ユイユメ国ゆめがたり【完結】

星乃水晴(すばる)

文字の大きさ
116 / 126
第13話 夢を結う

3 時空のほつれ

しおりを挟む
「わ……、わあ……っ」

 屋上おくじょう庭園ていえんに広がった光景こうけいを見て、るりなみは声をあげた。

 うすはいいろの空のもと、あちこちの景色けしきが、あるいはなにもない場所が、やぶれているように見えた。

 そのほつれた破れ目の奥に、数字や文字の世界が見えかくれしている。



 庭園のはしに出て、あたりをながめるるりなみのすぐうしろでも、びりっと布の破けるような音がした。

 り向くと、わた廊下ろうかを背にした景色が破れ、その向こうでは音符おんぷおどっていた。

 音符たちはその世界で、見えない風や流れに乗るようにうずいて、何層なんそうにもかさねるように音楽をかなでていた。
 いや……その世界では、無数むすうの音楽が重なりあって流れていて、音符たちはそれをあらわして飛び回っているのだった。

 思わず目を見ひらいて、るりなみは音楽の世界を見つめ……こうとしていた。



 そのとたん、音楽の世界をのぞかせていた破れ目は、びりりと大きく広がり、庭園のゆか亀裂きれつのようにきながら、るりなみのもとへ走ってきた。

 音の海の世界が、るりなみを呼ぼうとしている──そんな世界の意思いしつたわってきて、るりなみはぞくりと立ちすくむ。

 その足もとで、音の世界をのぞかせたほつれ目は、るりなみを呼びこむように、ぐばり、と地面に口をひらいた。

「わあああっ」

 足に、音符の波がからみ、そこいた世界へ、るりなみを引きこもうとする。

 かぶっていた大きな帽子ぼうしがぬげて、世界の奥へと落ちていった。
 その三角の形と青い色が、ほどけるようにして、音楽の波に分解ぶんかいされていくのが見える。

「帽子さん……!」

 帽子のすえを見つめながら、るりなみの体もが、その世界にまれて落ちていきそうになったとき──。

 なにかの力が、るりなみを飛びねさせた。

 足もとに広がる音符の世界に、一瞬、黒々くろぐろとしたかげまわって交差こうさする。

 るりなみの影が、るりなみを飛びあがらせたのだった。

 庭園の中空ちゅうくうおどり出たるりなみの体に、向こうの廊下から、さっと光がすような速さで、別の影がびてきたかと思うと──。

 ぽすっ、とるりなみはだれかにきとめられていた。

「つかまえました」

 ぐるりと視界しかいが回ったかと思うと、るりなみは、庭園の安全な地面の上に着地ちゃくちし、ゆいりのうでかれたまま立たされていた。

「ゆいり、どうして……!」
「影の中を走ってまいりましたので」

 ゆいりはるりなみをとなりに立たせると、「さて」と灰色の空のもとの庭園を見わたした。



 あちこちで、空間のけ目がどんどん大きくなって、奥の世界が渦巻いて顔を見せる。

 その景色はおそろしかったが、ゆいりの隣にいれば大丈夫だ、という安心感があった。

「なにが起こっているの?」
時空じくうがほつれてしまったようで」

 問いかけたるりなみに、ゆいりはおだやかな口調くちょうながら、けわしいまなざしで答えた。

「この数日で、私たちの世界は、時空の分かれ目をえようとしていました。時空の分かれ目──未来が分岐ぶんきして、それぞれの先に世界が分かれていく。それ自体じたいは、日々、何度でも起こっていることです。ですが」

 ゆいりはいくつもの裂け目の向こうの世界をにらみながら、続けて言った。

「今回の分かれ目はとても大きなものであった上、自然につくられた分かれ道ではなかったようなのです。なにものかの力が、自然にはそうならない未来の道をつくりあげるためにはたらいた、と思われます」
「それは……」

 るりなみは目を見ひらいた。

「それは、ゆめづきの時計かも……」
「ゆめづき様の?」

 やはりゆいりは、ゆめづきのことや、その時計のことは知らないのだ、とるりなみはとっさに言葉をさぐる。

「ゆめづきは、ふしぎな時計を持っていて……時空を変えてしまった、もうこの時空にはいられない、と言って……かがみの向こうに消えてしまったんだ……!」

 るりなみは目をせて言ったあと、いきおいよくゆいりを見あげた。

「ゆいり、ゆめづきを助けなくちゃ!」

 ゆいりはおどろいた様子だったが、深く納得なっとくしたようにうなずき、それからなにか言いづらそうに「それで……」と口をひらいた。

「実は、時空がほつれてしまったのには……ほかにも原因げんいんがあるのです」

 え、とるりなみは言葉の先をつ。
 ゆいりは歯切はぎれ悪く言った。

「時空が、本来の流れにない状態じょうたいで大きな分かれ目を越えようとしているところに、とあるものが引っかかってしまって……こんなふうに裏側うらがわの世界が、この王宮おうきゅうに流れこんで見えるのは、おもにそちらが原因です」
「その原因って?」

 ゆいりは、ためいきをつきそうな顔で答えた。

「あのこまった訪問ほうもんしゃ……べつの子ども時代じだいを生きる私が、時空をぶち渡ってこの王宮にやってきたことです」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】花屋の花子さん

●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】 旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。 そこには『誰か』が不思議な花を配っている。 真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。 一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。 『あなたにこの花をあげるわ』 その花を受け取った後は運命の分かれ道。 幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。 「花子さん、こんにちは!」 『あら、小春。またここに来たのね』 「うん、一緒に遊ぼう!」 『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』 これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

くらげ のんびりだいぼうけん

山碕田鶴
絵本
波にゆられる くらげ が大冒険してしまうお話です。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

【完結】玩具の青い鳥

かのん
児童書・童話
 かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。  トイ・ブルーバードは玩具やとして国々を旅していたのだが、貿易の町にてこの国の王女に出会ったことでその運命を翻弄されていく。  王女と玩具屋の一幕をご覧あれ。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

処理中です...