【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる

文字の大きさ
20 / 25

20 謝罪

しおりを挟む
「どうだったんだ?ここでの生活は。」


 表情は変えず片方の口角だけ上げながらビアッジョを睨みつけながら問うエルヴェツィオは、穏やかに聞いているようだが酷く冷たい口調だった。


「あ、ああ…まぁまぁだ。」
「!ビアッジョ、口調!」
「は?まぁまぁ…です。」


 ベルトランドは、ビアッジョの口調が全く王太子に話すそれでは無い事に、小声で注意するが、ビアッジョは全く分かっておらず、首を傾げながら答えた。これでも、ビアッジョの中では丁寧な方ではあるのだ。


「バルトロ、ベルトランド伯爵の体調が心配だ。元の席に座っていただこう。」


 エルヴェツィオは、それを意に介する事もせず、ただベルトランドの心情を慮り、バルトロへと伝え、バルトロは頷いて立ち上がって傍まで行き、ベルトランドに手を差し出した。


「え、いや…申し訳ない。」
「じゃあオレ様も…」

「お前はそこで充分だ。」


 ベルトランドが、バルトロに伴われて立ち上がった所でビアッジョもそれに倣ってソファに座ろうと腰を上げるが、エルヴェツィオはそれを許さずそのまま床に座るように告げた。
 ビアッジョはなぜ自分だけがと不満だったが、エルヴェツィオの視線は鋭く、自分より年齢も若く何の地位もない若造だと思ったものの威圧感が半端なく、先ほど“王太子”とベルトランドも言っていたためにまさかと思うものの逆らわない方がいいのかもしれないととりあえず従う事にした。


「そうか。まぁまぁか。
 仕事も、ベルトランド伯爵がこなしていた量の十分の一ほどしかやらせてもらえてなかったそうだから、楽な生活だっただろう?」

「は!?」

「なんだ?」

「あ、いえ…十分の一は言い過ぎかと…オレ様…いや、オレ…じゃなくて私は伯爵ですから、伯爵の仕事をしっかりやってました!!」

「へぇ…?」


 自慢げに言ったビアッジョに、エルヴェツィオは笑いを堪えながらそう言って傍で仕事を見ていたバルトロを見遣る。
バルトロはそれに促されるように口を開いた。


「それは正確ではありません。」

「そうだろう、そうだろう!
 バルトロ、王太子サマに言ってやれ!!」


 ビアッジョは、バルトロが自分の言葉に肯定してくれたと思い、先ほどまでは出て行けとまで言っていたのにもかかわらずもうそんな事は忘れたとばかりに頷きながら言った。


「はい。正確には十分の一以下の仕事量でございました。
 簡単な収支報告書の作成を依頼すれば、計算が出来ないと嘆き、物品購入書の束を渡せば、足し算は面倒だと嘆きまして。
 では違う事をと思いまして領地内の視察を依頼すれば出掛けるのは疲れると嘆き、サフランの栽培を依頼すれば世話なんて出来ないと嘆き…」

「おいおいおい!オレ様、仕事やってただろうが!執務室に籠もって!オレ様が執務室を使ってたんだぞ!!
 バルトロ、嘘言うなよ!!」

「はい、もちろん嘘は言っておりません。執務室に籠もって?籠城しての間違いでは?居座っておられましたね、昼も夜も。
 幸い、伯爵の仕事は執務室以外でも出来ますから、ベルトランド伯爵は書斎や自室など違う場所で、あなた以上の仕事量を毎日こなされておりましたよ。」

「な…な…!」


 味方だと思ったバルトロが、そのように言うものだからビアッジョは、顔を真っ赤にしながらも言葉に詰まる。


「まぁ、仕事がこなせないのは最初から分かっておりました。次期伯爵となるべく育てられたベルトランド様と、教育の機会を与えられてもしっかり身につけてもおらず自分の感情次第で一日の流れが変わってしまうあなた。一目瞭然です。
 そんな仕事も出来ないあなたが、伯爵なわけないでしょう。」

「…は、伯爵だ!オレ様が伯爵に決まってるんだ!」

「ははは!そう言う所が、子供じみているんだ。執務室にいるから自分が伯爵だと?勘違いも甚だしい!仕事もろくに出来ん奴がよく言うよ。」


 エルヴェツィオは堪らず鼻で笑って言葉をこぼした。


「ままごとの気は済んだか?伯爵ごっこ。良かったな、八年も伯爵ごっこに付き合ってもらって。コラユータ領の皆は優しくて良かったな!
 だが、そのツケは必ず返さねばならん!!」


