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15. 疲れた体
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「アレッシア、ゆっくり食べなさい。」
そう言って、食べ終わった人物はアレッシアに優しい笑みを浮かべながらお茶を一口飲む。
それにうん、と一つ頷いたアレッシアはしかし話しかける。
「ありがとうございます。
そういえば、私先生に名前をお伝えしましたか?」
と、疑問に思っていた事を伝える。白衣を着ていないから先生ではないかもしれないが、とりあえずそう呼んでみた。
今まで、ここにいる作業員といえば〝新入り〟だの〝新人〟だの〝お前〟などとしか言われなかった。ジャンパオロとグイドは同じ部屋だからか名前で呼び合っているけれど。
「あー…ごめん。まぁそれは……。
それよりも、俺は〝先生〟ではない。フィオリーノというちゃんとした名前がある。出来ればあいつら…グイドやジャンパオロのように名前で呼んでくれ。」
と、そのように言われて、さらに首を傾げそうになったがアレッシアは一つ頷いた。グイドやジャンパオロの名前を言っているから、その二人から自分の名前を聞いているのかとその点は納得したのだ。
「分かりました。フィオリーノさん、先生じゃなかったのですね。それなのに助けて欲しいなんてお願いしてすみませんでした。でも、的確に指示して下さって有難かったです。」
先ほど、食堂でフィオリーノの姿を見つけ、とりあえず助けて欲しいと言ったのだが、先生でなかったのに申し訳ないと思ったのだ。それでも、先生でなくとも採掘班長のパオロに指示をしてくれ、グイドを処置する為に連れ出してくれた事には変わりなく感謝を述べる。
「いや…俺は当然の事をしたまでだよ。アレッシアが血相を変えて助けて欲しいと言ってきたんだからね。助けないわけにはいかないさ。」
と、フィオリーノは澄ました顔でそのように言って、さらに続ける。
「それよりも、グイドだね。あいつの容態は大した事ないから安心して。横に倒れた時に体を打ちつけたみたいだったが、意識を取り戻したあとは何一つ普通にしていた。恐らく頭は腕で無意識に庇ったんだろう。
あいつ…ジャンパオロの事を酷く心配していてね。それで作業中もジャンパオロの事を考えていて手元が愚かになったそうだ。」
「まぁ…!でも、それなら良かったです。」
「あぁ。怪我は打ち身で大した事はなかった。でもしばらくは様子を見ようと、安静にしてもらうつもりだ。遅れて来た医者からの診断もしてもらったから安心して欲しい。
ジャンパオロにもそれを伝えて、昼飯はそっちで食べてもらう事にした。だからこっちには来ないんだ。」
「そうだったのですね、本当に良かったです。さっき倒れていた時、グイドそん意識が無いように思えたから心配で。
教えて下さってありがとうございます。」
「いや。アレッシアは同室だから心配だろうと思ってね。
でも、グイドがあまりにジャンパオロの事を気にしているものだから、グイドが今居る場所に、ジャンパオロの寝床を作るそうだ。一応怪我人だからね、心も安定してもらわないといけないから。
だからアレッシア、今日は部屋は一人になるけれど、大丈夫か?」
「そうですか…。はい、大丈夫です。」
アレッシアはそれを聞いて、グイドはよっぽどジャンパオロの事が大切なんだと思った。
(私が弟の事を気に掛けるように、グイドさんもジャンパオロさんの事が心配でたまらないのね。)
アレッシアは、二人はどのような間柄なのか聞いていないから分からないが、漠然とそのように思ったのだ。
「もし、アレッシアさえ良かったら俺、そっちで今日は泊まろうかと思うんだが。」
「え?」
「だから、部屋に一人だろう?その…アレッシアが心配だから。」
なぜだか下を向きながら歯切れの悪くなったフィオリーノを、アレッシアはどうしたのだろうと気になって顔を覗き込み、きっと面倒身がいいのだろうと結論づけ、微笑んでから努めて明るく言った。
「ありがとうございます。けれど、大丈夫です。今日もきっと記憶が曖昧になるほど疲れますから、すぐに眠ってしまいます。」
それを聞いたフィオリーノは、まぁそうか…と呟き、遠くへ視線を移すとまたお茶を啜った。
☆★
「それはそうとアレッシアは何故こちらへきた?君もジャンパオロのように、別の部署で働くか?そうすれば部屋も代われるだろう。」
アレッシアが食事を終え、あと少しで休憩時間も終わろうとする頃にそうフィオリーノが言う。
アレッシアはそれに対して別の部署?と疑問に思ったが、言葉を返す。
「いいえ。確かに大変ですが、皆さんもやられてます。それにたくさんのお金を頂く為にはそれなりの事をしなければならないと思いますから。」
と、無難に答える。アレッシアは家の経済状況が分かっていて、楽に稼げる仕事なんてないと思っているからそのように応えた。
「お金が必要なのか…?まぁ、ここで働くという事は、それなりの理由があるとは思ったが…。」
「はい。弟がもうすぐ入学なのです。そのための資金が必要なので。」
そう言うと、食べ終えた食器を片づけようと立ち上がる。フィオリーノもそれにならって立ち上がり、同じように歩き出す。
「そうか……アレッシアは、家族想いなんだな。」
「いえ。私が出来る事といえばそのくらいですから。それに、初めは父がこちらで働こうとしたそうです。でもそれはボリボル…あ、家の者に止められた為に、私が代わりに務める事となったのです。でも、それは私がそのように決断した事なので後悔もしていませんし、与えられた仕事をこなそうと思います。だってすでにお金を頂いて、家に届けてもらいましたから。」
そう言ったが、きちんと届けられたかしらと今さらながら疑問に思うアレッシア。だが、不正はない、きちんと届けるとチーロが言っていたので、それを信じる他なかった。
「そうか……まぁ、辛くなったら俺にいいなさい。分かったね?」
そう言うと、二人はお盆を片づけたあと、フィオリーノがアレッシアを作業場まで送り届けると言って、作業場までついてきてくれた。
「じゃあね、アレッシア。無理をするなよ。」
「は、はい。」
まるで、その作業場にいる全員に聞こえるような大きな声でそう言ったフィオリーノは、近くにいたパオロの肩を叩いて二言三言耳元で囁くと、そこから去って行った。
(あんなに大きな声で言わなくても聞こえるのにな、周りに聞こえているからちょっと恥ずかしいくらい…でも、グイドさんもジャンパオロさんも居ないし、きっと心配してくれたのよね。だからそう言ってくれて嬉しいかも。)
アレッシアは、そう思いながら作業に一人、精を出した。
☆★
(ん…あれ?私……?)
アレッシアは、ベッドの上で目を覚ますと、昨夜と同じ服を着たままなのが目に入った。
あれから仕事を終え、夕食を食べたあと、下着を持っていこうと風呂に入る前に部屋に寄ったアレッシアは、ベッドを見るや疲れた体はその誘惑に勝てず、作業で少し汚れた服のまま倒れ込みそのまま朝まで眠ってしまったのだ。
(え、今何時?)
