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7. 第一王子との出会い
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成長し、十歳になったスティーナは、イロナにだいぶ慣れた。
博識で優しく教えてくれるイロナにスティーナは懐いており、さらにいろいろと学んでいった。
そして、国王と現在の花姫に挨拶をしに行く事となった。まだ、国民にまで正式にお披露目というわけではないが、国王と現在の花姫に挨拶をする事で少しずつ活動の場を広げられるよう認めてもらうのだ。
「大丈夫よ、スティーナ。いつものあなたらしくいれば全く怖い事はないわよ。」
隣に座り、馬車に揺られながら声を掛けてくれたのはイロナで、スティーナの緊張をほぐそうと現在の花姫が子どもだった頃の話をしてくれても、スティーナはなかなか緊張がほぐれなかった。
「花姫だって、スティーナと同じく人間なのよ。国王だって、国を統べていらっしゃるから尊いお方ではあるけれど、いざとなったらスティーナのが力はあるの。だから、そんなに怯えなくても大丈夫よ。」
と、そんな風に言われたとしても緊張するのであった。
「着いたね、ここからは歩いていくわよ。」
スティーナの手をしっかりと握り、イロナは衛兵の後ろをスティーナの歩幅に合わせて歩いていく。
スティーナは、それまで宮殿に来たことが無く、今日初めて見るそれを目に焼き付ける事もなく着いていく。周りを見る余裕も無く、緊張しているのだ。
庭園を横目に屋根付きの渡り廊下を歩いている時、不意にイロナの歩みがゆっくりになった。
「お前か、次の花姫は。」
そのような言葉が聞こえ、スティーナは声のする方を仰ぎ見た。
庭園の生け垣の際に立ち、煌めくような金髪の前髪を少し触っている少年がいる。
「ラーシュ!口の利き方を忘れたの!?」
イロナがそう叱咤するのを見て、スティーナはすぐに気づく。
(ラーシュって、第一王子様!?)
スティーナは、挨拶をしようとしたがイロナに少しだけ腕を引っ張られて止められる。それをされて、以前イロナに言われた事を思い出した。
『スティーナ。花祈りが出来る者は特別な存在なのです。それは王族にとってさえもそうです。なので、時に、不条理な願いを言われた時には自身の気持ちをはっきり口に出して構わないのですよ。
だからといって決して驕ってはいけません。あくまで、特別な存在というだけです。
そして、それは名乗る時にもですよ。無闇に自分の名前を名乗ったり、花祈りが出来ると言いふらしてはなりません。どんな危険が降りかかってくるか分かりませんからね。』
(挨拶は…しなくていいと言う事かしら。)
そう思い、ラーシュの方に視線を向け直す。
するとラーシュがまたも叫んだ。
「おい!オレが聞いているだろう!口がきけないのか!?」
「ラーシュ!お前こそ聞こえないの?それが初対面の人に話し掛ける言葉遣いじゃないよ!
スティーナ、行くよ。」
そう言われたスティーナは、本当にいいのかと思ったけれどもイロナが手を引っ張るので、顔をラーシュに向けてお辞儀だけして先を進んだ。
「ばぁちゃん!
