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15 どうすべきか
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「ルクレツィアー!」
「エルヴェツィオだわ。ここよ-!」
ルクレツィアがこの教会で住み始めて一ヶ月が経った。
ルクレツィアは、アデルモと共に薪を切っているとエルヴェツィオの声が聞こえた為声を上げた。
「今日は薪を切ってるのか!よーし、俺も手伝うよ。」
「いいの?」
「ああ。アデルモ、どいてくれるか。」
そう言って、横に置かれていた薪にするには大きめな木を台に置いてルクレツィアから鉈を借りて切りだした。
慣れた手つきに、ルクレツィアは手を胸の前で叩き声を上げる。
「エルヴェツィオ、凄い!やった事あるの?」
「そりゃあね。アンネッタに手伝えって言われて、叩き込まれたよ。」
そう言って、みるみる内に薪が適当な大きさに切られていく。
「このくらいか?」
「ありがとう!エルヴェツィオ。助かったわ!」
「ありがとうございます、エルヴェツィオ様。ずいぶんと早く終わりました。」
アデルモもルクレツィアと共に礼を言った。
「そうか?それは良かった。
…なぁ、ルクレツィアと話したいんだけど、いいか?出来れば、アデルモも。ロミーナとアンネッタも聞いて欲しいがどこにいるだろうか。」
そう言ったエルヴェツィオは、建物へと二人を促した。
「なんだい?話って。」
アンネッタとロミーナも呼び、食堂に座ったエルヴェツィオは、手土産を出したところでそうアンネッタに言われた。
「そう急かすなよ、アンネッタ。
…まぁ、でもそうだよな。皆、集まってもらって済まない。一応ルクレツィアの家の事をそろそろ話した方がいいと思って。」
人数分のお茶を準備していたルクレツィアは順にそれらを皆の前に並べていたが、エルヴェツィオの言葉を聞いて顔を向ける。
「ありがとう、ルクレツィア。
座って?」
ルクレツィアも座ると、エルヴェツィオは緊張した面持ちで話し出した。
「ルクレツィアがここに来て一ヶ月が経つよね。ルクレツィア、今のコラユータ領の屋敷でおこってる出来事の話、聞くかい?」
そう労るように優しく聞かれ、ルクレツィアは少しだけ考える素振りを見せたが頷いた。
「うん、知りたい。」
「分かった。じゃあ心して聞いてくれ。
…でもな、ここにいる皆、ルクレツィアの味方だから安心してくれ。もちろん、俺もな。」
そう言って一区切り付けルクレツィアを見てから、口を開いた。
「ルクレツィアがここへ来た日、俺、コラユータ領がどうなっているのか見に行かせたんだ。本当は自分で見に行きたかったけどね、忙しくてそんな時間が無くて。」
エルヴェツィオが切り出すとルクレツィアは頷く。確かに、睡眠も碌に取れていないような疲れた顔を見せていたなぁと思い起こした。
「それで、見に行かせた者によれば、ルクレツィアの叔父であるビアッジョが、コラユータ伯爵を階段から突き落として怪我をさせたみたいで、これからは自分が伯爵だと言って執務室に籠もった、と聞いたそうなんだ。」
表情は抑えているが、起こした出来事に酷く腹が立っており加害者であるビアッジョの事を敬称も付けずに呼ぶエルヴェツィオ。本来であれば、敬称を付けて呼ばないなんて無作法な事はしないが、人に怪我をさせる勢いで階段の上から体当たりしたと報告を受けているエルヴェツィオは、当たり所が悪ければ死んでいても可笑しくないと怒りが収まらないのだ。後遺症が残らなかったと聞いて、胸をなで下ろしたほどだ。
「ええ!?お父様は!?」
「あぁ、大丈夫。すぐに処置をされたから、骨折や打撲くらいで今は療養されているそうだよ。」
「良かった…。」
「あぁ、本当に良かった。
それでね、ここからがルクレツィアに訊きたい事なんだけど。」
「なぁに?」
「コラユータ伯爵の屋敷に戻れば、ビアッジョがいて何をされるか分かったものじゃない。怪我をさせたビアッジョを騎士団に送れば済む話なんだけど、コラユータ伯爵は自分の弟なのだからとそれを望んでいないそうなんだ。」
「…そう、優しいお父様らしいわ。」
ルクレツィアが屋敷にいた頃、仕事が忙しいだろうに週に一度は時間を作ってくれ母と父と三人で景色の良い場所に出掛けていた。その時野兎や鹿の姿を見かければ、持ってきていた食べ物をいつも分けて与えようとしていた父を思い出した。
