【完結】その令嬢は可憐で清楚な深窓令嬢ではない

まりぃべる

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2 王都へ

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 父シーグルドはアウロラに意向を聞いたが、実は話は進められていたんじゃないかと思うほど、その日の夕食の時に次の日程を告げられた。


「アウロラ。先ほどの件だけど、王都で会う事になったよ。
急だけれど、明日出発出来るようにしておいてくれるかい?」

「え?」

「あらあなた。随分と急ね?」


 それにすかさず母カリーネは怒気を含んだ声色で口を挟んだ。普段おっとりとしている分、怒った時の声は随分と低い。


 アウロラと話した後シーグルドはカリーネにも結婚の打診があった話を伝えていたから、カリーネは知っている。
 けれどもこのような場合、日を挟んで準備をしてからではないのかと不審に思ったのだ。
 カリーネもまた、アウロラの気持ちを無視して勝手に話を進めてきたのかと若干非難する気持ちも混じっていた。


「そうなんだよ!それがねぇ…先方からの打診と言う事で、かなり乗り気みたいだ。
 こっちがとりあえず会うだけ、という了承の意を伝える手紙を昼間に送ったんだけど、さっき急速便で返事が届いたんだ。
〝急で申し訳ないけれど、他の人と話が結ばれる前に是非とも〟ってね。
 私も驚いたよ。」


 急速便は文字通り、急を要する手紙に使われる。
 一般的な郵便よりも一段階速いのが速便で、急速便は速便よりも更に速く届けられ、一般的な郵便の三倍の料金が掛かる。
 基本的には身内が危篤状態になった場合に遠くの領地にいる家族に伝える場合などに使われるが、情報を最も速く伝えたい場合に使われる場合もあるのだと、シーグルドも驚いていた。


「お父様、話が結ばれるって私まだ結婚するなんて…」

「結婚!?何の話ですか!?」


 弟のボルイは、普段のように大人しく食事をしながら話を聞いていたが、驚くべき言葉が出たため、シーグルドに噛みつくように声を荒げた。


「まぁまぁ、ボルイ。落ち着きなさい。
 アウロラも。
 私としても、この話を受けたからって必ず結婚をその人物として欲しいわけではないよ。まずは会って、友人として交流してから考えさせて欲しいとは伝えてある。
 ボルイ。アウロラに、父さんの知人から、その子息との結婚の打診があったんだよ。アウロラは十七歳だし、そろそろ考えてもいいかなと思ったからね。」

「そうですか…。」


 シーグルドから説明を受け、渋々納得をしたボルイ。


「お父様、伝えていただいてるなら結構です。私、まだ結婚は先だと考えていたのですから。」

「そうだね。私としても結婚はスティーグのことを先に考えないとと思っていたんだよ。けれど、まぁこれもご縁ではあるからね。
 それに、王都は久し振りだろう?終わったら観光すればいい。カリーネも行くかい?」

「当たり前よ、行くわ!」

「…分かりました。」


 思ったよりも早く事が進んで驚いてはいたアウロラだが、遅かれ早かれ会う事になるのだからと頷いたのだった。


(そういえば、お相手ってどなたなのかしら?まぁ、名前を言われてもお会いした人なんていないから良く分からないし、明日聞けばいいわね。)





☆★

 次の日。

「ボルイ、行ってくるね。」
「じゃあね、ボルイ。ちゃんとお留守番、お願いね!」

「はい、姉上、母上。お気をつけて。
 父上もどうぞお気を付けて。」


 まだ、辺りは薄暗く太陽が顔を出す前の時刻。
 母カリーネは、久し振りの遠出だと嬉々として馬車に乗り込む。その後にアウロラも他の使用人に向けて行ってきますとひと声掛けて乗り込んだ後、最後に見送るボルイや使用人達にシーグルドがいろいろと声を掛けてから、乗り込んだ。


 馬車は二台。前方は、シーグルドとカリーネとアウロラが乗っている。後方は、シーグルドについている従者バート、カリーネについている侍女ブリット、アウロラについている侍女ボエルと皆の荷物を乗せたためにかなり窮屈だ。御者台にはフランソン家お抱えの護衛隊員が馬を操縦している。護衛隊員は王都についたらそのまま馬車と共に領地へととんぼ返りする。

