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13 万能薬と、嫁ぎ先
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「ルクレツィア-、いるか-?」
あれから四日ほど経ち、先日とはうって変わって明るいエルヴェツィオの声が聞こえ、ルクレツィアは返事をした。
「エルヴェツィオ?どうしたの-?」
夕方、日が傾いて来た頃に洗濯物を取り込んでいたルクレツィアは、エルヴェツィオの姿を見て顔色も先日よりは幾分良くなっていると思いながら返事をする。
「ルクレツィアに報告しようと思ってさ!
あ、これ、取り込むのか?手伝うよ。」
そう言ってエルヴェツィオは、干された洗濯物を、乾いた衣服を入れる大きめの籠へと入れる。
「あ、ありがとう。」
ほとんどはルクレツィアが取り込んでいてあと数枚だった為、エルヴェツィオが取ってくれた数枚の服を籠へと入れると、取り込んだ籠を持って運んでくれる。
「ルクレツィア、ありがとう!!先日もらったサフラン、早速帰って両親に飲ませたんだ。」
「あら、そうなの?どう、飲めた?」
ルクレツィアは小さな頃から飲み慣れているが、中には苦手な味だと嫌がる人もいるからだ。
「あぁ、朝晩ね。そしたら今朝、起き上がれるようにまでなったんだ!ルクレツィアのおかげだよ!」
エルヴェツィオの声に元気があるのは、そんな事があったからだと感じたルクレツィアは良かった、と声を返す。
「お元気になられて良かった!」
「あぁ。ルクレツィアのところのサフランは、すごいんだな。」
「ふふ。ありがとう!
そうね、うちの領地ではたいてい薬と言えばサフランよ。お腹の調子が悪かったり、頭が痛い時にも、他にもいろいろと効くの。」
「…そうか、万能薬だな!」
「ふふ…ありがとう。」
「あらあら珍しい。こんな時間にエルヴェツィオが来るなんてね。」
大きな声で話していたからか、教会の建物から通り掛かったのかアンネッタが顔を出した。
「酷い言い草だなアンネッタ!
確かにすぐ帰らないと行けないんだけどさ、ルクレツィアに礼を言いたくて来たんだ。」
「え?」
まさか本当にそれだけを言う為だけに来てくれたのかとエルヴェツィオの方を向けば、乾いた洗濯物の入った籠をそのまま奥へと運び、さっと置くと本当に帰ると言って去って行く。
「今日も手土産無くってごめんな、また今度時間作って来るから!」
「エルヴェツィオ、そんな、いいのよ?手土産なんて要らないし、無理しないでね。」
「無理なんてしてないさ。きっと父上もまた政務がちょっとは出来るようになるし、俺の方も少しは融通がきくようになると思うからさ。
じゃあまたね!」
(本当にすぐ帰ってしまったわ。)
「エルヴェツィオ様は一刻も早くルクレツィア様にお礼を伝えたかったのでしょうね。」
そうニコニコと笑みを浮かべているロミーナに言われたルクレツィア。
「そう、なのかしら?」
(お礼をわざわざ言いに来てくれたのは嬉しいけれど、十分も経たない内に帰ってしまったわ。疲れていないのかしら?顔色は前よりは随時と良さそうだったけれど。)
ルクレツィアは首を傾げ、それでも来てくれた事に少し嬉しく思った。
☆★
そして一週間後。
日が高くなる頃にオリーヴィアの声が響いた。
「レツィア、いるー?」
刺繍をしていたルクレツィアは、立ち上がり窓の外を覗くと、その姿を見つけ声を上げる。
「オリーヴィア、ここよ-!」
「あ、居た!そっちに行くから待ってて!」
オリーヴィアは外から建物へと回り、ルクレツィアのいる部屋へと入って来た。
「レツィア、元気してた?
あ!刺繍してるのね。…まぁ!上達してるじゃない!!」
ルクレツィアが広げている、以前オリーヴィアからもらった刺繍セットと、最近作った刺繍の練習やハンカチに施された刺繍を見て言った。
「あ、ありがとう。」
少し照れながら答えるルクレツィアに、オリーヴィアは置かれたものを手に取る。
「うんうん、良い感じね。ここ、間隔を揃えたりすればもっといいわ!」
「うん!」
オリーヴィアに褒められた事で笑顔になるルクレツィアに、オリーヴィアははっとしてルクレツィアの顔を見る。
「そうだわ!まず、私からもお礼を言わせて?
