【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる

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18 憂い

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「はぁ…」

「ルクレツィア様?どうされました?」

「は!な、何でも無いわ。」


 ルクレツィアは、エルヴェツィオに指輪をもらい、気持ちを通じ合わせてからは一層エルヴェツィオの事を考える時間が増え、それと同時にため息を吐いてしまっていた。


(エルヴェツィオが好き。だけど、私はどうすればいいの…?)


 エルヴェツィオは王太子だ。もし自分がエルヴェツィオと結婚するとなれば、妻、つまり王太子妃になるのだということを今さらながら考えてしまったのだ。


「…ツィア-、ルクレツィア-!」

「!は、はーい!」


 エルヴェツィオの事を考えていると、不意にその想っていた声が聞こえたので慌てて、返事をする。


「ふふ…」

「!?」

「あぁ、すみませんルクレツィア様。
 良かったですね、今日もエルヴェツィオ様は来て下さったのですね。さぁ、向かいましょう。」

「う、うん…。」


 傍にいたロミーナが、堪えきれず笑いを溢したためルクレツィアはそちらを向くが、促されたために素直にそれに従う。
 ロミーナは、ルクレツィアが指輪をエルヴェツィオからもらった事も、求婚された事も知っている。時間があまり無い中、エルヴェツィオは使用人であるロミーナとアデルモにルクレツィアへの気持ちを話し、これからの事も話したのだ。真摯な対応だとロミーナとアデルモは感じ、そんなエルヴェツィオに想われたルクレツィアは幸せになれると胸をなで下ろしていた。そんな中、ルクレツィアの悩む姿も微笑ましいとロミーナは思っていたのだった。


「あ、ルクレツィア。今日は相談に来たんだ。」


 そう言ったエルヴェツィオは、ルクレツィアの手に自身の手を近づけ、顔を見てから問う。


「手、繋いでもいい?」

「!う、うん…」

「良かった!食堂に行こう?」


 ホッとしてそう告げると、手を優しく包み込むように握った。
 ルクレツィアは、俯き顔を赤くさせながらもその手はとても温かいと嬉しく思った。




「さ!一緒に食べよう!今日はカノンチーノを持ってきたよ。」


 エルヴェツィオは、クルクルと巻かれ、中にクリームが入っているパイを机に置かれた籠から取り出した。


「まぁ!サクサクとして美味しいのよね!いつもありがとう。お茶を入れるわ。」


 そう言いながらルクレツィアはサフランの茶を淹れる。このサフランは、コラユータ領で変わらず育てられたもので、テレーザが来る時に持ってきてくれるのだ。


「ルクレツィアこそいつもありがとう。ルクレツィアの淹れるサフラン茶は、飲むとすっきりするし元気が出るんだ。」

「フフフ…そう?ありがとう。」


 そして、淹れ終わるとルクレツィアもエルヴェツィオの正面に座った。


ここでも良かったのに。ま、いいか。
 さ、どうぞ食べて。」


 エルヴェツィオはルクレツィアに菓子を促し、お茶を飲んだ。


「うん。いただきます。
 …うん、美味しい!」

「あぁ良かった。じゃあ話すね。
 …近々、コラユータ領に行く事になったよ。ルクレツィアも一緒に行く?」

「ええと、それって…」

「うん、ビアッジョを騎士団に突き出そうと思う。」

「…そっか。私、行った方がいいよね?」

「辛かったらいいよ。どちらにしろ、その場で罪状をビアッジョに突きつけるわけじゃないから。決めるのは、国王陛下…って、表向きはね。俺は国王陛下と共に、罪状を決める立場にあるんだけどね。」

