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第1章 偽りの騎士
第5話 怪現象だ 2
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どうやってウロボロスは侵入したのだろう。まさか、力に任せて押し入って来たんじゃないだろうな。改めて周りを確認するがどこも壊れた様子はない。では一体どうやって。
「あぁ、それでしたら簡単です。ここはアザレアが用意した家ですので、侵入口はいくらでもありますよ」
「いくらでもあるのかよ!」
いつの時代も、時の有力者は内部の人間にやられてきた。だからこそ夜、寝所には必ず護衛を配置したという。そんな有名人たちの気持ちがよくわかった。まさか絶対と信じたセキュリティの製作者が敵だったとは。まぁ、想定できなくもない相手ではあったが。
それはともかくとして、おちおち眠ってもいられな、こりゃ。物理的な要因を排除するのは諦めて別の手段を考えなくては。
「ところで、それならアザレアはどうしたんだよ?」
ふと、その製作者野郎はどこにいるのかと気になった。こんな手の込んだ部屋を作ったのに、当の本人がいないのは余りにも不自然。作るだけ作って機を伺うなんてことはないだろう。ウロボロスがこの調子なんだ。アザレアだって何かしら企んでいるに違いない。
「1対1の戦闘で私に敵うとでもお思いですか? 快く譲ってくれましたよ」
「あぁ……そう。大体話はわかった」
なるほど、全ての辻褄が合ってしまった。まず、護衛役として立派に活躍したウロボロスによって製作者は撃退されたらしい。そして頑張って用意した策は全て掌握されて悪用されていると。
哀れ、アザレア。今回だけは同情してもいいかも。だからといって、その望みを叶えてあげる気にはならないが。
「我が君、コーヒーを淹れましょうか?」
おもむろにウロボロスは巫女服に着替えてエプロンを着ける。なんて素敵な組み合わせだ、眼福。じゃなくて、その足取りを目で追うと、部屋に備え付けられた簡易キッチンへ行って上の戸棚から鍋と茶こしを取り出した。
「あぁ……あるなら飲みたいけど、コーヒーメーカーなんて無いだろ?」
「ふふ、お任せください」
ウロボロスはコンロの火を点けた。コンロと言ったがそれは見た目だけで、仕組みはガスや電気に頼ったものではなく、魔法で着火して維持するらしい。アデルから聞いた話ではガスコンロなんてこの世界には無く、この構造が一般的なんだそうだ。それなら作れると、アザレアが10分くらいで完成させた代物だ。
「鍋でコーヒーができるのか?」
「ふふ、少々お待ちください」
水の入った鍋がコンロの上に置かれる。数分かけて沸騰させ、少し冷ましてからコーヒー豆が投入されていく。こんなものでうまくいくのだろうか。色合いや香りはそれっぽいが、味は悲惨なことになっているんじゃないか。
「最後に茶こしで豆を取り除けば……完成です、我が君」
見た目はブラックコーヒーだ。コーヒー特有の独特な香りがする。これはひょっとして美味しいんじゃなかろうか。ミルクと砂糖が欲しいところだけど贅沢はよそう。なにせウロボロスが淹れてくれたんだ。それだけで感涙ものだよ。
「じゃあ、早速いただきます」
さて、思い出に残るであろうお手製コーヒーを一口含んでみる。うん、もの凄く薄い。水にコーヒーを数滴溶かしたような味だ。余りにも薄すぎて、正直、普通の水の方が美味しい気がする。
「如何ですか、我が君?」
「あー……そうだな、えっと」
こんなにも期待の眼差しを向けられては素直な感想は言いにくい。イケメンなら歯の浮くようなセリフがポンポン出るんだろうけど、生憎、俺にそんなスキルは無い。考えて、しばらく考え抜いた結果、あいまいに微笑んでみることにした。
「もしかして……美味しくありませんでしたか?」
駄目だった。ウロボロスなら変に好意的な妄想を膨らませて、勝手に自己解決してくれないかなと思ったんだが、そううまくはいかないようだ。
困った。もう飲まなくてもいいならコーヒーなんて苦手だと言えばいいだろうが、生憎と大好きである。それにいずれは美味しいコーヒーに仕上がるに違いない。そんな予感がある。美味しくないと言わずに味を改善して貰う方向で話を進めたい。
「ん? えーと……その、不味い……ことはないんだ、うん。ただな、その……そう、俺はもっと濃いのが好きなんだよ」
「なるほど……我が君は濃い味を好まれるのですね。次からはそのようにしてみせます」
「あぁ、よろしく頼むよ」
口から出任せに言ってしまったが、どうやらうまくいったらしい。よし、女心を傷付けず、こちらの好みに合わせて貰えそうなんてグッジョブだ。俺もイケメンに近付けただろうか。
「我が君、このまま朝食も用意致しますね」
「コーヒーのお礼にさ、それくらいは俺がやるよ」
「いえ、これは私の仕事で御座います。御身はおくつろぎください」
口調もその内容も穏やかではあるものの、やっていることはパワープレイだ。両肩に手を乗せられて、そのまま強引に座らせられてしまった。かなり力んでいるのに全く抵抗できない。観念して力を抜くと、満足気にウロボロスは頷いて台所へ戻って行った。うーん、恐妻というのはこういう感じなのだろうか。
それはそうとして、こういう仕事はメイドに任せるべきだと思うんだけどね。というか、少なくとも俺はそう考えて神無月たちをメイドに設定したんだが。どういう訳か最初に顔見せしてくれただけで全く姿を見せてくれないしな。
「我が君、お待たせしました」
ウロボロスが用意してくれたのは、食パンにハムを挟んだだけの超絶シンプルなサンドイッチだった。コーヒーと違って外しようがあるまい。かじってみる。うん、想像通りの味で安心した。無難に美味しい。
「美味しいよ」
「ありがとうございます、我が君」
「そういえば、みんなの様子はどうだ?」
復興作業中なら例え見えなくても、メキメキとか、シュバババとか、ドスンドスンとか、それは本当に建築なのかと突っ込みたい音が聞こえてきそうなものだけど。外はとても静かで、小鳥のさえずりが聞こえてくる程だ。
「思うところはあれども御身のためならばと、誠心誠意、村の復興作業に取り組みました」
ウロボロスが嘘を吐くなんて考えられない。でも豪快な音が全く聞こえないとなると、もしかして少し離れた所でやっているのだろうか。
「あぁ、それでしたら簡単です。ここはアザレアが用意した家ですので、侵入口はいくらでもありますよ」
「いくらでもあるのかよ!」
いつの時代も、時の有力者は内部の人間にやられてきた。だからこそ夜、寝所には必ず護衛を配置したという。そんな有名人たちの気持ちがよくわかった。まさか絶対と信じたセキュリティの製作者が敵だったとは。まぁ、想定できなくもない相手ではあったが。
それはともかくとして、おちおち眠ってもいられな、こりゃ。物理的な要因を排除するのは諦めて別の手段を考えなくては。
「ところで、それならアザレアはどうしたんだよ?」
ふと、その製作者野郎はどこにいるのかと気になった。こんな手の込んだ部屋を作ったのに、当の本人がいないのは余りにも不自然。作るだけ作って機を伺うなんてことはないだろう。ウロボロスがこの調子なんだ。アザレアだって何かしら企んでいるに違いない。
「1対1の戦闘で私に敵うとでもお思いですか? 快く譲ってくれましたよ」
「あぁ……そう。大体話はわかった」
なるほど、全ての辻褄が合ってしまった。まず、護衛役として立派に活躍したウロボロスによって製作者は撃退されたらしい。そして頑張って用意した策は全て掌握されて悪用されていると。
哀れ、アザレア。今回だけは同情してもいいかも。だからといって、その望みを叶えてあげる気にはならないが。
「我が君、コーヒーを淹れましょうか?」
おもむろにウロボロスは巫女服に着替えてエプロンを着ける。なんて素敵な組み合わせだ、眼福。じゃなくて、その足取りを目で追うと、部屋に備え付けられた簡易キッチンへ行って上の戸棚から鍋と茶こしを取り出した。
「あぁ……あるなら飲みたいけど、コーヒーメーカーなんて無いだろ?」
「ふふ、お任せください」