エルヴェツィオから聞いたの。お父様とお母様へ、サフランをくれたのよね?ありがとう。お蔭様で、かなり回復してきたのよ!」
「本当?良かったわ!私はただ、渡しただけだから。お二人の治りたいって気持ちもあったのよきっと。」
「ルクレツィアったらなんてイイ子なの!
貴重なサフランをわざわざ手渡す事が出来る人はそうそういないのよ?」
「そ、そう…?皆さんにはお世話になっているし、少しでも力になりたかったの。」
「うふふ。イイ子イイ子!」
そう言って、オリーヴィアはルクレツィアの頭を優しく撫で、手土産があると言った。
「お礼を持ってきたのよ。食堂に置いておいたわ。食べにいきましょ?」
「さ、召し上がれ!」
食堂につき、席へと座ったオリーヴィアがそう言って、バスケットに入っている皿にのった手のひらサイズの三角に近い形のお菓子を見せた。
それを、ロミーナがここにいる人数分を目の前の皿に配る。
お茶を淹れて配り終えたルクレツィアは席に座りがてらそれを見て驚嘆する。
「美味しそう!なぁに?これ。」
「これはね、スフォリアテッラっていうのよ。
サクサクとした生地で、中はクリームが入ってるわ。」
「そうなのね。いただきます!…美味しい!」
「そう?良かった!
…ねぇルクレツィア、私もうここに来れないかも。」
「ええ!?…ゴホッ、ゴホッ」
「やだぁルクレツィア、喉に詰まったら大変よ!?
ほら、お茶飲んで!!」
食べながらはしたなくも声を上げてしまい、ルクレツィアは喉に詰まりそうになったのでオリーヴィアに言われるがまま、お茶を飲む。
「…私ね、結婚するの。」
ルクレツィアが落ち着いたとみたオリーヴィアは、再度言葉を繋ぐ。
「え、結婚…?」
「そうなの。…海を渡った向こうの国に行くのよ。」
「…遠いのね。でも、いつ?すぐじゃないのよね?」
「うーん、すぐ、かな。
本当はもう少し早く嫁ぐのだったのだけど、両親が体調崩しちゃったから、遅らせてもらってたの。だけど、回復してくれたから。だからここに来るのは多分今日で最後なのよ。
元々、私は幼い頃からどこかの国に嫁ぐのだと言われてきたから、その為にいろんな事を学んできたの。」
「そうなの?でも、えっと…オリーヴィアって十四歳じゃ…?」
結婚という言葉は、七歳のルクレツィアにとってはずいぶんと遠い世界の話であったし、だからこそ戸惑いながらもオリーヴィアに確認をした。今まで数えるほどしか共に過ごしてはいないけれど、嘘をつくような不誠実な人ではないとは思っている。けれども、もう会えなくなるのは淋しい、だからどうか違っていてほしいという願いを込めながら尋ねる。
「そうよ。私たちの間じゃあ早くもないの。珍しくもないのよ。」
そう言いつつも伏し目がちになるオリーヴィア。
「早くないのね…」
ルクレツィアは、学びの中で貴族の結婚についても軽く教わっていた。だが、年齢までは詳しく教えられていなかった為、成人する十六歳くらいになったらするのかと漠然と思っていたのだ。
「あー…私たち王族の立場だとね。
ルクレツィア、私、一応この国の王女なのよ。」
「え!?」
「ふふ…ルクレツィア、びっくりした?
