6 / 27
第6話:イングリッシュガーデンの静かな噂と、貴族令嬢たちの訪問
しおりを挟む
イングリッシュガーデンを始めてから、数日が経った。
朝に花の手入れをし、焼きたてのスコーンを並べ、ハーブティーを淹れる生活が、すっかりリリアの日常になっていた。
そして庭には、少しずつ客足が増えていた。
村の子どもたちや近所の女性たちに加え、今では隣村からわざわざ訪れる者もいる。
皆、口々に言うのは同じだった。
「この紅茶……ほかにはない香りね」
「花に囲まれて飲むお茶って、こんなに贅沢だったかしら」
「街の高級店より、ここのほうが落ち着くよ」
庭で採れたハーブをブレンドし、その日その日の天候に合わせて調合する“季節の一杯”は、他にない味わいとして評判を呼び始めていた。
そんなある午後のこと。
ふわりと甘い香水のような香りをまとった、一台の馬車が庭の前に止まった。
扉が開き、絹のドレスをまとった三人の若い令嬢たちが、華やかに姿を現した。
「まぁ、本当にお花が咲き誇ってるのね」
「ここでお茶が飲めるって聞いて、ずっと来てみたかったのよ」
「こんな場所、王都にもないわ。まるで物語の中みたい」
リリアは驚きながらも丁寧にお迎えし、テーブルへ案内した。
令嬢たちは目を輝かせながら紅茶を味わい、スコーンのやさしい味に感嘆の声を漏らす。
そして、ひとしきり堪能したあと、最も年長の令嬢——金髪を編み込みにした優雅な女性が、リリアに微笑みかけた。
「お願いがあるの。このお庭で、私たちの“お茶会”を開かせていただけないかしら?」
「……お茶会、ですか?」
「ええ。貴族のご令嬢たちだけの、ちょっとした集まりよ。もちろん、ご迷惑にならないように準備や費用はこちらで手配するわ」
「でも、うちのような小さな場所で、よろしいのでしょうか……?」
「それがいいのよ。王宮のサロンじゃ堅苦しいし、お屋敷の庭はもう見飽きたわ。この“花の隠れ家”、きっと皆、気に入るはず」
リリアは戸惑いながらも、その言葉に胸がふわっと温かくなるのを感じた。
前世では、カフェでお茶会を開くことはあっても、それはいつも商業的な予約イベントだった。
でも今、求められているのは、誰かが「ここで過ごしたい」と心から思ってくれる時間。
それは、リリアが目指していた“癒しの庭”そのものだった。
「……ありがとうございます。私でよければ、喜んでお手伝いさせていただきます」
小さく頭を下げると、令嬢たちは嬉しそうに拍手をした。
「まぁ素敵! 次は、帽子とグローブも持って来なくちゃ!」
「ドレスコードも決めましょうか。リリアさん、楽しいお茶会にしましょう」
庭に響く笑い声。華やかな時間の予感。
リリアの“花の庭”に、またひとつ新しい風が吹こうとしていた。
朝に花の手入れをし、焼きたてのスコーンを並べ、ハーブティーを淹れる生活が、すっかりリリアの日常になっていた。
そして庭には、少しずつ客足が増えていた。
村の子どもたちや近所の女性たちに加え、今では隣村からわざわざ訪れる者もいる。
皆、口々に言うのは同じだった。
「この紅茶……ほかにはない香りね」
「花に囲まれて飲むお茶って、こんなに贅沢だったかしら」
「街の高級店より、ここのほうが落ち着くよ」
庭で採れたハーブをブレンドし、その日その日の天候に合わせて調合する“季節の一杯”は、他にない味わいとして評判を呼び始めていた。
そんなある午後のこと。
ふわりと甘い香水のような香りをまとった、一台の馬車が庭の前に止まった。
扉が開き、絹のドレスをまとった三人の若い令嬢たちが、華やかに姿を現した。
「まぁ、本当にお花が咲き誇ってるのね」
「ここでお茶が飲めるって聞いて、ずっと来てみたかったのよ」
「こんな場所、王都にもないわ。まるで物語の中みたい」
リリアは驚きながらも丁寧にお迎えし、テーブルへ案内した。
令嬢たちは目を輝かせながら紅茶を味わい、スコーンのやさしい味に感嘆の声を漏らす。
そして、ひとしきり堪能したあと、最も年長の令嬢——金髪を編み込みにした優雅な女性が、リリアに微笑みかけた。
「お願いがあるの。このお庭で、私たちの“お茶会”を開かせていただけないかしら?」
「……お茶会、ですか?」
「ええ。貴族のご令嬢たちだけの、ちょっとした集まりよ。もちろん、ご迷惑にならないように準備や費用はこちらで手配するわ」
「でも、うちのような小さな場所で、よろしいのでしょうか……?」
「それがいいのよ。王宮のサロンじゃ堅苦しいし、お屋敷の庭はもう見飽きたわ。この“花の隠れ家”、きっと皆、気に入るはず」
リリアは戸惑いながらも、その言葉に胸がふわっと温かくなるのを感じた。
前世では、カフェでお茶会を開くことはあっても、それはいつも商業的な予約イベントだった。
でも今、求められているのは、誰かが「ここで過ごしたい」と心から思ってくれる時間。
それは、リリアが目指していた“癒しの庭”そのものだった。
「……ありがとうございます。私でよければ、喜んでお手伝いさせていただきます」
小さく頭を下げると、令嬢たちは嬉しそうに拍手をした。
「まぁ素敵! 次は、帽子とグローブも持って来なくちゃ!」
「ドレスコードも決めましょうか。リリアさん、楽しいお茶会にしましょう」
庭に響く笑い声。華やかな時間の予感。
リリアの“花の庭”に、またひとつ新しい風が吹こうとしていた。
488
あなたにおすすめの小説
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する
雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。
ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。
「シェイド様、大好き!!」
「〜〜〜〜っっっ!!???」
逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる