冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

文字の大きさ
15 / 51
第1章 魔犬

14.クロードとメイ

しおりを挟む
ベルナー領へ向けて軽快に歩みを進めていた馬車は、途中にあるトラントの町でその歩みを完全に止めた
ユウトが背中を伸ばして窓から外の様子を伺ってみると、馬車は道の脇につけられ従者が馬に水を与えている
横に見えるレンガの建物には宿屋と馬車のマークの看板が掲げられており、乗合い馬車もやっている宿屋で馬を休ませているようだ

「しばらく休憩だ」

それだけ言い残し、リオルドはこちらを振り返ることもなく馬車から降りていってしまった

ユウトは大きく息を吐いた
ーーーどうしていつもこうなってしまうんだろう

ユウトがリオルドに初めて会ったのは、マグド-侯爵夫妻に連れられ、婚約の話をするために城を訪れた時だった
剣の演習があったというリオルドは少し遅れて部屋に到着した
扉が開かれた時、白と碧の軍服を着たレオルドの美しく凛々しい姿にユウトは思わず目を奪われた

ーーーこんなに美しい男が存在するんだ
噂には聞いていた
第二王子はたいそうな豪腕だがそれに反して見た目は大変美しく、見たものは皆心を奪われてしまうと。
しかし、所詮は噂と思っていた
王子でありながら騎士団長を任されているほどの実力の持ち主、ゴリラのようにとは言わないが、ある程度屈強でなければ男達を纏め上げることは出来ないだろう

目の前に現れたリオルドはゴリラどころか、美しく気高いユニコーンのようだった
リオルドは遅れた事を詫び、国王夫妻の横に座ると、向かい合ったマクドー侯爵家に微笑みかけた
どのように笑えば自分が一番魅力的に人々の目に映るかを把握している人種が浮かべる、柔らかな笑みだ
魅力的で完璧な笑みを浮かべたリオルドの視線がユウトまで届いた時、リオルドの顔から笑みが消え、表情が強ばっていくのが目に見えてわかった
クリスに似ていると聞いていたのに、あまりに似ていなくて失望したのだろう
ーーーそういえば、面と向かって微笑みかけられたのなんてあの一回だけだ

「髪の色は少しは変えられるらしいけど、瞳の色はどうにもならないしな…」

改めて口に出してみると悲しくなった
ーーークリスと違って自分は人に必要とされていない
怪我や疲れのせいで気持ちが暗くなっていると気づいたユウトは再び馬車の窓にもたれかかり、出発まで少し眠ることにした


☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

「おね~さん、こっちにも飲み物くださ~い」

騎士や従者達に飲み物を配っていたメイは声のした方に目を向けた
少し離れたところにある道沿いに生えた木の下に懐かしい顔を見つけて、水の入ったポットとあいたカップを持って近づいていく

「わざわざ持ってきて貰って悪いな、メイ」

男は茶色い瞳を優しげに細めるとメイからカップを受け取り水を注いでもらう

「クロード、何言ってんのよ。わざわざこんな離れたところに呼んだってことは何か話があるんでしょ?」
「さすがメイだな、よく分かってる」

クロードは入れて貰った水を一気に飲み干すと、少し躊躇し、思い直したように口を開いた

「リオルドとユウト様の様子はどうだ?ほら、城を離れるときのことがあってちょっと気になったから」
「ああ」メイも思いだし顔をしかめた
「分かんないわ。でもさっき、打ち身用の塗り薬を持って馬車に来るように言われたのよ。」
「打ち身?引き摺られたり、馬車には投げ入れられてたから怪我でもしたのか?」
「多分ね。それでリオルド様の後ろについて馬車に入ったんだけど...ユウト様は窓に寄りかかって寝てたのよ」
「うん」
「それを見たら私にやっぱりもう戻っていいって。回復魔法を使うつもりだと思うわ」
「魔法を?それなら最初からそうすればいいのに」
「…寝ているユウト様のね、シャツがクシャクシャだったの。一応着てはいたけど…前のボタンは全部外れてたわ」

クロードは大きく目を見開き、ゆっくり閉じると頭をガジガジと掻いた

「あいつ…」
「何もしてないとは思うのよ。最初の時、ユウトさまに避けられたのがしばらく堪えてたみたいだし…手を出さない約束もしたしね。多分無理やり治療しようとして拒否されたんじゃないかしら」
「で、寝ている隙に勝手に治療するのか?」
「あのお方にとったら自分以外がユウト様に触れるのは面白くなくて仕方がないのよ、それがメイでもね」

二人は顔を見合わせて、一緒に大きなため息をついた

「クリス様の前ではユウト様に事務的に接するようにするって言ってなかったか?」
「言ってた言ってた。今となってはなんのことやらよ」
「まぁ、俺としては親友の新しい一面が見れて嬉しい部分もあるけど」
「ユウト様にしたら大迷惑なだけだわ」
「そうだよな。でもさ、全然違うんだな。クリス様に迫る時はほら、色気出してさ甘い言葉の一つも囁いて、サファイアだなんだって贈り物してさ」
「贈り物ならユウト様にも大量よ。アラビアンナイト見たいで嫌だって言うから全部捨てたけど」
「ハハハッ、あの服な!自分とお揃いで作ってたやつ。あれもユウト様を人に見せたくなくて着せてたんだろ?」
「そ、暑くて倒れそうだってユウト様言ってたわ」 

馬車の辺りにザワザワと人が集まりだし、出発の時が近づいているようだ。クロードとメイも連れだって元の場所へと戻る

「親友なら、ちゃんと我が主を見張ってよクロード」
「俺が言うより、女騎士メイが言う方がまだ言うこと聞くだろ」
「まぁね、でも今はただのメイドのメイですから」
「ずりぃ」

ふふーんと笑ったメイがクロードの胸元を見て首を傾げる

「クロード、三つあった勲章の一つどうしたの?」
「リオルドにぶん取られた。ああなったのも、俺がユウト様をおんぶして帰ったせいだって」
「清々しいくらいの冤罪じゃない…」

おーい!出発だぞ!と急かされて、クロードは自分の馬に跨がり、メイは馬車の方へと急いだ


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

届かない「ただいま」

AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。 「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。 これは「優しさが奪った日常」の物語。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

処理中です...