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第1章 魔犬
25.お茶会
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「あの態度はないんじゃないかなぁ?ユウトが可哀想で僕は涙が出そうだったよ」
「レイル、俺には俺のやり方がある。お子様にはわからんだろうが」
お茶会の途中で急にレイルが「馬が見たい!」と騒ぎだした時から違和感は感じていた。
城にも馬は沢山いるし、レイルがただの無邪気な子供では無いことは昔から良く知っている。
レイルは見た目こそ天使のようだが、中身は俺にそっくりだ。
どうしても厩舎に馬を見に行きたいと言うので、仕方なく案内することを決めると王妃が自分も付いていく名乗りを上げた。
何かしら揉めそうな空気を察知しているのだろう。
レイルは厩舎に入ると、手始めにリオルドの愛馬を誉めちぎった。
「あぁ!これが噂の兄さんのクリスタだね!白馬か、たてがみも陽にあたると銀…いや、金色に輝いてる。手入れもされていて実に兄さん好みの馬だね!」
言いたいことはわかっている。
レイルはつまり、愛馬までクリスに似せていることを嫌味まじりに皮肉っているのだ。
決してそんな意図で買った馬では無い。
名前は買う前から“クリスタ”だったし、足の速さと適応力の高さが気に入って手に入れた馬だ。
確かにあとからクリスに少し似てるとは思ったが…。
「兄さんに事情があるのは僕も理解したいと思っているよ?でもやりすぎじゃないかな?母様はどう思う?」
厩舎の入り口で二人のやり取りを聞いていた王妃は口に手をあて、眉を潜めていた。
「リオルド、あなた何故レティの肖像画をあんな場所に移したの?あれではユウトの立場が無いわ…レティはクリスにそっくりなんだから…」
「あれは…クリスを招いた時にインパクトがあっていいと思ったんです」
「インパクトって…。」
「越してきた時にはそうなっていたのに、今更絵を動かすのもおかしいでしょう?そこはユウトに我慢して貰うしか無い」
「あっ、ユウトは納得しているのね?」
「いえ、何も話してません」
「リオルド…あなた」王妃は頭痛でもしてきたのか、今度はこめかみに手をあてて、入り口の壁に寄りかかった。
「クリスとユウトは兄弟です。言える訳無いでしょう」
俺だってあの肖像画はやり過ぎかもしれないとは思っていた。だが、設置した当時は早くクリスとの仲に決着をつけるには最適だと考えていた。
まさか、身代わりでくる弟があんなに加護欲を誘うやつだとは予想もしなかったんだ。
クリスとユウトは例えるなら太陽と月だ。
クリスは明るく華やかで、会う人皆をすぐに魅了する。クリスが大きなスカイブルーの瞳で笑えば、場は一瞬で明るくなり多少のわがままも許してしまいたくなる。クリス自身も自分の魅力を充分に理解して、上手く利用し社交界を渡り歩いている。
対してユウトは危険だ。一目見ただけではただの地味な弟に見えるかも知れない。だが、艶のある黒髪、大きな深く黒い瞳、スッキリと通った鼻筋、小さくて僅かに赤く色づいた唇…極めつけは体が華奢で腰なんて女かという程に細い。おまけに何故か自己評価が低いものだから、フラフラとしてすぐ優しくしてくれる人に懐く。危なっかしくて仕方がない。
「兄さまがユウトを大事にしないなら僕が貰っちゃおうかな?」
レイルが子供らしい笑顔でリオルドを見上げて言った。
今日も天使のように可愛らしい皮を被ったとんだ小悪魔だ。
「おまえ、何を言ってる?ユウトは俺の妻だ」
「そうだけど…大事にはしてないでしょ?僕はまだ10歳だけど、王族は18迄には結婚するのが通例だし…僕は王位継承権は持ってないけど、ルーツの子との結婚を禁止する法令は無いみたいだよ?」