 笑いを消し、すぐさま冷えた空気を纏ってそう告げるエルヴェツィオに、反論したいが怖くて出来ないビアッジョ。エルヴェツィオの睨みは震え上がるほどだったから。


「ベルトランド伯爵を階段から突き落とした殺人未遂、伯爵家の仕事を引っかき回す業務妨害、器物破損、使用人への威圧、それから…両親を殺した殺人。
罪はたくさんあるな。」


 エルヴェツィオは、口角を上げてビアッジョへと語るように告げる。


「…なんで……」

「なんで?なんでバレたかって事か?悪い事は必ず露見するという事だ。」

「だって…兄さんにもバレなかった!誰にもバレなかったのになんで今さら……」


 驚きを隠せないと、ビアッジョは顔面蒼白になり、取り繕っていた口調もいつの間にか今までのそれになってしまった。


「ビアッジョ、本当に父上と母上を…?」


 半信半疑だったベルトランドも、ビアッジョの言葉で薄々勘づいたようでそれでも認めたくないと確認せずにはいられないと口を挟んだ。


「あぁそうさ!だって口煩かったんだ!!
 兄さんが伯爵家の跡を継いで父さんと母さんは安泰だと喜んだけど、兄さんと比べるような事を毎日のように言うんだ!
『ビアッジョはずっとここに居ればいい。』『コラユータ領はベルトランドが繁栄させてくれるから、お前は心配しなくていい。』
『結婚なんて気にしなくていい。』
『勉強、出来ないなら無理しなくても良い。』
『大丈夫!ベルトランドとはお前は違う!だから気にするな。』
 そう言う度に煩い!オレ様がサフランをもっと有名にさせてやる!って思ったんだ!!」


「なんと…」


 ベルトランドは震え、そんな夫の背中を再び摩るテレーザ。
 ルクレツィアも、手を口に持っていき抑え辛そうにした。それを素早く見たエルヴェツィオは、ルクレツィアのもう片方の手に自身の手を添え優しく握る。
 けれども追求は緩めずに言葉を繋いだ。


「だから口を封じたと?」

「ああそうだ。結果は上手くいっただろう!?」

「お前は食べなかったのか?」

「食べないね!元々、父さんも母さんもたっぷり野菜の入ったスープが大好きだった。特に葉物の入ったスープがいいらしい。
オレ様、根菜なら我慢出来るが葉物野菜は苦手だ。だからオレ様は食べなかった。それは普段通りだし、誰も何も言わなかったのに…見破るなんてさすが王太子サマだな!」


 最後には、あっけらかんとそう言ったビアッジョはなぜだか晴れやかで、誰にも知られなかったその事を見破った王太子はすごいと目をキラキラとさせて尊敬にも似た目を向けた。元々、感情の起伏が激しいビアッジョは、恐ろしいと思っていたのにもかかわらず自分の事を理解してくれた唯一の人だと感じて嬉しい気持ちが芽生えたのだ。


「…じゃあそんなお前に、新たな住処と仕事を与えよう。」


 そんなビアッジョに、エルヴェツィオも若干引き気味ではあったが、今日で会うのも最初で最後だと言葉を続ける。


「え?なんだ?なんでも言ってくれ!!」


 先ほどまでは言葉遣いを気に掛ける余裕も少しはあったビアッジョだがいつの間にか普段通りの口調で嬉々として話している。


「今から騎士団がお前を連れて行く。
まぁ次なる行き先はその内決まるだろうが、そこで今までの罪をしっかり償ってくれ。」

「…罪?オレ様、罪を犯したって?」

「…」


 エルヴェツィオは先ほど伝えたが、ビアッジョは呆けたのかはたまた本当に分からないのかそのように言った為、もう面倒だと首を横に振った。
それを見たバルトロは後を引き継ぎすぐさま言葉を繋ぐ。


「だそうです。
では準備を致しましょう。」

「は?バルトロ、オレ様この家から出て行くっての、本当だったのか!?」

「そうですね、私達は誰かとは違って嘘は言いませんからね。」


 そう言って、バルトロはビアッジョの前まで行って立たせると部屋を出て行こうとビアッジョの腕を掴む。


「おいビアッジョ!」


 最後だとエルヴェツィオは名前を呼びかける。


「ん?なんだ?」

「お前、姪がいた事知ってるか?」

「へ?めい?…姪?さあ?…て、え?まさか王太子サマの隣?なんか、兄さんの妻テレーザに似てる…?」


 首を左右に捻りながらビアッジョは答える。


「貴様がこの屋敷に居座っていたせいで、避難生活を送っていたんだ。で。また階段から突き落とされては適わんからな。」

「えーそんな事しないよ!…って、オレ様兄さんにそういえばそんな事したんだっけ?あー、あん時はごめんね、兄さん。」

「あ、あぁ…。」


 急にそう言われ、ベルトランドは返事に窮しながらも辛うじてそのように答えた。


「…姪には?」

「うーん、オレ様のせい?オレ様がここに居るから姿見なかったの?なんかごめんねー!
 でもさ、オレ様そんな事小さい子どもにしないよ?ん?でも大きいよね、今いくつ?」

