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6. あれは、淡い初恋だった気がするのに
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アルフォンシーナの顔の表情が姉二人と違って動かなくなったのには理由があった。
まだ、学校にも通っておらず、庭を駆け回っていても微笑ましいと皆から言ってもらえる年齢で。
その時までは姉二人と同じくアルフォンシーナも表情がクルクルとよく変わる、三姉妹の中で一番天真爛漫で、末娘でもあったからか、良く笑う人懐っこい性格であった。
あれは、いつだったか。
アルフォンシーナにとって忘れたい過去であったからかもう、相手の顔なんて覚えていないし、どこで言われたかも覚えていない。
だが、確かに、素敵だと思っていた男の子に言われたのだった。
それまで楽しく遊んでいた、もしくは一緒にいたとアルフォンシーナは朧気ながら記憶している。だが、突然、その男の子が、
「笑うなよ。その笑顔は、見せないで。」
とアルフォンシーナへ言い放ったのだ。
アルフォンシーナは幼心にも、男の子と一緒にいて楽しいと思っていたし、淡い初恋だったと思っている。
どこかの、生け垣か何かが綺麗に整えられている庭園のような、綺麗な場所だったはずだ。
そこに行けばいつも、とても心落ち着くいい香りがしていた。
誰かの家に招待されたのか、その男の子の家だったのか。
けれどもそれ以降、その男の子に会っていない。もう、顔なんて覚えていないし、何処のだれかなんて事も分からない。
だが、アルフォンシーナは、それを言われた事で、笑う事が出来なくなった。
「笑うなよ」
それ以外にも何か言われた気がするが、笑うなと言われた事で、思考が停止した。
自分の笑顔は、人を不快にしてしまったのだと誤解をしたままーーー。
今までと打って変わったアルフォンシーナに、家族はとても心配した。それ以来、アルフォンシーナは現実から逃げるように自分の部屋で屋敷の書斎にある本をひたすら読むようになる。
王宮内にある図書館にも行きたいと、父にお願いをする事もあった。
そのせいで目が見えにくくなり、遠くのものは目を細めると少し見やすくなるのでどうしてもそれをする癖が抜けなくなる。
部屋にいるか、図書館へ出掛けるかしかしなかったアルフォンシーナに、両親は他の事も勧めるが、他の事にはアルフォンシーナは、首を縦に動かさなかった。
家族は、学校に通えば変わるかと思っていたが一向に良くならない。お友達に誘われお茶会などには行くのだが、顔の表情は大して変わらないままに卒業してしまった。
それならばと貴族の嗜みとされる事に誘い、家族で楽しい時間を過ごそうと何度も誘ってみる。
「アルフォンシーナ。すぐ近くの文化ホールに行かないかしら?オペラを見に行ってみましょう?」
「…オペラ、ですか?」
「ええ。バージリオと行くのだけれどね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?だから、楽しめるかと思って。」
「お父様と行かれるのでしたら、楽しんできて下さいませ。そもそも、子供は行ってはいけないのではないですか?」
「あら。それは一般席での話よ。
教養を身につける為に、見に行く子もいるらしいわ。それにソルディーニ家はボックス席だし、アルフォンシーナにはきっと楽しめると思うわ。」
「そうでしたか。でもやはり私にはまだ早いと思います。お母様、申し訳ありませんが、お二人で楽しんできて下さいませ。」
「……」
「アルフォンシーナ、絵画展に行きましょう?」
「お母様。絵画展ですか?」
「そうよ。アルフォンシーナ、あまり外に出掛けないでしょう?風景の絵画展があるらしいのよ。きっと旅行に行った気分になれるわ。行ってみましょうよ。」
「お母様…私には絵画の良し悪しが分かりませんわ。お父様と行って来て下さいませ。」
「そんな事言わないで?ほら。行きましょう?」
「お母様。楽しいと思う人が行かなければ、飾られている絵画にも失礼ですわ。行ってらっしゃいませ。」
「………」
「アルフォンシーナ、本を買いに行かないかしら?」
「ブルニルタお姉様、どうしたのですか?急に。」
「いえね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?お薦めの本を買おうかと思って。」
「それでしたら、お父様の書斎にありますわ。ご案内します。
それに、私が面白いと思ってもブルニルタお姉様が面白いと思うかは分かりませんわよ。」
「そ、そうね。あ、そうだわ。じゃあ最近リニューアルした雑貨屋があるらしいの。サムエレが街へ出た時に教えてくれたのよ。一緒に行きましょう?」
