【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

1. 私は公爵令嬢よ

　私は、オリーフィア。
ホーキンス公爵家の娘よ。

　このサンダイス王国は貴族社会であるから、うちのような公爵家は上位よ。
もちろん、王家が一番上ではあるけれどね。
けれど、前国王が、私のお母様の父親なのですもの。私にも王家の血筋は流れておりますわよ。

　だから、この国の者は皆、私にも跪くのは当たり前だわ。
その分、私は公爵令嬢として、しっかりと立場をわきまえておりますわ。



　今日は、一週間後に控える卒業式の、前段階のイベントである、感謝の会がある日。
卒業する生徒が、先生や在校生に感謝の意を表す為の会だ。

　サンダイス王国学院は、十三歳から十五歳までの貴族が通う学院。
貴族の家柄の収入に応じて、寄付という名目で学費を支払っている。
ホーキンス公爵家はそれなりに収入もあるし他の家への面子もあるからと多額の寄付をしている。公爵家だもの。当然の行為よね！



「ちょっとジャネット！痛いじゃないの！なんで三年も侍女見習いとしてやってきたのにも関わらず、そんなに下手くそなの！？髪は優しく梳くのよ。引っ張ったら髪の毛が切れるでしょ！」

「す、すみません…」

「もう！あなたあと一週間で辞めるのでしょ。うちは公爵家よ！普通だったらあなたのような家柄では雇ってももらえないのよ？それを、お父様がどうしてもと言うから、仕事を与えているのに。今まで何を学んできたの！？そんなじゃ、学院を卒業してもどこにも雇ってもらえないわね。一日でクビになるわ。」

「そ、そんな…」

「もういいわ。あなたも一応、今日の感謝の会に参加されるのでしょ。後はオルガにやってもらうから。自分の支度をしてきなさい。オルガ。」

「はい、ただ今。」

　この、手際が悪いジャネットは隣の領地であるニューマン男爵家の娘。
私と同じ年齢で、十五歳。
母親は、幼い頃に亡くなってもういないらしい。
だからなのか十三歳の年齢で、うちに住み込みで侍女見習いをしている。

　いや。

　普通だったら男爵家という、貴族社会では一番格下の家柄の娘が、公爵家に侍女見習いとして敷居を跨がせてもらうなんてまず無い。

　だが、ニューマン男爵は、私の父に『お金を貸して欲しい。担保としてうちの娘を預けるから。』と言われたのだとか。
お父様は、仕事ではそれなりに厳しい人だったけれど、ニューマン男爵の新事業も面白そうだったからと破格の安い利子を付けて貸してあげたのですって。染め物の事業だそうですわ。

　担保として娘を、ってどうなのと思ったけれど、お父様は娘の私と同じ歳の子だったから情があったのかどうなのか…侍女見習いの仕事をさせる事を言いつけたのだそう。そして、話が合うかと思ったのか私付きにしたのよね。
私には、すでに幼い頃より付いてくれている一回り年上の侍女のオルガがいるから必要ないのに。

　私付きになったからには、どこに出しても恥ずかしくないようにとオルガにも厳しく指導してもらっていたけれど、一向に上達しない。

　侍女見習いをしていれば貴族淑女の作法にも結びついてくるものが幾つもあるのだから無駄にはならないのに。

　オルガもいつも渋い顔をしている。

　ジャネットも、侍女の仕事を覚えようと思ってないのでしょうね。けれどそれも卒業と同時に終わるわ！

　ジャネットは男爵家に返す事にして担保は、染め物の工場の土地ということに決めたみたい。少しずつ返済もできているみたいだし。

　けれど、じゃあ初めからそうすればジャネットがうちへ来る事もなかったんじゃないの！？

　きっと、ニューマン男爵は自分の娘とうちとの顔を繋ぎたかったのかもしれないわ。
礼儀作法を学びたかったとか？

　本当、いい迷惑だったのですけれどね！！