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5 交流会
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「行ってらっしゃい!」
家族に見送られ、ルジェナはヨハナと共に、王宮へと向かう。
交流会は年頃の子供達とはいえ、将来結婚相手を見つける場でもある為、日が傾き始める夕方から始まり夜の帳が下りて少ししたら解散となる。その為、ルジェナはタウンハウスを持っていない為、朝早くから準備をして昼前には出発したのだ。
「はぁ…緊張する。」
ルジェナは馬車の中で何とはなしに呟いた。普段とは違う、華やかなドレスに身を纏い少し高さのある靴を履いている。友達も誰一人いないルジェナは、結婚相手を見つける為と、王宮とはどんな所なのかという興味の為に向かっている。
「大丈夫ですよ、いつものルジェナ様でいらして下さいませ。」
ヨハナは、普段あまり見た事のない強張った表情のルジェナに優しく言葉を返す。
「ねぇ、ヨハナ。その…いい人って簡単に見つけられるかしら?」
「そうですねぇ…簡単に見つかれば楽ですけれど、そうではない場合の方が多いと思いますよ。」
「そうよね…。」
ルジェナはそう言うと、ふう、と一層大きなため息を吐き外の小窓から景色を見つめた。
それを見たヨハナは、諭すようにルジェナへと声を掛ける。
「ルジェナ様。」
「なに?ヨハナ。」
「ルジェナ様は、結婚したいのですか?」
「!
…分からないわ。でも、カフリーク家の為には、しないとよね。」
「そんな事はありませんよ。
もし仮に、ルジェナ様が結婚出来たとしてもルジェナ様が幸せになれないものなのならば、ヘルベルト様もアレンカ様も、しなくていいとおっしゃっておりました。」
「…でも……」
普段のルジェナとは違い、思いのほか気弱になっているルジェナを見てやはり年頃の少女なのだな、と思ったヨハナは、柔らかい表情で、カフリーク家の家族達の代弁者となるべく、口を開く。
交流会に行くと決めた日から、ルジェナ以外の家族や使用人達は、幾度となくルジェナの為にとルジェナの居ないところで話し合った。ルジェナは今まで、家族や使用人以外の人とほとんど交流をして来なかった。その為、同世代の子達と上手く話せるのか、皆、気を揉んでいたのだ。
「私達と普通に会話できるのだから大丈夫よ。」
母親であるアレンカは大らかに言うが、父ヘルベルトは気が気では無かった。
「世間知らずなルジェナが、変な輩に捕まったら…」
「好きになった相手が、どうしようもない奴だったら…」
ああだったら、こうだったらと言い出すヘルベルトに、末息子のダリミルが提案する。
「父上、だったら僕も行きます。」
それに頷こうとしたヘルベルトだったが、交流会は十一歳のダリミルにはまだ早く、その年齢から参加する者はいない為、アレンカが素早く叱咤する。
「あなた!ダリミルにはまだ早いわよ。
ねぇ、子供はいつか親元から旅立たなければならないの。だからルジェナを信じましょう?」
信じたい気持ちはもちろんあるが、浮ついて参加する獣のような男がいる事もまた事実で、最後までヘルベルトは策を練っていた。
ーーーそんな姿を屋敷で見ていたヨハナは、主達の想いを伝えるべく、小窓から流れていく景色をぼんやりと見ていたルジェナに再び語り掛ける。
「今日は、初めて参加されるのですからそんなに気負わず、いつものルジェナ様で王宮とはどんな所かをしっかりと目に焼き付けてきて下さい。そして、会場には入れないこのヨハナに教えていただけたらと存じます。」
「ヨハナ…」
振り向いたルジェナは瞳が揺れ、年齢よりも幼く見えたヨハナは更に言葉を重ねる。
「結婚の事は、今は考えずともよろしいのですよ。今日という日を楽しまなくてどうするのです?」
「楽しむ…」
「そうですよ!
ルジェナ様はいつも、興味を持ったものに突っ走るではないですか!どんなにすごい場所か、このヨハナに教えて下さいませ。」
「ええ…そう…そうよね。分かったわ!
ありがと、ヨハナ。」
「とんでもない!
