冷徹王子と身代わりの妃

ミンク

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第3章 聖戦

3.クリスの話(1)

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「出てきて良かったのかな?」
「大丈夫だよ。王も終わりの挨拶をしたし…ユウトもあんなところに長くいたくないでしょ」

 王が皆に集まってくれたお礼を言い終わるやいなや、キーンはすぐにリオルドの元へやってきた。
 目をキラキラさせたキーンは自ら使用人に紅茶とお菓子を頼み、リオルドの横を陣取り、意味ありげな瞳で見つめたり腕や肩にベタベタと触ったりしていた。
 リオルドは手で制していたけれどキーンの勢いは凄まじく、あまり効果は無いようだった。

「ユウト!僕の部屋に行こう」
「うん」

 後ろからクリスに呼びかけられて僕は席をたった。
 1時間もこの状態を見ているならクリスとお茶をした方が精神衛生的にもずっと良い。
 二人でフカフカの絨毯がひかれた廊下を話ながら歩いているとあっという間にクリスの部屋の前に着いた。
 クリスの部屋というよりは、アーノルド夫妻の部屋と呼ぶべきだろうか?

「ユウト入って!」

 嬉しそうなクリスに導かれて扉の中に入ろうとすると、何かが足に絡み付いているような違和感を感じた。下を見ると僕の足に絡み付いていたのは黒猫のクロだった。
 クロは顔をあげると僕に向かって“ニャ~”と泣き足に体を擦り付けてくる。
 ヒョイっとクリスがクロを両手で持ち上げて興味深そうに顔を近づけた。

「やぁ、黒猫くん。こんな城の奥にまで入ってこれるなんて君は優秀な猫だな」

 クロは鼻先をヒクヒクさせ、今度はクリスに向かって“ニャ~”と鳴いた。
 僕は首を傾げた。

「クリス、クロだよ。あ、クロは僕が勝手に呼んでるだけだけど…王家で飼っている猫なんでしょ?」
「王家で飼ってる?この黒猫を?いや、僕は知らないな…」
「そうなの…?王様や…あぁ、書庫ではアーノルドも知っていたよ」
「書庫?あぁ…なるほどね」

 クリスはフッと笑って抱き上げたクロを再度見ると

「王家の猫でも僕の部屋は立ち入り禁止だぞ」

 といってクロを扉の外にそっと戻した。

「王家には僕の知らないことが沢山あるからね…。さ、ユウト入って入って!」

 僕はクリスに導かれるままに部屋に入った。
 扉の外では“ブニャ~”とクロの鳴く声が聞こえた。

 ☆ ☆ ☆

 キャリーという若いメイドがお茶とお菓子の準備を終えるとクリスはキャリーに部屋から出るように告げた。
 キャリーは頭を下げるとチラチラとクリスを見ながら部屋を出ていく。まだ15にもならないくらいだろうか?
 クリスに恋をしているのだろう。
 マグドー公爵家にいた時に良く見た光景である。

「やっと!や~っとユウトとお茶が出来たよ」
「そうだよね。同じ城にいるのに全然会えなかった」
「そう!僕も公務で外に出たりしてたからな…にしてもやっとだ!」

 クリスはスカイブルーの瞳をキラキラさせている。
 僕も久しぶりに兄弟に会えることは嬉しい。
 キャリーに煎れて貰ったお茶を一口飲む。

「あっ。このお茶、いつものやつだ!」

 驚く僕を見てクリスは悪戯に、しかし嬉しそうに笑った。

「気づいた?そうこれはね、マグドー家で出されてたお茶!父さんのお気に入りで西の国からわざわざ取り寄せてたお茶だよ。これをユウトに飲ませてあげたかった」

 懐かしい味だった。マグドー公爵はお茶がとにかく好きで色んな茶葉を集めていた。
 特にお気に入りはこの茶葉で渋みは無くスッキリとした喉ごしの後に甘味が残る。
 マグドー公爵家では何かと4人でこのお茶を飲みお菓子を食べたり語らったりしていた。

「美味しい!懐かしいなぁ…」
「僕はね、実家から分けて貰ってるんだ。後でユウトにもあげるよ」
「本当?ありがとう」
「ふふふ…やっとユウトと普通に話せた」
「え?」
「ユウト最近忙しいのもあるけど…僕を少し避けていたでしょ?」

 ーーークリスにはお見通しだったのか…。
 この城に来たばかりの時はリオルドがクリスを口説いていても気にならなかった。身代わり妃だったし。
 リオルドと接する内に気になりだし、仲睦まじい二人の姿を見たくなくなり最近はクリス自体を避けていた。

「…ごめん」
「ううん、僕も無神経だった。ユウトを傷つけていたよね。何というか…リオルドのアレには慣れすぎていたから…ごめんね」
「ううん」
「じゃあ、仲直りだね。で、二人は両想いになったんでしょ?ふふふ」
「えっ」
「さすがにわかるよ~。あんな風にエスコートしてきたらさ。ユウトも嫌そうじゃなかったし!良かったね」
「う…恥ずかしいよ」
「ふふふ」

 クリスはいつものお茶を飲みながら、いつものような優しく笑う。
 まるでマグドー公爵家にいた頃のようだ。

「そういえばさ、クリスの部屋マグドーの部屋に似てる。入った時に思ったんだ」

 夜光貝の光る壁に付けられた木製の壁掛け時計、シンプルなのに所々細工が凝っている木のベッド、型押しがしてあるおしゃれなチェスト。
 家具だけじゃない、この部屋にあるものは食器も花瓶もカーテンも…飲んでるお茶だってマグドー公爵家と同じか良く似ているものばかりだ。

「うん。ユウトなら気づいてくれると思った。」
「似たものを揃えたの?」
「僕はね、この3年間…この部屋を支えにして生きてきた。城では色々な事があったよ。マグドーで暮らした日々だけが...僕の支えなんだ」
「クリス…」

 ユウトは気付いていなかった。
 ルーツの子として第一王子に嫁いでからもクリスは変わることは無かった。
 里帰りした時も明るく優しい兄のままで、クリスが城の部屋をマグドーの自室と同じにする程に悩み耐えていたなど思いもしなかった。

「この部屋はね、僕だけの部屋だよ。あのドアがあるだろう?あの先がアーノルドの部屋なんだ。もう1年以上行った事は無いよ」
「……」

 王や王妃の言っていたアーノルド達が子を為す事は無いだろうという話。あれは事実のようだ。

「ユウト、僕達に子孫は生まれない。将来的にはリオルドがカナーディルの王を継ぐことになるだろう。」
「クリス…」
「今日来てもらったのはね、勿論久しぶりに我が弟に会いたかったのもある!あと一つは第一王子夫人として…将来国を継ぐだろう第二夫人に話がしたかったんだ」
「まだ、決まった訳じゃないよ?」

 クリスは首を横に振った。ふわふわの金髪が柔らかく揺れる。

「ユウト、僕も色々頑張ったんだけどもう無理だ。話を聞いてくれるかい?」

 孤児院からユウトを優しく迎え入れてくれたクリス。
 いつも明るく優しい兄だった。
 ルーツの子として様々な事を我慢して育ち、それでも不平を言わず常に学び将来は国を支えるんだと王家に嫁いでいった。
 そ
のクリスが自分はもう王妃にはなれないんだと実家と同じようにあつらえた部屋で言う。

 ーーーどうして早く気付いてあげられなかったんだろう。

「ユウト、泣かないで。大丈夫、僕はもう割りきれたんだ。だから話を聞いて、ね?」

 クリスのお願いにユウトは頷く事しか出来なかった。
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