だが、上体を起こそうとするも重い感じがしてなかなか起き上がる事が出来なかった。
コンコンコンコン
「アレッシア?起きてるかい?」
と、そこに部屋の外から扉を叩く音がした。なかなか食堂へと起きて来ないフィオリーノが心配して部屋まで来たのだ。
「ん…」
声を出そうとしたアレッシアだが、喉もなんとなく痛い。張り付いたようでなかなか上手く言葉が出なかった。
「アレッシア、開けるよ。」
フィオリーノはそのか細い声が、助けを求めているようにも聞こえ、そう優しく声を掛けて扉を開けた。
「アレッシア、どうした?そっちまで行ってもいいか?」
部屋に入っても、中央の居間の場所にアレッシアの姿は無く、未だ衝立の向こう側の個人用の部屋にいるのだと思ったフィオリーノはそのように断りを入れると、アレッシアの方へと向かった。
そう言って、食べ終わった人物はアレッシアに優しい笑みを浮かべながらお茶を一口飲む。
それにうん、と一つ頷いたアレッシアはしかし話しかける。
「ありがとうございます。
そういえば、私先生に名前をお伝えしましたか?」
と、疑問に思っていた事を伝える。白衣を着ていないから先生ではないかもしれないが、とりあえずそう呼んでみた。
今まで、ここにいる作業員といえば〝新入り〟だの〝新人〟だの〝お前〟などとしか言われなかった。ジャンパオロとグイドは同じ部屋だからか名前で呼び合っているけれど。
「あー…ごめん。まぁそれは……。
それよりも、俺は〝先生〟ではない。フィオリーノというちゃんとした名前がある。出来ればあいつら…グイドやジャンパオロのように名前で呼んでくれ。」
と、そのように言われて、さらに首を傾げそうになったがアレッシアは一つ頷いた。グイドやジャンパオロの名前を言っているから、その二人から自分の名前を聞いているのかとその点は納得したのだ。
「分かりました。フィオリーノさん、先生じゃなかったのですね。それなのに助けて欲しいなんてお願いしてすみませんでした。でも、的確に指示して下さって有難かったです。」
先ほど、食堂でフィオリーノの姿を見つけ、とりあえず助けて欲しいと言ったのだが、先生でなかったのに申し訳ないと思ったのだ。それでも、先生でなくとも採掘班長のパオロに指示をしてくれ、グイドを処置する為に連れ出してくれた事には変わりなく感謝を述べる。
「いや…俺は当然の事をしたまでだよ。アレッシアが血相を変えて助けて欲しいと言ってきたんだからね。助けないわけにはいかないさ。」
と、フィオリーノは澄ました顔でそのように言って、さらに続ける。
「それよりも、グイドだね。あいつの容態は大した事ないから安心して。横に倒れた時に体を打ちつけたみたいだったが、意識を取り戻したあとは何一つ普通にしていた。恐らく頭は腕で無意識に庇ったんだろう。
あいつ…ジャンパオロの事を酷く心配していてね。それで作業中もジャンパオロの事を考えていて手元が愚かになったそうだ。」
「まぁ…!でも、それなら良かったです。」
「あぁ。怪我は打ち身で大した事はなかった。でもしばらくは様子を見ようと、安静にしてもらうつもりだ。遅れて来た医者からの診断もしてもらったから安心して欲しい。
ジャンパオロにもそれを伝えて、昼飯はそっちで食べてもらう事にした。だからこっちには来ないんだ。」
「そうだったのですね、本当に良かったです。さっき倒れていた時、グイドそん意識が無いように思えたから心配で。
教えて下さってありがとうございます。」
「いや。アレッシアは同室だから心配だろうと思ってね。
でも、グイドがあまりにジャンパオロの事を気にしているものだから、グイドが今居る場所に、ジャンパオロの寝床を作るそうだ。一応怪我人だからね、心も安定してもらわないといけないから。
だからアレッシア、今日は部屋は一人になるけれど、大丈夫か?」
「そうですか…。はい、大丈夫です。」
アレッシアはそれを聞いて、グイドはよっぽどジャンパオロの事が大切なんだと思った。
(私が弟の事を気に掛けるように、グイドさんもジャンパオロさんの事が心配でたまらないのね。)
アレッシアは、二人はどのような間柄なのか聞いていないから分からないが、漠然とそのように思ったのだ。