…あ、ルジェナ様。あちら見て下さい。とても素敵ではありませんか?」
「どこ?あ、本当ね!珍しいわ!」
ヨハナに促され、顔を小窓へと向けたルジェナは、心なしか声にも力が入りいつもの快活なルジェナに戻ったようだった。
☆★
交流会は、王宮の敷地内にある舞踏館で行われる。
王宮と呼ばれる佇まいには、王族が住まわれる場所と政治や外交を行う場所もあり、舞踏館はその後者にほど近く正門からも近い箇所にあった。正門からも見えるその建物は別棟となっており、中庭を通ってそちらへと進む。
迷わないように等間隔に近衛騎士が配置され、訪れた者を案内していた。
「すごく豪華ね…!」
他国の賓客を招く事もあるため、贅を尽くされたその建物は、ルジェナには倒れそうになるほど首を上にあげて見つめていた。
屋根近くには細かいが装飾が施され、それが何なのか凝視したいほどだった。
「ルジェナ様。受付に行かれますか?」
ヨハナのその言葉にはっと我に返ったルジェナは、うんと頷き、そちらへと向かう。
人々はまばらではあるが、すでに舞踏館へと向かう波が出来ていた。
受付は建物の扉の左隅に置かれた長机でやっているようで、ヨハナと共に進んだ。
「ようこそお越しくださいました。お名前をお願い致します。」
「はい。」
受付で、ヨハナが応対する隣のルジェナはキョロキョロと顔を見渡したいのをグッと堪え、受付を済ませて舞踏館へと入っていく人の波を見つめる。
ルジェナは、今までお洒落をする場所も無かった為さまざまな色のドレスがあり、髪型も皆違うのだと感心しているとヨハナに話し掛けられた。
「ルジェナ様、受付は終わりました。これより先は私は入れませんのでどうぞ楽しんでいってらっしゃいませ。」
「ええ、分かったわ。ヨハナ、ありがとう。また後でね。」
ヨハナ達のような侍女や侍従は、会場には入れない為専用の待つ部屋が設けられている。終わる頃に迎えに来ると先ほど馬車の中でルジェナは言われたのを思い出し、そう返事をする。
「どうしても帰りたくなったのでしたら、係の者に言って下さいね。
一人で、うろうろとしてはいけませんよ。」
「分かってるわ!
行ってくるわね。」
ヨハナの言葉を聞きながら、ルジェナは舞踏館の入り口を進んだ。
「すごい人…!」
まだ、始まりまでは少しあるのだが人が多く、ザワザワとしている。舞踏館の入り口を越えロビーを歩いていたルジェナだったが、ここが会場なのかと思ったほど。
しかし、会場はそこをさらに進んで開かれた両開きの扉の向こう側である。壁際や通路にも人があふれるほどにいて、数人で固まり、話をしているようにも見えた。
「こんなに人っているのね…さすが王宮だわ。」
ルジェナは領地からほとんど出た事もなく、またあまり街に出た事も無かった。たまに、演奏家達がひらく楽団を見に行ったりもしていたが、近くまでは馬車で行っていたし、こんな雑踏のような中に来た事もなく、まるで自分が押しつぶされるのではないかという錯覚を受けるほどだった。
(とりあえず、中にいってみましょ。)
中央に敷かれたカーペットの上をどうにか進めば、会場へとたどり着いた。それだけでルジェナは一仕事終えたようで、にっこりと口元を上げた。
(ここが会場なのね。…まぁ!)
同じ年頃の子達が集まりそこかしこで話している為、ロビーでは聞こえなかったが会場の右奥に楽器を携えた一団がおり、曲を控えめに奏でていた。
それに目が行ったルジェナは頬を緩めてそちらに向かった。
(なんてゆったりとした音色…!)
ルジェナは、楽団の近くまで来てしばらくそれを聞いていると、横に気配を感じてそちらに視線を向けた。
すると、隣にはルジェナよりもかなり背の高い顔立ちの整った男性が立っていた。
「ごめん、驚かせてしまったかな?
素敵な音楽だよね。」
「?」
音楽が鳴っている為、あまり聞こえなかったルジェナは、首を傾げる。とその男性は気分を害するでもなくニコリとしてから身を屈め、ルジェナの耳元で少し声を張り上げてまた同じ言葉を発した。
「驚かせてしまったならごめん。
素敵な音楽だよね。」
「ええ、本当に!ここで楽団の演奏が聴けるなんて思ってもみなかったの!」
ルジェナは気分が高揚していた為、突然の問いかけにそのように打ち解けたように話してしまってから、いや知り合いではなかったと慌てて横顔を見つめる。けれどもその横顔はなぜだか見た事あるような気がして、よく顔を見ようと少し前にずれてその人の顔を見る。
「ん?