また、自分にもいつも優しく接してくれ、視察に出掛けた際はその土地特有の木彫りの動物や特産物をいつも購入し、ルクレツィアへと与えてくれていた。こちらへ持ってきていた木彫りの鳥と栗鼠も、その内の二つだ。表情も一つ一つ違って愛くるしく、鳥は自身の背中を毛繕いしている姿と、栗鼠はクルミを両手で持ち頬が膨らんでいる姿である。
「…そうか。
でも俺は、コラユータ伯爵と、その屋敷に住まう使用人達に迷惑を掛け、さらにルクレツィアにまで寂しい思いをさせているビアッジョに罰を与えるのは当然だと思っているんだ。」
「うん。」
「ルクレツィアにとって血の繋がった叔父であるから、罪を償わせるのに抵抗があるかもしれないけど。」
「抵抗?どうかしら…良く分からないわ。だってそんな人が居たなんて知らなかったもの。
でも、悪い事をしたら償うのは当たり前だと思うわ。それをさせないお父様は優し過ぎるのよ。」
「…そうか。
それで、コラユータ伯爵の想いも多少汲み、ルクレツィアの安全も考慮するとね、まだしばらくはここで過ごすのがいいんじゃないかと思うんだけど…やっぱり帰りたい?」
「私の安全?」
「ああ。さっきも言ったけど、ビアッジョはコラユータ伯爵を階段から突き落としたんだ。それでも悪びれる素振りもせずに、執務室の椅子に居座って使用人達に罵声を浴びせてるみたいなんだ。」
「ええ?みんな可哀想…。」
「ルクレツィアは優しいな…。
まあそうなるとルクレツィアがコラユータ領の屋敷に帰れば、今度はルクレツィアが危害を加えられないとも限らない。だから、ここで避難生活を続けるのが妙案だと思うんだ。」
「でも私だけ…」
「ここに居るのが嫌なら、コラユータ領に帰った方がいいかもしれない。両親と離れて寂しいだろう。だけど、ルクレツィアが心配だ。それに…」
エルヴェツィオは葛藤していた。幼いルクレツィアは、両親の元に帰った方がいいとは思うが、ビアッジョがルクレツィアに危害を加える可能性を考えたら、帰っていいのか。ここに居る方が安全ではある。それに、ルクレツィアが帰ってしまえば、会う事が難しくなってしまうからだ。
だがやはり、ルクレツィアの気持ちを聞かないまま、このままにしておくべきではないと今日話しに来たのだ。
「私、ここに居た方がいいならいるわ。でも、私だけが避難生活って、お父様達は?大丈夫なの?それが心配だわ。」
「その…ご両親となかなか会えないかもしれないけどいい?」
「それは確かに寂しいわ。でも、ここの生活も案外楽しいもの。
ねぇお母様は大丈夫なのかしら?」
「あぁ、夫人に危害は加えられていないよ。一応、会わないようにしているらしいし。
それに使用人達も皆、大人だからね。だけどルクレツィアは非力な子供で、ビアッジョは力のある大人だから、万が一階段から突き落とされたらと考えるだけでも肝が冷えるよ。」
「なら良かったわ。
でも…いつまでいればいいの?
ねぇアンネッタ。私達がそんなに長く滞在してもいいの?それとも帰った方がいい?」
「ルクレツィアの好きにしな。
…そうさね、ルクレツィアが嫌じゃなければ成人するまでいればいいさ。」
「成人?」
「ふん。別に驚く事じゃないだろ?あとたった8年。それが長いと感じるのなら、まぁ好きにすればいい。私には貴族の考えなんてこれっぽっちも分からないからね。
だけど、悪い事をしたなら謝るべきだ。それは人として当然の事だよ。
本来なら自分から気づいてそれをする、それが出来ない奴は誰かが教えてやらなきゃならないよ。
そして今はまだそれが出来ないってんなら、ルクレツィアが成人してから騎士団に突き出すといいさ。」
そう言ってお茶を飲むアンネッタ。皆は、顔を見合わせどうするべきか考えている。
少し悩み、初めに口を開いたのはルクレツィアだ。
「アンネッタがそう言ってくれるなら、私ここに居るわ。
けれど…お父様は優しいために罰を与えなくてもいいと思っているなら、大きくなって私がそれをした方がいいって言えるかがちょっと未だ分からないの。」
「まぁそうだな、もし出来なければ俺が代わりにするよ。」
「え?」
「なんだいそれ?エルヴェツィオが代わりにかい?」
「ああ。代わりって言っても、それなりの人物じゃなければ話にならないだろ?