「もし、アレッシアさえ良かったら俺、そっちで今日は泊まろうかと思うんだが。」
「え?」
「だから、部屋に一人だろう?その…アレッシアが心配だから。」
なぜだか下を向きながら歯切れの悪くなったフィオリーノを、アレッシアはどうしたのだろうと気になって顔を覗き込み、きっと面倒身がいいのだろうと結論づけ、微笑んでから努めて明るく言った。
「ありがとうございます。けれど、大丈夫です。今日もきっと記憶が曖昧になるほど疲れますから、すぐに眠ってしまいます。」
それを聞いたフィオリーノは、まぁそうか…と呟き、遠くへ視線を移すとまたお茶を啜った。
☆★
「それはそうとアレッシアは何故こちらへきた?君もジャンパオロのように、別の部署で働くか?そうすれば部屋も代われるだろう。」
アレッシアが食事を終え、あと少しで休憩時間も終わろうとする頃にそうフィオリーノが言う。
アレッシアはそれに対して別の部署?と疑問に思ったが、言葉を返す。
「いいえ。確かに大変ですが、皆さんもやられてます。それにたくさんのお金を頂く為にはそれなりの事をしなければならないと思いますから。」
と、無難に答える。アレッシアは家の経済状況が分かっていて、楽に稼げる仕事なんてないと思っているからそのように応えた。
「お金が必要なのか…?まぁ、ここで働くという事は、それなりの理由があるとは思ったが…。」
「はい。弟がもうすぐ入学なのです。そのための資金が必要なので。」
そう言うと、食べ終えた食器を片づけようと立ち上がる。フィオリーノもそれにならって立ち上がり、同じように歩き出す。
「そうか……アレッシアは、家族想いなんだな。」
「いえ。私が出来る事といえばそのくらいですから。それに、初めは父がこちらで働こうとしたそうです。でもそれはボリボル…あ、家の者に止められた為に、私が代わりに務める事となったのです。でも、それは私がそのように決断した事なので後悔もしていませんし、与えられた仕事をこなそうと思います。だってすでにお金を頂いて、家に届けてもらいましたから。」
そう言ったが、きちんと届けられたかしらと今さらながら疑問に思うアレッシア。だが、不正はない、きちんと届けるとチーロが言っていたので、それを信じる他なかった。
「そうか……まぁ、辛くなったら俺にいいなさい。分かったね?」
そう言うと、二人はお盆を片づけたあと、フィオリーノがアレッシアを作業場まで送り届けると言って、作業場までついてきてくれた。
「じゃあね、アレッシア。無理をするなよ。」
「は、はい。」
まるで、その作業場にいる全員に聞こえるような大きな声でそう言ったフィオリーノは、近くにいたパオロの肩を叩いて二言三言耳元で囁くと、そこから去って行った。
(あんなに大きな声で言わなくても聞こえるのにな、周りに聞こえているからちょっと恥ずかしいくらい…でも、グイドさんもジャンパオロさんも居ないし、きっと心配してくれたのよね。だからそう言ってくれて嬉しいかも。)
アレッシアは、そう思いながら作業に一人、精を出した。
☆★
(ん…あれ?私……?)
アレッシアは、ベッドの上で目を覚ますと、昨夜と同じ服を着たままなのが目に入った。
あれから仕事を終え、夕食を食べたあと、下着を持っていこうと風呂に入る前に部屋に寄ったアレッシアは、ベッドを見るや疲れた体はその誘惑に勝てず、作業で少し汚れた服のまま倒れ込みそのまま朝まで眠ってしまったのだ。
(え、今何時?)
だが、上体を起こそうとするも重い感じがしてなかなか起き上がる事が出来なかった。
コンコンコンコン
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と、そこに部屋の外から扉を叩く音がした。なかなか食堂へと起きて来ないフィオリーノが心配して部屋まで来たのだ。
「ん…」
声を出そうとしたアレッシアだが、喉もなんとなく痛い。張り付いたようでなかなか上手く言葉が出なかった。
「アレッシア、開けるよ。」
フィオリーノはそのか細い声が、助けを求めているようにも聞こえ、そう優しく声を掛けて扉を開けた。
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