【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる

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 あれから暫くして昼食の準備が出来たと呼ばれたアウロラとランナル。

 イクセルとシーグルドに無事結婚を認められたランナルは、今後の事を提案された。結婚の時期や、ステンホルム家への挨拶などである。

 貴族の慣例に倣って最低でも一年は婚約期間を設けろと言われるかと思えば、ランナルはすでに侯爵として手腕を振るっているし、アウロラも十七歳という年齢であるからと、イクセルは半年後に籍を入れてはどうかと提案してきた。


「本当であれば今すぐにでも籍を入れたいだろうがな、あまり急いで、周囲の貴族達に変に勘ぐられてもいかんからの。」


 シーグルドとはすでに話し合ってまとめた話のようで、うんうんと頷いている。


「そうよぉあなた!何なら今日、籍を入れさせてもらってもいいんではないの?」

「お母さま、それは急過ぎるわ!…確かに、愛する人とはすぐにでも夫婦になりたいでしょうけど、いきなり家族の時間が無くなるなんて淋しいわ!」

「カリーネ、結婚してしまっても家族には代わりないよ。カリーネだって、今ご両親の元に帰ってきて昨日だって楽しかっただろう?」

「まぁ、そうではあるけれど…」


 シーグルドに言われ、口を尖らせながらカリーネはその後の言葉を閉ざした。


「まぁ…デシレアの意見も一理あるが、ランナル殿は侯爵家の当主ではあるし、貴族社会はいろいろあるんだよ、デシレア。我々の時は確かに慣習なんてすっ飛ばして結婚しちまったからなぁ!早くしたい気持ちは勿論分かる。
 だから譲歩して半年、だ。それでも長いと思うかもしれんが、恋人である期間も必要だぞ?」


 と、普段より饒舌に話すイクセルは顔も心なしか普段より口角が上がっているように見えた。


「はい、寛大なご配慮ありがとうございます。
 それで、確認なのですがアウロラ嬢はまだ暫くはこちらに滞在されるのですか?それとも、フランソン領に帰られるのでしょうか。」


 ランナルがそう確認すれば、イクセルは視線をアウロラへと向ける。アウロラも、まだ悩んではいるのだ。


「うちはいつまでもいていいと伝えたんだが、さてアウロラの心意はどうなんだ?」

「えっと…」

「まぁフランソン領に帰ってもそんなに王都からは距離もないから、私と一緒に帰ってもいいよ。明日から仕事だからね、私はこの食事を頂いて少ししたら帰るから。」


 そうシーグルドが言えば、アウロラもそうしようかという気になってくる。王都は確かに目新しい物がたくさんあるが、その分人も多くて忙しないと感じてしまうのだ。ただ気掛かりは、ランナルが訪ねて来てくれるのかという事。いつまであのホテルにいるのかははっきり聞いていないが、侯爵家当主であるからステンホルム領に帰れば、仕事で忙しく会う事も出来なくなるかもしれないと思ったのだ。


「帰られるのであれば、差し支えなければ私もフランソン領にご一緒しても宜しいですか?」

「え?」

「あ、アウロラ嬢が嫌ならいいんだが、君の故郷を見てみたいと思ったんだ。」

「いいじゃないか。
 …じゃあ私は馬車で帰るから、アウロラは騎馬で帰ってくるかい?」

「お父様!?」


 馬車でゆっくり、よりは確かに颯爽と馬に乗って風を感じたかったアウロラであったが、さすがにいいのだろうかとシーグルドに疑問を投げかける。


「それはいい!
 アウロラ嬢、どうだろうか?」

「…いいんですか?」


「ん?」


 ランナルが、はしたないなどと思わないのだろうかとアウロラは恐る恐る聞いてみたが、ランナルは何の事かと首を傾げたので、そんな事気にも止めない寛大な心の持ち主なのだと心が温かくなり、満面の笑みでランナルに告げた。