「!そっか…やっぱりエルヴェツィオってすごいのね……」

「え?すごい?うーん、まぁ仕方ないよね、王太子だし。でも人の運命を決める事だしものすごく考えさせられるから、出来ればあんまりしたくない仕事だよ。」

「そ、そうよね…軽々しくごめんなさい……」


 ルクレツィアは、エルヴェツィオの心の内を聞き、浅はかな発言だったと反省して俯く。


「あぁ、ごめん!そんな顔をしないで!!なんていうか…でもルクレツィアに関係する事だし、いろいろと迷ったけどだいたいは話し合ってすでにどう罪を償わせるかは大まかに決まってるんだよ。
 それに…これからはそんな俺を癒してくれると嬉しいんだけどな。」

「ええ!?あ…う、うん…。」

「どうした?」

「えっと…私、務まるのかな……」

「なんだ、そんな事?ルクレツィアにしか出来ないよ。
 俺の傍にいて、こうやってお茶を淹れてくれて、菓子やなんかを美味しそうに一緒に食べてくれるだけで俺は癒されるんだ。」

「そんな…」

「ルクレツィアにしか出来ないなぁ。それに、ルクレツィアは俺の事好きって言ってくれただろう?俺だってルクレツィアが大好きなんだ。ルクレツィアしか、傍にいて欲しいと思えない。だからルクレツィアにしか出来ないんだよ?」

「うん…」


 それでも俯いているルクレツィアに、普段は会話に入らず離れたところでお茶を飲んでいるロミーナが、珍しく口を開く。


「恐れながらよろしいでしょうか。」


 それはルクレツィアというより、エルヴェツィオに対して伺いを立てるロミーナ。


「ん?なに?ロミーナ。」

「ありがとうございます。
 …ルクレツィア様。エルヴェツィオ様が、他の女性と一緒にいる事はどう思われますか?例えば…お風呂掃除を二人でされている、とか。」

「!!…嫌、だわ。」

「エルヴェツィオ様が、ルクレツィア様ではなく違う女性と、一緒に暮らすのは如何ですか?」

「もっと嫌よ!」

「ルクレツィア様、それが答えでございます。
 …覚えておいでですか?荷物運びのオネストの事。オネストは、アデルモに対して同じく嫌がられていましたよね?アンネッタと一緒に作業しているのは男なのか、そいつと一緒に暮らすのか?って。」

「そうだった?
…あぁ、初めて会った時ね?うん。え…?」

「そうです、それが愛なのです。
 オネストは、見守る愛、とでもいうのですかね?私はよく分かりませんけれども、ルクレツィア様はどうです?エルヴェツィオ様が風呂掃除などなにか作業をされるのであれば、一緒にしたくはありませんか?
 他の女性が、エルヴェツィオ様の隣で仲睦まじくいらっしゃるのは嫌だとお思いであれば、それが答えなのでございます。お気持ちに正直になればよいのですよ、エルヴェツィオ様もそう望んでおられるのですから。」


 優しく諭すように具体例を出してわかりやすく伝えるロミーナに、エルヴェツィオは渡りに舟だと膝を叩いて喜び、それに続いて言葉を繋ぐ。


「ロミーナ、良いこと言った!
 俺も、ルクレツィアが他の男と楽しげに話すのは面白くないし、ルクレツィアが同じ気持ちを持ってくれているなら嬉しいと思うよ。」

「うん…うん。私も…一緒にいたい。」


 やっと絞り出して答えたルクレツィアは、顔を上げてエルヴェツィオを見つめる。


「良かった!不安は取り除けた?まぁ、王太子の家族になるってきっと重圧も感じる事もあるかもしれないけど、俺が不安を感じさせないよう努力するよ。
それでももし感じたら言って欲しい。こうやって取り除いていこう。
 …やっと顔を上げてくれたね。さぁ、もう一つ食べて。」

「…ありがとう、エルヴェツィオ。」

「で、どうする?一緒に行く?俺一人で行こうか?」

「行くわ!だって自分の事でもあるもの。
…エルヴェツィオも一緒に行ってくれるのよね?」

「ああもちろん!偉いなぁ、ルクレツィアは。じゃあ迎えに来るから一緒に行こう!」


 そう言って、エルヴェツィオはお茶を飲む。
 ルクレツィアも少し照れながら二つ目のカノンチーノを口に運んだのだった。







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