で王都に向かったと聞いたときからずっとはらはらしていたが、よく王国軍をまとめて戻って来たな」
「いえ、それも父上が館を守っていてくださったおかげです」
「今回の活躍は見事であった。わしも立派な跡継ぎが出来て安心した。ゲイル将軍もこんな遠方までよくぞお越しくださった」

 それから、伯爵様は傍らのゲイル将軍にも言葉をかけます。

「将軍としての務めを果たしたまでだ」

 将軍は相変わらず寡黙でした。
 ついで伯爵様は私の存在に気づきます。

「そして……ん、イレーネ殿は聖女に戻ったのではなかったのか?」
「実は……」

 私は伯爵様にこちらに戻ってきた理由を説明します。それを聞いた伯爵様は驚きました。

「我が息子のためにそこまでしてくださるとは。本物の聖女は性格も聖女だ」
「いえ、そこまでおっしゃられると恐縮してしまいます」
「お越しくださった皆様、今宵は盛大な宴を用意しているのでどうかおくつろぎください」

 こうして私たちに案内されます。
 先ほどまで激しい戦いが繰り広げられていたはずなのに、館の大広間では使用人たちが慌ただしく動き回り瞬く間に祝宴の準備が整えられていきます。
 オーウェン様たちは戦の後処理があるので暇になった私は、その中に見知った顔を見つけました。

「レナ!?」
「イレーネさん、無事だったのね!」

 そこにいたのは前にこちらに滞在したときにお世話になったレナでした。レナは私を見て嬉しそうな笑顔になります。

「ありがとうございます、助けにきていただいて。帝国軍三万が押し寄せた時は正直もう終わりかと思ってしまいました」
「レナも戦いが終わったばかりなのに祝宴の準備お疲れ」
「戦いの間は私たちは何もしていませんので、むしろここからが私たちにとっての主戦場です」
「じゃあ頑張ってね」
「はい」

 その後しばらくして、広間には祝宴の準備が整えられます。王国軍や貴族の皆がやってきますが、戦いが終わったばかりなのに立派なパーティーの準備が整えられていることに驚愕しています。
 パーティーが始まると、オーウェン様が壇上に上がりました。

「改めまして、本日は皆様遠方までお越しいただきありがとうございます。そこで俺の方から今回の戦いで功があった方々を労わせていただきたい。まずはバーミリアン侯爵閣下」
「は、はい」

 突然名前を呼ばれた方は少し驚きましたが前に出ます。

「侯爵閣下の軍勢は常に我が軍の最前線にいて、負傷者ももっとも多かったと聞きます。その奮戦ぶりは見事でした」
「そこまで見てくださっていたとは。ありがとうございます」

 彼は恐縮しつつ頭を下げます。

「正式な恩賞は今後王国から出ると思われるが、ひとまず個人的なお礼です」

 そう言ってオーウェン様は高級そうなお酒を渡しています。衆目の前で言葉をかけてもらったことに彼は満更でもないようでした。

「次は……」

 それからオーウェン様は次々と貴族たちを呼び出して言葉をかけていきます。
 本人は帝国軍の中を駆けまわっていたというのに、味方の戦いをくまなく把握しているようでした。もちろん、パーティーまでの間に情報を集めたとは思いますが。
 誰しも、皆がいる中で賞賛されるのは嬉しいものです。順番が回っていくにつれ、どんどん場の雰囲気が良くなっていきます。

「……ゲイル将軍が本陣を守っていてくださったからこそ、俺は安心して前線に出ることが出来た」

 順番は回り、最後はゲイル将軍で終わりかと思われました。が。

「最後はイレーネ殿」
「は、はい」

 呼ばれるとは思わなかったので私は驚きながら前に出ます。
 しかし周囲にいる貴族たちは私が呼ばれても全く驚きませんでした。皆最後が私であることを予期していたのでしょうか。
 私が前に出ると、オーウェン様はきれいな髪飾りを私に手渡します。

「そなたの祈りのおかげで俺の身は守られ、味方は奮起した。ありがとう」
「いえ、どういたしまして」

 そんな私に対して周りから盛大な拍手が送られました。
 こうしてオーウェン様の粋な計らいもあり、祝宴は大盛況でした。



 それから数日後。今回の戦いの勝敗を見守っていた王国内のまだ軍勢を出していなかった貴族が相次いで伯爵領に援軍を送って来ました。というのも、彼らからすれば帝国が勝つのであれば帝国に味方し、我らが勝つのであれば我らに味方しようという打算があったからと思われます。
 私たちの大勝利を聞いた様子見の貴族たちは慌てて援軍を派遣したので、瞬く間に帝国軍を上回る大軍となったのです。
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