2 / 7
第二話
しおりを挟む
「ああ疲れた」
フィリップが長椅子に身を投げ出すと、第一王子アベルが「聖女さまのお相手はそんなに大変なのか?」と心配そうに尋ねて来た。
「大人しそうな方に見えたのだが、実はすごくわがままなのか?」
「いや、卑屈なくらい謙虚だよ。真面目だし頑張り屋だし、すごくいい子なんだけど、ただちょっと内気すぎてね」
「ああ、一緒にいるとこっちも気を使って疲れちまうってやつねー、分かる分かる」
第二王子のジョージが茶化すように口を挟んだ。
「あの聖女さまっていかにもそんな感じだもんなー。お前が大神官に指名されたときはコンチクショウって思ったもんだが、こうなってみると俺じゃなくて良かったわー」
「そういう言い方するなよ兄上、不敬だぞ」
「ていうかあの聖女さまっていったいなにやってんの? 神殿で祈ってるって言われても、加護とかぜんぜん感じないんだけど」
「だからそういう言い方するなって」
フィリップはジョージをいさめながらも、内心共感するところがないでもなかった。
――フィリップ殿下、神託により、殿下が聖女さまの婚約者に選ばれました。
大神官からそう告げられた時には、誇らしさと使命感で胸がふるえたものである。
聖女さまを一番近くで支え、何があってもお守りするのだと意気込んだ。
しかし実際に会ったクローディアはいたって平凡な田舎娘で、神々しさなど微塵もないし、東の聖女イザベラや、西の聖女アリシアのように奇跡を起こすわけでもない。
当初の情熱が冷めていくのに、さして時間はかからなかった。
大神官は、東西の聖女なんてしょせんただの子供だましで、我が国の聖女さまこそが世界を守る要なのだと力説するが、その具体的な内容となると途端に歯切れが悪くなる。
そのくせ「とにかく大事なお役目なのですから、婚約者としてしっかり勤めてくださいね、お願いしますよフィリップ殿下」と繰り返し念押しされるのが、正直かなりうっとうしい。
兄王子や従弟たちが連れている才気あふれる美女を見るにつけても、あんな神託さえなかったら、と思ってしまうのをおさえられない。
(まあ選ばれた以上は仕方ないから、彼女の前では優しい婚約者を演じるくらいはするけどさ)
フィリップがため息をついていると、第一王子アベルが「聖女さまといえば、東の国の聖女さまが、今うちの国境沿いの神殿に来ているのを知ってるか?」と唐突な質問を投げかけて来た。
「へえ、あんな辺鄙なところに聖女さまが?」
「うむ。なんでも降臨際に備えて、国内各地の神殿を回って祝福を与えているらしい。あそこなら王都から馬で三日もあれば着くだろうから、お前、行ってきたらどうだ?」
「俺に他国の聖女さまに会いに行けっていうのか?」
「お前はこのあいだ魔獣に右手をやられただろう。イザベラさまにお会いして、癒しの奇跡をお願いしてみろ」
「うーん、そこまでするほどの傷じゃないしなぁ」
「いや正直言うとな、イザベラさまの力が本物かどうか、お前に確かめてほしいのだ。それでもし本物だったら、なんとか我が王都に来てもらえるよう彼女を説得してほしい。ここだけの話、父上の病は薬が効かなくなってきているらしくてな」
「そうか。父上が……」
三人の父親である国王には持病があり、以前からときどき発作を起こしていた。これまでは薬によって症状を改善させることができたのだが、今回は随分と長引いており、フィリップも心配していたところである。
フィリップは「そういうことなら」とイザベラに会いに行くことを了承した。
フィリップが長椅子に身を投げ出すと、第一王子アベルが「聖女さまのお相手はそんなに大変なのか?」と心配そうに尋ねて来た。
「大人しそうな方に見えたのだが、実はすごくわがままなのか?」
「いや、卑屈なくらい謙虚だよ。真面目だし頑張り屋だし、すごくいい子なんだけど、ただちょっと内気すぎてね」
「ああ、一緒にいるとこっちも気を使って疲れちまうってやつねー、分かる分かる」
第二王子のジョージが茶化すように口を挟んだ。
「あの聖女さまっていかにもそんな感じだもんなー。お前が大神官に指名されたときはコンチクショウって思ったもんだが、こうなってみると俺じゃなくて良かったわー」
「そういう言い方するなよ兄上、不敬だぞ」
「ていうかあの聖女さまっていったいなにやってんの? 神殿で祈ってるって言われても、加護とかぜんぜん感じないんだけど」