コラユータ伯爵が騎士団に引き渡さないと言ってるから、伯爵の気持ちを良く理解している夫人が代わりにそれをする事もしないだろうし。」
「まぁ確かにそうだねぇ。屋敷の使用人が束になって直訴した所で、その主である伯爵が訴えないと言ってるんなら、それも出来やしないだろうねぇ。」
「あ、でも…お父様とお母様がしないのに、私が大人になって訴えるのはいいのかしら。」
「それは大丈夫、父親が怪我を負わせられたんだ。一度やってしまった罪は何年経っても償わない限り消される事は無い。
…心配なら、その時俺がしっかりやるから任せてくれ。そうしたら気に病まないだろう?」
「でも…エルヴェツィオにそんな…」
「ふん。今更なんだい、エルヴェツィオに遠慮なんてするもんじゃないよルクレツィア。
エルヴェツィオが言い出してくれたんだ、やって良いから口に出したんだよ、心置きなく甘えればいいんだよ。」
「まぁな。俺は嫌だったら口にしない。
でも誰でもないルクレツィアの事だからね、遠慮しないで欲しい。されたら俺、逆に寂しいかなぁ。」
「ルクレツィア様、成人されたらお気持ちが変わるかもしれませんし。もしご自分では分からなければ、その時エルヴェツィオ様にお願いしましょう。」
「…うん。そうするわ。エルヴェツィオ、ありがとう!」
「ああ、存分に頼ってくれていいからな!」
ルクレツィアが微笑むと、エルヴェツィオも微笑みながらそう答えた。
ここにやって来た当初はすぐに帰れると思っていたが、長く滞在する事になるのだとルクレツィアは一つ息を吐く。しかしそれはコラユータ領に帰れないという寂しさだけではなかった。それもあったが、まだ見ぬ叔父の処遇をいつか決めなければならないのかもしれないという不安からも来ていた。
けれども嫌な事ばかりではない。ルクレツィアはここでの生活を苦とは思っておらず、エルヴェツィオやリッカルダも会いに来てくれる為それが思いのほか楽しく思っていたために、まだこれからも続くのかと嬉しくも思ったのだった。
「エルヴェツィオだわ。ここよ-!」
ルクレツィアがこの教会で住み始めて一ヶ月が経った。
ルクレツィアは、アデルモと共に薪を切っているとエルヴェツィオの声が聞こえた為声を上げた。
「今日は薪を切ってるのか!よーし、俺も手伝うよ。」
「いいの?」
「ああ。アデルモ、どいてくれるか。」
そう言って、横に置かれていた薪にするには大きめな木を台に置いてルクレツィアから鉈を借りて切りだした。
慣れた手つきに、ルクレツィアは手を胸の前で叩き声を上げる。
「エルヴェツィオ、凄い!やった事あるの?」
「そりゃあね。アンネッタに手伝えって言われて、叩き込まれたよ。」
そう言って、みるみる内に薪が適当な大きさに切られていく。
「このくらいか?」
「ありがとう!エルヴェツィオ。助かったわ!」
「ありがとうございます、エルヴェツィオ様。ずいぶんと早く終わりました。」
アデルモもルクレツィアと共に礼を言った。
「そうか?それは良かった。
…なぁ、ルクレツィアと話したいんだけど、いいか?出来れば、アデルモも。ロミーナとアンネッタも聞いて欲しいがどこにいるだろうか。」
そう言ったエルヴェツィオは、建物へと二人を促した。
「なんだい?話って。」
アンネッタとロミーナも呼び、食堂に座ったエルヴェツィオは、手土産を出したところでそうアンネッタに言われた。
「そう急かすなよ、アンネッタ。
…まぁ、でもそうだよな。皆、集まってもらって済まない。一応ルクレツィアの家の事をそろそろ話した方がいいと思って。」
人数分のお茶を準備していたルクレツィアは順にそれらを皆の前に並べていたが、エルヴェツィオの言葉を聞いて顔を向ける。
「ありがとう、ルクレツィア。
座って?」
ルクレツィアも座ると、エルヴェツィオは緊張した面持ちで話し出した。
「ルクレツィアがここに来て一ヶ月が経つよね。ルクレツィア、今のコラユータ領の屋敷でおこってる出来事の話、聞くかい?」
そう労るように優しく聞かれ、ルクレツィアは少しだけ考える素振りを見せたが頷いた。
「うん、知りたい。」
「分かった。じゃあ心して聞いてくれ。
…でもな、ここにいる皆、ルクレツィアの味方だから安心してくれ。もちろん、俺もな。」
そう言って一区切り付けルクレツィアを見てから、口を開いた。
「ルクレツィアがここへ来た日、俺、コラユータ領がどうなっているのか見に行かせたんだ。本当は自分で見に行きたかったけどね、忙しくてそんな時間が無くて。」
