婚約者が選んだのは私から魔力を盗んだ妹でした

今川幸乃

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ミアとリリーの過去

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 あれは確か5歳ぐらいだった時のことです。
 当時私とリリー、そして母上は一緒に道を歩いていました。
 すると突然、狂乱した馬がすごい勢いでこちらに向けて走ってきます。

「うわっ」

 避けようとした私ですが、当時幼かったこともあって石につまずいてしまいます。
 馬はそのまま一直線に私たちの方に向かって走ってきました。

「きゃあっ」

 次の瞬間、私の隣でリリーが馬にぶつかって倒れ、足を抑えていました。そして馬はと言うと、そのまま走り去っていきます。

「いたた……」
「大丈夫、リリー!?」

 それを見た母上は血相を変えました。



 それから色々あって、馬の持ち主が見つけられて罰せられたりとか、様々な高名な医者が呼ばれてリリーを診察したりとか色々なことがありました。
 しかし打ちどころが悪かったのか、その後リリーはしばらくの間車椅子に乗ることになったのです。
 それが決まった時、母上は私たち二人を集めて言いました。

「ミア、リリーはあなたをかばって怪我をしてしまったの。しかも傷の具合が悪くて、全然治る見込みがないの」
「本当に!?」
「ええ、そうよ」
「ごめん……」

 ぶつかった時のことはよく覚えていませんが、母上がそう言うので私は素直にリリーに対して謝ります。
 が、リリーは気にしてないという風に首を横に振ります。

「いえ、お姉様が無事ならそれで全然構いません」
「ありがとう……」
「それで提案があるんだけど、このままじゃリリーが可哀想だし、リリーの怪我が治るまでミアの精霊をリリーに貸してあげてはどうかしら?」

 精霊というのは魔力を持つ人が生まれてくると、生まれつき持っている存在です。基本的に人は精霊から魔力を受け取ることでしか魔法を使うことが出来ず、魔術師にとってはある意味自分自身よりも重要な存在です。
 とはいえ当時の私は5歳。それにミアの怪我もそこまで重いようには見えなかったので、深く気にせず頷きます。

「うん、分かった」
「良かったわね、リリー」
「はい、ありがとうございます、お姉様」
「ううん、リリーこそ私のためにありがとう」

 こうして私は自分の精霊をリリーに渡したのでした。

 それだけなら小さいころの姉妹仲がいいエピソードというだけで済んだのかもしれません。
 問題は今に至ってもリリーは車椅子に乗ったままで精霊もかえってきてないことでした。
 最初はそういうものだと思っていた私も、数か月、一年と経つにつれてさすがに不審を覚えて訊いてみたのですが、そのたびに「治りが悪くて」「傷が化膿して」と言われてしまいます。

 とはいえ、さすがに十五になった今でも同じようにずっと車椅子に乗っていると言われるとおかしいと思ってしまいます。が、だからといってさすがに「治っているのに車椅子に乗っているのでは」と言う訳にもいかず、今に至るまで精霊を奪われたままずるずる来てしまったという訳です。

 自分の精霊を手放してしまった者が魔法を使える訳がありません。そんな訳で魔法についてはずっと諦めてしまっていたのでした。
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