魔王と配下の英雄譚

るちぇ。

文字の大きさ
23 / 176
第1章 偽りの騎士

第5話 怪現象だ 2

しおりを挟む
 どうやってウロボロスは侵入したのだろう。まさか、力に任せて押し入って来たんじゃないだろうな。改めて周りを確認するがどこも壊れた様子はない。では一体どうやって。

「あぁ、それでしたら簡単です。ここはアザレアが用意した家ですので、侵入口はいくらでもありますよ」
「いくらでもあるのかよ!」

 いつの時代も、時の有力者は内部の人間にやられてきた。だからこそ夜、寝所には必ず護衛を配置したという。そんな有名人たちの気持ちがよくわかった。まさか絶対と信じたセキュリティの製作者が敵だったとは。まぁ、想定できなくもない相手ではあったが。
 それはともかくとして、おちおち眠ってもいられな、こりゃ。物理的な要因を排除するのは諦めて別の手段を考えなくては。

「ところで、それならアザレアはどうしたんだよ?」

 ふと、その製作者野郎はどこにいるのかと気になった。こんな手の込んだ部屋を作ったのに、当の本人がいないのは余りにも不自然。作るだけ作って機を伺うなんてことはないだろう。ウロボロスがこの調子なんだ。アザレアだって何かしら企んでいるに違いない。

「1対1の戦闘で私に敵うとでもお思いですか? 快く譲ってくれましたよ」
「あぁ……そう。大体話はわかった」

 なるほど、全ての辻褄が合ってしまった。まず、護衛役として立派に活躍したウロボロスによって製作者は撃退されたらしい。そして頑張って用意した策は全て掌握されて悪用されていると。
 哀れ、アザレア。今回だけは同情してもいいかも。だからといって、その望みを叶えてあげる気にはならないが。

「我が君、コーヒーを淹れましょうか?」

 おもむろにウロボロスは巫女服に着替えてエプロンを着ける。なんて素敵な組み合わせだ、眼福。じゃなくて、その足取りを目で追うと、部屋に備え付けられた簡易キッチンへ行って上の戸棚から鍋と茶こしを取り出した。

「あぁ……あるなら飲みたいけど、コーヒーメーカーなんて無いだろ?」
「ふふ、お任せください」

 ウロボロスはコンロの火を点けた。コンロと言ったがそれは見た目だけで、仕組みはガスや電気に頼ったものではなく、魔法で着火して維持するらしい。アデルから聞いた話ではガスコンロなんてこの世界には無く、この構造が一般的なんだそうだ。それなら作れると、アザレアが10分くらいで完成させた代物だ。

「鍋でコーヒーができるのか?」
「ふふ、少々お待ちください」

 水の入った鍋がコンロの上に置かれる。数分かけて沸騰させ、少し冷ましてからコーヒー豆が投入されていく。こんなものでうまくいくのだろうか。色合いや香りはそれっぽいが、味は悲惨なことになっているんじゃないか。

「最後に茶こしで豆を取り除けば……完成です、我が君」

 見た目はブラックコーヒーだ。コーヒー特有の独特な香りがする。これはひょっとして美味しいんじゃなかろうか。ミルクと砂糖が欲しいところだけど贅沢はよそう。なにせウロボロスが淹れてくれたんだ。それだけで感涙ものだよ。

「じゃあ、早速いただきます」

 さて、思い出に残るであろうお手製コーヒーを一口含んでみる。うん、もの凄く薄い。水にコーヒーを数滴溶かしたような味だ。余りにも薄すぎて、正直、普通の水の方が美味しい気がする。

「如何ですか、我が君?」
「あー……そうだな、えっと」

 こんなにも期待の眼差しを向けられては素直な感想は言いにくい。イケメンなら歯の浮くようなセリフがポンポン出るんだろうけど、生憎、俺にそんなスキルは無い。考えて、しばらく考え抜いた結果、あいまいに微笑んでみることにした。

「もしかして……美味しくありませんでしたか?」

 駄目だった。ウロボロスなら変に好意的な妄想を膨らませて、勝手に自己解決してくれないかなと思ったんだが、そううまくはいかないようだ。
 困った。もう飲まなくてもいいならコーヒーなんて苦手だと言えばいいだろうが、生憎と大好きである。それにいずれは美味しいコーヒーに仕上がるに違いない。そんな予感がある。美味しくないと言わずに味を改善して貰う方向で話を進めたい。

「ん? えーと……その、不味い……ことはないんだ、うん。ただな、その……そう、俺はもっと濃いのが好きなんだよ」
「なるほど……我が君は濃い味を好まれるのですね。次からはそのようにしてみせます」
「あぁ、よろしく頼むよ」

 口から出任せに言ってしまったが、どうやらうまくいったらしい。よし、女心を傷付けず、こちらの好みに合わせて貰えそうなんてグッジョブだ。俺もイケメンに近付けただろうか。

「我が君、このまま朝食も用意致しますね」
「コーヒーのお礼にさ、それくらいは俺がやるよ」
「いえ、これは私の仕事で御座います。御身はおくつろぎください」

 口調もその内容も穏やかではあるものの、やっていることはパワープレイだ。両肩に手を乗せられて、そのまま強引に座らせられてしまった。かなり力んでいるのに全く抵抗できない。観念して力を抜くと、満足気にウロボロスは頷いて台所へ戻って行った。うーん、恐妻というのはこういう感じなのだろうか。
 それはそうとして、こういう仕事はメイドに任せるべきだと思うんだけどね。というか、少なくとも俺はそう考えて神無月たちをメイドに設定したんだが。どういう訳か最初に顔見せしてくれただけで全く姿を見せてくれないしな。

「我が君、お待たせしました」

 ウロボロスが用意してくれたのは、食パンにハムを挟んだだけの超絶シンプルなサンドイッチだった。コーヒーと違って外しようがあるまい。かじってみる。うん、想像通りの味で安心した。無難に美味しい。

「美味しいよ」
「ありがとうございます、我が君」
「そういえば、みんなの様子はどうだ?」

 復興作業中なら例え見えなくても、メキメキとか、シュバババとか、ドスンドスンとか、それは本当に建築なのかと突っ込みたい音が聞こえてきそうなものだけど。外はとても静かで、小鳥のさえずりが聞こえてくる程だ。

「思うところはあれども御身のためならばと、誠心誠意、村の復興作業に取り組みました」

 ウロボロスが嘘を吐くなんて考えられない。でも豪快な音が全く聞こえないとなると、もしかして少し離れた所でやっているのだろうか。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...