あ、でも今までと変わらないでね?」
「えっと…」
「お願い!ルクレツィア。」
「う、うん…。」
オリーヴィアもエルヴェツィオもリッカルダも共に気さくで話しやすくあったが、細かな仕草など洗練されており気品がある事は気づいていた。だから上位貴族ではあるかなとはなんとなく思ってはいたがまさか王族だったとはと目を見開き驚いたルクレツィアだったが、顔を覗き込まれて請われたため、そう言われるならと頷く。
すると、良かったとホッと胸をなで下ろすオリーヴィアだったが、再び下を向いてため息を漏らしたので、ルクレツィアは口を開く。
「オリーヴィアが来なくなるなんて寂しくなるわ…。
でも、ため息を吐くなんて楽しみじゃないの?」
「え!?」
「相手の人、怖い人なの?オリーヴィアは、その…嫌なの?」
ルクレツィアは今、さまざまな事を勉強中だ。リッカルダが持ってきてくれた貴族の心得の本の記述で、“王族や貴族の大切な事は血統を繋いでいく”とあり、また、“領地を繁栄させる事は更に大切であり、その為に個人の意識とは関係なく婚姻を行う場合もある”というものもあったのを思い出したのだ。
「ふふ…どうなのかしら。まぁ、文化も違う他国に嫁ぐのだから、やっていけるのか心配の方が大きいわね。」
「そっか…異国かぁ…海を渡った向こうって、遠い?」
「ザクーアン国なんだけど、分かる?」
「ザクーアン国?確か…ここをずっと進んだ先にある港から行ける国だったかしら?」
「あらルクレツィア、良く知ってるわね!そうよ、海の南側ね。微かだけど港から、ザクーアン国は見えるからそんなに遠くはないの。」
「見えるのね!ザクーアン国って、ここより温暖な気候だったわよね。穀物が美味しいとか、あと…砂の国?」
ルクレツィアは、学んだ事を思い出しながらなるべく明るい雰囲気となるように口を開く。
「フフフ…偉いわルクレツィア。いろいろ学んでるのね?」
「うん!
ねぇオリーヴィア。会えなくなるのは寂しいけど、でもきっとザクーアン国に行っても楽しい事があるわよきっと!
ここには無い食べ物を食べられるとか、旦那様となる人と仲良く出来るとか!」
「…ありがとう、ルクレツィア。
そうね、きっと楽しい事が待ってるわね!」
「ええ!…だから異国って大変かもしれないけどどうか頑張って!
…そうだわ、まだ全然上達していないけど、ハンカチに刺繍したのもあるの。もしよかったら、渡してもいい?」
「本当!?嬉しいわ!」
オリーヴィアは、ルクレツィアを見守る事が出来なくなると胸が痛んでいた為にため息を漏らしたりしていた。
だがルクレツィアはそうとは知らず、異国へ向かうのが不安なのかと思い、淋しくはあったがオリーヴィアを励まそうと明るい雰囲気で門出を祝おうと努めた。
そして、そんな雰囲気をオリーヴィアも感じ取り、ルクレツィアへと優しい眼差しを送りその姿を目に焼き付けるのだった。
あれから四日ほど経ち、先日とはうって変わって明るいエルヴェツィオの声が聞こえ、ルクレツィアは返事をした。
「エルヴェツィオ?どうしたの-?」
夕方、日が傾いて来た頃に洗濯物を取り込んでいたルクレツィアは、エルヴェツィオの姿を見て顔色も先日よりは幾分良くなっていると思いながら返事をする。
「ルクレツィアに報告しようと思ってさ!
あ、これ、取り込むのか?手伝うよ。」
そう言ってエルヴェツィオは、干された洗濯物を、乾いた衣服を入れる大きめの籠へと入れる。
「あ、ありがとう。」
ほとんどはルクレツィアが取り込んでいてあと数枚だった為、エルヴェツィオが取ってくれた数枚の服を籠へと入れると、取り込んだ籠を持って運んでくれる。
「ルクレツィア、ありがとう!!先日もらったサフラン、早速帰って両親に飲ませたんだ。」
「あら、そうなの?どう、飲めた?」
ルクレツィアは小さな頃から飲み慣れているが、中には苦手な味だと嫌がる人もいるからだ。
「あぁ、朝晩ね。そしたら今朝、起き上がれるようにまでなったんだ!ルクレツィアのおかげだよ!」
エルヴェツィオの声に元気があるのは、そんな事があったからだと感じたルクレツィアは良かった、と声を返す。
「お元気になられて良かった!」
「あぁ。ルクレツィアのところのサフランは、すごいんだな。」
「ふふ。ありがとう!
そうね、うちの領地ではたいてい薬と言えばサフランよ。お腹の調子が悪かったり、頭が痛い時にも、他にもいろいろと効くの。」
「…そうか、万能薬だな!」
「ふふ…ありがとう。」
「あらあら珍しい。こんな時間にエルヴェツィオが来るなんてね。」
大きな声で話していたからか、教会の建物から通り掛かったのかアンネッタが顔を出した。
「酷い言い草だなアンネッタ!
