【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる

文字の大きさ
8 / 25

8 生活に必要な物は

しおりを挟む
「ふぅ…こんな感じかしら?」

「そうですね、上手くなりましたね。」



 教会へ来て三日が経った。

 ルクレツィアとロミーナは、近くの川で洗濯をしてきてからそれを教会の近くで干し終わったところだ。
 今の季節、少しずつ朝晩はひんやりした風が吹き始めているので、川の水は冷たく感じるがそれでも汚れが落ちていき、濡れた洗濯物を皺を伸ばして干すのはさっぱりして気持ちがいいと思うようになっていた。

 今日は少し風も吹いていて洗濯物がパタパタと音を立てて靡いている。ルクレツィアの茶色の背中まで真っ直ぐ伸びた髪も、太陽の光を浴びて明るく煌めきながら靡いている。


「そう?ありがとう、ロミーナ。」


 ルクレツィアはここへ来てしばらく住むと言われた時にはかなり驚いた。しかし今までと生活が全く違うため苦労はするが、反面知らない事の連続で楽しくもあった。また、幼い頃よりルクレツィアの傍で世話をしてくれているロミーナとアデルモが一緒にいてくれるので、両親に早く会いたいとは思うが、淋しくて枕を濡らすほどではなかった。体を動かしているため、疲れ果てて眠りについているからと言えるのかもしれないが。


 ガラガラガラガラ


「?」
「なんの音でしょうか?」


 不意に、遠くから音が聞こえてきた。

 ルクレツィアはなんの音かと、顔の横髪を耳に掛けて音のする方を見遣る。

 街道を、馬車が走る音だ。

 ロミーナはそれに気付き、もしかしたらコラユータ伯爵家からの遣いかと期待したが、人を乗せた馬車ではなく白い幌がかかった荷物を載せた荷馬車であったため少し残念に思った。


「やぁ!見慣れないね。
 アンネッタはいるかい?」


 荷馬車を操っていた日焼けした肌の中年の男性が、御者席から声を掛けてきた。


「アンネッタなら川に水を運びに行ったわ。呼びに行きましょうか?」


 その声に、ルクレツィアは返事を返す。


「お、助かるよ!
 アンネッタは水を運んでるのか。大変なら手伝うっていつも僕言ってるのになぁ。」


 そう言うと、その男は御者席から降りて何やら後ろから荷物を取り出し、馬に水を与え始めた。


「じゃあ私行ってくるわ!」


 それを見てルクレツィアがローミナへと言葉を掛ける。


「呼びに行くなら私が…」

「いいわ、アデルモも一緒だし、すぐ終わってるかもしれないもの。」


 洗濯物を入れていた籠をついでに持って行くからと、ルクレツィアは傍に置いてあった籠を持って行こうと手にした。


「なに!?アデルモって、男か!?」

「「え!?」」


 馬に水を与えていた男がいきなり大声を出したので、走り出そうとしていたルクレツィアは立ち止まり振り返る。ロミーナもぎょっとした表情をしてその男を見つめる。


「なぁ、男なのか!?アンネッタは男といるのか!?」


 馬を休ませるために水と、そして干し草も傍に置いて与えていた男は、ロミーナとルクレツィアの方へとズンズンと足音を踏み鳴らすようにして食い気味に向かって来る。


「ちょ、ちょっと!どうされたのです!?」


 ロミーナは慌てて声を掛け、その男とルクレツィアとの間に立ちふさがろうとする。


「あ?あ、いやだから、アンネッタは一人じゃなく男といるのかって聞いたんだ。」


 その守るような仕草に、少し冷静になった男はそう言って立ち止まって、もう一度同じ言葉を繰り返した。


「男って…まぁそうね。」


 ルクレツィアがそう答えると、彼は頭を後ろから殴られたように目を見開いてから膝を抱えるようにしてしゃがみ込んだ。


「あー…そうか、アンネッタもとうとう…そりゃあんだけ可愛いもんな、そりゃ仕方ないけどよぉ…僕なんて姿さえ拝めればと長年やって来てんのに…」


 その姿に、ルクレツィアはロミーナの顔を見合わせ、どうしたものかと首を傾げ、とりあえずはアンネッタを連れてこようと教会へと向かおうとすると、建物からアンネッタがやって来るのが見えた。


