きもちいいあな

松田カエン

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新規任務準備編

37.わたしの存在

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 生木が混じっていたのか、火元からパチッと木の爆ぜる音がする。
 その音にアーモスははっと目を覚ましたような表情を浮かべ、ぽたりと自分の鎧に落ちた鼻血に気づいて、顔を青ざめた。下唇を噛んで鼻を乱雑に拭う。火の光にきらりと光る彼の目元を見て、盛り上がっていた気分に、ばしゃんと水が掛けられる。ぽろっと涙を零した彼に、さすがの私も罪悪感が沸いた。

 な、泣かせてしまった……。

「くっそ!こんな子供に欲情しちまうなんて、俺最低じゃねえか……」
「大丈夫か?」
「……平気だ。あー……さぁクーちゃん、ちょーっとおててどけようなー」

 気遣うドゥシャンの声に、アーモスは布で赤混じりの鼻水をかむと、短く頷いた。彼の言葉に指を引き抜くと、私の指より細い指が、雄を誘う穴に差し入れられる。中を探るように動かされ、ちゅくちゅくと秘めた水音が下半身から漏れた。それでは足りない。私は腰を揺らした。

「んっ、もっと……っ」
 そう訴えながらアーモスに視線を向けるが、彼は私には目を向けず、顔をしかめたまま指を引き抜いた。
「女性器みたいに、中から愛液が出てくる……。あいつら、なんつう術を使うんだ……!」
「オドヴァール様は、戦闘奴隷にしていたようだと言ってたが、これは……」

 絞りだしたような声で言われるが、私の尻を性器に仕立て上げたのは魔族だ。だが、それをバラすわけにもいかない。……くっ、2人とも沈痛そうに私から視線を外してしまうが、私はまだおちんぽほしいのだ。入れてくれ。

「っ……あにゃ、あちゅい、いれれ……っ」
 指を伸ばしてくぽくぽ弄り始めると、その手をアーモスには掴んで引き抜いてしまう。ドゥシャンは持ち上げていた私の足を下ろすと、石の上に敷いていた布を広げて、私を包み始めた。……これ、エリーアス様ならもっとうまくやったのだろうな。悔しい。

「おひんぽ、にゃか、らめ?」
「……だめだ」
 見上げながらドゥシャンに問いかけたが首を振られた。鼻血まで出してくれたアーモスは、と物欲しげなまなざしを向けると、「……」と顔を逸らしながら断られてしまう。

「……」

 しかし、獣人は皆、私には入れてくれないのだな。子供の引率を任されるだけあって、彼らはとても真面目なのだろう。……どれだけユストゥスがド変態か、よくわかるような……。だがこうなると、なにも注がれずに我慢などできはしない。今も腹が疼いて、疼いて仕方ないのだ。
 布に包まれたまま、籠に運ばれて降ろされるが、このまま大人しく寝れるわけがないだろう。私は邪魔な布をびりりと破ると、身体を起こしながら、伸びてきたドゥシャンの手をぺしゃっと叩いた。

「しゃわるな」
「クンツちゃん……」

 大きな男が、私に手も足も出ないというのも不思議なものだった。ふらっと立ち上がった私に、今度はアーモスが近づいてくるが、私は彼にも手に握ったものを振るって、遠ざける。何を握ったのだろうと見てみれば、さっき私が籠に入れた馬のぬいぐるみだった。なぜ、このようなものを握っているのだ……まあいい。シャツしか身に着けていないせいで、少し肌寒い。かといって服を着る余裕もないし、その気もなかった。

 熱い吐息を零しながらよたよたと歩いて、トランクケースを開けてひっくり返す。中から出てきたポーションの一つを掴むと、その野営地から離れ始めた。離れるにつれて明かりのない森は真っ暗になる。小さな虫の鳴き声や、私が立てる葉の擦れる音、夜の動物の気配。それから、つかず離れずの距離を保つ、獣人の足音。霞む思考の中でそれらを感じながら、やみくもに歩き、そのうちに巨木の下にたどり着く。夜露に濡れた下草が柔らかそうだった。

