17 / 25
17 さまざまな選択肢
しおりを挟む
ルクレツィアが教会にやって来て八年が経った。
ルクレツィアはといえば、未だアンネッタの住む教会でロミーナとアデルモと共に暮らしていた。
オリーヴィアは結婚し、ザクーアン国へと嫁いだ為にもう会うことは無かった。
それ以降もエルヴェツィオやリッカルダが訪れてはオリーヴィアの手紙を持ってきてくれたり一緒に過ごしていたが、リッカルダも鉱石が良く採れるブレッサノ国へと嫁いでしまい、会う事は無かった。
その後、エルヴェツィオだけになったが、変わらず会いに来ては少しの時間を共に過ごしていた。
コラユータ領の事は、エルヴェツィオから二度ほど教えてもらった。
ベルトランドの弟であり、ルクレツィアの伯父であるビアッジョの罪と現状。念願であった伯爵になるにはほど遠い知識ではあったがそれでも与えられた仕事の一割から二割はどうにかこなしていたので飼い殺しのように見張らせている。もちろん、ベルトランドが健在であるため、税収は変わっていない。
『ルクレツィアが成人したら、どうしたいか再度聞くから、それまでに考えて欲しい。選択肢はいくつも用意しておくからね。』
エルヴェツィオはそう言ってルクレツィアの意思に委ねる事とした。
ベルトランドはやはり訴えを起こしたりもせず、ビアッジョを騎士団へと突き出す事はしないと判断したのだ。自分は生きているし、そうまでして手に入れたかった伯爵の地位であったならそのまま譲ってもいいとさえ思っていた。仕事が出来れば、だが。
しかし、そうなると愛娘のルクレツィアの事が気がかりだ。ルクレツィアの存在は、コラユータの屋敷に訪れる時には極力避けていたためにビアッジョに気づかれていないかもしれないが、それでも蔑ろにされてはたまらないと、ルクレツィアの気持ちも汲み、安全も考慮して成人するまでは会わせないようにして、ビアッジョが固執していた執務室に居させてやろうと決めたのだ。
その間、テレーザがルクレツィアに会いにくる事も幾度となくあった。教会でつかの間の家族の時間を過ごし、テレーザは帰っていく。
『あぁ、私もここでルクレツィアと一緒に過ごしたいわ。』
とテレーザが漏らす度にアンネッタは、
『これ以上増えたら堪らないよ!
あんたはここで生活は無理だね。ルクレツィアがここで生活するなら、たまに会いに来るくらいがちょうどいいのさ。』
と非情とも思える言葉を告げるのだった。
確かに今までなんの不自由もなく貴族生活を長年やってきたテレーザが、全て自分の事をし、食事も質素な物を食べる生活が送れるとは誰も思わない。
ルクレツィアも、それを言われる度に寂しく思うが、それでもこの生活を続ける事を選んだのは自分だと、奮い立たせるのだった。
泣いて、コラユータ領に帰りたいと言う事も出来た。
それでもそれをしなかったのは、ルクレツィアはここの生活がそれほど嫌では無かったから。また、ここを離れてしまえばエルヴェツィオに会えなくなってしまうし、オリーヴィアやリッカルダの近況も知ることが出来なくなる事も理由の一つだった。さまざまな事を教えてくれる歳の近い彼らは、ルクレツィアにとってかけがえのない存在となっていたから。
☆★
「ルクレツィア。
そろそろ選択する時期だね。
その選択肢、聞く?」
エルヴェツィオは、久々に朝食を食べたあとにやってきてルクレツィアと一頻り世間話をすると、真面目な顔をして話し出した。
「…うん。」
それに、ルクレツィアも姿勢を正してから返事を返した。
「偉いね。じゃあ、ちょっと場所を変えてもいいかな?」
「うん。」
立ち上がったエルヴェツィオに、ルクレツィアはついて行った。
川の傍まで来たエルヴェツィオは、人が座れるほどの大きさの石があるところに持っていたハンカチを敷いて、ルクレツィアに座るようにうながしてから隣に座った。
「まずは、成人おめでとう!ルクレツィア。」
「ありがとう!」
エルヴェツィオはまず、ルクレツィアに祝いの言葉を告げたあと、少し切なそうな顔をして言葉を繋いだ。
「ごめん。本当だったらすぐにでもご両親の元に帰りたかっただろうに、八年も掛かってしまって…。」
「そんな!エルヴェツィオは何も悪くないわ!!