「そういうことじゃない、ユウトは俺の妻だろう。ルーツの子がいいならお前はキーンと結婚しろ」
「キーン?」レイルは一瞬考えて、すぐに顔をしかめた。
天使のような顔も台無しなくらい変な顔をしている。
「キーン・ロッドランド?あんな品の無いの嫌だよ。結婚パーティーでユウトに嫌がらせしてたやつだろ?…それにアイツは兄さんに惚れてるんだから、兄さんがキーンと再婚したら?そうしたら、僕はユウトと結婚出来る」
「お前いい加減にしろ!俺は別れるつもりは無いし、ゆくゆくはユウトと子供を作る」
頭を抱えて二人のやり取りを聞いていた王妃が、リオルドが大声を出したのでさすがに止めに入った。
「もう、やめなさい。レイルも、言いすぎよ」
「はーい。まぁ、ユウトと未来図を描いているようで、ひとまずは安心したよ。でもね、兄さん。あんまりユウトを邪険にしたら僕も本気を出すかもね」
ふふっとレイルは笑うと「さ、二人のもとに帰ろう」と厩舎を出て軽快に歩いていった。
「リオルド、レイルはちょっと問題児だけど、それは別としてユウトのこと大事にしてよ」
「わかってます、そんなことは」
ーーーなんでうちの子は揃いも揃って。
王妃は更に頭が痛くなった。リオルドとレイルはあの通りだし、アーノルドは穏やかでいいのだけれど、弟が自分の妃を口説いても腹を立てることもない。
私の教育に問題があったのかしら…頭を悩ませながら、庭園にいるユウト達の元へとフラフラと戻って行った
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「来週の王宮での舞踏会には来てくれるでしょう?」
レイルのかわいい顔でおねだりされてユウトは胸がキュンとした。
厩舎から戻ってきたレイルは、クリスとユウトが椅子をくっつけているのを見ると「クリスばっかりずるーい」と言い二人の間に入りたがった。
クリスは仕方ないなぁといい、椅子をもう一つ寄せてレイルは二人の真ん中に満足そうに座っている。
「舞踏会があるの?」
「うん!兄さま、まだ話してないの?来週はカナーディル王国の貴族が一同に集められるから、王族は基本参加するんだ。僕は本当はまだ社交界に出れる年齢じゃ無いんだけど…王族だからそれだけは特別に出るの」
来週の舞踏会か…肩はまだ痛むけど来週にはもっと良くなるだろう。
最後までは無理でも、一応王族の端くれとして顔を出すくらいはした方がいいのかもしれない。
ただ、それを決めるのはリオルドだけど。
「僕、子供はたった一人だしユウトがいると心強いよ。ね、母様」
ーーーなんて可愛いんだろう。最近は気分も落ち込んでいたけど、子供っていい、ほっこりする。
それに比べて…リオルドはクリスをレイルに取られたのがそんなに不満なのかな?子供にまで焼きもちを焼くなんて大人げない。
リオルドは厩舎から戻ってきてからずっと不機嫌そうに紅茶を飲んでいる。
レイルを牽制するように見ているので理由は明らかだが、そんな様子にも馴れているのか、ユウト以外は誰も気に止めていなかった。
「そうね、怪我もあるから無理にとは言えないけど来てくれると嬉しいわ。王もそろそろユウトに会いたがっているのよ」
「僕も行けるなら行きたいです…」
「まぁ、本当?」
王妃は嬉しそうに身を乗り出した。
正直、最近のアレやコレは自分の身には荷が重すぎて、王からユウトに話をして欲しいと前々から思っていた。
「ユウト、お前行きたいのか?」
終始無言を貫き不機嫌を露にしていたリオルドが口を開いた。先程までレイルに向けられていた不機嫌そうな目が今度はユウトに向けられている。
ーーーどうしよう。つい本音を言っちゃったけど何て言うのが妃として正解?
勝手に行きたいって答えたから怒っているかな?