「んっ……」
 その場に膝をつくと、ぽとりとぬいぐるみを手放し、私は震える手でポーションの封を切った。それの形は円柱の一輪挿しのような形状をしていて、肉棒代わりには物足りない。だが、そこはメインではないのでいいだろう。
 私はぴたりとそれをおまんこに押し当てて、ずぶずぶと腰を下ろした。半分ほど入った時点で、上半身を倒して下半身を持ち上げる。とぷとぷとぷ……っと液体がナカに流れ込んだ。

「っふ、あ、あ、ぁっ」
 冷たい液体にきゅうっとナカが締まる。片手で前を握り、後ろに刺さった、ポーションの瓶を抜き差し始める。冷たい。熱い精液じゃない。これは美味しくない……っ。それでも、そのままの姿勢で自分を慰めていく。すぐにペニスが快楽で弾け、びゅうっと下草を白濁で汚した。ぐりぐりナカに無機質な瓶の入り口を押し付けて、快感を拾う。ひどく簡単にナカでも達してしまう。

 伏せった鼻先をくすぐる草の香り。肌寒さ。ひく、っと喉が鳴った。意識しだすと止まらない。

「ゆす……ユストゥス……っ」
 きょうは、きょうはユストゥスに、おちんぽもらう予定だったのに。2人で、いっぱい、きもちよく、なるはずだったのに。
「ふっ……ぐ、ずっ……ゆす、とぅす……っ」
 なぜ、こんな冷たく寒く暗い場所で、私は1人なのだ。……あの狼が全部悪い。悪いことは、全部、あいつのせいだ。せっかくエリーアス様から淫紋もらったのに上手く誘えないのも、ドゥシャンとアーモスにおちんぽもらえないのも、ぜんぶあいつがわるい。
「ひっ、ん……っゆすとぅす……」

 温かい腕が恋しかった。

 何度も前でも後ろでも、絶頂を繰り返していると、腕が怠くなってくる。疲れた。疼く下腹は変わらないが、栄養剤の効果はてきめんだったようで、無性に欲しいと思っていた肉棒がなくても、落ち着いてきた。

「ぅう……っ」
 揺らしていた腰が力尽きて落ち、籠で寝ていたときのように手足を縮こませる。子供っぽいと思いつつも、ぬいぐるみを胸に抱き込むのを止められない。じんじん熱を持った身体だけが熱くて、ため息を零す。

「ユストゥスの、ばか……」
 そう愚痴をこぼすと、心がすっとする気分だった。草木をかき分けて近づいてくる足音を聞きながら、目を閉じる。男の大きな手で抱き上げられるが、不貞腐れたまま、私は目を開かなかった。





 翌朝、ふと目が覚めた。朝霧漂う森はまだ薄暗い。昼寝をしたせいもあってか、誰よりも早く起きたようだ。いつの間にか戻されていた籠の中でもそもそと動く。服は脱がされて、一着だけ持っていた、迷彩機能のある伸縮性のある服に代えられていた。散々体液で汚れていた身体は、綺麗に清められている。
 ……いい感じに無気力だったのだが、やはり2人とも襲ってくれなかったらしい。あんなえっちな穴が転がっているのだから、倫理観など気にせず、入れればよいのに。

 これが人族相手ならば、無理やりにでもレイプしてしまうのだが、あそこまで拒否感を出されるとやりにくかった。絶対トラウマになるではないか。さすがに可哀想だ。……寮に帰ったら、ベッカーにも優しくしておこう。ふざけて迫るのは、よくないな。
 そこまで考えて、疼きが収まっていることに気づく。エリーアス様はなんと言っていただろうか。夜になると、反応する、だったか。そして私は3日と区切った。つまりはあと2日、昨晩と同じ状況が続く。

