冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

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第2章 取り込まれる者

8,指輪

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王と王妃の話を聞き終えて、部屋へ戻る廊下を歩いているとメイがキョロキョロしているのが遠くに見えた。
どうやら、もう舞踏会の支度をする時間だったようだ。

ーーー随分長居をしてしまったな。

部屋の前で待っていたメイは、ユウトを見つけると駆け寄ってきて早く部屋に入れと急かす。

「ユウト様~。遅かったから心配しましたよ!」
「話がちょっと長引いちゃったんだ。ごめんね」
「仕方がないですけど、無事話しは出来ましたか?」

無事出来たというのだろうか?
当初の目的は果たされた。

リオルドは精霊の許しがあればクリスと再婚できるらしい。アーノルドの気持ちもあるし簡単な話では無いだろうが、もし今後クリスの気持ちが変わったら不可能な話しでは無いのだ。
自分としてはリオルドが好きだ。でも、愛されないのに身代わりでずっと側にいるのも辛そうだし…何よりリオルドには幸せになって欲しい

「うーん。まぁ、無事に終わったかな?」
「何ですか、それ?」


衣装部屋へと変貌を遂げた続き部屋の中で、メイは今日の舞踏会の為の衣装を次々と箱から取り出し並べている。
用意された台座の上にキラキラとした衣装が並べられていく。

「目的は果たされたんだけど…新たな問題が生まれたというか??」

王と王妃はその話のあと、リオルドはユウトと子供を作るつもりだと言った。
絶対に無理かと聞かれ、そんな事は無いと答えると二人は喜び、舞い上がり、饒舌になった。
婚姻を祝した旅行の行き先やら、体は温めた方がいいやら、子供の性別の話し、何人出来るかしら…どんどん話が膨らんでいって、ユウトは舞踏会の準備を理由に引き上げてきた。

ーーー大体、子供が出来たとして一体どこで暮らすんだ?

リオルドは仕事が忙しく、これからも城にいる方が多いだろう。
当然だが、城には愛するクリスがいる。
別邸に戻る日はどんどん少なくなる筈だ。
ユウトと子を作るという発言も後継者問題を考えてのことなんだろう。

自分は別邸で子供と二人隠れるように暮らすのだろうか?

ユウトは5歳まで母と二人で貧民街で暮らしていた。
母は自分をとても可愛がり沢山の愛をくれたが、父の話はあまりしなかった。
ユウトは父にも愛されていたのか、本当は望まれていなかったのか、母が亡くなった今は確かめる術がない。

ーーー子供には同じ思いはさせたくないな。

王族に後継者が必要なのは理解している。
妃として、授かるのならばリオルドの子を為すべきだろう。
しかし、産後の自分は母と同じで、生まれた子供は幼き頃の自分なのだ。
父に愛されているのかも分からず、母と二人だけで不安な気持ちを抱えながら過ごす日々。
それを自分の子供にも求めることになってしまう。
母が生きていたのなら、一番の相談相手になっただろう。
もっとも、母が健在ならユウトはここにはいなかったのだが。

「ユウト様?準備宜しいですか?」
「あぁ、うん。始めよっか」

薄いブルーで作られたジャケットは下衿、ポケット、脇のベントの部分に白いフリル生地が覗くように付けられていて、爽やかなのに可愛らしさがある。
インナーシャツは柔らい白いシフォン生地で出来ていて、首元を同じシフォン生地のリボンで結ぶ。
ジャケットと同じ生地で出来たパンツは7分丈で、裾からはやはり控えめにフリルが覗いている。

「うーん。なんか、可愛らしいね」

ユウトは姿見を見ながら呟いた。

「よくお似合いですよ~。ユウト様はこういう可愛いアイテムが入っている方が似合います」
「そうかな…?自分では良く分からないや。でも素敵な服だね」
「ふふふ。オーダーメイドですから」

白い靴に履き替え、姿見の前でクルリと回ってみる。
妃というより、発表会に行く子供みたいじゃないか??

ーーーコンコン
ドアをノックする音がしてリオルドが顔を出した。
リオルドの衣装はフリルが外されているのと、インナーシャツがサテンでリボンが無い以外はユウトとお揃いだ。

「準備は出来たか?」

薄いブルーの衣装は、絹のような金髪やコバルトブルーの瞳に映えて、リオルドの美しさに更に磨きをかけていた。
だが、ユウトの目に映るリオルドはひどく疲れているように見えた。

「あとは、装飾品だけです!真珠にしますか?」
「あれは最終日だ。今日はあの銀に宝石が嵌め込まれたバングルがあっただろう。あれにしろ」

驚くことに、舞踏会に出席する為の衣装の決定権はユウトには無い。

ーーー…バングル、あ!
ユウトはメイが付けているバングルを見て、部屋の鍵を思いだし、リオルドに頼むのを忘れていたことを思い出した。

「あの!お願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「指輪なんです。鍵としては使えるんですが、防御の方は魔力切れで」
「防御……あぁ、急ぐのか?」
「急ぎは…しませんけど」
「今度直す。指輪は舞踏会の間は付けておけ。来賓も来るし、一応は結婚の証の指輪だからな」

部屋の鍵が結婚指輪も兼ねていたことにユウトは驚いた。
カナーディルでは、結婚指輪を付ける人は6割くらいだろうか。近年になり入ってきた文化なので年配の人はつけていない方が多いくらいだ。

ーーーリオルドが鍵兼用とはいえ、僕に結婚指輪をくれていたとは!
ユウトは結婚指輪を貰っていたんだと嬉しくなり、よく見たらリオルドは指輪を付けていないじゃないかとすぐにシュンとした。

ーーー対外的にアピールする為なんだろうな。王子夫妻が不仲じゃ、噂になる。まして身代わり妃なのは周知の事実だ。自分自身は付けたくないか…。

「リオルド様、でも危ないですよ。舞踏会は沢山人が集まりますし…やっぱり早めに指輪に防御を付加した方がいいんじゃないですか?」

魔犬の一件から少し心配性になったメイが言う。

「すぐに出来るものでも無い。不安なら舞踏会の期間中は俺の側にいれば問題ない」
「あ…なるほど。そういう…」

メイは何か納得したようで、ニヤニヤとリオルドを見上げた。リオルドは面白くなさそうな顔をすると、ユウトに向けて言った。

「自分で指輪を外せたら、この場で防御魔法を付加してやる」

ーーーさっきは、すぐに出来ないって言ったじゃないか。
突然の物言いにむっとしたユウトは、左の薬指に嵌まっている指輪に手をかけた。
ぐぃ~と引っ張ってみる。
抜けない。
ぐるぐる回してみながら引っ張ったり、一回押して引いてみたり、色々試してみるが指輪は頑として動こうとしない。

「ユウト様、もう指が真っ赤です。やめましょ?」

ーーー確かに、もう痛い。
指輪から先の部分は赤く染まり、指自体もジンジンしてきた。

「でも、もう少し…」
「ふん。もう時間がない」
「そうですね、ユウト様そろそろ行かないと!」
「そんなに不安があるならこの3日間は俺から離れないことだな」
「えぇ…?」

リオルドはユウトの腕を掴み、そのまま舞踏会が行われる広間へと歩きだした。
前を歩くリオルドの髪が、歩く度にキラキラと揺れて素直に綺麗だと思う。
リオルドに固く掴まれた右腕から熱が伝わり、ユウトは何故かドキドキしながら歩いていた。

結局、メイが準備してくれた装飾品を何一つ付ける事が出来ないまま、ユウトは舞踏会に臨むことになった。

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