ねぇ、良ければ向こうで少し話さない?その、ここじゃ、話しにくいから。」
そう言われた時、ちょうど音楽も終わり、それと同時に司会と思われる人が声を上げた為に自然と二人の視線はそちらに向いた。
「本日は、交流会でございます。
皆様、この時間を、どうぞ有意義にお使い下さい。お困り事があればどうぞお近くの係の者へ何なりとお伝え下さい。
では、時間の許す限りごゆるりとご歓談下さいませ。」
そう聞くや、ルジェナは何をしにきたのだったかと本来の目的を思い出したのだった。
家族に見送られ、ルジェナはヨハナと共に、王宮へと向かう。
交流会は年頃の子供達とはいえ、将来結婚相手を見つける場でもある為、日が傾き始める夕方から始まり夜の帳が下りて少ししたら解散となる。その為、ルジェナはタウンハウスを持っていない為、朝早くから準備をして昼前には出発したのだ。
「はぁ…緊張する。」
ルジェナは馬車の中で何とはなしに呟いた。普段とは違う、華やかなドレスに身を纏い少し高さのある靴を履いている。友達も誰一人いないルジェナは、結婚相手を見つける為と、王宮とはどんな所なのかという興味の為に向かっている。
「大丈夫ですよ、いつものルジェナ様でいらして下さいませ。」
ヨハナは、普段あまり見た事のない強張った表情のルジェナに優しく言葉を返す。
「ねぇ、ヨハナ。その…いい人って簡単に見つけられるかしら?」
「そうですねぇ…簡単に見つかれば楽ですけれど、そうではない場合の方が多いと思いますよ。」
「そうよね…。」
ルジェナはそう言うと、ふう、と一層大きなため息を吐き外の小窓から景色を見つめた。
それを見たヨハナは、諭すようにルジェナへと声を掛ける。
「ルジェナ様。」
「なに?ヨハナ。」
「ルジェナ様は、結婚したいのですか?」
「!
…分からないわ。でも、カフリーク家の為には、しないとよね。」
「そんな事はありませんよ。
もし仮に、ルジェナ様が結婚出来たとしてもルジェナ様が幸せになれないものなのならば、ヘルベルト様もアレンカ様も、しなくていいとおっしゃっておりました。」
「…でも……」
普段のルジェナとは違い、思いのほか気弱になっているルジェナを見てやはり年頃の少女なのだな、と思ったヨハナは、柔らかい表情で、カフリーク家の家族達の代弁者となるべく、口を開く。
交流会に行くと決めた日から、ルジェナ以外の家族や使用人達は、幾度となくルジェナの為にとルジェナの居ないところで話し合った。ルジェナは今まで、家族や使用人以外の人とほとんど交流をして来なかった。その為、同世代の子達と上手く話せるのか、皆、気を揉んでいたのだ。
「私達と普通に会話できるのだから大丈夫よ。」
母親であるアレンカは大らかに言うが、父ヘルベルトは気が気では無かった。
「世間知らずなルジェナが、変な輩に捕まったら…」
「好きになった相手が、どうしようもない奴だったら…」
ああだったら、こうだったらと言い出すヘルベルトに、末息子のダリミルが提案する。
「父上、だったら僕も行きます。」
それに頷こうとしたヘルベルトだったが、交流会は十一歳のダリミルにはまだ早く、その年齢から参加する者はいない為、アレンカが素早く叱咤する。
「あなた!ダリミルにはまだ早いわよ。
ねぇ、子供はいつか親元から旅立たなければならないの。だからルジェナを信じましょう?」
信じたい気持ちはもちろんあるが、浮ついて参加する獣のような男がいる事もまた事実で、最後までヘルベルトは策を練っていた。
ーーーそんな姿を屋敷で見ていたヨハナは、主達の想いを伝えるべく、小窓から流れていく景色をぼんやりと見ていたルジェナに再び語り掛ける。
「今日は、初めて参加されるのですからそんなに気負わず、いつものルジェナ様で王宮とはどんな所かをしっかりと目に焼き付けてきて下さい。そして、会場には入れないこのヨハナに教えていただけたらと存じます。」
「ヨハナ…」
振り向いたルジェナは瞳が揺れ、年齢よりも幼く見えたヨハナは更に言葉を重ねる。
「結婚の事は、今は考えずともよろしいのですよ。今日という日を楽しまなくてどうするのです?」
「楽しむ…」
「そうですよ!
ルジェナ様はいつも、興味を持ったものに突っ走るではないですか!どんなにすごい場所か、このヨハナに教えて下さいませ。」
「ええ…そう…そうよね。分かったわ!
ありがと、ヨハナ。」
「とんでもない!