 ため息をかみ殺して、首だけ出して、周囲を伺う。くすぶる火元にアーモスが寝ており、私の籠のそばには、ドゥシャンが身体を丸めて寝ていた。物音には敏感な獣人たちを起こすのは忍びなくて、籠から出るのは諦める。寝ずの番を用意するわけではないのは、起きれる自信があるからだろう。もしかしたら、完全には寝ていないのかもしれない。
 そのまましばらく籠の中で、つまらない時間を過ごした後、鳥の声が聞こえてきたころに、私は起き出すことにした。喉も渇いたし、昨晩とは違う生理現象が私を呼んでいる。
 籠のすぐそばに、靴が置かれていた。それを履いたところで、ドゥシャンがのっそりと動き出した。

「おはよう、ドゥシャン」
「……おはよう、クンツちゃん」

 気まずいのか視線が逸らされる。彼らにしてみれば災難だろう。こんな得体の知れない、子供の匂いもする、変な生き物に関わってしまって。私は小さく息を吐くと「小用を足してくる」と告げて天幕から出た。アーモスも起き出してこちらを見る。

「おはようアーモス」
「おは、よう」

 ドゥシャンよりも彼の方が顕著でしどろもどろになってしまった。あえてそこまで触れずに、彼らの視線の届くぎりぎりの範囲の木陰で立ったまま用を足す。視線が背に驚くほど突き刺さる。
 戻ってくると、なるべく彼らとは離れた位置に腰を下ろした。枝を拾って、火元をつつく。空気を送り込むと、燻っていた火がぽっとついた。対角線上には、アーモスがおり、ドゥシャンもその隣にどかりと腰を下ろした。

「あー……クーちゃん、男の子だったんだな」
「そうだ。騙していて、すまない」
「だ……騙してなんかないさ!……その、俺たちが勘違いしていただけで……」
 アーモスは落ち着かない様子のまま視線をあちこちに彷徨わせて、場が持たないのか「くそ……」とぼやきながら頭を掻いている。

「アーモス、朝食の用意をしてくれ。クンツちゃんに何も食わせてねえ」
「あ、そうだったな」

 ドゥシャンの言葉に、アーモスが動き出す。それを見やって、大きな熊はそろりと立ち上がり、私との距離を詰めてきた。

「今は身体に変調はないか?」
「淫紋の話だろうか。あれは夜だけ反応すると聞いている。昨日含めて、3日だけのはずだ」
「3日……淫紋が付けられたときのことを、詳しく教えちゃもらえないか」

 あと2日で終わるから安心してほしい、と伝えるつもりが、逆に詳細を聞かれた。……まずい。
 一応、コンラーディン王国での私の生い立ちというか経緯は、奴隷として売られていたのを群青騎士団が拾ったことにしてある。
 見た目も大人のようだし、いや、大人なのだが、えーと、まあ大人と偽って入団し、買い上げられた際の金額を返す名目で騎士として働いていたという話にしたはずだ。オドヴァール殿と初めてお会いしたときも、私は鎧を身に着けていたし、戦っていたからな。
 だから私は戦闘奴隷で良いように使われていた、と思われていたようだが、昨日私が淫紋で発情したときに、せ、性奴隷と思われてしまった。なぜなら淫紋があるから。そして、その淫紋を誰が付けたかを聞かれると……。どうしよう。なんと答えればいいのか。正直に答えるなら、小隊長に付けられたというべきなんだろうが、エリーアス様を他国に売るようで心苦しい。……いや、本当にエリーアス様に付けられたのだが。そこまで言って、問題にならないだろうか。

「い……言いたく、ない」

 結局、私は幼女のふりをすることにした。膝を抱えて、その膝に顔をうずめる。ああでも、男だとバレているのだったか。……わざとらしいか。さてどうしよう。
 少しでも時間稼ぎになればとそのまま押し黙っていると、ドゥシャンから唸り声が聞こえてきた。驚いて顔を上げる。彼はこめかみを手で覆うようにして、顔を隠していた。その手の下から覗く、威嚇するように剥きだした歯が鋭い。私が息を飲むと、ドゥシャンはあわてたように顔を上げ、首を横に振った。