 母カリーネについている侍女は普段は二人いる。フランソン家に嫁いでくる時に一緒に来たアリスは、カリーネよりも年上という事もあり、今回は留守番で、カリーネより少し年下のブリットが今回はお供についた。


「アウロラ。暗い顔だね、大丈夫かな?」


 シーグルドにそう問いかけられ、アウロラは馬車の小窓をため息を吐き出しながら見ていた事を指摘されたと思い、身を正した。


「あぁ、いいえ…大丈夫です。」

「うふふ。本当は、騎乗して行きたかったんでしょう?」


 カリーネにそう言われ、アウロラは唇を曲げた。図星だったのだ。
馬で、人でいう駆け足並みの駈歩で行けば、王都であれば昼前につく。それよりも速い襲歩で行けばもっと速くたどりつけるが、荷物もあるし人も多い時には馬車になるのは仕方ないのだ。


「あぁそうか…悪いなぁ、アウロラ。
 その方が確かに早いのだが、今回はさすがに…結婚の打診を受けた年頃の娘が馬に乗って王都へ入るのは、外聞が悪いからね。」

「…承知しております。」


 シーグルドが治めるフランソン伯爵領は、馬を育てている。
貴族や騎士達が乗る軍馬が主だが、荷馬車を曳く馬、農作業で使われる馬も取り扱っている。王家にも献上する事もあるここの馬は、毛並みも良く、体力もあり上質だとされている。ここ数年、特に上等な名馬だと他国からの話も来ているほど。
 それがあるからか、アウロラは幼い頃よりそれらの馬と慣れ親しんでおり、乗馬も早くから覚え、領地を駆け回っている。

 それ故アウロラは、人も多く建物も多い王都より、多少の起伏はあるが広い平地が広がる領地にいる方が楽しいとフランソン領から出る事はほとんど無かった。


「たまには、馬車の窓から見える景色もいいものよ?
 ねぇ、それよりあなた。泊まるのはお父様のお屋敷?」


 カリーネは、馬に乗る事があまり得意ではない。そのため移動は主に馬車であった。


「いや、ホテルを手配してある…と、相手方の手紙に書かれていたんだ。」

「まぁ!」


 そう言って頬を膨らませてシーグルドをひと睨みする。


「なんだか、嫌ね!用意周到じゃないの!!」

「そこは、向こうが無理を言って早くしたから、手配など大変だろうと配慮して下さったんだろう。支払いも既に済んでいるそうだ。
 念のため予約は一週間取ってくれているそうだけど。
 それならとりあえずそこに一泊して、あとはお義父様のお屋敷に泊まれるのか聞いてみよう。」

「え!??」
「そう?…ふふ。やったわ!ね、アウロラ!」



 カリーネの父のお屋敷ーーそれは王都にある邸宅で、王都の中心街の高級住宅地にあり、アウロラも幼い頃に随分と世話になった。

 カリーネの父は、前国王の兄でイクセルと言う。
騎士道学校に通っていた当時、王都の街中で働いていたデシレアカリーネの母に一目ぼれしてしまったイクセルは、弟のアルフのちの前国王に頭を下げ、『臣下に降って国を支えるから、許して欲しい』と王太子の座を譲った。
 デシレアは、貴族では無かったから、添い遂げるにはイクセルが王位継承権を放棄するしか無かったのだ。


 イクセルとデシレアの子どもが、カリーネと、カリーネの兄で現公爵のビョルン=レイグラーフである。


 そのビョルンの子もまた二人。
 アウロラよりも六歳上の従姉妹カルロッテと、更に一歳上のクリストフ。
カルロッテは近隣の広大な土地と力を持った帝国に嫁ぎ、クリストフは今、王宮で第一王子殿下に遣えながら、時折公爵の仕事を手伝い次期公爵となるべく勤しんでいる。


 世話になった、とはその公爵家の令嬢カルロッテは小さい頃、家庭教師に学ぶ時に一人ではつまらないと歳の離れたアウロラと一緒に学びたいとワガママを言った為。その勉強の前後には共にお茶をする事も出来るからと両親や祖父母に強請ったのだ。