自分で決めたい事だし謝らないで?」
「ルクレツィア…ありがとう。
以前話したと思うけど、ルクレツィアとここで初めて出会った日に、俺の側近がコラユータ領の現状を確認しに行ったという事は覚えてる?」
「ええ。気に掛けてくれて有難かったわ。あの時はありがとう。」
「うん。それ以来、コラユータ伯爵とその使用人や領民達と密に連絡を取り合っているという事も話したよね?」
「うん。お父様もお母様も元気になられて、本当に良かったわ!
王宮のお医者様を派遣して下さったのよね?ありがとう。」
ルクレツィアは当時の事を思い出しながら、エルヴェツィオの方を向いてお礼を述べる。
「当然だよ!
それで…ルクレツィアはベルトランド伯爵の弟のビアッジョとは面識が無い、と聞いていたけど合ってる?」
「ええ、合ってるわ。どんな人かも分からないの。」
ルクレツィアは叔父と会った記憶が無く、だからこそこの話を聞いても実感が湧かなかった。
「そっか。
それでね、ベルトランド伯爵は優しい人柄だそうだね?ビアッジョの事は、特に罪を償わせる為に騎士団に突き出す事をしなくてもいいと言われていたんだけど、俺としては悪い事をした人はそれを認め、罪を償って欲しいと思うんだよ。それは今も思いは変わらないんだ。」
「ええ、分かるわ。」
「ありがとう。
でもそれは、ルクレツィアが成人してから、ルクレツィアの意見を聞いた上で決めようと思っていた。
…ここまでは前回話した事とも重複してる部分もあるんだけど、覚えてる?」
「うん。私が成人したら決めるって言っていたわよね?」
「あぁ。ビアッジョの処遇と、ルクレツィアのこれからの事をね。」
「私?」
「そうだよ。ルクレツィアの事も。
ルクレツィア、君には選択肢がいくつもあるっていうのは、どちらかといえばこちらの話だ。」
「…」
ルクレツィアは、これからどうするかなんて今まで考えた事も無かった。いや、考えないようにしていた。
「一つ目は君がコラユータ領に戻り、伯爵家を継ぐ。すぐに継がなくてもいいけど、ベルトランド伯爵は数年のうちに爵位を譲ってゆっくりしたいそうなんだ。」
「お父様が…」
「だけどもし、ルクレツィアがコラユータ領を誰かに任せてもいいと思うなら、そのまま代行として執事達にお願いする事も出来る。」
「そんな事…」
「そして、ルクレツィアの子供が出来た時に継がせる、とかね!もしくは…」
「!!」
子供、と言われてルクレツィアは驚く。確かにもうすぐ成人するが、この場所で生活している限り結婚とはほど遠く、ましてや自分が子供を持つなんて全く考えてもいなかったのだ。
「国に領地を返上し、国有地として国が領地を統治する。その場合、ルクレツィアの実家は無くなってしまうけれど、サフランの存在価値を考えれば別に悪い事でもないんだ。効能が素晴らしく優れているコラユータ領のサフランは、国で管理してもなんら可笑しくはないから。」
「……」
「そんなたくさんの選択肢があるという事を踏まえた上で言わせてもらうよ。」
「?」
そう言うとエルヴェツィオは立ち上がるとルクレツィアの前に跪いた。それを見たルクレツィアはまたも驚くが、それに構わずエルヴェツィオは手を差し出して口上を述べ始める。
「ルクレツィア=コラユータ様。私は初めて貴方を見た時に守って差し上げたいと思いました。
そしてそれは、少しずつ同じ時を過ごす内にもっと一緒にいられたらという切なる願いへと変わっていきました。
ルクレツィアが私の両親を助けてくれた時も、私の体調を気遣ってお茶を淹れてくれた時も、貴方の気持ちがとても嬉しくて私の気持ちが溢れ出そうでした。
どうかこれからも、貴方の傍にいられる権利を私に下さいませんか。」
「…!!」
ルクレツィアはそれを聞いて、涙がこぼれそうになり顔で手を隠すよう仕草をする。
「ああルクレツィア、可愛い顔を隠さないで。
…これを、君に。」