「ああ、すまん。クンツちゃんに唸ったわけじゃないんだ。……迎えに行くのが遅くなって、こんなつらい目に合わせちまって、本当にすまなかった」

 深く、謝られてしまった。なぜだろう、心が苦しい。ドゥシャンは私に手を伸ばしてくるが、まるで腫れものでも触るかのように、寸前で止まってしまった。どくんと心臓が嫌な音を立てる。

「……別に、私は。……、……私は平気だ。その、……昨日は拒まれたが、気持ちいいことは好きなのだ」
 そう笑うが、憐憫を催すような眼差しを向けられる。
「っそ、それに、私はアーモスよりも大きいし、大人だし、雌ではないから、孕むこともないし」
 頼むから、そんな目で、私を見ないでほしい。
「淫紋だって、べつにあっても悪くない。だってとても気持ちがいいのだ」
 私を哀れまないで、ほしい。

「ドゥシャンも、アーモスも、わたしに入れてみればわかる。そうだ、いまからでも試して「クンツちゃん……それ以上は言わなくていい。無理に聞いて、悪かった」」

 辛そうにドゥシャンは首を振り、「水を汲んでくる」と立ち上がってしまった。少し離れたところにいるアーモスは、こちらの声が聞こえているようで、涙を堪えるような仕草をしている。

 わた、私は……。
 そんなに、悲しい存在、なんだろうか。

「いっ……、……?」
 一瞬、頭に突き刺すような痛みが走った気がした。だがそれは瞬く間に消えてしまう。なんだったのだろう。……あれ、なにを考えていたのだったか。忘れてしまった。

 そういえば、昨日放り投げたカトラリーはどうなったんだろう。あと私のひっくり返したトランクケース。
 ふと思い出して荷物のある場所に向かう。トランクもそこにあり、開けてみると、きれいに整頓されていた。減ったものもなさそうだ。オドヴァール様にいただいた服を探せば、少し離れた木の枝にかけてある。それに触れると、全体的に少し湿っていた。どちらかが洗ってくれておいたのか。あとで礼を言おう。

「アーモス、私のフォークとスプーンはどこにあるだろうか」
「えっ、ああ、それならこっちにあるぜ」

 野営用の食器をしまっているところに一緒に入れられていた。よかった。ちゃんとあった。
「ありがとうアーモス。あと服も、洗ってくれてありがとう」
「ああ、いや、うん……」

 何か言いたげなアーモスからカトラリーを受け取り、自分のトランクケースにしまう。アーモスの視線が、私の少し上に向けられていて、思わず後ろを見るが、何もない。うん?首を傾げていると、ドゥシャンが戻ってきた。見れば手には昨日の鍋とは違う、一回り小さな鍋を持っている。

「ドゥシャン、喉が渇いたのだが、水を分けてもらえるだろうか」
「っああ、悪かったな」
 木でできたコップにその鍋の水を移してもらって飲む。うん、美味しい。ドゥシャンの視線も、私の頭を彷徨う。

「ありがとう、ごちそうさま」
「え、あ、クーちゃん?昨日の夜も食べてないし、今用意するから待ってて」
「そうか、朝食だったな」

 焚火の火を強くして、昨日の鍋を火にかけている。彼らも食べていないようで少しも減っていなかった。しばらくするといい匂いが鼻をくすぐる。スプーン……あ、さっきしまったのだったか。
 トランクケースからもう一度カトラリーを取り出す。ちゃんと転移先の袋もトランクの中にあったことを確認した。これで物を食べれば、その量は十分の一程度になるだろう。袋の中身は定期的に捨てなければいけないが、小用の時にでも捨てるか。

「アーモス、私は少しでいい。あまり食べられないんだ」
「へ……でもクーちゃんただでさえ細いのに、ちゃんと食べないとだめだぜ?」
「食べれないんだ。おそらく量を取ると、吐くと思う」

 そう告げると、また彼らの目が悲し気に……、っ……なんだろうか、少し頭の調子が悪い。こめかみを手のひらで軽く押すように触れると、指先にふわふわの耳が触れた。それはぺったりと伏せている。感情に合わせて動くのではなかったのだろうか。自分で持ち上げてみても、手放すとそれは、また伏せてしまった。……まあいいか。