エルヴェツィオが切り出すとルクレツィアは頷く。確かに、睡眠も碌に取れていないような疲れた顔を見せていたなぁと思い起こした。
「それで、見に行かせた者によれば、ルクレツィアの叔父であるビアッジョが、コラユータ伯爵を階段から突き落として怪我をさせたみたいで、これからは自分が伯爵だと言って執務室に籠もった、と聞いたそうなんだ。」
表情は抑えているが、起こした出来事に酷く腹が立っており加害者であるビアッジョの事を敬称も付けずに呼ぶエルヴェツィオ。本来であれば、敬称を付けて呼ばないなんて無作法な事はしないが、人に怪我をさせる勢いで階段の上から体当たりしたと報告を受けているエルヴェツィオは、当たり所が悪ければ死んでいても可笑しくないと怒りが収まらないのだ。後遺症が残らなかったと聞いて、胸をなで下ろしたほどだ。
「ええ!?お父様は!?」
「あぁ、大丈夫。すぐに処置をされたから、骨折や打撲くらいで今は療養されているそうだよ。」
「良かった…。」
「あぁ、本当に良かった。
それでね、ここからがルクレツィアに訊きたい事なんだけど。」
「なぁに?」
「コラユータ伯爵の屋敷に戻れば、ビアッジョがいて何をされるか分かったものじゃない。怪我をさせたビアッジョを騎士団に送れば済む話なんだけど、コラユータ伯爵は自分の弟なのだからとそれを望んでいないそうなんだ。」
「…そう、優しいお父様らしいわ。」
ルクレツィアが屋敷にいた頃、仕事が忙しいだろうに週に一度は時間を作ってくれ母と父と三人で景色の良い場所に出掛けていた。その時野兎や鹿の姿を見かければ、持ってきていた食べ物をいつも分けて与えようとしていた父を思い出した。
また、自分にもいつも優しく接してくれ、視察に出掛けた際はその土地特有の木彫りの動物や特産物をいつも購入し、ルクレツィアへと与えてくれていた。こちらへ持ってきていた木彫りの鳥と栗鼠も、その内の二つだ。表情も一つ一つ違って愛くるしく、鳥は自身の背中を毛繕いしている姿と、栗鼠はクルミを両手で持ち頬が膨らんでいる姿である。
「…そうか。
でも俺は、コラユータ伯爵と、その屋敷に住まう使用人達に迷惑を掛け、さらにルクレツィアにまで寂しい思いをさせているビアッジョに罰を与えるのは当然だと思っているんだ。」
「うん。」
「ルクレツィアにとって血の繋がった叔父であるから、罪を償わせるのに抵抗があるかもしれないけど。」
「抵抗?どうかしら…良く分からないわ。だってそんな人が居たなんて知らなかったもの。
でも、悪い事をしたら償うのは当たり前だと思うわ。それをさせないお父様は優し過ぎるのよ。」
「…そうか。
それで、コラユータ伯爵の想いも多少汲み、ルクレツィアの安全も考慮するとね、まだしばらくはここで過ごすのがいいんじゃないかと思うんだけど…やっぱり帰りたい?」
「私の安全?」
「ああ。さっきも言ったけど、ビアッジョはコラユータ伯爵を階段から突き落としたんだ。それでも悪びれる素振りもせずに、執務室の椅子に居座って使用人達に罵声を浴びせてるみたいなんだ。」
「ええ?みんな可哀想…。」
「ルクレツィアは優しいな…。
まあそうなるとルクレツィアがコラユータ領の屋敷に帰れば、今度はルクレツィアが危害を加えられないとも限らない。だから、ここで避難生活を続けるのが妙案だと思うんだ。」
「でも私だけ…」
「ここに居るのが嫌なら、コラユータ領に帰った方がいいかもしれない。両親と離れて寂しいだろう。だけど、ルクレツィアが心配だ。それに…」
エルヴェツィオは葛藤していた。幼いルクレツィアは、両親の元に帰った方がいいとは思うが、ビアッジョがルクレツィアに危害を加える可能性を考えたら、帰っていいのか。ここに居る方が安全ではある。それに、ルクレツィアが帰ってしまえば、会う事が難しくなってしまうからだ。
だがやはり、ルクレツィアの気持ちを聞かないまま、このままにしておくべきではないと今日話しに来たのだ。
「私、ここに居た方がいいならいるわ。でも、私だけが避難生活って、お父様達は?大丈夫なの?それが心配だわ。」
「その…ご両親となかなか会えないかもしれないけどいい?」
「それは確かに寂しいわ。でも、ここの生活も案外楽しいもの。
ねぇお母様は大丈夫なのかしら?」
「あぁ、夫人に危害は加えられていないよ。一応、会わないようにしているらしいし。
それに使用人達も皆、大人だからね。だけどルクレツィアは非力な子供で、ビアッジョは力のある大人だから、万が一階段から突き落とされたらと考えるだけでも肝が冷えるよ。」
「なら良かったわ。
でも…いつまでいればいいの?