そう言うと、なかなかエルヴェツィオの伸ばした手を掴まれないと一旦手を引いて、ポケットから小さな小箱を取り出し中を見せた。
「これ…」
「指輪だよ。嵌めてくれると嬉しいな。」
それは、一見するとシンプルで、大きな宝石も無いリング。けれども細かい宝石が指を囲うように散りばめられている。
「あまり大きいと、ここで生活するには邪魔になるだろ?もっと、大きい石が良かった?」
「そんな事無いわ!いいの…?」
太陽の光に照らされて、白く透明な宝石がキラキラと輝いている。
「嵌めていいかな?」
「お願い…!」
許可を求めるとそう請われ、エルヴェツィオはゆっくり落とさないように指輪をルクレツィアの右手の薬指に嵌める。
「どうかな…?リッカルダに何度も指の大きさを教えてもらったから大丈夫だと思うけど、きつかったり緩かったら言って?直すから。」
「ふふ…ありがとう、ピッタリよ。
だからリッカルダ、毎年のように何度もたくさんの指輪を嵌めさせてくれたのね?」
「あぁ。
まぁリッカルダは見ての通り宝石やなんかが好きだったってのもあるだろうけどね。だからそれらがたくさん採れる国へ嫁ぐ事になったし。
本当は何年も前から渡したかったんだけど、なかなか渡す勇気が無くて…って、俺、ヘタレだよな。」
「そんな事ないわ!
…それって、まさかリッカルダが十四歳くらいから……?」
「うん。指輪のサイズを教えてくれてね、贈りたいとは思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて。
オリーヴィアにもさんざん言われたよ、私が嫁ぐ前に早く好きだって口にしなさいって。あいつが嫁いでからは、いつ好きだって言うのかって……」
「!」
エルヴェツィオから気持ちを伝えられ、ルクレツィアの顔に再び熱が集まる。エルヴェツィオもそれに気づき、好きだと口にしてしまったと思って顔を真っ赤にさせ、それでも伝えてしまったからとここぞとばかりに言葉を繋ぐ。
「恥ずかし…でも、本当の事だよ。
ルクレツィアが好き、大好きだ!!
だから、指輪を受け取ってくれて本当に嬉しいよ。」
「…ありがとう。私も……」
「え?なに?聞こえないよ。」
「だから…!!」
エルヴェツィオが態と顔を近づけてルクレツィアに聞こえないと言ったので、ルクレツィアがエルヴェツィオの目を見て伝えようとすると、今までにない位顔が近づいて来て驚いて目を瞑ると、唇に何かが優しく触れ、すぐにその温もりが去った。
慌てて目を開けると、エルヴェツィオの顔は横に逸れ、代わりに耳が真っ赤になっているのが見えた。
「エルヴェツィオ…?」
「あーもう!」
そう言ってエルヴェツィオは、ルクレツィアの方に顔を向けると、手を引っ張り立たせて自身の腕の中にすっぽりと収めて背中に手を回した。
「ルクレツィアに俺の今の顔見られたら恥ずかし過ぎる!だけど、もっとルクレツィアを感じたい。だから少しの間だけ、抱きしめさせて…?」
「!…うん。」
そう言うと、ルクレツィアもおずおずとエルヴェツィオの背中に手を回し、しばらくお互いの温もりを確かめ合うのだった。
ルクレツィアはといえば、未だアンネッタの住む教会でロミーナとアデルモと共に暮らしていた。
オリーヴィアは結婚し、ザクーアン国へと嫁いだ為にもう会うことは無かった。
それ以降もエルヴェツィオやリッカルダが訪れてはオリーヴィアの手紙を持ってきてくれたり一緒に過ごしていたが、リッカルダも鉱石が良く採れるブレッサノ国へと嫁いでしまい、会う事は無かった。
その後、エルヴェツィオだけになったが、変わらず会いに来ては少しの時間を共に過ごしていた。
コラユータ領の事は、エルヴェツィオから二度ほど教えてもらった。
ベルトランドの弟であり、ルクレツィアの伯父であるビアッジョの罪と現状。念願であった伯爵になるにはほど遠い知識ではあったがそれでも与えられた仕事の一割から二割はどうにかこなしていたので飼い殺しのように見張らせている。もちろん、ベルトランドが健在であるため、税収は変わっていない。