「是非、一緒に行って下さい!」


 周りの大人達は温かい目でそれを見守っていた。




☆★

 結局。
 様々な事を考慮し、シーグルドは予定通り昼食を摂り終えた夕方近くに詰め込めるだけの荷物と共に馬車で帰って行った。
 途中、騎士道学校の寮に寄りスティーグを拾って行くのだそうだ。

 学校の準備の為に長期休みの途中で寮へと戻ったスティーグだったが、昼食の前にアウロラが結婚する事になったと手紙を出していた。だが、ランナルがフランソン領へ訪れたいと申し出てくれた為、夕方馬車を寮に付けるから、帰れるのであればそれに乗って共に帰ろうと手紙を追加で出したのだ。


 アウロラは明日、ランナルと共にフランソン領へと向かう事となった。ランナルも、一度ホテルに帰りエメリとクリスティーンに伝えたり、ステンホルム領にいる父にも手紙で結婚する旨を伝える事としたのだ。


「クリスティーンも一緒に行きたいと言うだろうな」


 馬が好きだと言っていたと思い出したアウロラは、だったらお二人も一緒に、と言ったがそれはさすがに諦めさせるとランナルは笑った。


「今回は、遊びに行く訳じゃないからね。愛する人がどんな場所で育ったのか目に焼き付けに行くんだ。それに、アウロラのご兄弟にも挨拶をさせてほしいし。」


 そう言われれば、顔に熱が集まってくるアウロラ。それを見てランナルもまた、頬に赤みが自然と集まった顔は健康的で益々美しいと見惚れ自然と口角が上がるのだった。



 レイグラーフ家の馬を二頭借り、そこから初めはゆっくりと歩かせるアウロラとランナル。
 二人が乗った馬はそのうちに返してくれればいいと言われた。ランナルは、王都に帰って来た時に返せばいいし、そうでなくても何頭も所有しているため、すぐに困る事は無いのだ。


「アウロラの乗馬姿も素敵だ。
 昔の、弓を引いた姿も凛々しかったけどね。」


 そう声を掛けられたアウロラは、自分の好きなことを認めてもらえたようで心が波うったように感じ、頬を緩めた。


「嬉しい!…でも、弓はあれ以来やっていないの。」

「え、そうだったの?勿体ない!…って、弓当て会はあまりいい思い出じゃないからか。」

「違うわ!…そうだけど、そうじゃないの。なんか、複雑で…
 でも、ランナルのあの弓を引く姿も、とってもかっこ良かったわ!また見たいと思ったほどよ。」

「そう?…じゃあ、アウロラがまたやりたいと思えたら、やりに行こうか。
無理にとは言わないけど、一応、ステンホルム領でも、弓当ては日常でよくするんだ。」

「そうなの?」

「ああ。ステンホルムは林檎が名産だけど、昔は虫に食われたとかの売り物にならない林檎を的にして、よく練習してたみたいだ。」

「まぁ!素晴らしい活用法ね。」

「今は、虫に食われたものもそこだけ切り取ってジャムにしたり焼き菓子などの加工に回したりするから、最近じゃ木の板とかを的にしてるけどね。」

「あら。
 じゃあ、いつか見せてくれる?」

「本当?勿論だよ。アウロラさえよければ、いつか、じゃなくて絶対実現しよう。」

「ふふ、嬉しい!
 あ、ねぇそろそろ走ってもいい頃よね。」


 ちょうど王都の中心地から外れて人も疎らになり、街道の木々が見え始める。


「そうだね。アウロラはどのくらいの速さで走れるの?合わせるよ。」

「本当?私について来れるかしら?」

「お、言ったな?
 置いていかれないよう、頑張るよ。」


 そう言って微笑み合うと、二人は互いに馬の腹を蹴り、駆け出した。頬に当たる風は心地良く、なんて清々しいのだろうとアウロラは口角を上げ、併走するランナルに視線を時折送りながら手綱を操っていた。




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