【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる

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17 さまざまな選択肢

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 ルクレツィアが教会にやって来て八年が経った。


 ルクレツィアはといえば、未だアンネッタの住む教会でロミーナとアデルモと共に暮らしていた。

 オリーヴィアは結婚し、ザクーアン国へと嫁いだ為にもう会うことは無かった。
 それ以降もエルヴェツィオやリッカルダが訪れてはオリーヴィアの手紙を持ってきてくれたり一緒に過ごしていたが、リッカルダも鉱石が良く採れるブレッサノ国へと嫁いでしまい、会う事は無かった。
 その後、エルヴェツィオだけになったが、変わらず会いに来ては少しの時間を共に過ごしていた。


 コラユータ領の事は、エルヴェツィオから二度ほど教えてもらった。
 ベルトランドの弟であり、ルクレツィアの伯父であるビアッジョの罪と現状。念願であった伯爵になるにはほど遠い知識ではあったがそれでも与えられた仕事の一割から二割はどうにかこなしていたので飼い殺しのように見張らせている。もちろん、ベルトランドが健在であるため、税収は変わっていない。


『ルクレツィアが成人したら、どうしたいか再度聞くから、それまでに考えて欲しい。選択肢はいくつも用意しておくからね。』


 エルヴェツィオはそう言ってルクレツィアの意思に委ねる事とした。

 ベルトランドはやはり訴えを起こしたりもせず、ビアッジョを騎士団へと突き出す事はしないと判断したのだ。自分は生きているし、そうまでして手に入れたかった伯爵の地位であったならそのまま譲ってもいいとさえ思っていた。仕事が出来れば、だが。
 しかし、そうなると愛娘のルクレツィアの事が気がかりだ。ルクレツィアの存在は、コラユータの屋敷に訪れる時には極力避けていたためにビアッジョに気づかれていないかもしれないが、それでも蔑ろにされてはたまらないと、ルクレツィアの気持ちも汲み、安全も考慮して成人するまでは会わせないようにして、ビアッジョが固執していた執務室に居させてやろうと決めたのだ。


 その間、テレーザがルクレツィアに会いにくる事も幾度となくあった。教会でつかの間の家族の時間を過ごし、テレーザは帰っていく。


『あぁ、私もここでルクレツィアと一緒に過ごしたいわ。』


 とテレーザが漏らす度にアンネッタは、


『これ以上増えたら堪らないよ!
 あんたはここで生活は無理だね。ルクレツィアがここで生活するなら、たまに会いに来るくらいがちょうどいいのさ。』


 と非情とも思える言葉を告げるのだった。

 確かに今までなんの不自由もなく貴族生活を長年やってきたテレーザが、全て自分の事をし、食事も質素な物を食べる生活が送れるとは誰も思わない。


 ルクレツィアも、それを言われる度に寂しく思うが、それでもこの生活を続ける事を選んだのは自分だと、奮い立たせるのだった。

 泣いて、コラユータ領に帰りたいと言う事も出来た。

 それでもそれをしなかったのは、ルクレツィアはここの生活がそれほど嫌では無かったから。また、ここを離れてしまえばエルヴェツィオに会えなくなってしまうし、オリーヴィアやリッカルダの近況も知ることが出来なくなる事も理由の一つだった。さまざまな事を教えてくれる歳の近い彼らは、ルクレツィアにとってかけがえのない存在となっていたから。