『ルクレツィアが成人したら、どうしたいか再度聞くから、それまでに考えて欲しい。選択肢はいくつも用意しておくからね。』
エルヴェツィオはそう言ってルクレツィアの意思に委ねる事とした。
ベルトランドはやはり訴えを起こしたりもせず、ビアッジョを騎士団へと突き出す事はしないと判断したのだ。自分は生きているし、そうまでして手に入れたかった伯爵の地位であったならそのまま譲ってもいいとさえ思っていた。仕事が出来れば、だが。
しかし、そうなると愛娘のルクレツィアの事が気がかりだ。ルクレツィアの存在は、コラユータの屋敷に訪れる時には極力避けていたためにビアッジョに気づかれていないかもしれないが、それでも蔑ろにされてはたまらないと、ルクレツィアの気持ちも汲み、安全も考慮して成人するまでは会わせないようにして、ビアッジョが固執していた執務室に居させてやろうと決めたのだ。
その間、テレーザがルクレツィアに会いにくる事も幾度となくあった。教会でつかの間の家族の時間を過ごし、テレーザは帰っていく。
『あぁ、私もここでルクレツィアと一緒に過ごしたいわ。』
とテレーザが漏らす度にアンネッタは、
『これ以上増えたら堪らないよ!
あんたはここで生活は無理だね。ルクレツィアがここで生活するなら、たまに会いに来るくらいがちょうどいいのさ。』
と非情とも思える言葉を告げるのだった。
確かに今までなんの不自由もなく貴族生活を長年やってきたテレーザが、全て自分の事をし、食事も質素な物を食べる生活が送れるとは誰も思わない。
ルクレツィアも、それを言われる度に寂しく思うが、それでもこの生活を続ける事を選んだのは自分だと、奮い立たせるのだった。
泣いて、コラユータ領に帰りたいと言う事も出来た。
それでもそれをしなかったのは、ルクレツィアはここの生活がそれほど嫌では無かったから。また、ここを離れてしまえばエルヴェツィオに会えなくなってしまうし、オリーヴィアやリッカルダの近況も知ることが出来なくなる事も理由の一つだった。さまざまな事を教えてくれる歳の近い彼らは、ルクレツィアにとってかけがえのない存在となっていたから。
☆★
「ルクレツィア。
そろそろ選択する時期だね。
その選択肢、聞く?」
エルヴェツィオは、久々に朝食を食べたあとにやってきてルクレツィアと一頻り世間話をすると、真面目な顔をして話し出した。
「…うん。」
それに、ルクレツィアも姿勢を正してから返事を返した。
「偉いね。じゃあ、ちょっと場所を変えてもいいかな?」
「うん。」
立ち上がったエルヴェツィオに、ルクレツィアはついて行った。
川の傍まで来たエルヴェツィオは、人が座れるほどの大きさの石があるところに持っていたハンカチを敷いて、ルクレツィアに座るようにうながしてから隣に座った。
「まずは、成人おめでとう!ルクレツィア。」
「ありがとう!」
エルヴェツィオはまず、ルクレツィアに祝いの言葉を告げたあと、少し切なそうな顔をして言葉を繋いだ。
「ごめん。本当だったらすぐにでもご両親の元に帰りたかっただろうに、八年も掛かってしまって…。」
「そんな!エルヴェツィオは何も悪くないわ!!
自分で決めたい事だし謝らないで?」
「ルクレツィア…ありがとう。
以前話したと思うけど、ルクレツィアとここで初めて出会った日に、俺の側近がコラユータ領の現状を確認しに行ったという事は覚えてる?」
「ええ。気に掛けてくれて有難かったわ。あの時はありがとう。」
「うん。それ以来、コラユータ伯爵とその使用人や領民達と密に連絡を取り合っているという事も話したよね?」
「うん。お父様もお母様も元気になられて、本当に良かったわ!
王宮のお医者様を派遣して下さったのよね?ありがとう。」
ルクレツィアは当時の事を思い出しながら、エルヴェツィオの方を向いてお礼を述べる。
「当然だよ!