なんだよ!ひでぇなぁ!オレが聞いてんのに。
オレが王太子になったら、お前なんて冷遇してやるから覚悟しておけよ!」
背中越しにそのような声を聞いたが、イロナはどこ吹く風で全く聞こえていないように先を進む。
そして、本殿に入った時に初めてスティーナの方へと顔を向けて悲しげな顔をして謝った。
「スティーナ、嫌な思いをさせて済まなかったね。
ラーシュは第一王子なんだが、なかなかどうして様々な事をしっかり学ぼうとしないのよ。もう十二歳になるのに、言葉遣いも碌に出来やしない。
ラーシュの言う事なんて真に受けなくていいからね。自分の感情で動くようでは、王太子には到底なれるわけないんだからね。」
「そうなのですね。どうしてなんでしょうか。」
スティーナは、オーグレン家に生まれたからには、家を繁栄させる為に自分が様々な分野を学んでいく事は至極当然の事であると思っていた。だから、第一王子として生まれたラーシュがあんな風に初対面である自分に突っかかってきた事が信じられなかったし、イロナが言ったしっかり学ぼうとしない、という言葉が理解出来なかったのだ。
「どうして…なんだろうねぇ。それが分かれば、私らも苦労しないのだけれどねぇ……。」
イロナは遠くを見つめ、大きなため息をついた。
博識で優しく教えてくれるイロナにスティーナは懐いており、さらにいろいろと学んでいった。
そして、国王と現在の花姫に挨拶をしに行く事となった。まだ、国民にまで正式にお披露目というわけではないが、国王と現在の花姫に挨拶をする事で少しずつ活動の場を広げられるよう認めてもらうのだ。
「大丈夫よ、スティーナ。いつものあなたらしくいれば全く怖い事はないわよ。」
隣に座り、馬車に揺られながら声を掛けてくれたのはイロナで、スティーナの緊張をほぐそうと現在の花姫が子どもだった頃の話をしてくれても、スティーナはなかなか緊張がほぐれなかった。
「花姫だって、スティーナと同じく人間なのよ。国王だって、国を統べていらっしゃるから尊いお方ではあるけれど、いざとなったらスティーナのが力はあるの。だから、そんなに怯えなくても大丈夫よ。」
と、そんな風に言われたとしても緊張するのであった。
「着いたね、ここからは歩いていくわよ。」
スティーナの手をしっかりと握り、イロナは衛兵の後ろをスティーナの歩幅に合わせて歩いていく。
スティーナは、それまで宮殿に来たことが無く、今日初めて見るそれを目に焼き付ける事もなく着いていく。周りを見る余裕も無く、緊張しているのだ。
庭園を横目に屋根付きの渡り廊下を歩いている時、不意にイロナの歩みがゆっくりになった。
「お前か、次の花姫は。」
そのような言葉が聞こえ、スティーナは声のする方を仰ぎ見た。
庭園の生け垣の際に立ち、煌めくような金髪の前髪を少し触っている少年がいる。
「ラーシュ!口の利き方を忘れたの!?」
イロナがそう叱咤するのを見て、スティーナはすぐに気づく。
(ラーシュって、第一王子様!?)
スティーナは、挨拶をしようとしたがイロナに少しだけ腕を引っ張られて止められる。それをされて、以前イロナに言われた事を思い出した。
『スティーナ。花祈りが出来る者は特別な存在なのです。それは王族にとってさえもそうです。なので、時に、不条理な願いを言われた時には自身の気持ちをはっきり口に出して構わないのですよ。
だからといって決して驕ってはいけません。あくまで、特別な存在というだけです。
そして、それは名乗る時にもですよ。無闇に自分の名前を名乗ったり、花祈りが出来ると言いふらしてはなりません。どんな危険が降りかかってくるか分かりませんからね。』
(挨拶は…しなくていいと言う事かしら。)
そう思い、ラーシュの方に視線を向け直す。
するとラーシュがまたも叫んだ。
「おい!オレが聞いているだろう!口がきけないのか!?」
「ラーシュ!お前こそ聞こえないの?それが初対面の人に話し掛ける言葉遣いじゃないよ!
スティーナ、行くよ。」
そう言われたスティーナは、本当にいいのかと思ったけれどもイロナが手を引っ張るので、顔をラーシュに向けてお辞儀だけして先を進んだ。
「ばぁちゃん!
なんだよ!ひでぇなぁ!オレが聞いてんのに。
オレが王太子になったら、お前なんて冷遇してやるから覚悟しておけよ!」
背中越しにそのような声を聞いたが、イロナはどこ吹く風で全く聞こえていないように先を進む。
そして、本殿に入った時に初めてスティーナの方へと顔を向けて悲しげな顔をして謝った。
「スティーナ、嫌な思いをさせて済まなかったね。
ラーシュは第一王子なんだが、なかなかどうして様々な事をしっかり学ぼうとしないのよ。もう十二歳になるのに、言葉遣いも碌に出来やしない。
ラーシュの言う事なんて真に受けなくていいからね。自分の感情で動くようでは、王太子には到底なれるわけないんだからね。」
「そうなのですね。どうしてなんでしょうか。」
スティーナは、オーグレン家に生まれたからには、家を繁栄させる為に自分が様々な分野を学んでいく事は至極当然の事であると思っていた。だから、第一王子として生まれたラーシュがあんな風に初対面である自分に突っかかってきた事が信じられなかったし、イロナが言ったしっかり学ぼうとしない、という言葉が理解出来なかったのだ。
「どうして…なんだろうねぇ。それが分かれば、私らも苦労しないのだけれどねぇ……。」
イロナは遠くを見つめ、大きなため息をついた。
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