確かにすぐ帰らないと行けないんだけどさ、ルクレツィアに礼を言いたくて来たんだ。」
「え?」
まさか本当にそれだけを言う為だけに来てくれたのかとエルヴェツィオの方を向けば、乾いた洗濯物の入った籠をそのまま奥へと運び、さっと置くと本当に帰ると言って去って行く。
「今日も手土産無くってごめんな、また今度時間作って来るから!」
「エルヴェツィオ、そんな、いいのよ?手土産なんて要らないし、無理しないでね。」
「無理なんてしてないさ。きっと父上もまた政務がちょっとは出来るようになるし、俺の方も少しは融通がきくようになると思うからさ。
じゃあまたね!」
(本当にすぐ帰ってしまったわ。)
「エルヴェツィオ様は一刻も早くルクレツィア様にお礼を伝えたかったのでしょうね。」
そうニコニコと笑みを浮かべているロミーナに言われたルクレツィア。
「そう、なのかしら?」
(お礼をわざわざ言いに来てくれたのは嬉しいけれど、十分も経たない内に帰ってしまったわ。疲れていないのかしら?顔色は前よりは随時と良さそうだったけれど。)
ルクレツィアは首を傾げ、それでも来てくれた事に少し嬉しく思った。
☆★
そして一週間後。
日が高くなる頃にオリーヴィアの声が響いた。
「レツィア、いるー?」
刺繍をしていたルクレツィアは、立ち上がり窓の外を覗くと、その姿を見つけ声を上げる。
「オリーヴィア、ここよ-!」
「あ、居た!そっちに行くから待ってて!」
オリーヴィアは外から建物へと回り、ルクレツィアのいる部屋へと入って来た。
「レツィア、元気してた?
あ!刺繍してるのね。…まぁ!上達してるじゃない!!」
ルクレツィアが広げている、以前オリーヴィアからもらった刺繍セットと、最近作った刺繍の練習やハンカチに施された刺繍を見て言った。
「あ、ありがとう。」
少し照れながら答えるルクレツィアに、オリーヴィアは置かれたものを手に取る。
「うんうん、良い感じね。ここ、間隔を揃えたりすればもっといいわ!」
「うん!」
オリーヴィアに褒められた事で笑顔になるルクレツィアに、オリーヴィアははっとしてルクレツィアの顔を見る。
「そうだわ!まず、私からもお礼を言わせて?
エルヴェツィオから聞いたの。お父様とお母様へ、サフランをくれたのよね?ありがとう。お蔭様で、かなり回復してきたのよ!」
「本当?良かったわ!私はただ、渡しただけだから。お二人の治りたいって気持ちもあったのよきっと。」
「ルクレツィアったらなんてイイ子なの!
貴重なサフランをわざわざ手渡す事が出来る人はそうそういないのよ?」
「そ、そう…?皆さんにはお世話になっているし、少しでも力になりたかったの。」
「うふふ。イイ子イイ子!」
そう言って、オリーヴィアはルクレツィアの頭を優しく撫で、手土産があると言った。
「お礼を持ってきたのよ。食堂に置いておいたわ。食べにいきましょ?」
「さ、召し上がれ!」
食堂につき、席へと座ったオリーヴィアがそう言って、バスケットに入っている皿にのった手のひらサイズの三角に近い形のお菓子を見せた。
それを、ロミーナがここにいる人数分を目の前の皿に配る。
お茶を淹れて配り終えたルクレツィアは席に座りがてらそれを見て驚嘆する。
「美味しそう!なぁに?これ。」
「これはね、スフォリアテッラっていうのよ。
サクサクとした生地で、中はクリームが入ってるわ。」
「そうなのね。いただきます!…美味しい!」
「そう?良かった!
…ねぇルクレツィア、私もうここに来れないかも。」
「ええ!?…ゴホッ、ゴホッ」
「やだぁルクレツィア、喉に詰まったら大変よ!?
