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六
彼とようやく… (3)
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人影がない夜の歩道を、彼と手を繋いで歩いていた。
赤く点滅する、車が通らない交差点の信号が、見慣れない幻想的な雰囲気を醸し出す。
私と彼しかいない静かな世界に浸っていた。
「……プレゼントされた下着、着るつもりなのか」
突如、彼が唐突な質問で、静寂を破る。
「え?」
一気に現実に引き戻された。
「あいつから下着をもらっただろ」
淡々と聞きながらも、彼は眉間に皺を寄せている。
やっぱり彼に聞かれていた。
巧をあいつ呼ばわりする彼に、プレゼントを快く受け取るべきじゃなかったと後悔した。
「どうして、君のサイズをあいつが知っているんだ?」
「学生時代、巧の家族割引で買える安い下着に目が眩んで、つい教えたの。でも、誤解しないで。巧にとって、女性の下着は単なる会社の商品で、変な下心は全くないから」
私の言い訳に納得したのかしていないのか、彼は何も言わなかった。
沈黙のまま、異様に明るい二十四時間営業のドラッグストアを通り過ぎて、閉店したお洒落なカフェの前を通り過ぎる。
下着を最低限しか揃えていないから入用だった、なんてふところ事情は明かしたくない。
これ以上どう弁明しようかと頭を悩ませていると、
「――で、その下着を着るのか?」
と、彼が聞いてきた。
思わず顔がカァーと熱くなる。
下着を着るのかって。
まだキスもろくにしていない彼に、そんな質問をされるなんて。
「……着ない」
そんな自分の発言さえ、恥ずかしくなる。
今こここで彼にあのことを伝えないと。
「藤原さんのマンションに行く前に 、話があるんだけど」
私は立ち止まると、彼の手を離した。
夜風が強く吹き、ザワっと道路沿いの木の枝を揺らす。
急に態度を改めた私を、彼は興味深そうに見守っていた。
「藤原さんとはまだ出会ったばかりだし、お互いのことをまず知ることを優先して、信頼関係を築き上げるべきだと思うの」
私は堅い正論を言ってのけた。
「――それは、俺も思っていたことだ」
彼も真剣な面持ちで言う。
「付き合ったなりに、藤原さんのマンションに泊まらせてもらうことになったけど……つまり……体の関係は待って欲しいの。ゆっくり時間を掛けて、関係を深めていけたらいいなと……」
言っている途中で、大きなトラックが通る。
「体の関係」と言う部分が、トラックの音に掻き消されたことに気づかなかった。
「そうだな。将来のことも考えて、気長に行こう」
彼が思いがけず、将来という言葉を使う。
結婚相談所で出会ったのだから、当然と言えば当然かもしれない。
でも、私はその一言で、浮かれてしまった。
私の気持ちを彼が受け止めてくれている。
「ありがとう」
私は胸を撫で下ろした。
――ところが。
胸をときめかしながら彼の後に続いて、細長いマンションに足を踏み入れた私はある疑問を感じた。
セキュリティがしっかりした二重のエントランスドアに続いて、和モダンなロビーがある。
砂利と石のオブジェまで置かれたロビーの向こう側には内廊下あって、奥に玄関のドアが二つ並んでいた。
外からの印象では、中が広そうな建物ではなかった。
その空間をロビーや二つの部屋で区切ってしまうと、各部屋の広さがそんなに……
彼が右側のドアの鍵を開ける。
彼に促され中に入るなり、いきなり窓際に置かれたベッドが目に飛び込んできた。
玄関脇にはカウンターで仕切られたキッチン、反対側にはトイレとバスルームと思しきドア。
全ての生活を一部屋だけで完結させるこの空間は、まさかの――
「ワンルームマンションだったなんて」
衝撃的な事実に、開いた口が塞がらなかった。
高収入だから、てっきり巧のように3LDKのマンションに住んでるものだと……
「ああ、言い忘れた。仕事から帰ると、寝るだけだからな。余計なものがないワンルームの方が都合がいい」
背後でドアを閉める彼が、上の空のように呟く。
そして、私の身体に背後から腕を回すと、首筋に唇を這わせた。
肩からバッグが滑り落ち、力なく彼の腕に陥る私の唇を彼が防いだ。
何度も唇を重ね、キスをさらに深くして、私の身体を強く抱きしめる。
彼の抱擁に溶け込む私を、いつの間にか彼が靴を脱がせ、お姫様抱っこした。
――ベッドのきしむ音で我に返る。
「話が違う」
彼の胸に手を当てて、私に覆い被さる彼を止めた。
ブツッと急に音楽が止まるように、その場の空気が急激に冷める。
「何の話だ?」
私の真上で彼が聞いた。
彼の両手は私の顔に両脇に添えられ、私の太ももは彼の膝に挟まれている。
彼の整った目が熱を帯び、私を見つめていた。
「関係をゆっくりと進めて行きたいっていう話。体の関係は気長に待ってくれるんじゃなかったの? マンションに入る直前、そういう話をしたじゃない」
「……あれはセックスの話だったのか?」
体勢を変えずセックスとはっきり言う彼に、私は居心地の悪く身じろぎする。
「……じゃなかったら、何の話だと?」
「単なる信頼関係のことを言っているのかと……」
とにかく、このポジションはちょっと……
暫しの間があって、彼が私から身体を起こした。
「ごめんなさい。曖昧な言い方をしてしまって」
私は身体を起こし、ベッドの上で改まる。
ベッドが私と彼の間で、不自然に揺れた。
「やっぱり、今からでも巧のマンションに戻った方が――」
ベッドから降り立つ私の手首を彼が掴む。
「その必要はない」
「――え?」
振り返る私に、彼が宣言する。
「君がその気になるまで、手を出さないと誓う。だから――」
彼の私を見る熱い眼差しに、ドキッとした。
「ここにいてくれないか」
彼が私を引き寄せ、優しく抱きしめる。
これは我儘?
ワンルームマンションという密室で、彼に無理難題を押し付けているのは、十分承知している。
それなのに、彼と一緒にいたかった。
「大丈夫だ。抱きしめる以上のことは、何もしない――」
彼が私の耳元にそっと囁く。
甘い痺れが身体を駆け巡った。
野宿した夜に感じた痺れと同じ――
酔いしれるように目を閉じ、私は頷いた。
赤く点滅する、車が通らない交差点の信号が、見慣れない幻想的な雰囲気を醸し出す。
私と彼しかいない静かな世界に浸っていた。
「……プレゼントされた下着、着るつもりなのか」
突如、彼が唐突な質問で、静寂を破る。
「え?」
一気に現実に引き戻された。
「あいつから下着をもらっただろ」
淡々と聞きながらも、彼は眉間に皺を寄せている。
やっぱり彼に聞かれていた。
巧をあいつ呼ばわりする彼に、プレゼントを快く受け取るべきじゃなかったと後悔した。
「どうして、君のサイズをあいつが知っているんだ?」
「学生時代、巧の家族割引で買える安い下着に目が眩んで、つい教えたの。でも、誤解しないで。巧にとって、女性の下着は単なる会社の商品で、変な下心は全くないから」
私の言い訳に納得したのかしていないのか、彼は何も言わなかった。
沈黙のまま、異様に明るい二十四時間営業のドラッグストアを通り過ぎて、閉店したお洒落なカフェの前を通り過ぎる。
下着を最低限しか揃えていないから入用だった、なんてふところ事情は明かしたくない。
これ以上どう弁明しようかと頭を悩ませていると、
「――で、その下着を着るのか?」
と、彼が聞いてきた。
思わず顔がカァーと熱くなる。
下着を着るのかって。
まだキスもろくにしていない彼に、そんな質問をされるなんて。
「……着ない」
そんな自分の発言さえ、恥ずかしくなる。
今こここで彼にあのことを伝えないと。
「藤原さんのマンションに行く前に 、話があるんだけど」
私は立ち止まると、彼の手を離した。
夜風が強く吹き、ザワっと道路沿いの木の枝を揺らす。
急に態度を改めた私を、彼は興味深そうに見守っていた。
「藤原さんとはまだ出会ったばかりだし、お互いのことをまず知ることを優先して、信頼関係を築き上げるべきだと思うの」
私は堅い正論を言ってのけた。
「――それは、俺も思っていたことだ」
彼も真剣な面持ちで言う。
「付き合ったなりに、藤原さんのマンションに泊まらせてもらうことになったけど……つまり……体の関係は待って欲しいの。ゆっくり時間を掛けて、関係を深めていけたらいいなと……」
言っている途中で、大きなトラックが通る。
「体の関係」と言う部分が、トラックの音に掻き消されたことに気づかなかった。
「そうだな。将来のことも考えて、気長に行こう」
彼が思いがけず、将来という言葉を使う。
結婚相談所で出会ったのだから、当然と言えば当然かもしれない。
でも、私はその一言で、浮かれてしまった。
私の気持ちを彼が受け止めてくれている。
「ありがとう」
私は胸を撫で下ろした。
――ところが。
胸をときめかしながら彼の後に続いて、細長いマンションに足を踏み入れた私はある疑問を感じた。
セキュリティがしっかりした二重のエントランスドアに続いて、和モダンなロビーがある。
砂利と石のオブジェまで置かれたロビーの向こう側には内廊下あって、奥に玄関のドアが二つ並んでいた。
外からの印象では、中が広そうな建物ではなかった。
その空間をロビーや二つの部屋で区切ってしまうと、各部屋の広さがそんなに……
彼が右側のドアの鍵を開ける。
彼に促され中に入るなり、いきなり窓際に置かれたベッドが目に飛び込んできた。
玄関脇にはカウンターで仕切られたキッチン、反対側にはトイレとバスルームと思しきドア。
全ての生活を一部屋だけで完結させるこの空間は、まさかの――
「ワンルームマンションだったなんて」
衝撃的な事実に、開いた口が塞がらなかった。
高収入だから、てっきり巧のように3LDKのマンションに住んでるものだと……
「ああ、言い忘れた。仕事から帰ると、寝るだけだからな。余計なものがないワンルームの方が都合がいい」
背後でドアを閉める彼が、上の空のように呟く。
そして、私の身体に背後から腕を回すと、首筋に唇を這わせた。
肩からバッグが滑り落ち、力なく彼の腕に陥る私の唇を彼が防いだ。
何度も唇を重ね、キスをさらに深くして、私の身体を強く抱きしめる。
彼の抱擁に溶け込む私を、いつの間にか彼が靴を脱がせ、お姫様抱っこした。
――ベッドのきしむ音で我に返る。
「話が違う」
彼の胸に手を当てて、私に覆い被さる彼を止めた。
ブツッと急に音楽が止まるように、その場の空気が急激に冷める。
「何の話だ?」
私の真上で彼が聞いた。
彼の両手は私の顔に両脇に添えられ、私の太ももは彼の膝に挟まれている。
彼の整った目が熱を帯び、私を見つめていた。
「関係をゆっくりと進めて行きたいっていう話。体の関係は気長に待ってくれるんじゃなかったの? マンションに入る直前、そういう話をしたじゃない」
「……あれはセックスの話だったのか?」
体勢を変えずセックスとはっきり言う彼に、私は居心地の悪く身じろぎする。
「……じゃなかったら、何の話だと?」
「単なる信頼関係のことを言っているのかと……」
とにかく、このポジションはちょっと……
暫しの間があって、彼が私から身体を起こした。
「ごめんなさい。曖昧な言い方をしてしまって」
私は身体を起こし、ベッドの上で改まる。
ベッドが私と彼の間で、不自然に揺れた。
「やっぱり、今からでも巧のマンションに戻った方が――」
ベッドから降り立つ私の手首を彼が掴む。
「その必要はない」
「――え?」
振り返る私に、彼が宣言する。
「君がその気になるまで、手を出さないと誓う。だから――」
彼の私を見る熱い眼差しに、ドキッとした。
「ここにいてくれないか」
彼が私を引き寄せ、優しく抱きしめる。
これは我儘?
ワンルームマンションという密室で、彼に無理難題を押し付けているのは、十分承知している。
それなのに、彼と一緒にいたかった。
「大丈夫だ。抱きしめる以上のことは、何もしない――」
彼が私の耳元にそっと囁く。
甘い痺れが身体を駆け巡った。
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