ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。

紫月あみり

文字の大きさ
57 / 60
十一

王子の到来

しおりを挟む
「そうだ。デスクにパソコンがなかったでしょ? 調子が悪くて、IT担当者に見てもらっていたの。もう直っているはずだから、アカウントの設定をしてもらってちょうだい」

 三田さんが指示をする。
 午後は仕事ができそうだと、私はホッとした。
 オフィスに着くと、早速パソコンが届けられ、IT担当者とアカウントの設定をする。
 雑用も色々頼まれたりと、忙しく過ごし、あっと言う間に帰る時間になった。

「行きましょ。近くに皆でよく行く居酒屋があるの」

 鞄を腕に下げ、帰る準備を整えた三田さんが私を誘う。
 私は先輩達とオフィスを後にした。

「あの王子、今日も来ていると思う?」

 エレベーターを待っていると、佐藤さんが呟く。

「賭けない? 私はいないに千円」

 小林さんが言うと、

「じゃあ、私はいるに千円」

 と三田さんが続く。

「私はいない」、「いる」と、皆次々と賭けていく。

「七瀬さんは?」

 三田さんが聞いた。

「王子って何のことですか?」

 話についていけず、私は聞く。

「ああ、七瀬さんは今日が初日だから知らなかったわね。王子というのは、一週間前から帰宅時になると、会社の前の道路でアストンマーティンを止めて、誰かを待っている男のことよ。ルックスが良い上に、車がアストンマーチンだから、王子と呼んでいるの」

 エレベーターに乗りながら、三田さんが説明する。
 アストンマーティン? 彼の車もそういう名前だったような?
 車に疎い私は、彼の車の名前もうろ覚えだった。

「残業した人の情報と合わせると、だいたい定時から二時間くらいは待ってるそうよ。でも誰も乗せずに帰っちゃうの」

「誰かを探しているんじゃないかって、皆で推測しているんだけど――」

「その誰かってやっぱり恋人よね。別れて連絡先も失ったけど、ここに勤めているのは分かっていて、彼女のことが忘れられず探している、とか。妄想が広がっちゃう」

「幸せ者ね、王子にそんなにも探し求められて。羨ましすぎる。どんな女性だろ?」

 王子の話題に盛り上がりながら、エレベーターを降りる。

「いるいる。私の勝ちね」

 会社の入り口に差し掛かると、小林さんがドア越しに見えるシルバーの車を指して叫ぶ。
 彼の車に似ている。似ているけど、まさか――

「ね、誰を探しているんですかって、聞いてみない? 案外知っている人かもよ」

 佐藤さんが興奮気味に言う。

「それいいわね。毎日待っているんだもの。もしかしたら、会社を辞めた人かもしれないし」

 外に出ると、三田さんが率先して、アストンマーティンに向かった。
 それに気がついたのか、車のドアを開けて、中から誰かが出てくる。
 その姿を見て、私の息が止まった。
 これは現実? まさか、あの忙しい彼が本当に――?

「コウセイ……」

 アストンマーティンの前に立ったのは、紛れもなく藤原晃成だった。
 彼の視線は、真っ直ぐ私に注がれている。
 三田さんが彼の視線をたどって、私を振り向いた。

「もしかして、七瀬さんの婚約者って……」

 皆が私と彼を交互に見守る中、私は頷いた。

「充希」

 彼が近づいてくる。
 彼に道を譲るように、皆が私から退いた。

「やっと見つけた」

 私の前で、彼が立ち止まる。
 彼以外、何もかもがボヤけて見えなくなった。

「どうして……?」

 まだ衝撃から立ち直れない。

「謝りたかったんだ。あの夜のことを」

「あの夜のことは、私が悪かったの。謝るのは私の方――」

「謝らなくていい。君の想いを推し量るような真似をして、自業自得だ。君と佐倉の関係を信じられなかったわけではないんだ。君の中で佐倉の存在が、俺以上に大きいことに嫉妬していたんだ」

 彼の瞳が私だけを見つめていた。

「俺達はまだ付き合いが短い。俺の存在がまだ小さくて当たり前だ。なのに、俺は焦っていたんだ。俺達はこれからだというのに……すまない」

 彼が私の左手を取る。
 ポケットから何かを取り出すと、彼がソレを私に差し出した。

「これを受け取ってくれるか?」

 婚約指輪……私が彼に突き返した……

 私は彼を見上げた。
 彼はあの時と同じ表情をしていた。
 温泉旅行の時と同じ……
 あの時は彼がどういう気持ちでいるのか分からず、不安になったけど、今なら分かる。
 彼が緊張しているということが。

 私は小さく頷いた。
 彼の表情が緩む。
 私の左手を握る彼の手から、熱が伝わった。
 指輪が私の左手の薬指にはめられる。
 瞬間、ドッと拍手が沸いた。

「おめでとっ」という声に、ボヤやけていた周囲が突然はっきりする。

 背後で、先輩達が私と彼を祝福していた。
 ずっと先輩達に見守られていたなんて!
 頭からつま先まで、血が沸騰するように熱くなる。

「悪いっ。君に逃げられやしないかとそればかりで、周りが見えなくなっていた」

 彼が不味ったというように、額に手を当てる。

「この場は帰るべきとも思ったんだけど、折角じゃない? 気配を消して、見させてもらったわ」

 小林さんが茶化すと、

「恋愛するってやっぱりいいなって、思わされた」

 と佐藤さんが感想を言う。

「私も触発されちゃった。佐倉課長ばかり追ってないで、私も婚活してみようかな。明日、どこの結婚相談所で知り合ったか教えてね。歓迎会は後々ってことで、私達は退散するから」

 三田さんがその場をまとめ駅の方へ歩き始めると、皆も私に手を振って後に続く。

 恥ずかしさを克服できないまま、彼とその後ろ姿を呆然と見送った。
 婚約指輪がはめられた左手を、彼に握られながら――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】平凡OL(β)ですが、同期の末っ子御曹司(α)に溺愛されています

神無月りく
恋愛
日本外食産業の一翼を担う『川嶋フーズ』で秘書としてOL黒田鞠花(くろだまりか)は、同期で社長令息の川嶋隼人(川嶋はやと)に入社以来恋に似た憧れを抱いていた。 しかし、そもそもの身分が違う上に自分はβで、彼はα。 ただの同期以上の関係になれないまま、五年の月日が流れた。 ある日、Ωのヒートに巻き込まれて発情した彼を介抱するため一夜を共にし、それがきっかけで両思いだったことが発覚して交際がスタート。 意外に庶民的でたまに意地悪なスパダリ彼氏に溺愛され、順調にデートを重ねて幸せな日々を送っていた鞠花だったが、自分の母親からαの交際を反対されたり、彼の運命の番を自称するΩ令嬢が登場したりと、恋路を妨げる波乱に見舞われるように…… ※ムーンライトノベルズ(小説家になろう)様で同一作品を連載中ですが、こちらが若干先行公開となっております。 ※一応R18シーンには☆マークがついています。 *毎週土日および祝日の不定時に更新予定(ただし、1月1日~5日までは連日更新)。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...