ほら、お茶飲んで!!」
食べながらはしたなくも声を上げてしまい、ルクレツィアは喉に詰まりそうになったのでオリーヴィアに言われるがまま、お茶を飲む。
「…私ね、結婚するの。」
ルクレツィアが落ち着いたとみたオリーヴィアは、再度言葉を繋ぐ。
「え、結婚…?」
「そうなの。…海を渡った向こうの国に行くのよ。」
「…遠いのね。でも、いつ?すぐじゃないのよね?」
「うーん、すぐ、かな。
本当はもう少し早く嫁ぐのだったのだけど、両親が体調崩しちゃったから、遅らせてもらってたの。だけど、回復してくれたから。だからここに来るのは多分今日で最後なのよ。
元々、私は幼い頃からどこかの国に嫁ぐのだと言われてきたから、その為にいろんな事を学んできたの。」
「そうなの?でも、えっと…オリーヴィアって十四歳じゃ…?」
結婚という言葉は、七歳のルクレツィアにとってはずいぶんと遠い世界の話であったし、だからこそ戸惑いながらもオリーヴィアに確認をした。今まで数えるほどしか共に過ごしてはいないけれど、嘘をつくような不誠実な人ではないとは思っている。けれども、もう会えなくなるのは淋しい、だからどうか違っていてほしいという願いを込めながら尋ねる。
「そうよ。私たちの間じゃあ早くもないの。珍しくもないのよ。」
そう言いつつも伏し目がちになるオリーヴィア。
「早くないのね…」
ルクレツィアは、学びの中で貴族の結婚についても軽く教わっていた。だが、年齢までは詳しく教えられていなかった為、成人する十六歳くらいになったらするのかと漠然と思っていたのだ。
「あー…私たち王族の立場だとね。
ルクレツィア、私、一応この国の王女なのよ。」
「え!?」
「ふふ…ルクレツィア、びっくりした?
あ、でも今までと変わらないでね?」
「えっと…」
「お願い!ルクレツィア。」
「う、うん…。」
オリーヴィアもエルヴェツィオもリッカルダも共に気さくで話しやすくあったが、細かな仕草など洗練されており気品がある事は気づいていた。だから上位貴族ではあるかなとはなんとなく思ってはいたがまさか王族だったとはと目を見開き驚いたルクレツィアだったが、顔を覗き込まれて請われたため、そう言われるならと頷く。
すると、良かったとホッと胸をなで下ろすオリーヴィアだったが、再び下を向いてため息を漏らしたので、ルクレツィアは口を開く。
「オリーヴィアが来なくなるなんて寂しくなるわ…。
でも、ため息を吐くなんて楽しみじゃないの?」
「え!?」
「相手の人、怖い人なの?オリーヴィアは、その…嫌なの?」
ルクレツィアは今、さまざまな事を勉強中だ。リッカルダが持ってきてくれた貴族の心得の本の記述で、“王族や貴族の大切な事は血統を繋いでいく”とあり、また、“領地を繁栄させる事は更に大切であり、その為に個人の意識とは関係なく婚姻を行う場合もある”というものもあったのを思い出したのだ。
「ふふ…どうなのかしら。まぁ、文化も違う他国に嫁ぐのだから、やっていけるのか心配の方が大きいわね。」
「そっか…異国かぁ…海を渡った向こうって、遠い?」
「ザクーアン国なんだけど、分かる?」
「ザクーアン国?確か…ここをずっと進んだ先にある港から行ける国だったかしら?」
「あらルクレツィア、良く知ってるわね!そうよ、海の南側ね。微かだけど港から、ザクーアン国は見えるからそんなに遠くはないの。」
「見えるのね!ザクーアン国って、ここより温暖な気候だったわよね。穀物が美味しいとか、あと…砂の国?」
ルクレツィアは、学んだ事を思い出しながらなるべく明るい雰囲気となるように口を開く。
「フフフ…偉いわルクレツィア。いろいろ学んでるのね?」
「うん!
ねぇオリーヴィア。会えなくなるのは寂しいけど、でもきっとザクーアン国に行っても楽しい事があるわよきっと!
ここには無い食べ物を食べられるとか、旦那様となる人と仲良く出来るとか!」
「…ありがとう、ルクレツィア。
そうね、きっと楽しい事が待ってるわね!」
「ええ!…だから異国って大変かもしれないけどどうか頑張って!
…そうだわ、まだ全然上達していないけど、ハンカチに刺繍したのもあるの。もしよかったら、渡してもいい?」
「本当!?嬉しいわ!」
オリーヴィアは、ルクレツィアを見守る事が出来なくなると胸が痛んでいた為にため息を漏らしたりしていた。
だがルクレツィアはそうとは知らず、異国へ向かうのが不安なのかと思い、淋しくはあったがオリーヴィアを励まそうと明るい雰囲気で門出を祝おうと努めた。
そして、そんな雰囲気をオリーヴィアも感じ取り、ルクレツィアへと優しい眼差しを送りその姿を目に焼き付けるのだった。
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