前世では地味なOLだった私が、異世界転生したので今度こそ恋愛して結婚して見せます

第2話「新たな人生への第一歩」

　まだ朝日が昇る前。窓から入り込むひんやりとした空気が、フィオーレ・アメリアの頬をくすぐった。
　昨夜、前世の記憶が戻り、混乱しながらも「今度こそ幸せになりたい」と決意した。
　そして今、新しい人生の一歩を踏み出すときが来たのだ。
　
　静まり返った屋敷の廊下を歩く。だが、書斎の扉を開けようとしたその時、背後から優しい声がした。

「お嬢様、どうかなさいましたか？」
　
　振り向くと、そこにはいつも世話をしてくれる侍女、クラリスが立っていた。栗色の髪をきれいにまとめた姿は、いつもと変わらない穏やかさを醸し出している。

「ちょっと……読書をしようと思って。」
　
　フィオーレは微笑んで答えた。クラリスは少し驚いたように目を丸くした。

「読書ですか？お嬢様は朝が苦手でしたのに、珍しいですね。」
　
　そうだった。前世の記憶が戻る前までは、のんびりとした日々を過ごしていた。でも、もう違う。努力を積み重ねて理想の人生を歩むのだ。

「ううん、これからは頑張るの。もっと知識をつけて、いろんなことを学びたいの。」
　
　そう言うと、クラリスは優しく微笑んだ。

「素敵なことですね。では、お嬢様のために暖かい紅茶をご用意いたします。読書の時間のお供にいかがですか？」

「うん、ありがとう。」
　
　フィオーレが書斎に入ると、本棚には膨大な書物が並んでいた。社交界の作法、歴史、戦術、今まで興味を持っていなかったものが、すべて新しい世界の扉を開く鍵になるような気がした。

「まずは社交界の基本から……。」
　
　本を手に取り、ページをめくる。その瞬間、部屋の扉が開き、今度はフィオーレの兄、カイルが顔を覗かせた。

「なんだ、こんな朝早くから珍しいな。何してるんだ？」

「勉強よ。これから社交界に出るし、ちゃんと準備しないと。」
　
　カイルは苦笑しながら椅子に腰を下ろした。

「お前が努力するのはいいことだけど、無理しすぎるなよ？父上も母上も、お前の幸せが一番だって言ってたぞ。」

「もちろんよ。でも、前よりもっと頑張りたいの。」
　
　フィオーレの言葉に、カイルは満足そうにうなずいた。

「じゃあ、俺の知ってることなら何でも教えてやる。社交界のマナーでも歴史でも、聞きたいことがあれば言え。」

「本当？助かるわ！」
　

　兄との会話が弾む中、クラリスが紅茶を持ってきてくれた。屋敷の温かな雰囲気の中で、フィオーレはゆっくりと紅茶を飲みながら、未来への一歩を踏み出そうとしていた。
　

　これから始まる人生が、幸せなものになるように。