☆★

「ルクレツィア。
 そろそろ選択する時期だね。
その選択肢、聞く?」


 エルヴェツィオは、久々に朝食を食べたあとにやってきてルクレツィアと一頻り世間話をすると、真面目な顔をして話し出した。


「…うん。」


 それに、ルクレツィアも姿勢を正してから返事を返した。


「偉いね。じゃあ、ちょっと場所を変えてもいいかな?」

「うん。」


 立ち上がったエルヴェツィオに、ルクレツィアはついて行った。



 川の傍まで来たエルヴェツィオは、人が座れるほどの大きさの石があるところに持っていたハンカチを敷いて、ルクレツィアに座るようにうながしてから隣に座った。


「まずは、成人おめでとう!ルクレツィア。」

「ありがとう!」


 エルヴェツィオはまず、ルクレツィアに祝いの言葉を告げたあと、少し切なそうな顔をして言葉を繋いだ。


「ごめん。本当だったらすぐにでもご両親の元に帰りたかっただろうに、八年も掛かってしまって…。」

「そんな!エルヴェツィオは何も悪くないわ!!
 自分で決めたい事だし謝らないで?」

「ルクレツィア…ありがとう。
 以前話したと思うけど、ルクレツィアとここで初めて出会った日に、俺の側近がコラユータ領の現状を確認しに行ったという事は覚えてる?」

「ええ。気に掛けてくれて有難かったわ。あの時はありがとう。」

「うん。それ以来、コラユータ伯爵とその使用人や領民達と密に連絡を取り合っているという事も話したよね?」

「うん。お父様もお母様も元気になられて、本当に良かったわ!
 王宮のお医者様を派遣して下さったのよね?ありがとう。」


 ルクレツィアは当時の事を思い出しながら、エルヴェツィオの方を向いてお礼を述べる。


「当然だよ!
 それで…ルクレツィアはベルトランド伯爵の弟のビアッジョとは面識が無い、と聞いていたけど合ってる?」

「ええ、合ってるわ。どんな人かも分からないの。」


 ルクレツィアは叔父と会った記憶が無く、だからこそこの話を聞いても実感が湧かなかった。


「そっか。
 それでね、ベルトランド伯爵は優しい人柄だそうだね?ビアッジョの事は、特に罪を償わせる為に騎士団に突き出す事をしなくてもいいと言われていたんだけど、俺としては悪い事をした人はそれを認め、罪を償って欲しいと思うんだよ。それは今も思いは変わらないんだ。」

「ええ、分かるわ。」

「ありがとう。
 でもそれは、ルクレツィアが成人してから、ルクレツィアの意見を聞いた上で決めようと思っていた。
 …ここまでは前回話した事とも重複してる部分もあるんだけど、覚えてる?」

「うん。私が成人したら決めるって言っていたわよね?」

「あぁ。ビアッジョの処遇と、ルクレツィアのこれからの事をね。」

「私?」

「そうだよ。ルクレツィアの事も。
 ルクレツィア、君には選択肢がいくつもあるっていうのは、どちらかといえばこちらの話だ。」

「…」


 ルクレツィアは、これからどうするかなんて今まで考えた事も無かった。いや、考えないようにしていた。


「一つ目は君がコラユータ領に戻り、伯爵家を継ぐ。すぐに継がなくてもいいけど、ベルトランド伯爵は数年のうちに爵位を譲ってゆっくりしたいそうなんだ。」

「お父様が…」

「だけどもし、ルクレツィアがコラユータ領を誰かに任せてもいいと思うなら、そのまま代行として執事達にお願いする事も出来る。」

「そんな事…」

「そして、ルクレツィアの子供が出来た時に継がせる、とかね!もしくは…」

「!!」


 子供、と言われてルクレツィアは驚く。確かにもうすぐ成人するが、この場所で生活している限り結婚とはほど遠く、ましてや自分が子供を持つなんて全く考えてもいなかったのだ。


「国に領地を返上し、国有地として国が領地を統治する。その場合、ルクレツィアの実家は無くなってしまうけれど、サフランの存在価値を考えれば別に悪い事でもないんだ。効能が素晴らしく優れているコラユータ領のサフランは、国で管理してもなんら可笑しくはないから。」

「……」

「そんなたくさんの選択肢があるという事を踏まえた上で言わせてもらうよ。」

「?」


 そう言うとエルヴェツィオは立ち上がるとルクレツィアの前に跪いた。それを見たルクレツィアはまたも驚くが、それに構わずエルヴェツィオは手を差し出して口上を述べ始める。


「ルクレツィア=コラユータ様。私は初めて貴方を見た時に守って差し上げたいと思いました。
 そしてそれは、少しずつ同じ時を過ごす内にもっと一緒にいられたらという切なる願いへと変わっていきました。
 ルクレツィアが私の両親を助けてくれた時も、私の体調を気遣ってお茶を淹れてくれた時も、貴方の気持ちがとても嬉しくて私の気持ちが溢れ出そうでした。
 どうかこれからも、貴方の傍にいられる権利を私に下さいませんか。」

「…!!」


 ルクレツィアはそれを聞いて、涙がこぼれそうになり顔で手を隠すよう仕草をする。


「ああルクレツィア、可愛い顔を隠さないで。
 …これを、君に。」


 そう言うと、なかなかエルヴェツィオの伸ばした手を掴まれないと一旦手を引いて、ポケットから小さな小箱を取り出し中を見せた。


「これ…」

「指輪だよ。嵌めてくれると嬉しいな。」


 それは、一見するとシンプルで、大きな宝石も無いリング。けれども細かい宝石が指を囲うように散りばめられている。


「あまり大きいと、ここで生活するには邪魔になるだろ?もっと、大きい石が良かった?」

「そんな事無いわ!いいの…?」


 太陽の光に照らされて、白く透明な宝石がキラキラと輝いている。


「嵌めていいかな?」

「お願い…!」


 許可を求めるとそう請われ、エルヴェツィオはゆっくり落とさないように指輪をルクレツィアの右手の薬指に嵌める。


「どうかな…?リッカルダに何度も指の大きさを教えてもらったから大丈夫だと思うけど、きつかったり緩かったら言って?直すから。」

「ふふ…ありがとう、ピッタリよ。
 だからリッカルダ、毎年のように何度もたくさんの指輪を嵌めさせてくれたのね?」

「あぁ。
 まぁリッカルダは見ての通り宝石やなんかが好きだったってのもあるだろうけどね。だからそれらがたくさん採れる国へ嫁ぐ事になったし。
 本当は何年も前から渡したかったんだけど、なかなか渡す勇気が無くて…って、俺、ヘタレだよな。」

「そんな事ないわ!
 …それって、まさかリッカルダが十四歳くらいから……?」

「うん。指輪のサイズを教えてくれてね、贈りたいとは思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて。
 オリーヴィアにもさんざん言われたよ、私が嫁ぐ前に早く好きだって口にしなさいって。あいつが嫁いでからは、いつ好きだって言うのかって……」

「!」


 エルヴェツィオから気持ちを伝えられ、ルクレツィアの顔に再び熱が集まる。エルヴェツィオもそれに気づき、好きだと口にしてしまったと思って顔を真っ赤にさせ、それでも伝えてしまったからとここぞとばかりに言葉を繋ぐ。


「恥ずかし…でも、本当の事だよ。
 ルクレツィアが好き、大好きだ!!
 だから、指輪を受け取ってくれて本当に嬉しいよ。」

「…ありがとう。私も……」

「え?なに?聞こえないよ。」

「だから…!!」


 エルヴェツィオが態と顔を近づけてルクレツィアに聞こえないと言ったので、ルクレツィアがエルヴェツィオの目を見て伝えようとすると、今までにない位顔が近づいて来て驚いて目を瞑ると、唇に何かが優しく触れ、すぐにその温もりが去った。

 慌てて目を開けると、エルヴェツィオの顔は横に逸れ、代わりに耳が真っ赤になっているのが見えた。


「エルヴェツィオ…?」

「あーもう!」


 そう言ってエルヴェツィオは、ルクレツィアの方に顔を向けると、手を引っ張り立たせて自身の腕の中にすっぽりと収めて背中に手を回した。


「ルクレツィアに俺の今の顔見られたら恥ずかし過ぎる!だけど、もっとルクレツィアを感じたい。だから少しの間だけ、抱きしめさせて…?」

「!…うん。」


 そう言うと、ルクレツィアもおずおずとエルヴェツィオの背中に手を回し、しばらくお互いの温もりを確かめ合うのだった。
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