そもそも僕を城に連れていくのも、舞踏会に一緒に出るのもリオルドは嫌なのかもしれない。
困ったユウトはチラリとクリスを見て助けを求めた。
弟のSOSを受け取ったクリスは任せとけとばかりにウィンクすると、リオルドを見て微笑んだ。
「リオルド、いいじゃないか。ユウトも魔犬に襲われた近くにいたら気が休まらないだろう?大分治ってきているようだし、舞踏会に出るのも気晴らしになるんじゃないか?ね、ユウト」
ユウトはコクリと頷いた。
気が休まらないわけではないのだけど、ユウトは王に会って直接聞いてみたいことがあった。
「気が休まらない…?」
「あぁ、だって襲われたのは門の前だろう?見たら思い出してしまうじゃないか」
「……なるほどな。わかった。舞踏会には一緒に行くことにしよう」
「よし!決まりだね。ユウト良かったね」
「うん。クリスありがとう」
「僕も嬉しい!クリスありがとう。ユウト、パーティーは一緒にいてね!」
王妃達は“次は城で会いましょう”と元気に帰っていった。
お茶会の途中で抜けるつもりだったが、レイルやクリスのおかげで楽しく最後まで過ごすことが出来たと思う。
ーーー今日は思いの外楽しかった。だけど、やっぱり疲れたな。早く寝よう。
「じゃあ、ユウト様今日は大変お疲れ様でした!お休みなさい」
「うん、また明日。お休みなさい」
メイを部屋から下げて、寝室の大きなベッドに横になった。
電気を消したいところだけど、まだリオルドが戻らないのでそうもいかず、ユウトは上掛けをかけてウトウトしていた。
しばらくすると扉が開く音がして誰かが部屋に入ってきた。
「もう寝たのか?」
声でリオルドだとわかったけど、眠くて起き上がれそうにもなく、ユウトは寝たふりをすることに決めた。
ーーーギシッ
ベッドの軋む音がしてリオルドがすぐ近くに来たことに気付いた。リオルドはベッドの上に膝をつき、自分に背を向けて寝ているユウトの左肩を引いてユウトを仰向けにした。
ーーーな、なになになに?何で僕を動かすの?
そのまま寝かせておいてくれるだろうと寝たふりをしていたユウトの頭の中は大混乱に陥った。
今からでも起きた方がいいのか、顔でも見て終わるのか…今日のお茶会での出来事をまだ怒っていて殴られるとか…!?
いや、殴られることは無いだろう。雑に扱われた事は何度もあるが、暴力をふるわれたことは無いはずだ…多分。
寝たふりを継続することに決めたユウトはギュッと固く目を閉じた。
「ふっ」と微かにリオルドの笑うような息づかいが聞こえると、ユウトの唇に柔らかいものが触れた。
ーーーキ、キスしてる…。僕もう寝てるのに今日もするの?
ユウトが怪我をして以来、リオルドは一日一回はキスをしてくる。それも舌を絡めるディープなやつだ。
最初はその先に進むのかと身構えたりもしたが、どうやらそんなつもりは無いらしくいつもキスだけで終わる。
何がしたいのかよくわからないけど、逆らわないと約束したからされるがままにして数日経つ。
いつものようにユウトより大きな唇が押しあてられると、厚く長い舌がユウトの口内に侵入してきた。
ユウトの小さな舌を見つけると、上側を舐めたり、持ち上げて絡めたり、裏の筋まで舐められてしまう。
ユウトは息を止めて必死に耐えた。
反応は返さないと決めている。
クリスの身代わりで娶られたのにリオルドに好意を抱き、キスにまで喜んで応えてしまうのは悔しいし、もう這い上がれないところまで堕ちてしまいそうな気がする。
長い口づけが終わり、ユウトから唇を離すとリオルドはドサッと横になった。
ーーーやっと終わった……ひゃああああ
ユウトはリオルドの次の動きに驚いた。
リオルドの大きな手がユウトの細い体をゴソゴソと触っている感触がするのである。
リオルドの右手はユウトの首の下に通され、左腕はユウトの服の中に入り込みお腹に触れている。
ーーーどうしよう?き、今日そうなるの?ちょっとまだ心の準備が…
ユウトは心臓がバクバクして破裂しそうだったが、しばらくすると、ユウトの耳元に“スースー”という音が聞こえてきた。
