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第1章 偽りの騎士
第4話 ウロボロスの強い思い 3
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ウロボロスは凄いと思いかけて気付く。この話の流れにはおかしな点がある、と。
「えぇ、我が君のために鍛錬を欠かさないのは、フィアンセとして、そして配下として当然の務めですから」
それはその通りなのだろう。コーヒーに限らずにあらゆる意味で。もし魔王様の嗜好品を提供することだけを目的としていたならば、最後に読んでいるべきなのは料理の本だから。それ以外の本は、魔王様の嗜好品はコーヒーであると推定するための資料に過ぎない。どこの世界に断定せずに方法論を調べる者がいるだろう。しかしウロボロスが最後に読みふけっていたのは歴史の本であった。このことから読み取れるのはひとつ。最初に想像した通り、ウロボロスはやはり別次元にいるのだ。
「……敵わぬのう、お主には」
一瞬でも親近感を覚えた自分が恥ずかしく思った。この世界は明かにドミニオンズではない。魔王様の反応から察するに現実世界でもないのだろう。では一体この世界は何なのか。わからない。全くの手探り状態。だから魔王様はあれだけ圧倒的な勝利を収めてもなおこの世界のことを恐れている。そのサポートをするべきは誰なのだろう。答えは即答。自分たち。そんな当たり前のことを、などとは言えない。寝落ちし、挙句の果てに温い想像をしていた身で、そんな偉そうな口を叩けるはずがない。
「まだ初日がやっと終わったばかりです。これからもずっとお仕えするのですから、いくらでも挽回できるでしょう」
ウロボロスの言う通りだ。初日に転んだからと言って全て終わりではない。むしろ始まりなのだ。ともすると魔王様には一切露見しないかもしれないが、このまま終わらせてどうする。見ろ、あのウロボロスの目を。ドミニオンズ時代からよく見せられてきたあの目を。
かつて、私はオラクル・ナイツでも生え抜きの雑魚であった。しかも救いようのないレベルだと自分自身でもよく理解していて、捨てられても仕方ない、もうどうしようもない。諦め切っていた。それでも魔王様に育てて頂く中で、ウロボロスにはいつも守られていた。どんな時でも、例え自分たちが失敗しようとも完璧に守り通してくれて、負けてしまっても嫌味ひとつ言わず、次へ、先へと進み続けた。その敗北時に毎回見せてくれた、悲しみも悔しさも仕舞い込んでそれでも微笑みかけてくれる目だった。
「……そうじゃのう」
その目はもの凄く嫌いだ。守られているだけの頃を、データだった頃を思い出してしまうから。
でも今は違う。守られるだけの自分ではない。栄光あるオラクル・ナイツの一員になった。団長と団員という役職の差はあれども、同じ戦場に立てるだけ成長したのだ。ならば、どうして素直に現状を受け入れられるだろう。確かに今回は完敗である。全く覚悟が足りていなかった。だが次はこうはいかない。
「気を抜いている暇は無いのう」
勿論、一番の理由は魔王様のために。そこは絶対不変である。その次に、ウロボロスのためにも頑張ろうと決意を固めた。
寝直す暇は無い。既に置いていかれている状態なのだから、この頭痛すら取るに足らないものに感じられる。さっさと顔でも洗って復興作業にこの世界の調査、そのどちらも始めようではないか。
「ふふ、応援していますよ、カルマ。微力ながら喜んで協力しますね」
「冗談を抜かすでない。なにが微力じゃ」
これほど頼りになって目標にもなってしまう存在が、どうして微力なものか。それでもそう主張されたなら自分は力にすらなれないということだ。いや、現状はそうなのだから否定しようがない。そこを認めるところから始めていこうと再認識する。
「ワシも力になれるよう努力していくのじゃ。じゃから……主こそ、余り無理をするでないぞ?」
何もかも負けた気持ちになっているが、ある危険性にも気付いていた。これが初日故の興奮であったなら良いのだが、もしもそうでなかったとしら、きっと悲しいことが起こるだろう。
外は突き抜けるような青空が広がり出している。もうバッチリ朝。つまりウロボロスは貫徹してしまったのだ。こんな無理がどうして続けられるだろう。寝落ちした自分ですら、こんなにも辛いというのに。
「はい、大丈夫ですよ」
真っ赤に充血した目を細めて、ウロボロスはニッコリと微笑んだ。仮に全く眠気を感じていなかったとしても、間違いなく目を初めとする体は限界だろうに。そんな辛さすら一切見せない晴れやかな笑みであった。
「こんな無理は初日だけです。今後のため、我が君の睡眠時間をおおよそ把握するためにも起きていたのですから」
「……なるほど、そうであったか」
一応の納得はした。その言い分が本当なら明日以降、この心配に限っては大丈夫だろうから。
「えぇ、我が君のために鍛錬を欠かさないのは、フィアンセとして、そして配下として当然の務めですから」
それはその通りなのだろう。コーヒーに限らずにあらゆる意味で。もし魔王様の嗜好品を提供することだけを目的としていたならば、最後に読んでいるべきなのは料理の本だから。それ以外の本は、魔王様の嗜好品はコーヒーであると推定するための資料に過ぎない。どこの世界に断定せずに方法論を調べる者がいるだろう。しかしウロボロスが最後に読みふけっていたのは歴史の本であった。このことから読み取れるのはひとつ。最初に想像した通り、ウロボロスはやはり別次元にいるのだ。
「……敵わぬのう、お主には」
一瞬でも親近感を覚えた自分が恥ずかしく思った。この世界は明かにドミニオンズではない。魔王様の反応から察するに現実世界でもないのだろう。では一体この世界は何なのか。わからない。全くの手探り状態。だから魔王様はあれだけ圧倒的な勝利を収めてもなおこの世界のことを恐れている。そのサポートをするべきは誰なのだろう。答えは即答。自分たち。そんな当たり前のことを、などとは言えない。寝落ちし、挙句の果てに温い想像をしていた身で、そんな偉そうな口を叩けるはずがない。
「まだ初日がやっと終わったばかりです。これからもずっとお仕えするのですから、いくらでも挽回できるでしょう」
ウロボロスの言う通りだ。初日に転んだからと言って全て終わりではない。むしろ始まりなのだ。ともすると魔王様には一切露見しないかもしれないが、このまま終わらせてどうする。見ろ、あのウロボロスの目を。ドミニオンズ時代からよく見せられてきたあの目を。
かつて、私はオラクル・ナイツでも生え抜きの雑魚であった。しかも救いようのないレベルだと自分自身でもよく理解していて、捨てられても仕方ない、もうどうしようもない。諦め切っていた。それでも魔王様に育てて頂く中で、ウロボロスにはいつも守られていた。どんな時でも、例え自分たちが失敗しようとも完璧に守り通してくれて、負けてしまっても嫌味ひとつ言わず、次へ、先へと進み続けた。その敗北時に毎回見せてくれた、悲しみも悔しさも仕舞い込んでそれでも微笑みかけてくれる目だった。
「……そうじゃのう」
その目はもの凄く嫌いだ。守られているだけの頃を、データだった頃を思い出してしまうから。
でも今は違う。守られるだけの自分ではない。栄光あるオラクル・ナイツの一員になった。団長と団員という役職の差はあれども、同じ戦場に立てるだけ成長したのだ。ならば、どうして素直に現状を受け入れられるだろう。確かに今回は完敗である。全く覚悟が足りていなかった。だが次はこうはいかない。
「気を抜いている暇は無いのう」
勿論、一番の理由は魔王様のために。そこは絶対不変である。その次に、ウロボロスのためにも頑張ろうと決意を固めた。
寝直す暇は無い。既に置いていかれている状態なのだから、この頭痛すら取るに足らないものに感じられる。さっさと顔でも洗って復興作業にこの世界の調査、そのどちらも始めようではないか。
「ふふ、応援していますよ、カルマ。微力ながら喜んで協力しますね」
「冗談を抜かすでない。なにが微力じゃ」
これほど頼りになって目標にもなってしまう存在が、どうして微力なものか。それでもそう主張されたなら自分は力にすらなれないということだ。いや、現状はそうなのだから否定しようがない。そこを認めるところから始めていこうと再認識する。
「ワシも力になれるよう努力していくのじゃ。じゃから……主こそ、余り無理をするでないぞ?」
何もかも負けた気持ちになっているが、ある危険性にも気付いていた。これが初日故の興奮であったなら良いのだが、もしもそうでなかったとしら、きっと悲しいことが起こるだろう。
外は突き抜けるような青空が広がり出している。もうバッチリ朝。つまりウロボロスは貫徹してしまったのだ。こんな無理がどうして続けられるだろう。寝落ちした自分ですら、こんなにも辛いというのに。
「はい、大丈夫ですよ」
真っ赤に充血した目を細めて、ウロボロスはニッコリと微笑んだ。仮に全く眠気を感じていなかったとしても、間違いなく目を初めとする体は限界だろうに。そんな辛さすら一切見せない晴れやかな笑みであった。
「こんな無理は初日だけです。今後のため、我が君の睡眠時間をおおよそ把握するためにも起きていたのですから」
「……なるほど、そうであったか」
一応の納得はした。その言い分が本当なら明日以降、この心配に限っては大丈夫だろうから。
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