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打診 ー画策ー
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「ルーラント、そういえばお前が初めて作ったバイオリンを売ったのを覚えているか?」
その日、夕食の時に父オルジフはルーラントへと視線を向けてそう言った。
ルーラントが昨年の二十歳になった時に侯爵の位をルーラントへ譲ったオルジフだったが、ルーラントの仕事を日々手伝い、食事は共にしている。
(!
忘れるわけない!)
ルーラントはその問いかけに心が跳ねるような想いをしながら、食事をしていた手を止めオルジフの顔を見て言った。
「はい、覚えています。」
二十一歳となったルーラントは、顔を引き締める。
忘れる事のない彼女の話を唐突に振られ、ニヤける顔を懸命に隠した。
「そうか。その後、買って下さったカフリーク家へ共に見に行ったのも覚えてるか?」
「ええ、はい…。」
十年前にカフリーク家を訪ねた際、ルジェナと会って話した事は、父に話してはいなかったルーラント。
だが、その帰りの馬車の中でルーラントの顔付きが変わっているのを見て、父は目論見通り会えたのではないかと考察した。そして、その日以降人が変わったかのように何事にも謙虚に取り組む姿勢となった息子を見て、やはり何かあったのだと確信したのだ。
それから十年。なぜ今更その話が出るのかと、緊張してゴクリと喉を鳴らすルーラントは、次の言葉をじっと待った。
「その、バイオリンを贈られた子がね、今度の交流会に初めて参加するそうなんだよ。」
「交流会?…あぁ、王宮で開催される?」
「そうだ。ルーラントは、行った事無かったか。」
「いえ、友人に誘われて一度行きましたがすぐ帰りました。」
ルーラントは、あの日以来ルジェナの事が胸を占めていた為他の女性と交流したい等とは露ほども思っていなかった。それでも見目麗しいルーラントは、学院でもそれなりに人気があり、積極的にアプローチする女子生徒もいた。が、それをどうにか躱し、恋人も婚約者も今までつくらなかった。
学生時代の友人にどうしてもと言われて断り切れず参加した交流会だったが、どうにも女性からの熱い視線や、あからさまな誘いの態度に耐えきれず早々に帰宅したのだった。
「そうか。
…参加してみるか?」
「え!?」
簡単な曲を演奏しただけでいい音色だとうっとりと聞き惚れてくれた彼女の顔は忘れる事なんて出来るはずもなかった。自分が姿勢を直すよう指摘しただけでバイオリンの音が格段と良くなり、可愛らしい笑顔を向けてくれたあの少女が、男女の出会いの場である交流会に参加すると聞き、心は一気にざわついたが平静を装い父の問いに短く返答をしたルーラント。
だが、参加するかと聞かれ、自分の心が見透かされたのではないかと思いその場に合わず大きな声を出してしまう。
「そんなに大きな声を出さなくとも。
いやな、ヘルベルトから聞いたんだが、愛娘が参加したいと言い出したらしくえらく心配していたんだ。それはもう自分が参加する勢いでね。」
そう言って、その時の事を思い出したのかはたまた息子の慌て振りを見て微笑ましいと思ったのを隠し切れなかったのか、笑いながら話すオルジフ。
「私にまでそう話すものだから、そういえば幸いうちには年頃の息子がいる事を思い出してね。
ヘルベルトに、『お前が乗り込みたい気持ちは分かったから、それよりうちの息子に見てきてもらうか?』と言ったら涙を流して懇願してきたよ。是非とも頼む、とね。」
「…俺で、よろしいのですか?その…目付役というか、保護者の役割をしてこればいいのですか。」
「まぁそう堅くなるな。
浮ついた悪い虫が付く前にお前がそれとなく話し掛け、ヘルベルトの愛娘と楽しめばいいと思うぞ。」
「…」
「そこは出会いの場だからな。真面目に結婚相手を探す者もいれば、遊び相手を探す者も少数派ではあるがいるのも事実だからなぁ。そんな邪な考えを阻止させたいのだとヘルベルトは言っておったよ。」
「そもそも、なぜ彼女は交流会に参加するのです?それだったら行くなと言えば…」
「学院も通っていなかった箱入り娘の子らしいが、やっと興味が出てきたんじゃないのか?そろそろ年頃の子と交流したいとでも思ったんだろう。
ヘルベルトも最初は行くなと言ったそうだぞ。でもな、ご夫人が一度くらい経験してみればと助言したそうだ。」
「どうしてまた…!」
「さぁな、そこまでは分からん。
それなのにダメだと言って、妻や娘に嫌われたくないそうだ。
ルーラント、行くか?」
そもそもなぜ彼女は交流会に行きたいのかという理由が分からないままだった。だが、あの時の屈託の無い笑顔が、何処の馬の骨とも分からないやつにどうにかされてはたまらないと、以前は気持ち悪いと思った交流会に再び参加する事を心に誓う。
(これはまたとない機会だ!
そこで会話…今度はうまく話してみせる!)
