【完結】光の魔法って、最弱じゃなくて最強だったのですね!生きている価値があって良かった。

まりぃべる

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誕生祭の準備

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あと1週間ほどで誕生祭。
誕生祭とは、タスリン王国の国王陛下の誕生日です。確か、32歳になるのでしたっけ。
誕生祭は国全体でお祝いする。でもお祝いといっても実際は国民が楽しめる数少ない娯楽です。
うちの領地でも、昼間店を出している人達が販売できるように必要な食材を無償で配ります。
夜は、広場で木を四角形に組んで、火をくべて、燃やします。そして皆で火を囲み、その周りを踊り回るのです。赤々と燃えるそれは、さながら巨大なろうそくのよう。それが地域のそこかしこで燃え上がり、国王陛下の誕生を国民全体で祝うらしいのです。

私も、領主の妹として、たくさんの準備に忙しい。普段店を開いている人達も、商品を安価で出す。でもその商品の出所は、小麦や塩、砂糖などの原料を国や領地が無償で提供する。今も私は領民に紛れて足りない物がないか確認をして回っている。

「ティアさま。見てみて!すてきでしょ?」
「わぁ、リズ。すてきね。お母さんに作ってもらったの?」
リズは領地の町のパン屋の娘。年齢は14歳だったかな。いつもパン屋を手伝っている親思いの子。
薄緑色のワンピースの裾をちょっと摘まんで、私に見せてきた。

「うん!」
「いいわね!とても似合ってるわ。」
「誕生祭では、これを着て踊るのよ!」
「そうなのね。リズ、楽しみね。ダンと踊るの?」
「やだぁ!ダンはまだ何も言ってこないわ。」
ダンは、野菜屋の息子。彼も14歳。リズはダンのことが好きみたい。ダンも多分…。
うーん、これはおせっかいやいてみるかな?誕生祭で、夜に炎の周りを好きな人と一緒にダンスして回るのは、若い世代の憧れらしいもの。

ダンは来年15歳。見習い騎士になるため、王都にある騎士団へ入団するっていってたものね。平民や貴族誰でも騎士団へ入団する事が出来る。もちろん、嫡男でも入団したければ出来るみたい。嫡男だったら、いつか継ぐ時に辞めないといけないけれど、強さが身に付くため入団する人もいるみたい。まぁ有事の時は、前線へ出て戦わないといけないので、生半可な気持ちでは入れないとは思うけれど。

「じゃあ、私はあっちも見てくるわね。リズの方は大丈夫?足りない物があったら言ってね?」
「はい!」

さてと、ダンの店は向かいの通りだったわよね。行ってみましょ。
ダンは体つきは華奢な方で屈強ではない。しかも年下だから、普通にしゃべれるのよね。ダンに限らず、年下の子や、体つきががっしりしていなければそこまで怖くはないので、領地を見回ったり、話したりできる。

「ダン!調子はどう?足りない物はない?」
「よお!ティア様。ないよ!順調だよ。いつもありがとな!」
「いいえー。ところで、リズをダンスに誘ったの?」
「ばっ…何を言うんだよ!誘うわけねーよ!」
ダンが顔を赤くして言った。

「えっそうなの?だってダン、来年騎士団へ入団するんでしょ?そしたら、帰って来れるか分からないじゃない。」
「…だよ。」
「え?」
何て言ったのか小さくて聞こえなかったわ。

「だからだよ!ダンスを誘うって事は、そういう事だろ?でもよ、見習い騎士なんざかっこ悪いだろ。せめてちゃんとした騎士になってから誘うんだよ!」
「えーそんな事言って…じゃあその間にリズがどっかの誰かさんに取られちゃってもいいんだ!」
「う…」
あら、黙っちゃったわ。もう一押しかしら。

「リズ、待ってるのに。ダンから誘われないなら、ヤケになって違う人のお誘い受けちゃうかもしれないわ!それでもいいの?」
「い…嫌に決まってるよ!でもよ…。」
「誘ったあと、ちゃんとそれを言えばいいのよ。自分の気持ちって、言葉にしなきゃ伝わらないのよ。」
「そっか…そうだな!ありがと!俺、リズに言ってくるわ!」
「そう、頑張ってね!」
「おう!」

うふふ。リズ、よかったね!みんなが幸せになってくれると私も嬉しいわ。自分にはそんな幸せがくるとは思えないけど…。

ドン!
「きゃ…!」
私は、ダンの方を向いていたのを、振り向いていきなり歩き出したから前から来た人とぶつかってしまった。そして、フラついてしまう。

「あ、悪い!大丈夫か?」
そう言って、その人はフラついた腕を素早く取って、自分の方へ引き寄せてくれた。

「は、はい…。」

いきなりだったので、心臓がバクバク音がするわ。顔も真っ赤になっている気がする。
「す、すみません…。」
「いや、こちらこそ悪かったな。って、ティア?」

「…エル?ごめんなさい!大丈夫?」

エルは、お父様が連れて来た知り合いの子。私は行かないから詳しく知らないけれど、私兵団で暮らしている。そして、私が出掛けるのによく付き合ってくれる。
エルは何をしているのかイマイチよく分からないけれど、言われないと言う事は聞かない方がいいということだと思っている。だから気にはなるけど、あえてそこは突っ込んだりしていない。
そして、昔から知っているからか、エルはそんなに怖いとは思わないので、普通に話せるのだ。

「ごめん!痛かったろ?」
「私がちゃんと見てなかったから…ごめんなさい。」
「大丈夫なら良かった。どうした?また見回りか?」
「ええ。気になっちゃって。」
「そうか。俺も手伝うよ。一緒に回っていいか?」
「えっでも…」
「いつものことだろ。遠慮すんなって。」
「ありがとう!じゃあお願いするわ!次はあっちなの。」
「よし分かった!」
エルは、何かと手伝ってくれる。原料が足りない所にはお屋敷にある倉庫から運ばないといけないので、とても助かっている。

そういえば、エルは誰かと踊るのかしら。私の近くにいてくれるのだけれど本当は踊りたいとかあるのかしら…?ま、機会があれば聞いてみましょう。


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