ねぇアンネッタ。私達がそんなに長く滞在してもいいの?それとも帰った方がいい?」
「ルクレツィアの好きにしな。
…そうさね、ルクレツィアが嫌じゃなければ成人するまでいればいいさ。」
「成人?」
「ふん。別に驚く事じゃないだろ?あとたった8年。それが長いと感じるのなら、まぁ好きにすればいい。私には貴族の考えなんてこれっぽっちも分からないからね。
だけど、悪い事をしたなら謝るべきだ。それは人として当然の事だよ。
本来なら自分から気づいてそれをする、それが出来ない奴は誰かが教えてやらなきゃならないよ。
そして今はまだそれが出来ないってんなら、ルクレツィアが成人してから騎士団に突き出すといいさ。」
そう言ってお茶を飲むアンネッタ。皆は、顔を見合わせどうするべきか考えている。
少し悩み、初めに口を開いたのはルクレツィアだ。
「アンネッタがそう言ってくれるなら、私ここに居るわ。
けれど…お父様は優しいために罰を与えなくてもいいと思っているなら、大きくなって私がそれをした方がいいって言えるかがちょっと未だ分からないの。」
「まぁそうだな、もし出来なければ俺が代わりにするよ。」
「え?」
「なんだいそれ?エルヴェツィオが代わりにかい?」
「ああ。代わりって言っても、それなりの人物じゃなければ話にならないだろ?
コラユータ伯爵が騎士団に引き渡さないと言ってるから、伯爵の気持ちを良く理解している夫人が代わりにそれをする事もしないだろうし。」
「まぁ確かにそうだねぇ。屋敷の使用人が束になって直訴した所で、その主である伯爵が訴えないと言ってるんなら、それも出来やしないだろうねぇ。」
「あ、でも…お父様とお母様がしないのに、私が大人になって訴えるのはいいのかしら。」
「それは大丈夫、父親が怪我を負わせられたんだ。一度やってしまった罪は何年経っても償わない限り消される事は無い。
…心配なら、その時俺がしっかりやるから任せてくれ。そうしたら気に病まないだろう?」
「でも…エルヴェツィオにそんな…」
「ふん。今更なんだい、エルヴェツィオに遠慮なんてするもんじゃないよルクレツィア。
エルヴェツィオが言い出してくれたんだ、やって良いから口に出したんだよ、心置きなく甘えればいいんだよ。」
「まぁな。俺は嫌だったら口にしない。
でも誰でもないルクレツィアの事だからね、遠慮しないで欲しい。されたら俺、逆に寂しいかなぁ。」
「ルクレツィア様、成人されたらお気持ちが変わるかもしれませんし。もしご自分では分からなければ、その時エルヴェツィオ様にお願いしましょう。」
「…うん。そうするわ。エルヴェツィオ、ありがとう!」
「ああ、存分に頼ってくれていいからな!」
ルクレツィアが微笑むと、エルヴェツィオも微笑みながらそう答えた。
ここにやって来た当初はすぐに帰れると思っていたが、長く滞在する事になるのだとルクレツィアは一つ息を吐く。しかしそれはコラユータ領に帰れないという寂しさだけではなかった。それもあったが、まだ見ぬ叔父の処遇をいつか決めなければならないのかもしれないという不安からも来ていた。
けれども嫌な事ばかりではない。ルクレツィアはここでの生活を苦とは思っておらず、エルヴェツィオやリッカルダも会いに来てくれる為それが思いのほか楽しく思っていたために、まだこれからも続くのかと嬉しくも思ったのだった。
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