「あら、いらっしゃい。今日もありがとうね。」


 からっとした声が掛かると、男は頭を上げ、途端に顔を綻ばせて元気を取り戻したかのように話し出す。


「アンネッタ!水を運ぶの大変だったろ?僕が一緒に運ぶってあれほど言っていたのに。それでその…誰と運んでたの?」

「いつもそう言ってくれてありがとう。でも今日は大丈夫。それに、私には台車があるし。
 誰って、アデルモよ。
 あ、そうだ!ここにそこの二人と含めて三人いるの、誰にも言ったらダメよ?いい?」

「え?うん分かった!大丈夫、アンネッタの頼みであれば絶対に誰にも言わないよ!
 …で、アデルモって…」

「アデルモは、今風呂掃除をしてくれてるよ。
 何?知り合い?会いたかったの?」

「あ、いやそうじゃないんだが…」

「そう?しばらくは三人、ここで暮らすから顔を合わせる事もあると思うから覚えといて。でも、本当に他の人には話したらダメだからね?まぁ念のためではあるけれどね。」


 と、そうアンネッタは念を押した。


「分かってる!アンネッタのお願いなら何でも聞くから!!
 …え?でも男と一緒に住むのか?」

「だからそう言ってるでしょ!じゃなくて、増えたの。分かる?」


 アンネッタは若干面倒になり、そのように語気を強める。

「や、分かるけど…」

「それより、荷物運んでくれる?」

「あ、あぁ…そうだな。うん、運ぶよ。」


 その遣り取りをみたルクレツィアとロミーナは不思議がった。彼は誰なのだろうと思ったのだ。そして、アンネッタが男といると思うやいなや、食ってかかるように聞き出そうとしていた。
 まだ小さなルクレツィアは分からなかったが、十五歳のロミーナはなんとなく感じ取る。この男は、アンネッタを好きなのではないかと。


「あぁ、彼は…生活に必要な物を届けてくれるんだよ。週に何回かね。
足りない物があったら、大抵は言えば届けてくれるのさ。」


 ルクレツィアとローミナの顔を見てそう紹介し、アンネッタはまた教会の建物へと戻っていった。


「僕はオネストと言うよ、よろしく。」


 オネストと言った彼はアンネッタの後ろ姿をしばらく見つめていたが、思い出したように口を開く。


「私はルクレツィアよ。」

「私はロミーナです。」


 そうお互いに簡単な自己紹介した所で、オネストは荷物を運ぼうと荷台へと向かう。
 ルクレツィアとロミーナも、それに倣ってオネストへと近づく。


「オネストさん一人で?」

「いや…以前は数人で順番に来てたんだけどね、みな体調を崩したり体が辛くなったとかでもう今では毎回僕が持ってくるよ。ま、みんないい年齢になってしまったからさ。」

「そうなのね…。あ、荷物運ぶの手伝うわ。」

「そうかい?じゃあ、これなら持てるかな?」


 そう言って、オネストは軽そうな食材の入った麻袋を渡す。


「あ、はい。」

「ロミーナちゃんも?手伝いありがとうな、はい。」

「!?…どうも。」


 中年の彼にしたら、ルクレツィアもロミーナも親鳥から離れてすぐのひよっこにしか見えなかったために気易くそう呼んだため、ルクレツィアの年齢の頃より働いていたロミーナは子供扱いされたように感じて戸惑ったが、ここでは年齢や役職なども気にしてはいけないと言っていたと思い出し、まぁいいかと思い直して返事をした。