「雑貨屋…それでしたら、サムエレ義兄様とお出かけになられたらどうですか。サムエレ義兄様も喜びますわよ。」
「……」
なかなかにアルフォンシーナは一筋縄ではいかなかったのである。
まだ、学校にも通っておらず、庭を駆け回っていても微笑ましいと皆から言ってもらえる年齢で。
その時までは姉二人と同じくアルフォンシーナも表情がクルクルとよく変わる、三姉妹の中で一番天真爛漫で、末娘でもあったからか、良く笑う人懐っこい性格であった。
あれは、いつだったか。
アルフォンシーナにとって忘れたい過去であったからかもう、相手の顔なんて覚えていないし、どこで言われたかも覚えていない。
だが、確かに、素敵だと思っていた男の子に言われたのだった。
それまで楽しく遊んでいた、もしくは一緒にいたとアルフォンシーナは朧気ながら記憶している。だが、突然、その男の子が、
「笑うなよ。その笑顔は、見せないで。」
とアルフォンシーナへ言い放ったのだ。
アルフォンシーナは幼心にも、男の子と一緒にいて楽しいと思っていたし、淡い初恋だったと思っている。
どこかの、生け垣か何かが綺麗に整えられている庭園のような、綺麗な場所だったはずだ。
そこに行けばいつも、とても心落ち着くいい香りがしていた。
誰かの家に招待されたのか、その男の子の家だったのか。
けれどもそれ以降、その男の子に会っていない。もう、顔なんて覚えていないし、何処のだれかなんて事も分からない。
だが、アルフォンシーナは、それを言われた事で、笑う事が出来なくなった。
「笑うなよ」
それ以外にも何か言われた気がするが、笑うなと言われた事で、思考が停止した。
自分の笑顔は、人を不快にしてしまったのだと誤解をしたままーーー。
今までと打って変わったアルフォンシーナに、家族はとても心配した。それ以来、アルフォンシーナは現実から逃げるように自分の部屋で屋敷の書斎にある本をひたすら読むようになる。
王宮内にある図書館にも行きたいと、父にお願いをする事もあった。
そのせいで目が見えにくくなり、遠くのものは目を細めると少し見やすくなるのでどうしてもそれをする癖が抜けなくなる。
部屋にいるか、図書館へ出掛けるかしかしなかったアルフォンシーナに、両親は他の事も勧めるが、他の事にはアルフォンシーナは、首を縦に動かさなかった。
家族は、学校に通えば変わるかと思っていたが一向に良くならない。お友達に誘われお茶会などには行くのだが、顔の表情は大して変わらないままに卒業してしまった。
それならばと貴族の嗜みとされる事に誘い、家族で楽しい時間を過ごそうと何度も誘ってみる。
「アルフォンシーナ。すぐ近くの文化ホールに行かないかしら?オペラを見に行ってみましょう?」
「…オペラ、ですか?」
「ええ。バージリオと行くのだけれどね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?だから、楽しめるかと思って。」
「お父様と行かれるのでしたら、楽しんできて下さいませ。そもそも、子供は行ってはいけないのではないですか?」
「あら。それは一般席での話よ。
教養を身につける為に、見に行く子もいるらしいわ。それにソルディーニ家はボックス席だし、アルフォンシーナにはきっと楽しめると思うわ。」
「そうでしたか。でもやはり私にはまだ早いと思います。お母様、申し訳ありませんが、お二人で楽しんできて下さいませ。」
「……」
「アルフォンシーナ、絵画展に行きましょう?」
「お母様。絵画展ですか?」
「そうよ。アルフォンシーナ、あまり外に出掛けないでしょう?風景の絵画展があるらしいのよ。きっと旅行に行った気分になれるわ。行ってみましょうよ。」
「お母様…私には絵画の良し悪しが分かりませんわ。お父様と行って来て下さいませ。」
「そんな事言わないで?ほら。行きましょう?」
「お母様。楽しいと思う人が行かなければ、飾られている絵画にも失礼ですわ。行ってらっしゃいませ。」
「………」
「アルフォンシーナ、本を買いに行かないかしら?」
「ブルニルタお姉様、どうしたのですか?急に。」
「いえね、アルフォンシーナはたくさん本を読んでいるでしょう?お薦めの本を買おうかと思って。」
「それでしたら、お父様の書斎にありますわ。ご案内します。
それに、私が面白いと思ってもブルニルタお姉様が面白いと思うかは分かりませんわよ。」
「そ、そうね。あ、そうだわ。じゃあ最近リニューアルした雑貨屋があるらしいの。サムエレが街へ出た時に教えてくれたのよ。一緒に行きましょう?」
「雑貨屋…それでしたら、サムエレ義兄様とお出かけになられたらどうですか。サムエレ義兄様も喜びますわよ。」
「……」
なかなかにアルフォンシーナは一筋縄ではいかなかったのである。
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