希うは夜明けの道~幕末妖怪奇譚~

ぬく

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第1章 土佐の以蔵

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太陽が頭の上に上る頃。三人は朝の仕事を終え、畑の隅で昼食を取っていた。雑穀で作ったおにぎりに、漬物。以蔵がいない間に里江が義平に持たせていたらしい。

今日は暑いからな。

夏の農作業は体力を著しく消耗させる。暑くて食欲がなくなる時だが、里江は夏こそ食べろと暑い日にはおにぎりを持たせてくれた。

暑いと飯が食えない、と笑いながらちまちまおにぎりを食べている義平とは反対に、以蔵と啓吉は次々とおにぎりを口に入れる。成長期の二人にとっては、暑さなど妨げにもならないらしい。

朝が少なく、いつもの数倍腹が減っていた以蔵は、少し大きめのおにぎりを選んでかぶりついた。


「あ、にいやんずるいちや。わしもおおきいの食べたかった」
「ふぁしもふぁらふぇっとっふぁんひゃ」


 むうと頬を膨らませる啓吉に、以蔵は口をもごもご動かしながら答える。


「こらこら、喧嘩するんじゃなか」


 義平は水で口の中の雑穀米を流し込み、自分の分のおにぎりを一つ啓吉に差し出した。


「ほら、啓吉はこれ食べぇ。以蔵はさっきから大きいのばっかり食べちゅうじゃろ」
「ちぇ。ばれちょったか…。…まぁ、啓吉はわしより大きくならんといかんし……」


 義平からもらったおにぎりをおいしそうに頬張る啓吉を横目に見ながら、以蔵は口をとがらせる。
 そして最後の一口を口に入れると、以蔵はさっと立ち上がった。


「おとう、昼はいつも通り遊びに行ってえいがか?」
「ああ。えいよ。昼は熱いきに、わしも一回家に帰るがじゃ」


 水を忘れんようにな、と義平は自分の水筒を以蔵に手渡した。


「ありがと! 夕方には帰る!」
「あー! 兄やん! またわしを置いていくんか!」


 後ろの方で啓吉の叫ぶ声が聞こえたが、以蔵は知らない振りをした。
 だって、秘密の鍛錬なのだから。
 町から離れる方角へ。いつもの、竹林の方へ。
 そこでふとあることを思いだし、以蔵の足が止まる。


「木刀、家に置いたまんまじゃ……」


 これまでは半平太の家を覗きに行くときこっそり家から木刀を持ち出して、畑の近くに隠していた。
けれども今日は寝坊した。とにかく早く半平太のところに行かなければという思いが勝り、木刀の事をすっかり忘れていた。


「ちょうどえい大きさの木の枝とかないかの……」


 そんなことを思いながらきょろきょろ辺りを見回してみる。すると、以蔵のいる場所の少し先、畑のと竹林の境の方に、葉をつけた竹の柄が落ちているのを見つけた。誰かが竹を切って、いらない部分の枝を切ったのだろう。

 以蔵は駆け寄ってその枝を持ち上げてみた。枝には思いのほか葉がついており、少し振るとしゃらしゃら軽い音を立てた。なんだか神社の神主のようになってしまいそうで、以蔵は眉をひそめる。


「この葉、取れんがろうか……」


 葉がついている部分の柄の一つをを曲げたりねじったりしてみるが、さすがは竹の柄。なかなか強度が強く、折れてくれない。

 うんうん唸りながら試行錯誤して、やっとのことで柄の一つが取れたが、その頃には以蔵の手はボロボロだった。集中していて気づかなかったが、どうやら笹の葉で傷ついたらしい。
手の甲や指にはいくつもの赤い筋ができており、ところどころ血がにじんでいた。

 自分の手と切り離した柄、そしてまだたくさん葉のついた柄の残っている柄を見比べて、以蔵ははぁとため息をつく。

 本当は葉を全部取ってしまいたいところだが、そうするとかなりの時間がかかりそうだ。傷も増えるだろう。

 仕方がない、このままでいいか。

 以蔵は眉根を寄せて柄を再び振ってみた。少し葉の減った柄は、さっきよりも少しだけ小さくしゃらんと揺れる。
 やっぱり、これを振るのはなんだか違う気がする。 木刀と重さが全く違うし、その上格好がつかない。
 そう思いながらも以蔵は仕方ない、と小さくつぶやいてその柄を持ったまま竹林の中へ入っていった。
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