「…十五です。」


 ルクレツィアは、エルヴェツィオが未だ握ってくれている手をもう片方の手で包み込むように添えてから絞り出すように答える。


「へー、十五かぁ。すげーな、オレ様叔父さんなの?知らなかった!
十五年も避難生活してたの?なんか本当、ごめんねー!」

「…そうじゃない、そうじゃないが……伯爵夫人には何もないのか?」


 ビアッジョの軽い口調を聞き、エルヴェツィオは頭が痛くなる思いがしたが、やはり悪い事をしたら謝罪は必要だと一応尋ねる。


「テレーザに?うーん、うーん…ああ!オレ様が居たから姪っ子ちゃんと一緒に暮らせなくてごめんねー!
 でもさ、言ってくれたら良かったのに知らなかったよ-。」


 機嫌の良くなったビアッジョは元よりこんな感じて軽い。元来、感情の起伏が激しいから機嫌が良いときもあり、それを知っているからこそベルトランドは見捨てる事が出来なかったのだ。
 だが、今日、ここで決別する事を選んだベルトランドは、最後に重い口を開いた。


「ビアッジョ、私も今まで済まなかったな。
 用意して頂く次なる場所へ行って、しっかり罪を償ってくれ。
 父上と母上の供養を、私はここでしっかりやっていくから。」

「兄さん、オレ様もなんか悪かったね。
くよう?うーん…まぁ良く分からないけど兄さんならいろいろとやるよね。
 じゃあよろしくねー!」


 そう言うビアッジョを連れて、バルトロは準備をするべく応接室を後にした。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~

柚木ゆず
恋愛
 今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。  お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?  ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――

【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、 ある日、父親から結婚相手を紹介される。 そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。 彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。 そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……? と思ったら、 どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。 (なるほど……そういう事だったのね) 彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。 そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている? と、思ったものの、 何故かギルバートの元、主人でもあり、 彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

姉と妹の常識のなさは父親譲りのようですが、似てない私は養子先で運命の人と再会できました

珠宮さくら
恋愛
スヴェーア国の子爵家の次女として生まれたシーラ・ヘイデンスタムは、母親の姉と同じ髪色をしていたことで、母親に何かと昔のことや隣国のことを話して聞かせてくれていた。 そんな最愛の母親の死後、シーラは父親に疎まれ、姉と妹から散々な目に合わされることになり、婚約者にすら誤解されて婚約を破棄することになって、居場所がなくなったシーラを助けてくれたのは、伯母のエルヴィーラだった。 同じ髪色をしている伯母夫妻の養子となってからのシーラは、姉と妹以上に実の父親がどんなに非常識だったかを知ることになるとは思いもしなかった。

【完結】偽者扱いされた令嬢は、元婚約者たちがどうなろうと知ったことではない

風見ゆうみ
恋愛
クックルー伯爵家の長女ファリミナは、家族とはうまくいっていないものの、婚約者であり、若き侯爵のメイフとはうまくいっていると思っていた。 メイフとの結婚が近づいてきたある日、彼がファリミナの前に一人の女性を連れてきた。メイフに寄り添う可憐な女性は、こう名乗った。 「わたくし、クックルー伯爵家の長女、ファリミナと申します」 この女性は平民だが、メイフの命の恩人だった。メイフは自分との結婚を望む彼女のためにファリミナの身分を与えるという暴挙に出たのだ。 家族や友人たちは買収されており、本当のファリミナを偽者だと訴える。 メイフが用意したボロ家に追いやられたファリミナだったが、メイフの世話にはならず、平民のファリとして新しい生活を送ることに決める。 ファリとして新しい生活の基盤を整えた頃、元家族はファリミナがいたことにより、自分たちの生活が楽だったことを知る。そして、メイフは自分が馬鹿だったと後悔し始め、自分を愛しているはずのファリミナに会いに行くのだが――。

幸せじゃないのは聖女が祈りを怠けたせい? でしたら、本当に怠けてみますね

柚木ゆず
恋愛
『最近俺達に不幸が多いのは、お前が祈りを怠けているからだ』  王太子レオンとその家族によって理不尽に疑われ、沢山の暴言を吐かれた上で監視をつけられてしまった聖女エリーナ。そんなエリーナとレオン達の人生は、この出来事を切っ掛けに一変することになるのでした――

処理中です...