ゆっくり細目を開けてみると、リオルドはその端正な顔をこちらに向けて眠っていた。
命拾いしたような気持ちになり、ひとまずお腹に回された手を離そうと試みるが腰をがっちりと掴んでいて離れない。
余り力をいれてリオルドが起きてきても困る。
ユウトは仕方がないのでそのまま眠ることにした。
ーーー何なんだよ!人がお前を諦めてやろうと必死に頑張っているのに。
ユウトはムズムズする下半身を手で押さえて耐えた。
最近はリオルドにキスをされただけでも、反応してしまい困っている。
早く寝ようと思っていたのに、全く寝付けなくなり、困ったユウトは窓の外の暗闇に向けて「魔女さ~ん」と助けを求めた。鴉が聞いていることを願いながら。
「レイル、俺には俺のやり方がある。お子様にはわからんだろうが」
お茶会の途中で急にレイルが「馬が見たい!」と騒ぎだした時から違和感は感じていた。
城にも馬は沢山いるし、レイルがただの無邪気な子供では無いことは昔から良く知っている。
レイルは見た目こそ天使のようだが、中身は俺にそっくりだ。
どうしても厩舎に馬を見に行きたいと言うので、仕方なく案内することを決めると王妃が自分も付いていく名乗りを上げた。
何かしら揉めそうな空気を察知しているのだろう。
レイルは厩舎に入ると、手始めにリオルドの愛馬を誉めちぎった。
「あぁ!これが噂の兄さんのクリスタだね!白馬か、たてがみも陽にあたると銀…いや、金色に輝いてる。手入れもされていて実に兄さん好みの馬だね!」
言いたいことはわかっている。
レイルはつまり、愛馬までクリスに似せていることを嫌味まじりに皮肉っているのだ。
決してそんな意図で買った馬では無い。
名前は買う前から“クリスタ”だったし、足の速さと適応力の高さが気に入って手に入れた馬だ。
確かにあとからクリスに少し似てるとは思ったが…。
「兄さんに事情があるのは僕も理解したいと思っているよ?でもやりすぎじゃないかな?母様はどう思う?」
厩舎の入り口で二人のやり取りを聞いていた王妃は口に手をあて、眉を潜めていた。
「リオルド、あなた何故レティの肖像画をあんな場所に移したの?あれではユウトの立場が無いわ…レティはクリスにそっくりなんだから…」
「あれは…クリスを招いた時にインパクトがあっていいと思ったんです」
「インパクトって…。」
「越してきた時にはそうなっていたのに、今更絵を動かすのもおかしいでしょう?そこはユウトに我慢して貰うしか無い」
「あっ、ユウトは納得しているのね?」
「いえ、何も話してません」
「リオルド…あなた」王妃は頭痛でもしてきたのか、今度はこめかみに手をあてて、入り口の壁に寄りかかった。
「クリスとユウトは兄弟です。言える訳無いでしょう」
俺だってあの肖像画はやり過ぎかもしれないとは思っていた。だが、設置した当時は早くクリスとの仲に決着をつけるには最適だと考えていた。
まさか、身代わりでくる弟があんなに加護欲を誘うやつだとは予想もしなかったんだ。
クリスとユウトは例えるなら太陽と月だ。
クリスは明るく華やかで、会う人皆をすぐに魅了する。クリスが大きなスカイブルーの瞳で笑えば、場は一瞬で明るくなり多少のわがままも許してしまいたくなる。クリス自身も自分の魅力を充分に理解して、上手く利用し社交界を渡り歩いている。
対してユウトは危険だ。一目見ただけではただの地味な弟に見えるかも知れない。だが、艶のある黒髪、大きな深く黒い瞳、スッキリと通った鼻筋、小さくて僅かに赤く色づいた唇…極めつけは体が華奢で腰なんて女かという程に細い。おまけに何故か自己評価が低いものだから、フラフラとしてすぐ優しくしてくれる人に懐く。危なっかしくて仕方がない。
「兄さまがユウトを大事にしないなら僕が貰っちゃおうかな?」
レイルが子供らしい笑顔でリオルドを見上げて言った。
今日も天使のように可愛らしい皮を被ったとんだ小悪魔だ。
「おまえ、何を言ってる?ユウトは俺の妻だ」