☆★

「ふう。このくらいかな?」


 ドサッと荷物を置いたオネストに、ルクレツィアは珍しそうに声を掛ける。


「結構たくさんなのね。」

「まぁね。そりゃ、生活に必要な量だからね。でもこれからは三人分増やさないといけないよね、伝えとくよ。」

「寄付を増やしてと伝えて大丈夫なのですか?でも…その、私達がここに住んでいる事は内密にお願いしたいのですが。」


 ロミーナが、気遣わし気にけれども言いにくそうに言う。


「あー、そうだったね。でもまぁ上手く言うよ。寄付といえば寄付だけど、今までも王都の宿に泊まらない旅行者とかが連絡も無しにここに滞在する人達もいたし、大丈夫だよ。」

「?そうですか、でしたらお任せします。
 でもどうしてアンネッタはここで一人なんでしょう?教会でしたら、普通は…」


 教会であれば、シスターがいて見習いがいて、ともう少し人がいるのではないかと思ったロミーナ。
 コラユータ領から山や平原を抜けて来たとはいえもう少し先を進めば王都へと続くこの教会は、廃れているとは言ってもシスターが一人なのはなぜかと疑問に思ったのだ。もっとも、シスターとは言い難いほどの一風変わったアンネッタであるから、他の神に仕えるシスターとは合わないのかもしれないとも思ったのだが。


「んーまぁ、普通がどうか知らないけど。ここはアンネッタの住処だから、でいいんじゃない?教会にアンネッタがいるんじゃなくて、アンネッタの住処に教会があるんだ。
 …深くは考えなくてもいい事もあるんだよ。」

「…そうですね。」

「そういえばそう言ってたわね。」


 初日に会ったオリーヴィアも、同じような事を言っていたとルクレツィアは思い出した。


「おや、もう仲良くなったのかい?」


 話していると、アンネッタはアデルモを連れて食堂へと戻ってきた。


「アンネッタ!…と、そいつがアデルモか!ずいぶんとまた若いな…」

「?いかにも。僕がアデルモです。なにか?」

「あ、いや…なんでも…。
 はは!そうかそうか!僕はオネスト。よろしくな!」


 オネストは、アデルモが想像したよりもずっと若く、アンネッタと二人きりで作業をするなんてと嫉妬をしたのだがさすがにそれは杞憂だったのかと誤解した自分が少し恥ずかしくなり、それを隠すように大きな声で自己紹介をした。


「…ずいぶんと賑やかだね。まぁいいか。お茶でも飲むかい?」


 アンネッタはそう言ってから、ロミーナとルクレツィアに手伝うように言葉を掛けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、 ある日、父親から結婚相手を紹介される。 そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。 彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。 そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……? と思ったら、 どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。 (なるほど……そういう事だったのね) 彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。 そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている? と、思ったものの、 何故かギルバートの元、主人でもあり、 彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

【完結】偽者扱いされた令嬢は、元婚約者たちがどうなろうと知ったことではない

風見ゆうみ
恋愛
クックルー伯爵家の長女ファリミナは、家族とはうまくいっていないものの、婚約者であり、若き侯爵のメイフとはうまくいっていると思っていた。 メイフとの結婚が近づいてきたある日、彼がファリミナの前に一人の女性を連れてきた。メイフに寄り添う可憐な女性は、こう名乗った。 「わたくし、クックルー伯爵家の長女、ファリミナと申します」 この女性は平民だが、メイフの命の恩人だった。メイフは自分との結婚を望む彼女のためにファリミナの身分を与えるという暴挙に出たのだ。 家族や友人たちは買収されており、本当のファリミナを偽者だと訴える。 メイフが用意したボロ家に追いやられたファリミナだったが、メイフの世話にはならず、平民のファリとして新しい生活を送ることに決める。 ファリとして新しい生活の基盤を整えた頃、元家族はファリミナがいたことにより、自分たちの生活が楽だったことを知る。そして、メイフは自分が馬鹿だったと後悔し始め、自分を愛しているはずのファリミナに会いに行くのだが――。

幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』  王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――

処理中です...