「いいでしょう?私には妹もいないし、いつかは嫁ぐ身だもの。お願い!!」


 可愛い娘や孫に言われてはと、最初は六歳も年齢が離れているアウロラとともに学べるのか不安視していた大人達も、無理であればその時に考えればいい、と楽観的にカルロッテの想いに答えた。
もちろん、アウロラが嫌がれば止めさせるつもりで。なんといっても、カルロッテとは六歳も離れているのだ。

 この国では、貴族子女は各家庭で家庭教師や侍女などから学びを得るので、姉妹など複数で学ばせる事もよくあったのだ。また、男子は騎士道学校に十五歳になったら通うが、それまでに読み書きや足し引きなど簡単な手習いは家庭教師を雇って学んでおく。その時に学校に通えない姉妹も共に学ぶ事もよくあった。

 アウロラの兄スティーグも、カルロッテやその兄クリストフとともに学んでいた時期も少しはあったが、男女の学びの違いや、公爵家と伯爵家の学ぶ内容が違うという事もあり、また領地で領主になるための学びも必要だったためにその内スティーグは騎士道学校に入学するまではフランソン領で一人で学んでいた。


 アウロラにとってみれば、六歳上のカルロッテとの学びは大変難しいものであった。公爵家の令嬢の学びは、ともすれば王族が学ぶべき内容も含まれていたから。

 今の王家は、国王陛下のアンドレに二人息子がいる。だが、王女はいないため、国のために嫁がされるのは王家の次の爵位である公爵家の娘カルロッテしか居ないのだ。この国は情勢も安定しているし、周辺諸国との付き合いも悪くはないが、この国よりも裕福で強大な帝国が近隣にある為そこに嫁ぐ事を視野に入れられていたのだ。
 アンドレ国王陛下はカルロッテにとって血縁関係にあたる。カルロッテの祖父イクセルが前国王だったアルフの兄。そのアルフの一人息子がアンドレ国王陛下なので、血の繋がりが近いためだ。


 それでも、アウロラは止めたいとは特に自分からは言わなかった。教本を枕に教師の前で眠っていた事もあったが、体を動かす授業や、文化に触れる機会も多くあったので楽しかった。教師も、カルロッテにはそれなりにしっかりと教えてはいたがであるアウロラが寝ていたとしても、微笑ましくみていたのだった。あまり叱られなかったから、アウロラは続けられたのかもしれない。

 それでも、祖父とのは厳しいもので、悔しいと涙を飲む事も幾度となくあった。

 祖父イクセルは元々王家の人間であったからか、作法には殊更厳しかったのだ。妻には緩いくせに、とアウロラはその度に歯を食いしばる。別にお祖母さまデシレアが憎いわけではない。いつも優しい笑顔を見せてくれる祖母である。しかし祖母には何も言わないのに、アウロラが少し作法を間違えてしまえばイクセルに低い声で注意されるのだ。理不尽だと嘆くのは無理もない。
 しかしそんな時にカルロッテはいつもアウロラにこっそりと耳打ちしていた。


『アウロラ。作法はと一緒よ。言葉遣いもね!
 丁寧にすればするほど、他の人たちと差が付くの。その代わり、余所行きの服を脱ぎ捨てた時は、自室でゆったりとした部屋着を着るようにだらりとすればいいのだわ!』


 アウロラにとって目から鱗だった。四六時中作法や言葉遣いに気を配らないといけないかと思ったら、そうでは無くて良いとカルロッテが教えてくれたから。


『大丈夫よ。アウロラなら出来るわ!お祖父様を見返してやりましょう!』


 カルロッテの作法は本当に見事で、アウロラはいつも隣で見ており見本にしていた。だからか、アウロラの仕草もまた、しなやかで素晴らしくなっていった。それでも、気を抜くとすぐにイクセルから鋭い眼差しが飛んでくる。
だから、お祖父様の事は嫌いではないけれど息が詰まるようで、カルロッテが十五歳で帝国の王家に嫁いでしまってからは、レイグラーフ公爵家は怖いところだと体に染みついているからか特に近寄らなかった。




 そんなところに泊まる…アウロラはホテルでもいいのではないかと思ったが、嬉しそうな母を見て、久し振りだし少しだからいいかと言葉を飲み込んだ。
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