理由はどうあれ、彼女と出会うきっかけを再び作ってくれた父にそれとなく感謝し、その来るべき交流会の事を思った。
その日、夕食の時に父オルジフはルーラントへと視線を向けてそう言った。
ルーラントが昨年の二十歳になった時に侯爵の位をルーラントへ譲ったオルジフだったが、ルーラントの仕事を日々手伝い、食事は共にしている。
(!
忘れるわけない!)
ルーラントはその問いかけに心が跳ねるような想いをしながら、食事をしていた手を止めオルジフの顔を見て言った。
「はい、覚えています。」
二十一歳となったルーラントは、顔を引き締める。
忘れる事のない彼女の話を唐突に振られ、ニヤける顔を懸命に隠した。
「そうか。その後、買って下さったカフリーク家へ共に見に行ったのも覚えてるか?」
「ええ、はい…。」
十年前にカフリーク家を訪ねた際、ルジェナと会って話した事は、父に話してはいなかったルーラント。
だが、その帰りの馬車の中でルーラントの顔付きが変わっているのを見て、父は目論見通り会えたのではないかと考察した。そして、その日以降人が変わったかのように何事にも謙虚に取り組む姿勢となった息子を見て、やはり何かあったのだと確信したのだ。
それから十年。なぜ今更その話が出るのかと、緊張してゴクリと喉を鳴らすルーラントは、次の言葉をじっと待った。
「その、バイオリンを贈られた子がね、今度の交流会に初めて参加するそうなんだよ。」
「交流会?…あぁ、王宮で開催される?」
「そうだ。ルーラントは、行った事無かったか。」
「いえ、友人に誘われて一度行きましたがすぐ帰りました。」
ルーラントは、あの日以来ルジェナの事が胸を占めていた為他の女性と交流したい等とは露ほども思っていなかった。それでも見目麗しいルーラントは、学院でもそれなりに人気があり、積極的にアプローチする女子生徒もいた。が、それをどうにか躱し、恋人も婚約者も今までつくらなかった。
学生時代の友人にどうしてもと言われて断り切れず参加した交流会だったが、どうにも女性からの熱い視線や、あからさまな誘いの態度に耐えきれず早々に帰宅したのだった。
「そうか。
…参加してみるか?」
「え!?」
簡単な曲を演奏しただけでいい音色だとうっとりと聞き惚れてくれた彼女の顔は忘れる事なんて出来るはずもなかった。自分が姿勢を直すよう指摘しただけでバイオリンの音が格段と良くなり、可愛らしい笑顔を向けてくれたあの少女が、男女の出会いの場である交流会に参加すると聞き、心は一気にざわついたが平静を装い父の問いに短く返答をしたルーラント。
だが、参加するかと聞かれ、自分の心が見透かされたのではないかと思いその場に合わず大きな声を出してしまう。
「そんなに大きな声を出さなくとも。
いやな、ヘルベルトから聞いたんだが、愛娘が参加したいと言い出したらしくえらく心配していたんだ。それはもう自分が参加する勢いでね。」
そう言って、その時の事を思い出したのかはたまた息子の慌て振りを見て微笑ましいと思ったのを隠し切れなかったのか、笑いながら話すオルジフ。
「私にまでそう話すものだから、そういえば幸いうちには年頃の息子がいる事を思い出してね。
ヘルベルトに、『お前が乗り込みたい気持ちは分かったから、それよりうちの息子に見てきてもらうか?』と言ったら涙を流して懇願してきたよ。是非とも頼む、とね。」
「…俺で、よろしいのですか?その…目付役というか、保護者の役割をしてこればいいのですか。」
「まぁそう堅くなるな。
浮ついた悪い虫が付く前にお前がそれとなく話し掛け、ヘルベルトの愛娘と楽しめばいいと思うぞ。」
「…」
「そこは出会いの場だからな。真面目に結婚相手を探す者もいれば、遊び相手を探す者も少数派ではあるがいるのも事実だからなぁ。そんな邪な考えを阻止させたいのだとヘルベルトは言っておったよ。」
「そもそも、なぜ彼女は交流会に参加するのです?それだったら行くなと言えば…」
「学院も通っていなかった箱入り娘の子らしいが、やっと興味が出てきたんじゃないのか?そろそろ年頃の子と交流したいとでも思ったんだろう。
ヘルベルトも最初は行くなと言ったそうだぞ。でもな、ご夫人が一度くらい経験してみればと助言したそうだ。」
「どうしてまた…!」
「さぁな、そこまでは分からん。
それなのにダメだと言って、妻や娘に嫌われたくないそうだ。
ルーラント、行くか?」
そもそもなぜ彼女は交流会に行きたいのかという理由が分からないままだった。だが、あの時の屈託の無い笑顔が、何処の馬の骨とも分からないやつにどうにかされてはたまらないと、以前は気持ち悪いと思った交流会に再び参加する事を心に誓う。
(これはまたとない機会だ!
そこで会話…今度はうまく話してみせる!)
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