…あ、ルジェナ様。あちら見て下さい。とても素敵ではありませんか?」
「どこ?あ、本当ね!珍しいわ!」
ヨハナに促され、顔を小窓へと向けたルジェナは、心なしか声にも力が入りいつもの快活なルジェナに戻ったようだった。
☆★
交流会は、王宮の敷地内にある舞踏館で行われる。
王宮と呼ばれる佇まいには、王族が住まわれる場所と政治や外交を行う場所もあり、舞踏館はその後者にほど近く正門からも近い箇所にあった。正門からも見えるその建物は別棟となっており、中庭を通ってそちらへと進む。
迷わないように等間隔に近衛騎士が配置され、訪れた者を案内していた。
「すごく豪華ね…!」
他国の賓客を招く事もあるため、贅を尽くされたその建物は、ルジェナには倒れそうになるほど首を上にあげて見つめていた。
屋根近くには細かいが装飾が施され、それが何なのか凝視したいほどだった。
「ルジェナ様。受付に行かれますか?」
ヨハナのその言葉にはっと我に返ったルジェナは、うんと頷き、そちらへと向かう。
人々はまばらではあるが、すでに舞踏館へと向かう波が出来ていた。
受付は建物の扉の左隅に置かれた長机でやっているようで、ヨハナと共に進んだ。
「ようこそお越しくださいました。お名前をお願い致します。」
「はい。」
受付で、ヨハナが応対する隣のルジェナはキョロキョロと顔を見渡したいのをグッと堪え、受付を済ませて舞踏館へと入っていく人の波を見つめる。
ルジェナは、今までお洒落をする場所も無かった為さまざまな色のドレスがあり、髪型も皆違うのだと感心しているとヨハナに話し掛けられた。
「ルジェナ様、受付は終わりました。これより先は私は入れませんのでどうぞ楽しんでいってらっしゃいませ。」
「ええ、分かったわ。ヨハナ、ありがとう。また後でね。」
ヨハナ達のような侍女や侍従は、会場には入れない為専用の待つ部屋が設けられている。終わる頃に迎えに来ると先ほど馬車の中でルジェナは言われたのを思い出し、そう返事をする。
「どうしても帰りたくなったのでしたら、係の者に言って下さいね。
一人で、うろうろとしてはいけませんよ。」
「分かってるわ!
行ってくるわね。」
ヨハナの言葉を聞きながら、ルジェナは舞踏館の入り口を進んだ。
「すごい人…!」
まだ、始まりまでは少しあるのだが人が多く、ザワザワとしている。舞踏館の入り口を越えロビーを歩いていたルジェナだったが、ここが会場なのかと思ったほど。
しかし、会場はそこをさらに進んで開かれた両開きの扉の向こう側である。壁際や通路にも人があふれるほどにいて、数人で固まり、話をしているようにも見えた。
「こんなに人っているのね…さすが王宮だわ。」
ルジェナは領地からほとんど出た事もなく、またあまり街に出た事も無かった。たまに、演奏家達がひらく楽団を見に行ったりもしていたが、近くまでは馬車で行っていたし、こんな雑踏のような中に来た事もなく、まるで自分が押しつぶされるのではないかという錯覚を受けるほどだった。
(とりあえず、中にいってみましょ。)
中央に敷かれたカーペットの上をどうにか進めば、会場へとたどり着いた。それだけでルジェナは一仕事終えたようで、にっこりと口元を上げた。
(ここが会場なのね。…まぁ!)
同じ年頃の子達が集まりそこかしこで話している為、ロビーでは聞こえなかったが会場の右奥に楽器を携えた一団がおり、曲を控えめに奏でていた。
それに目が行ったルジェナは頬を緩めてそちらに向かった。
(なんてゆったりとした音色…!)
ルジェナは、楽団の近くまで来てしばらくそれを聞いていると、横に気配を感じてそちらに視線を向けた。
すると、隣にはルジェナよりもかなり背の高い顔立ちの整った男性が立っていた。
「ごめん、驚かせてしまったかな?
素敵な音楽だよね。」
「?」
音楽が鳴っている為、あまり聞こえなかったルジェナは、首を傾げる。とその男性は気分を害するでもなくニコリとしてから身を屈め、ルジェナの耳元で少し声を張り上げてまた同じ言葉を発した。
「驚かせてしまったならごめん。
素敵な音楽だよね。」
「ええ、本当に!ここで楽団の演奏が聴けるなんて思ってもみなかったの!」
ルジェナは気分が高揚していた為、突然の問いかけにそのように打ち解けたように話してしまってから、いや知り合いではなかったと慌てて横顔を見つめる。けれどもその横顔はなぜだか見た事あるような気がして、よく顔を見ようと少し前にずれてその人の顔を見る。
「ん?
ねぇ、良ければ向こうで少し話さない?その、ここじゃ、話しにくいから。」
そう言われた時、ちょうど音楽も終わり、それと同時に司会と思われる人が声を上げた為に自然と二人の視線はそちらに向いた。
「本日は、交流会でございます。
皆様、この時間を、どうぞ有意義にお使い下さい。お困り事があればどうぞお近くの係の者へ何なりとお伝え下さい。
では、時間の許す限りごゆるりとご歓談下さいませ。」
そう聞くや、ルジェナは何をしにきたのだったかと本来の目的を思い出したのだった。
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