ウロボロスはコンロの火を点けた。コンロと言ったがそれは見た目だけで、仕組みはガスや電気に頼ったものではなく、魔法で着火して維持するらしい。アデルから聞いた話ではガスコンロなんてこの世界には無く、この構造が一般的なんだそうだ。それなら作れると、アザレアが10分くらいで完成させた代物だ。
「鍋でコーヒーができるのか?」
「ふふ、少々お待ちください」
水の入った鍋がコンロの上に置かれる。数分かけて沸騰させ、少し冷ましてからコーヒー豆が投入されていく。こんなものでうまくいくのだろうか。色合いや香りはそれっぽいが、味は悲惨なことになっているんじゃないか。
「最後に茶こしで豆を取り除けば……完成です、我が君」
見た目はブラックコーヒーだ。コーヒー特有の独特な香りがする。これはひょっとして美味しいんじゃなかろうか。ミルクと砂糖が欲しいところだけど贅沢はよそう。なにせウロボロスが淹れてくれたんだ。それだけで感涙ものだよ。
「じゃあ、早速いただきます」
さて、思い出に残るであろうお手製コーヒーを一口含んでみる。うん、もの凄く薄い。水にコーヒーを数滴溶かしたような味だ。余りにも薄すぎて、正直、普通の水の方が美味しい気がする。
「如何ですか、我が君?」
「あー……そうだな、えっと」
こんなにも期待の眼差しを向けられては素直な感想は言いにくい。イケメンなら歯の浮くようなセリフがポンポン出るんだろうけど、生憎、俺にそんなスキルは無い。考えて、しばらく考え抜いた結果、あいまいに微笑んでみることにした。
「もしかして……美味しくありませんでしたか?」
駄目だった。ウロボロスなら変に好意的な妄想を膨らませて、勝手に自己解決してくれないかなと思ったんだが、そううまくはいかないようだ。
困った。もう飲まなくてもいいならコーヒーなんて苦手だと言えばいいだろうが、生憎と大好きである。それにいずれは美味しいコーヒーに仕上がるに違いない。そんな予感がある。美味しくないと言わずに味を改善して貰う方向で話を進めたい。
「ん? えーと……その、不味い……ことはないんだ、うん。ただな、その……そう、俺はもっと濃いのが好きなんだよ」
「なるほど……我が君は濃い味を好まれるのですね。次からはそのようにしてみせます」
「あぁ、よろしく頼むよ」
口から出任せに言ってしまったが、どうやらうまくいったらしい。よし、女心を傷付けず、こちらの好みに合わせて貰えそうなんてグッジョブだ。俺もイケメンに近付けただろうか。
「我が君、このまま朝食も用意致しますね」
「コーヒーのお礼にさ、それくらいは俺がやるよ」
「いえ、これは私の仕事で御座います。御身はおくつろぎください」
口調もその内容も穏やかではあるものの、やっていることはパワープレイだ。両肩に手を乗せられて、そのまま強引に座らせられてしまった。かなり力んでいるのに全く抵抗できない。観念して力を抜くと、満足気にウロボロスは頷いて台所へ戻って行った。うーん、恐妻というのはこういう感じなのだろうか。
それはそうとして、こういう仕事はメイドに任せるべきだと思うんだけどね。というか、少なくとも俺はそう考えて神無月たちをメイドに設定したんだが。どういう訳か最初に顔見せしてくれただけで全く姿を見せてくれないしな。
「我が君、お待たせしました」
ウロボロスが用意してくれたのは、食パンにハムを挟んだだけの超絶シンプルなサンドイッチだった。コーヒーと違って外しようがあるまい。かじってみる。うん、想像通りの味で安心した。無難に美味しい。
「美味しいよ」
「ありがとうございます、我が君」
「そういえば、みんなの様子はどうだ?」
復興作業中なら例え見えなくても、メキメキとか、シュバババとか、ドスンドスンとか、それは本当に建築なのかと突っ込みたい音が聞こえてきそうなものだけど。外はとても静かで、小鳥のさえずりが聞こえてくる程だ。
「思うところはあれども御身のためならばと、誠心誠意、村の復興作業に取り組みました」
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