「このコップに入る分だけくれればいい。残りは2人で食べてくれ」
 水を飲む際に借りたコップに入れてほしいと告げると、ため息をついたアーモスは、私の願い通りにしてくれた。
 昨晩食べれず、一晩置いた鍋は味が染みていて美味しかった。ほとんど固形物を口にしないまま、私の朝食は終わる。最後にもう一杯だけ水をもらった。

「今日は、私も走りたいのだが、いいだろうか」
「えっ……でも、すごく速いぜ?」
「大丈夫鍛えている。……でも、付いて行けないようなら、待たせると悪いし、その時はまた籠に入れてくれると嬉しい」

 野営地の撤収作業中にそう頼み込むと、彼らは顔を見合わせ、少し戸惑いながらも頷いてくれた。そうと決まればストレッチだ。関節を柔軟に動かす。魔肛持ちは筋肉も関節も皆柔らかくなる。
 いろんな体位ができていいよなと笑ったのは誰だったか……。ああライマー先輩だ。今日はやはり、頭が良くないな。なんだかぼんやりしてしまう。とんとんと頭を叩いていると、アーモスが恐る恐る、私の顔を覗いてきた。

「具合、良くないんじゃないか?昨日も、その……」
「別になんでもない。ほら、準備できたのなら行こう」

 私のトランクも、ドゥシャンが持ってくれるし、私は完全に身軽である。晴れやかに笑って促せば、彼らも私の足を止めなかった。そして走ってついていくことにしたのだが、これがとても速かった。
 野営のほとんどの装備を背負っているドゥシャンも速ければ、鎧を身に着けて細々とした残りの野営品をもったアーモスも速かった。じゅ、獣人の身体能力は侮れない……。

「……クンツちゃん、大丈夫かい?」
「らい、らいじょぶ……」

 何度も休憩を入れてもらう羽目になった。今も、国道から少し外れて草原で休憩する。今日の目的地だという山脈のふもとには、まだまだたどり着かない。あお向けに寝転がって乱れた呼吸を整えていると、ドゥシャンがコップに水を入れてくれた。起き上がってその水を飲み干す。そしてまたぱったりと倒れた。

「クーちゃん、そんなに細くて体力ないんだから、あんま無理するなよ。籠が嫌なら俺が背負うし」
 ほそい……たいりょくがない……。
 ぶすぶす突き刺さる言葉に、私は項垂れてしまった。もっと鍛えるべきだろうか。

 しかし、今の鎧のサイズを考えると、胸回りや太ももが入らなくなるのは困る。あいつがせっかく手入れをしてくれている鎧を大事につかいた……、あれ、また調子がわるい。えっと、あいつだあいつ。ド変態で生意気で、いつも意地悪ばっかりする……。

「……ドゥシャン」
「ああ、聞こえている」
 のほほんと頭を悩ませていると、私とは少し離れたところで休んでいた2人が、急に駆け寄ってきた。

「誰だ!」
 ドゥシャンの低い威嚇を含んだ詰問が飛び、私はアーモスに手を引かれて起き上がらせられ、その腕に庇われた。そのまえに壁のようにドゥシャンが立ちはだかる。……な、なんだ?えっと、誰か来たのだろうか。ドゥシャンの身体で見えない。すると、がさがさと葉が擦れる音がした。誰かが草原を踏み歩いている。

「っはあっはあ……っと、……っまっ」
 激しい呼吸を繰り返しているのが聞こえた。わずかに2人の緊張がゆるみ、訝しがる空気が感じられる。……誰だろうか。そっと、ドゥシャンの背後から首を伸ばして様子を伺う。

 膝に手をついた人物の顔が見えない。けれど、そのくすんだ灰色の髪と、揺れる尻尾は、良く知っていた。

「っはあー……っやっと、追い、つい、たっ!」
 滴る汗を拭いながら上半身を起こした男は、私と目が合うと、にやりと笑った。わらっ……えっ。あっ……?
「……しゃべったぁああああっ!!??」
 アーモスの胸元を掴んでぶんぶん揺さぶりながら、私は叫んでいた。


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