【完結】花に祈る少女

まりぃべる

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16. 三度目のマルメの祭り

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「さぁ、今年もマルメの祭りに行こうかしらね。」

「はい!」



 マルメの祭り。
一昨年と昨年に続き、今年もマルメに行けるのかと聞いただけで胸が躍り出すようだった。
一昨年も昨年も、緊張しながらではあるが第二王子のヴァルナルがマルメの祭りを共に案内してくれたのだ。

 初めは余所余所しく、お互いに緊張していたのだが、肩の力が抜けてきたのかヴァルナルとスティーナもだんだんと友人の付き合い方や話し方になってきていた。




 マルメにある毎年来ていた王族所有の屋敷に着くと、すでにヴァルナルは着いていて、玄関ホールで座っていて出迎えてくれた。玄関に入ってすぐにその席に座っていた為にいつかのラーシュのようだと思ったスティーナだが、直ぐに頭を振った。振る舞いがまるで違った為だ。


「スティーナ、久し振りだね。さぁ今年もマルメの祭りを楽しもう!
といっても、ごめん。俺は明日には帰らないといけないんだ。」

「…そうなのね。」


 初めこそ、振る舞いが完璧であったヴァルナルであったが、イロナからも口酸っぱく言われ続けた事で少しずつ、砕けた話し方をしていたのだ。


 では、監視する者なんていない。踏み外さない範囲で自分を出せばいいーーー。


 そのイロナの言葉は、ヴァルナルだけでなくスティーナへも向けられた言葉で、スティーナも、ここではいつもの振る舞いをしなくていいとさえ言われていた。


 今年も、ヴァルナルと一週間ほど楽しめると思ったスティーナだったが、明日帰ると言われたのでとても悲しく思った。


「あら…そう。ヴァルナルももう、学校に通う年齢だったわね…。」

「はい。兄上と同じ、軍学校で基礎体力を付けようと思います。」

「へーえ!ラーシュとねぇ…。あの子はほとんど、周りの生徒や先生達に忖度してもらっているのでしょう?そんなんで学校なんて、行く意味なんてあるのかしら?
ヴァルナルは、その点大丈夫だと思うけれど、いかんせん真面目過ぎるから…ラーシュとは別の意味で心配だわ。」


 ヴァルナルは、ラーシュに比べて何事にも真面目に打ち込んでいる。その為、息が詰まり過ぎないかが、イロナは心配なのだ。


「ありがとうございます。兄上を支える為ですから。」

「ヴァルナル…その…無理しないでね。」


 学年が同じという事もあり、いつまでも他人行儀で呼び合うのも、という事で昨年、お互いに呼び捨てで呼び合う事にヴァルナルからの提案で決めた。まだ、名前を呼ぶのは恥ずかしいが、スティーナはそれでも、勇気を出して呼んでいた。


「ありがとう。あ、ねぇ。スティーナに手紙を書いてもいいかな?」

「いいの?嬉しい!私も書くわ!あ…よろしいでしょうか?イロナ様。」

「フフフ、そうねぇ…じゃあ私に手紙を送りつけなさい。それをスティーナへ渡すわ。いろいろと勘ぐられても困るでしょう?どうせ検閲はあるのだものね。
スティーナも、ヴァルナルへの手紙は私に直接渡してちょうだい。必ず送ってあげるからね。」

「ちぇーっ!まぁでも確かにそうかぁ…ではイロナ様、よろしくお願いします。」

「全く…ここでは、昔のようにおばあちゃんって呼んでくれていいって言っているのに。」

「も、もうそんな風に呼ぶ年齢ではありませんから!」

「はいはい。ここではワガママ言ってくれても怒らないっていつも言っているのに…。
さぁ、二人共、準備をして出掛けておいで!どうせ今日しか、出掛けられないんでしょう?」

「あ!そうだ!早く行こうか、スティーナ!今年は、南東の国から珍しい動物達も来ているらしいんだよ。」

「まぁ!そうなの?動物?」


 そう言ったヴァルナルは、スティーナへ左手を差し出し、右手を出したスティーナの手を少し大きな手が包み込んだ。
 背も、昨年は自分と同じ位の頭の位置であったのに、今は頭一つ分高くなった身長に、男らしさを少しだけ感じたスティーナであった。







☆★

 グウェーグウェー

 街へと近づいていくと、人々のざわめきと共に、変わった鳴き声が聞こえてきた。


「あ、あれだ。すご!俺も初めて見た!」


 珍しくヴァルナルも興奮した様子で、手を繋いでいる手とは別の空いた手で指差し、スティーナへと声を掛ける。


「…本当。馬とは違うのね。」


 グウェーグウェーと鳴いているその動物は、馬のように脚は長く、背中には盛り上がったこぶがあり、口をモゴモゴと常に動かしている。


「あれはね、ラクダというんだ。南東の国で、ジャウフという砂の国で生息する動物なんだそうだよ。」

「すごい…!ジャウフ国って、隣のアールンダ国の隣にある国よね!?そんなに遠くから来たの?」

「お!スティーナ、良く知っているね。さすがだね。
そう。でも、ラクダは移動するのにも慣れた動物みたいでね。
ほら、民衆も珍しがっているよ。」

「本当ね!」


 ラクダは、柵の中に大勢いた。綱に繋がれ大人しく長い脚を折り畳んで座っていたり、立ち並んで世話係に体を撫でてもらっているラクダもいた。
その柵は木で作った簡易的なもので出来ており、ラクダ達が窮屈だと思われないように広い範囲で囲われていて、民衆が入って来られないようになっているが、その柵を囲むように民衆が密集していた。


「乗れるんだよ、あのラクダに。でも、チケット販売は今日の午後で、そのチケット販売にもきっと並ぶし、すごい人だと思う。でも、スティーナが乗りたかったら並ぼうか。どうする?」

「え!の、乗る…?」

「あぁ。二人位までなら一緒に乗れるよ。一人で乗ってみてもいいと思うけど。」

「い、いいわ…だって、それじゃあ今日は並んで終わり、になってしまうでしょう?」

「そうなるかな…じゃあ、他を回る?」

「うん。だって、ヴァルナル今日だけなのでしょう?
あ、ヴァルナルこそ乗りたかった?」

「いや、俺はどっちでも。スティーナと一緒に出掛けられるなら、どこへ行っても楽しめるし。じゃあ、ここはもういいね。ラクダを見せたかっただけだから。
じゃあ行こうか。」

「ええ、私も初めて見れて嬉しかったわ!ありがとう!」



 スティーナは、ヴァルナルと一緒に街をブラブラと並んだ店を見て回る事が楽しいと思っていた。国内外の様々な品物が見れるだけではなく、ヴァルナルといろいろな話をしながら歩ける事が楽しいのだ。

 それからヴァルナルは、中心部へとゆっくりとスティーナの歩みに合わせて、歩いて行った。

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