「そうだけど…大事にはしてないでしょ?僕はまだ10歳だけど、王族は18迄には結婚するのが通例だし…僕は王位継承権は持ってないけど、ルーツの子との結婚を禁止する法令は無いみたいだよ?」
「そういうことじゃない、ユウトは俺の妻だろう。ルーツの子がいいならお前はキーンと結婚しろ」
「キーン?」レイルは一瞬考えて、すぐに顔をしかめた。
天使のような顔も台無しなくらい変な顔をしている。
「キーン・ロッドランド?あんな品の無いの嫌だよ。結婚パーティーでユウトに嫌がらせしてたやつだろ?…それにアイツは兄さんに惚れてるんだから、兄さんがキーンと再婚したら?そうしたら、僕はユウトと結婚出来る」
「お前いい加減にしろ!俺は別れるつもりは無いし、ゆくゆくはユウトと子供を作る」
頭を抱えて二人のやり取りを聞いていた王妃が、リオルドが大声を出したのでさすがに止めに入った。
「もう、やめなさい。レイルも、言いすぎよ」
「はーい。まぁ、ユウトと未来図を描いているようで、ひとまずは安心したよ。でもね、兄さん。あんまりユウトを邪険にしたら僕も本気を出すかもね」
ふふっとレイルは笑うと「さ、二人のもとに帰ろう」と厩舎を出て軽快に歩いていった。
「リオルド、レイルはちょっと問題児だけど、それは別としてユウトのこと大事にしてよ」
「わかってます、そんなことは」
ーーーなんでうちの子は揃いも揃って。
王妃は更に頭が痛くなった。リオルドとレイルはあの通りだし、アーノルドは穏やかでいいのだけれど、弟が自分の妃を口説いても腹を立てることもない。
私の教育に問題があったのかしら…頭を悩ませながら、庭園にいるユウト達の元へとフラフラと戻って行った
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「来週の王宮での舞踏会には来てくれるでしょう?」
レイルのかわいい顔でおねだりされてユウトは胸がキュンとした。
厩舎から戻ってきたレイルは、クリスとユウトが椅子をくっつけているのを見ると「クリスばっかりずるーい」と言い二人の間に入りたがった。
クリスは仕方ないなぁといい、椅子をもう一つ寄せてレイルは二人の真ん中に満足そうに座っている。
「舞踏会があるの?」
「うん!兄さま、まだ話してないの?来週はカナーディル王国の貴族が一同に集められるから、王族は基本参加するんだ。僕は本当はまだ社交界に出れる年齢じゃ無いんだけど…王族だからそれだけは特別に出るの」
来週の舞踏会か…肩はまだ痛むけど来週にはもっと良くなるだろう。
最後までは無理でも、一応王族の端くれとして顔を出すくらいはした方がいいのかもしれない。
ただ、それを決めるのはリオルドだけど。
「僕、子供はたった一人だしユウトがいると心強いよ。ね、母様」
ーーーなんて可愛いんだろう。最近は気分も落ち込んでいたけど、子供っていい、ほっこりする。
それに比べて…リオルドはクリスをレイルに取られたのがそんなに不満なのかな?子供にまで焼きもちを焼くなんて大人げない。
リオルドは厩舎から戻ってきてからずっと不機嫌そうに紅茶を飲んでいる。
レイルを牽制するように見ているので理由は明らかだが、そんな様子にも馴れているのか、ユウト以外は誰も気に止めていなかった。
「そうね、怪我もあるから無理にとは言えないけど来てくれると嬉しいわ。王もそろそろユウトに会いたがっているのよ」
「僕も行けるなら行きたいです…」
「まぁ、本当?」
王妃は嬉しそうに身を乗り出した。
正直、最近のアレやコレは自分の身には荷が重すぎて、王からユウトに話をして欲しいと前々から思っていた。
「ユウト、お前行きたいのか?」
終始無言を貫き不機嫌を露にしていたリオルドが口を開いた。先程までレイルに向けられていた不機嫌そうな目が今度はユウトに向けられている。
ーーーどうしよう。つい本音を言っちゃったけど何て言うのが妃として正解?
勝手に行きたいって答えたから怒っているかな?
そもそも僕を城に連れていくのも、舞踏会に一緒に出るのもリオルドは嫌なのかもしれない。
困ったユウトはチラリとクリスを見て助けを求めた。
弟のSOSを受け取ったクリスは任せとけとばかりにウィンクすると、リオルドを見て微笑んだ。
「リオルド、いいじゃないか。ユウトも魔犬に襲われた近くにいたら気が休まらないだろう?大分治ってきているようだし、舞踏会に出るのも気晴らしになるんじゃないか?ね、ユウト」
ユウトはコクリと頷いた。
気が休まらないわけではないのだけど、ユウトは王に会って直接聞いてみたいことがあった。
「気が休まらない…?」
「あぁ、だって襲われたのは門の前だろう?見たら思い出してしまうじゃないか」
「……なるほどな。わかった。舞踏会には一緒に行くことにしよう」
「よし!決まりだね。ユウト良かったね」
「うん。クリスありがとう」
「僕も嬉しい!クリスありがとう。ユウト、パーティーは一緒にいてね!」
王妃達は“次は城で会いましょう”と元気に帰っていった。
お茶会の途中で抜けるつもりだったが、レイルやクリスのおかげで楽しく最後まで過ごすことが出来たと思う。
ーーー今日は思いの外楽しかった。だけど、やっぱり疲れたな。早く寝よう。
「じゃあ、ユウト様今日は大変お疲れ様でした!お休みなさい」
「うん、また明日。お休みなさい」
メイを部屋から下げて、寝室の大きなベッドに横になった。
電気を消したいところだけど、まだリオルドが戻らないのでそうもいかず、ユウトは上掛けをかけてウトウトしていた。
しばらくすると扉が開く音がして誰かが部屋に入ってきた。
「もう寝たのか?」
声でリオルドだとわかったけど、眠くて起き上がれそうにもなく、ユウトは寝たふりをすることに決めた。
ーーーギシッ
ベッドの軋む音がしてリオルドがすぐ近くに来たことに気付いた。リオルドはベッドの上に膝をつき、自分に背を向けて寝ているユウトの左肩を引いてユウトを仰向けにした。
ーーーな、なになになに?何で僕を動かすの?
そのまま寝かせておいてくれるだろうと寝たふりをしていたユウトの頭の中は大混乱に陥った。
今からでも起きた方がいいのか、顔でも見て終わるのか…今日のお茶会での出来事をまだ怒っていて殴られるとか…!?
いや、殴られることは無いだろう。雑に扱われた事は何度もあるが、暴力をふるわれたことは無いはずだ…多分。
寝たふりを継続することに決めたユウトはギュッと固く目を閉じた。
「ふっ」と微かにリオルドの笑うような息づかいが聞こえると、ユウトの唇に柔らかいものが触れた。
ーーーキ、キスしてる…。僕もう寝てるのに今日もするの?
ユウトが怪我をして以来、リオルドは一日一回はキスをしてくる。それも舌を絡めるディープなやつだ。
最初はその先に進むのかと身構えたりもしたが、どうやらそんなつもりは無いらしくいつもキスだけで終わる。
何がしたいのかよくわからないけど、逆らわないと約束したからされるがままにして数日経つ。
いつものようにユウトより大きな唇が押しあてられると、厚く長い舌がユウトの口内に侵入してきた。
ユウトの小さな舌を見つけると、上側を舐めたり、持ち上げて絡めたり、裏の筋まで舐められてしまう。
ユウトは息を止めて必死に耐えた。
反応は返さないと決めている。
クリスの身代わりで娶られたのにリオルドに好意を抱き、キスにまで喜んで応えてしまうのは悔しいし、もう這い上がれないところまで堕ちてしまいそうな気がする。
長い口づけが終わり、ユウトから唇を離すとリオルドはドサッと横になった。
ーーーやっと終わった……ひゃああああ
ユウトはリオルドの次の動きに驚いた。
リオルドの大きな手がユウトの細い体をゴソゴソと触っている感触がするのである。
リオルドの右手はユウトの首の下に通され、左腕はユウトの服の中に入り込みお腹に触れている。
ーーーどうしよう?き、今日そうなるの?ちょっとまだ心の準備が…
ユウトは心臓がバクバクして破裂しそうだったが、しばらくすると、ユウトの耳元に“スースー”という音が聞こえてきた。
ゆっくり細目を開けてみると、リオルドはその端正な顔をこちらに向けて眠っていた。
命拾いしたような気持ちになり、ひとまずお腹に回された手を離そうと試みるが腰をがっちりと掴んでいて離れない。
余り力をいれてリオルドが起きてきても困る。
ユウトは仕方がないのでそのまま眠ることにした。
ーーー何なんだよ!人がお前を諦めてやろうと必死に頑張っているのに。
ユウトはムズムズする下半身を手で押さえて耐えた。
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