「だからそういう言い方するなって」
フィリップはジョージをいさめながらも、内心共感するところがないでもなかった。
――フィリップ殿下、神託により、殿下が聖女さまの婚約者に選ばれました。
大神官からそう告げられた時には、誇らしさと使命感で胸がふるえたものである。
聖女さまを一番近くで支え、何があってもお守りするのだと意気込んだ。
しかし実際に会ったクローディアはいたって平凡な田舎娘で、神々しさなど微塵もないし、東の聖女イザベラや、西の聖女アリシアのように奇跡を起こすわけでもない。
当初の情熱が冷めていくのに、さして時間はかからなかった。
大神官は、東西の聖女なんてしょせんただの子供だましで、我が国の聖女さまこそが世界を守る要なのだと力説するが、その具体的な内容となると途端に歯切れが悪くなる。
そのくせ「とにかく大事なお役目なのですから、婚約者としてしっかり勤めてくださいね、お願いしますよフィリップ殿下」と繰り返し念押しされるのが、正直かなりうっとうしい。
兄王子や従弟たちが連れている才気あふれる美女を見るにつけても、あんな神託さえなかったら、と思ってしまうのをおさえられない。
(まあ選ばれた以上は仕方ないから、彼女の前では優しい婚約者を演じるくらいはするけどさ)
フィリップがため息をついていると、第一王子アベルが「聖女さまといえば、東の国の聖女さまが、今うちの国境沿いの神殿に来ているのを知ってるか?」と唐突な質問を投げかけて来た。
「へえ、あんな辺鄙なところに聖女さまが?」
「うむ。なんでも降臨際に備えて、国内各地の神殿を回って祝福を与えているらしい。あそこなら王都から馬で三日もあれば着くだろうから、お前、行ってきたらどうだ?」
「俺に他国の聖女さまに会いに行けっていうのか?」
「お前はこのあいだ魔獣に右手をやられただろう。イザベラさまにお会いして、癒しの奇跡をお願いしてみろ」
「うーん、そこまでするほどの傷じゃないしなぁ」
「いや正直言うとな、イザベラさまの力が本物かどうか、お前に確かめてほしいのだ。それでもし本物だったら、なんとか我が王都に来てもらえるよう彼女を説得してほしい。ここだけの話、父上の病は薬が効かなくなってきているらしくてな」
「そうか。父上が……」
三人の父親である国王には持病があり、以前からときどき発作を起こしていた。これまでは薬によって症状を改善させることができたのだが、今回は随分と長引いており、フィリップも心配していたところである。
フィリップは「そういうことなら」とイザベラに会いに行くことを了承した。
148
あなたにおすすめの小説
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動
しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。
国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。
「あなた、婚約者がいたの?」
「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」
「最っ低!」
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
無気力聖女は永眠したい
だましだまし
恋愛
結婚は縁が無かったけれど村の教会で修道女として慕われ満足な生涯を終え……たはずだったのに!
まさに天に召されるってタイミングで、いや、天に召されたのは召されたの?
神様にやり直しを要求されました。
奥様は聖女♡
喜楽直人
ファンタジー
聖女を裏切った国は崩壊した。そうして国は魔獣が跋扈する魔境と化したのだ。
ある地方都市を襲ったスタンピードから人々を救ったのは一人の冒険者だった。彼女は夫婦者の冒険者であるが、戦うのはいつも彼女だけ。周囲は揶揄い夫を嘲るが、それを追い払うのは妻の役目だった。
やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~
岡暁舟
恋愛
名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる