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舞台裏
第二王子の誤算〈ベイトside〉
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時は少しだけ遡り、フールの逃亡の少しあと。
第二王子の離宮ではヒステリックな声が響き渡っていた。
「フールが裏切った!? それはどういう事ですか! 説明しなさい!」
「母上、そんなに大声を出さずとも聴こえています」
俺はうんざりしながら母を宥めた。
母は王妃から父を奪って当時はこの国一番の貴婦人と讃えられた側妃だ。
かつては傾国の美女とまで言われた人だが、いつの頃からか父は母を遠ざけ始めた。
それからは何としても俺を王太子にしたいと躍起になり、今現在も完全に王妃に勝つ事を目指している。
その頃から段々おかしくなって来ていたが、もうここまで来ると昔の面影は見付けられない。
落ち着きなく体を揺らし爪を噛む姿はとても貴婦人とは思えない有様で、これでは国王である父に飽きられてしまったのも仕方ないかもと思えてくる。
だからと言ってあのバカ兄にそのまま王位を継がせるなんて、それは断固阻止しなくてはならない。
俺が国王になるほうがこの国のためにも良いと、多くの貴族も賛同してくれているのだから……。
「一昨日の夜、フールが脱獄したのですが今だに連絡が取れないと知らせが入っただけで、奴が裏切ったとは誰も言っていません」
「でも『ベイト王子の指図だ』と、牢内で言ったそうではないですか」
「しかし、奴のことです。何らかの作戦でそう言っただけと言う事も十分考えられます」
「いいえ、これは裏切りよ。フールは私たちを陥れるために……もしかしたら、自分が助かるために言ったかもしれませんよ」
「そんなはずは……」
そう言われると、牢内に居るわけでも無いのに丸一日以上何の連絡もない事に不安を感じる。
しかも追い討ちをかけるように、国王直属の近衛が事情を聞きに来た。
「ほら見なさい。やっぱり私たちは裏切られたのよ! もうお終いだわ。ベイト、どうするの? 何とかしてちょうだい」
「母上、落ち着いてください。──誰か、母上を寝室に……」
面倒臭くなった俺は母の護衛に丸投げした。
あんなに騒いで、誰かに聞かれたらどうするつもりなんだと腹が立つ。
足早に廊下を歩きながら、侍従に訊ねた。
「それで近衛は?」
「謁見の間に通してあります」
「何か言っていたか?」
「それが……殿下が来てからと……」
「そうか」
これはまずいかもしれない。
その予感は見事に当たった。
謁見の間に入った俺に、近衛は父からの書状を預かって来たと言う。
侍従が中継したそれには、今まで俺が画策してきた陰謀の数々が書き連ねられていた。
しかも第二王子派と言われる貴族の上層部は軒並み不正を働いて捕縛されたとある。
クラウン王子派に嵌められたと分かっていても証拠は無い。
この場での言い逃れは不可能だった。
「ベイト殿下、いかがなさいますか?」
父上は今回の不祥事で責任を取り公爵として臣下に下るか、このまま調査を続行して正式に罪を問われるか、どちらか選べと言う。
そんなの決まってる。
公爵になって熱りが覚めるのを待つ以外ない。
何年か無駄にしても、今は耐え忍ぶだけだ。
「ベイト殿下」
「分かった。……継承権を放棄して公爵に降りよう」
「了解いたしました。陛下にはそのようにご報告いたします」
くそぉ。
俺はどこで間違えた?
あの出来損ない王太子のクラウンに、なぜ負けた?
それになぜ、ここまで詳細な証拠が?
それが分からない。
俺が心の中で荒れ狂っている中、近衛は踵を返しこの場を出て行った。
怒りが収まらず、帰っていく近衛の姿を窓から眺め睨み付ける。
ん?
その時、彼らが乗ってきた軍馬を待機させているその場所に、既視感のある姿を認める。
キラキラと陽光を弾く見事な銀髪。
「フール!?」
「は?」
側近の一人も目を瞬いている。
何かを間違ったとか、そういう次元では無かった……。
これは、最初から決まっていた事なのか?
いや、違う。
フールは確かにクラウンも陥れようとしていた。
しかしあれがフールなのなら、彼は陛下の命で動いていたのか?
父上は息子二人を陥れて、何をなさりたかったのか……。
一体どういう事なんだ?
俺はもう誰も信じられないと、ただその場で立ち尽くすのだった。
第二王子の離宮ではヒステリックな声が響き渡っていた。
「フールが裏切った!? それはどういう事ですか! 説明しなさい!」
「母上、そんなに大声を出さずとも聴こえています」
俺はうんざりしながら母を宥めた。
母は王妃から父を奪って当時はこの国一番の貴婦人と讃えられた側妃だ。
かつては傾国の美女とまで言われた人だが、いつの頃からか父は母を遠ざけ始めた。
それからは何としても俺を王太子にしたいと躍起になり、今現在も完全に王妃に勝つ事を目指している。
その頃から段々おかしくなって来ていたが、もうここまで来ると昔の面影は見付けられない。
落ち着きなく体を揺らし爪を噛む姿はとても貴婦人とは思えない有様で、これでは国王である父に飽きられてしまったのも仕方ないかもと思えてくる。
だからと言ってあのバカ兄にそのまま王位を継がせるなんて、それは断固阻止しなくてはならない。
俺が国王になるほうがこの国のためにも良いと、多くの貴族も賛同してくれているのだから……。
「一昨日の夜、フールが脱獄したのですが今だに連絡が取れないと知らせが入っただけで、奴が裏切ったとは誰も言っていません」
「でも『ベイト王子の指図だ』と、牢内で言ったそうではないですか」
「しかし、奴のことです。何らかの作戦でそう言っただけと言う事も十分考えられます」
「いいえ、これは裏切りよ。フールは私たちを陥れるために……もしかしたら、自分が助かるために言ったかもしれませんよ」
「そんなはずは……」
そう言われると、牢内に居るわけでも無いのに丸一日以上何の連絡もない事に不安を感じる。
しかも追い討ちをかけるように、国王直属の近衛が事情を聞きに来た。
「ほら見なさい。やっぱり私たちは裏切られたのよ! もうお終いだわ。ベイト、どうするの? 何とかしてちょうだい」
「母上、落ち着いてください。──誰か、母上を寝室に……」
面倒臭くなった俺は母の護衛に丸投げした。
あんなに騒いで、誰かに聞かれたらどうするつもりなんだと腹が立つ。
足早に廊下を歩きながら、侍従に訊ねた。
「それで近衛は?」
「謁見の間に通してあります」
「何か言っていたか?」
「それが……殿下が来てからと……」
「そうか」
これはまずいかもしれない。
その予感は見事に当たった。
謁見の間に入った俺に、近衛は父からの書状を預かって来たと言う。
侍従が中継したそれには、今まで俺が画策してきた陰謀の数々が書き連ねられていた。
しかも第二王子派と言われる貴族の上層部は軒並み不正を働いて捕縛されたとある。
クラウン王子派に嵌められたと分かっていても証拠は無い。
この場での言い逃れは不可能だった。
「ベイト殿下、いかがなさいますか?」
父上は今回の不祥事で責任を取り公爵として臣下に下るか、このまま調査を続行して正式に罪を問われるか、どちらか選べと言う。
そんなの決まってる。
公爵になって熱りが覚めるのを待つ以外ない。
何年か無駄にしても、今は耐え忍ぶだけだ。
「ベイト殿下」
「分かった。……継承権を放棄して公爵に降りよう」
「了解いたしました。陛下にはそのようにご報告いたします」
くそぉ。
俺はどこで間違えた?
あの出来損ない王太子のクラウンに、なぜ負けた?
それになぜ、ここまで詳細な証拠が?
それが分からない。
俺が心の中で荒れ狂っている中、近衛は踵を返しこの場を出て行った。
怒りが収まらず、帰っていく近衛の姿を窓から眺め睨み付ける。
ん?
その時、彼らが乗ってきた軍馬を待機させているその場所に、既視感のある姿を認める。
キラキラと陽光を弾く見事な銀髪。
「フール!?」
「は?」
側近の一人も目を瞬いている。
何かを間違ったとか、そういう次元では無かった……。
これは、最初から決まっていた事なのか?
いや、違う。
フールは確かにクラウンも陥れようとしていた。
しかしあれがフールなのなら、彼は陛下の命で動いていたのか?
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俺はもう誰も信じられないと、ただその場で立ち尽くすのだった。
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