それで…ルクレツィアはベルトランド伯爵の弟のビアッジョとは面識が無い、と聞いていたけど合ってる?」
「ええ、合ってるわ。どんな人かも分からないの。」
ルクレツィアは叔父と会った記憶が無く、だからこそこの話を聞いても実感が湧かなかった。
「そっか。
それでね、ベルトランド伯爵は優しい人柄だそうだね?ビアッジョの事は、特に罪を償わせる為に騎士団に突き出す事をしなくてもいいと言われていたんだけど、俺としては悪い事をした人はそれを認め、罪を償って欲しいと思うんだよ。それは今も思いは変わらないんだ。」
「ええ、分かるわ。」
「ありがとう。
でもそれは、ルクレツィアが成人してから、ルクレツィアの意見を聞いた上で決めようと思っていた。
…ここまでは前回話した事とも重複してる部分もあるんだけど、覚えてる?」
「うん。私が成人したら決めるって言っていたわよね?」
「あぁ。ビアッジョの処遇と、ルクレツィアのこれからの事をね。」
「私?」
「そうだよ。ルクレツィアの事も。
ルクレツィア、君には選択肢がいくつもあるっていうのは、どちらかといえばこちらの話だ。」
「…」
ルクレツィアは、これからどうするかなんて今まで考えた事も無かった。いや、考えないようにしていた。
「一つ目は君がコラユータ領に戻り、伯爵家を継ぐ。すぐに継がなくてもいいけど、ベルトランド伯爵は数年のうちに爵位を譲ってゆっくりしたいそうなんだ。」
「お父様が…」
「だけどもし、ルクレツィアがコラユータ領を誰かに任せてもいいと思うなら、そのまま代行として執事達にお願いする事も出来る。」
「そんな事…」
「そして、ルクレツィアの子供が出来た時に継がせる、とかね!もしくは…」
「!!」
子供、と言われてルクレツィアは驚く。確かにもうすぐ成人するが、この場所で生活している限り結婚とはほど遠く、ましてや自分が子供を持つなんて全く考えてもいなかったのだ。
「国に領地を返上し、国有地として国が領地を統治する。その場合、ルクレツィアの実家は無くなってしまうけれど、サフランの存在価値を考えれば別に悪い事でもないんだ。効能が素晴らしく優れているコラユータ領のサフランは、国で管理してもなんら可笑しくはないから。」
「……」
「そんなたくさんの選択肢があるという事を踏まえた上で言わせてもらうよ。」
「?」
そう言うとエルヴェツィオは立ち上がるとルクレツィアの前に跪いた。それを見たルクレツィアはまたも驚くが、それに構わずエルヴェツィオは手を差し出して口上を述べ始める。
「ルクレツィア=コラユータ様。私は初めて貴方を見た時に守って差し上げたいと思いました。
そしてそれは、少しずつ同じ時を過ごす内にもっと一緒にいられたらという切なる願いへと変わっていきました。
ルクレツィアが私の両親を助けてくれた時も、私の体調を気遣ってお茶を淹れてくれた時も、貴方の気持ちがとても嬉しくて私の気持ちが溢れ出そうでした。
どうかこれからも、貴方の傍にいられる権利を私に下さいませんか。」
「…!!」
ルクレツィアはそれを聞いて、涙がこぼれそうになり顔で手を隠すよう仕草をする。
「ああルクレツィア、可愛い顔を隠さないで。
…これを、君に。」
そう言うと、なかなかエルヴェツィオの伸ばした手を掴まれないと一旦手を引いて、ポケットから小さな小箱を取り出し中を見せた。
「これ…」
「指輪だよ。嵌めてくれると嬉しいな。」
それは、一見するとシンプルで、大きな宝石も無いリング。けれども細かい宝石が指を囲うように散りばめられている。
「あまり大きいと、ここで生活するには邪魔になるだろ?もっと、大きい石が良かった?」
「そんな事無いわ!いいの…?」
太陽の光に照らされて、白く透明な宝石がキラキラと輝いている。
「嵌めていいかな?」
「お願い…!」
許可を求めるとそう請われ、エルヴェツィオはゆっくり落とさないように指輪をルクレツィアの右手の薬指に嵌める。
「どうかな…?リッカルダに何度も指の大きさを教えてもらったから大丈夫だと思うけど、きつかったり緩かったら言って?直すから。」
「ふふ…ありがとう、ピッタリよ。
だからリッカルダ、毎年のように何度もたくさんの指輪を嵌めさせてくれたのね?」
「あぁ。
まぁリッカルダは見ての通り宝石やなんかが好きだったってのもあるだろうけどね。だからそれらがたくさん採れる国へ嫁ぐ事になったし。
本当は何年も前から渡したかったんだけど、なかなか渡す勇気が無くて…って、俺、ヘタレだよな。」
「そんな事ないわ!
…それって、まさかリッカルダが十四歳くらいから……?」
「うん。指輪のサイズを教えてくれてね、贈りたいとは思ってたんだけど、なかなか言い出せなくて。
オリーヴィアにもさんざん言われたよ、私が嫁ぐ前に早く好きだって口にしなさいって。あいつが嫁いでからは、いつ好きだって言うのかって……」
「!」
エルヴェツィオから気持ちを伝えられ、ルクレツィアの顔に再び熱が集まる。エルヴェツィオもそれに気づき、好きだと口にしてしまったと思って顔を真っ赤にさせ、それでも伝えてしまったからとここぞとばかりに言葉を繋ぐ。
「恥ずかし…でも、本当の事だよ。
ルクレツィアが好き、大好きだ!!
だから、指輪を受け取ってくれて本当に嬉しいよ。」
「…ありがとう。私も……」
「え?なに?聞こえないよ。」
「だから…!!」
エルヴェツィオが態と顔を近づけてルクレツィアに聞こえないと言ったので、ルクレツィアがエルヴェツィオの目を見て伝えようとすると、今までにない位顔が近づいて来て驚いて目を瞑ると、唇に何かが優しく触れ、すぐにその温もりが去った。
慌てて目を開けると、エルヴェツィオの顔は横に逸れ、代わりに耳が真っ赤になっているのが見えた。
「エルヴェツィオ…?」
「あーもう!」
そう言ってエルヴェツィオは、ルクレツィアの方に顔を向けると、手を引っ張り立たせて自身の腕の中にすっぽりと収めて背中に手を回した。
「ルクレツィアに俺の今の顔見られたら恥ずかし過ぎる!だけど、もっとルクレツィアを感じたい。だから少しの間だけ、抱きしめさせて…?」
「!…うん。」
そう言うと、ルクレツィアもおずおずとエルヴェツィオの背中に手を回し、しばらくお互いの温もりを確かめ合うのだった。
203
あなたにおすすめの小説
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら
Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、
ある日、父親から結婚相手を紹介される。
そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。
彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。
そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……?
と思ったら、
どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。
(なるほど……そういう事だったのね)
彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。
そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている?
と、思ったものの、
何故かギルバートの元、主人でもあり、
彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました
珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。
そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。
同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。
【完結】偽者扱いされた令嬢は、元婚約者たちがどうなろうと知ったことではない
風見ゆうみ
恋愛
クックルー伯爵家の長女ファリミナは、家族とはうまくいっていないものの、婚約者であり、若き侯爵のメイフとはうまくいっていると思っていた。
メイフとの結婚が近づいてきたある日、彼がファリミナの前に一人の女性を連れてきた。メイフに寄り添う可憐な女性は、こう名乗った。
「わたくし、クックルー伯爵家の長女、ファリミナと申します」
この女性は平民だが、メイフの命の恩人だった。メイフは自分との結婚を望む彼女のためにファリミナの身分を与えるという暴挙に出たのだ。
家族や友人たちは買収されており、本当のファリミナを偽者だと訴える。
メイフが用意したボロ家に追いやられたファリミナだったが、メイフの世話にはならず、平民のファリとして新しい生活を送ることに決める。
ファリとして新しい生活の基盤を整えた頃、元家族はファリミナがいたことにより、自分たちの生活が楽だったことを知る。そして、メイフは自分が馬鹿だったと後悔し始め、自分を愛しているはずのファリミナに会いに行くのだが――。
幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね
柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』
王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる